春よ、さぁ来い。
頭が痛い。
朝、起きたら寒気がした。
夏が近いのか、気温も高く、陽射しも暑い。
こんなんで学校に行けるのかと不安もあったが、歩く事に支障は無かった。どうやらただの低気圧みたいだ。
「気の持ちようか……」
「おはよう、海凪。朝から怠そー。低血圧だっけ?」
昇降口の所で透花と会い、朝から突っ込まれた。
「低血圧……。あ、それだ」
「なに?」
「さっきから何かイントネーション違うなと思ってて」
「低血圧が?」
「低気圧って思い込んでました」
「……ふっ」
朝から爆笑する透花を不思議そうに見つめながら通り過ぎていく生徒達。
いよいよ頭がおかしいと思われたかもしれない。
低血圧を低気圧だなんてどんなボケだよ。
漫才師でも使わなそう。
一人反省会をしている間に透花の笑いは止まっていた。
「満足?」
「だいぶ。朝から笑ったわ」
「楽しそうで何よりですよ」
「良かった。朝イチから海凪に会えて」
「また誤解されるような言葉を……」
「いっその事付き合う?見せびらかしちゃう?」
「……何かいい事でもあった?」
「そりゃあ、ね。朝から海凪に会えたんだから」
包み隠さず物言いを出来る所は本当に凄いなと毎度感心する。良く言えば素直なんだろうけど。
私達は一緒に靴を履き替え、教室へ向かう。
透花には襲われた事を話した。証拠の動画も見せ、千歳くんに助けて貰った事も全て。最初は怒っていたけど、冷静さを取り戻し、「殺したい奴が増えたな」とにっこりと呟いた。
「じゃあ、海凪。またねー」
上機嫌の透花と廊下で分かれ、教室に入る。相変わらずわちゃわちゃした雰囲気で既に出来上がっているグループもいくつかあった。
「おはよう、みーちゃん」
「おはよう、凛都」
「あのね、彼氏と仲直りしたんだぁ。みーちゃんのお陰」
「あら。それは良かった」
だからそんなにルンルンな感じだったのか。
悪い方に発展しなくて良かった。
「でね、みーちゃん。こったんがみーちゃんにお礼したいって言ってて」
「うん」
「ダブルデートしない?」
「……ん?」
誰か一人増えてるぞ。
「こったんがね、話せる男の子もいて欲しいって」
「……あぁ」
気まずいのは私ではなく虎太郎くんの方か。
まぁ、女子二人に男子一人は流石に耐え難いか。
「いいよ」
「やったぁ!ありがとう、みーちゃん」
「デートにはならないと思うけど、透花誘ってみるわ」
「うん。楽しみにしてる」
とは言ったけど、透花はダブルデートなんてしたい派だろうか。寧ろ嫌がる感じが強そうだな。
昼休みに透花に聞きに行くとまた中庭へと連れ出された。
透花はこの場所がお気に入りらしい。
「いつ?」
「今度の土曜日」
「……すまねぇ。その日は病院だ」
「透花の?」
「いや、妹の。未だに不登校でさ、カウンセリング通ってんだよ。オレは付き添い」
「結構重いの?」
「それなりに。放置しといてくれれば良いのに、担任も校長もしょっちゅう来るから余計悪化した」
「考え無しのバカが上にいると子どもは辛いよな」
「全く」
「透花が追い払うの?」
「親が対応してる。高校生なんて相手にされねー」
「そうか」
「だから悪い。違う奴誘って」
「解った」
「あ。千歳とかどう?仲良くなったんだろ?」
「でも、知り合ったばっかりだし……」
「親睦深める良い機会じゃん」
「……声掛けてみようか」
いきなりダブルデートなんて言ったら引かれるだろうか。
そんな懸念は一瞬で吹き飛んだ。
千歳くんは二つ返事で了承してくれた。なんといい人なのだろう。
「あ、でも……千歳くん、彼女とかいたら気まずくない?」
「いないよ」
「……え、いないの?」
「あぁ。だからという訳じゃないけど、デートの経験も少ない。オレで良いのか?」
「うん。私もデートとか良く分かんないし、大丈夫」
「そうか。楽しみだな」
微笑む表情にうっとりしてしまう。
やばい……土曜日が待ち遠しくなってきた。
「放課後に凛都の事、紹介するね」
「解った。終わったら教室に行こう」
「うん。じゃあ、教室戻るね」
「またね」
そろそろ授業も始まる時間なので分かれ、私は御手洗へ向かった。最初に済ませておけば良かったと後悔する。まぁでも後五分はあるから大丈夫なんだけど。
そんな余裕をこいているのがいけなかった。
トイレから出ようとした時、何やら話しながら入ってきた女子達に気付き、出ていく間を失った。もうすぐ始業なのになんで今来るかな……。
しかもなんか私のいる方に向かって来てないか? 気のせい?
でも、段々と声も聞こえやすくなってきて、 それがギグレットみたいで嫌な感じがした。
そう。嫌な感じって高い確率で当たるんだよな。
──バシャン。
何かの物音がしたのと同時に上から水が降ってきて、私は頭からずぶ濡れになった。
これは狙ってやったな。私がここに居ると確信していないと出来ない犯行だろう。
彼女達の嘲笑が耳に残響してるのと、水が冷たかった事にイライラしているのが重なって、抑制していたものが弾けた音がした。
ドアを開けると彼女達の姿は無く、バケツが転がっていた。
大方、見当は付く。声からして日常的にもよく耳に馴染んでいたものだ。
「さて。どう仕返ししようか……」
ベルはいつの間にか鳴ったのだろう。廊下は静まり返っていて各クラスのドアも閉まっている。
私はトイレの掃除用具入れから、柄の長いホウキと洗浄用のスプレーを手に取り、一組へと向かった。
ガラッ、と勢いよく前扉を開けて入り、室内を見渡す。
遅刻している上に全身びしょびしょ姿の私にクラスメイト達は驚いた表情を向けていた。当然の反応だ。
「物騒なもん持ってんなぁ、吉原」
英語の担当教師が動じもせずに関心してきた。理由を聞かれないのは助かる。説明とか上手くない方なんだ。
「トイレ入ってたら上から水が降ってきたんですよねぇ」
そう言いながら後方の席にいる女子達を捉えた。私と目が合うと気まずそうに逸らし、やばいという表情をしている。彼女達はいつも高笑いをして大きな声で話しているから学年の中でも知らない人はいない。
私は構わずに彼女達の元へと歩み寄り、思いっきりホウキを振り上げた。辺りから小さな悲鳴が聞こえたが無視して彼女達を見定める。このまま振り下ろしてその脳天を撃ち砕いてやりたい。
「謝罪は?」
「……えっ……」
「私があんたらに何かしたの?」
「……いや……」
「そう」
なんだその態度は。
私はぐっと手に力を入れ、ホウキを振り下ろした。
バキィッと木が割れる様な音が響き、周りにいた生徒達は私を遠ざける様に距離を取っていた。
自分の机が真っ二つにされた彼女は怯えた表情で私を見ている。
「これで相殺だね」
「──何事かと思えば……。なに暴れてんの?海凪」
透花が騒ぎを聞き付けて現れた。なんで私だと分かったのかは謎だ。透花には全てを見通されている気がする。
「プールにでも落とされた?」
「水ぶっ掛けられたのよ」
「うわ、災難……」
そう言いながらも笑いを堪えているのは何なんだ。
いちいちツボにハマるのか。
「……それがムカつくんだよ!」
いきなり彼女が突っかかってきた。さっきまでそんな威勢など無かっただろう。
「なに?」
「恵海と恋人でもないクセにベタベタしないで!」
「そうよ!馴れ馴れしいんだよ!」
彼女の側にいた女子達も雰囲気に便乗してきた。
また透花か。
なんで私ばっかりとばっちり受けなきゃならないんだ。
頭痛が酷くなってきた気がする。
「透花と仲良くもないあんたらに言われる筋合いは無いかな」
「はぁ!?お前がいつもいるからいけないんだろ!」
「そうだそうだ!付き合ってないなら仲良くするな!」
「は?」
目だけで睨むと彼女達が一瞬怯んだ。
「好きなら告白すれば良いのでは?」
「なっ……!お前、なに言って……!」
「あー……告白されても君たちの事は眼中にねぇな」
笑い終わった透花がサラリと冷たく断った。
「海凪に嫉妬して水掛ける様な乱暴者なんでしょー?ちょーっと無理かなぁって」
「ち、違うの……!人違い……!」
「そう……!間違えただけで……!」
動揺しまくりながら支離滅裂な事を言い出す彼女達に透花も呆れた様子だった。
「それで?海凪にはちゃんと謝ったの?」
「えっ……」
「人違いなら尚更謝罪必要じゃね?それとも嘘ついた?」
「……えっと……」
透花に突っ込まれ、いよいよ言い逃れ出来なくなった彼女達はどうしたらいいのか分からなくなっていた。
「まぁ、今更謝罪も意味ねぇか」
いつの間に手にしていたのか、透花は私が持ってきた洗浄用スプレーを彼女達に掛けた。
途端に彼女達は「ぎゃあああ」と叫びながら掛けられた箇所を手で振り払っている。
「悪菌滅殺ってね」
透花は愉しそうだ。良かった良かった。
「事は済んだか?」
様子を見守っていた英語教師が頃合いを見て声を掛けてきた。
私はもう既にどうでも良くなっていて、透花も冷めた様子だった。
「騒がしくしちゃってごめんね、先生」
「やりたい時はとことんやり合えば良い。それで、もう良いのか?」
「また海凪の事いじめたら、今度はそれだけじゃ済まねぇからな」
透花ならやりかねない。彼女達はもう意気消沈しており、威勢も無くなっていた。
「先生。オレ、海凪と保健室行ってくる」
「程々にしとけよ」
何を察したのかは知らないが、注意をされなかったことには感謝だ。仕返しも果たしたし、気分は晴れていた。
「着替えとかあんの?」
「ジャージで帰るよ」
「じゃあ、持ってくるわ。タオルで拭いとけば?」
「ありがと」
綺麗なふわふわタオルを借りて私は制服を脱ぎながら身体を拭いた。
暫く呆けていると、外からバタバタと駆けてくる足音が聞こえ、ガラッと勢いよく扉が開いた。
「みーちゃん!」
そのまま真っ直ぐ私の元に向かってきた凛都に抱きつかれ、支えきれず倒れてしまった。
「大丈夫!?水掛けられたって聞いて飛んできたよ!」
「……うん……。ありがと、凛都……」
倒れた時に背中を打ち、地味に痛い。でも言わない。
凛都は私を押し倒したみたいな体勢になっており、間近で見る凛都の可愛らしい顔が眩い。
というより、この状況は見られたら誤解されるのではないか……?
下着姿だったとはいえ、まさか凛都に押し倒されるとは思わなかった。一歩間違えれば百合になっちゃうよねぇ……?
「ちゃんと凛都が、めっ!ってしておいたからね!」
「……ん?」
ちょっと意味が分からない。まぁ、凛都の事だからまたキレたのかも知れない。安易に私を襲うもんじゃないな、あの子達も。
「みーちゃん、顔赤いよ。お熱かな?」
そう言って凛都は額をくっつけてきた。
私が男だったらキスしちゃう距離だぞ。
「う〜ん……微熱かなぁ……?」
「思いっきり冷水被ったからね……。ちょっと冷えたのかも」
「みーちゃん、着替えは?」
「透花が取りに行ってくれてる」
「そっか」
凛都はスっと離れ、私も身体を起こした。
「──あ。ダブルデートの事だけど」
「うん!恵海くん、了承してくれた?」
「いや……用事あるみたいだから、千歳くんと行く事になって」
「……だれ?」
「三組の千歳 逢羅くん。透花と親しいみたい。放課後に紹介するよ」
「そうなんだぁ。楽しみだね、デート!」
「そうね」
「場所とか決まったら連絡するね」
「解った」
丁度、終業のベルが鳴り、廊下が騒がしくなってきた。
この後も授業はあるが、受ける気にならない。
その気持ちを察してか、透花は私の鞄も一緒に持ってきてくれた。なんて気の利く人だろう。
おまけに自分も付き合うと言って保健室でお喋りタイムとなった。そこを注意しない保健医も気が利くじゃないか。
「──あ。千歳も終わったら此処に来るって」
「お。それは好都合。凛都も来るって言ってたから」
「良かったな」
「うん」
「楽しんで来いよ、ダブルデート」
「……そうだね」
改めて言われるとドキッとしてしまう。こんなに期待する事なんて滅多に無いのに。
「あとさ……今度、妹に会ってくんない?」
「……いいの?」
「あぁ……。女の子の方が接しやすいだろうし……」
「でも……私……会話とか弾まないかも……」
「全然気にしなくておっけー。妹も喋りたくないだろうし、たださ、側にいて欲しいだけなんだと思うんだ」
「……分かった。その時は声掛けて」
「ありがとな、海凪」
透花の笑みは最早反則に近い。そんな愛らしい笑みを惜しげも無く見せてくれる。
「まだホームルームやってんのかな?二人が来るまでやってるか?」
「……えっ」
「宿題」
「……あ。そっちか……ごめん……」
何を勘違いしているんだ、バカめ。
保健医もいるのにはしたない自分に苛立つ。
「……しないよ」
「ん……?」
「当分はエッチはしないから。怖い思いしたんだろ?」
「……だ、大丈夫……だよ……?あんなの……すぐ忘れるし……」
「声震えてるし。そこまで性欲バカじゃないよ、オレは」
「……ごめん……」
「海凪が謝ること?悪いのはあいつらだろ。見つけた時は二度と女抱けない身体にしてやる」
やりかねない……。透花なら本当に有言実行してしまいそうだ。私もやり返したいと思っているし、一生許しはしない。そういう行為をあいつらは犯したんだ。笑いながら。玩具で遊ぶみたいに。女を性欲の道具としてしか見ていない奴らに生きてる価値なんてあるの……?
殺されてもおかしくないんじゃないの……?
「海凪……?」
「やっ……!」
バシッ、と透花が伸ばした手を振り払ってしまった。
そんなつもりじゃないのに……。
身体が先に反応する。
「悪い。軽率だった」
「違う……。透花は悪くない……」
「時間が必要だな。お前が本当に大丈夫だって分かるようになったら教えて。オレが癒すから」
「……透花……」
「じゃ。そろそろ終わる頃だし、戻るわ」
「あっ……」
「またな、海凪」
傷付けてしまっただろうか……。
気を遣わせてしまった気がする……。
いつもの笑みだったけど、どこかぎこちない感じ。
どうしよう……。
「ラブラブなんだ?」
「えっ……!?」
いきなり保健医に話しかけられ、そこにいたという存在を忘れかけていた事に気付く。
「……付き合ってはないです……」
「なんだ、セフレかぁ。最近の高校生はお洒落だねぇ」
「……お洒落……?」
「一昔前まではセックスフレンドなんて言葉は使わなかった。でも今は当たり前のように使われてる。いいよなぁ、若いって」
「先生も若いですよね……?」
「二十七過ぎたらオッサンだよ」
うちの学校には割とイケメンの先生が多い。副担も担任も二十代後半だが男子高生と変わらない肌をしているし、性格も緩い。いや、緩いって表現は合わないか。受け流しが上手いと言った方が良いのかな。その為か、昔ながらの性格である正野が生徒達の敵になりやすい。あんなガミガミ言われたら嫌にもなるだろうけど。
「あの、先生……。透花との関係は口外無用で……」
「言わないよ」
「……ありがとうございます」
「ベッド使いたい時は言って。空けとくから」
「良いんですか?」
「うん」
何とも話が早くて助かる。
中庭も良いけど、出来れば人の目に触れたくない。
「さっきの、気にしすぎないようにね」
「……えっ」
「あんたは悪くないし、恵海も傷付いた訳じゃない。勝手な思い込みは人間関係を壊しかねないから、気にしなくていい」
「……そう……ですか」
そう言われても気になってしまう。
考えすぎて熱が上がるかもしれないな。
「……先生、カウンセリングもやってるんですか?」
「まぁ一応、資格は持ってるよ」
「悩み相談とか……」
「何でも聞く」
「頼もしいですね」
「生徒から嫌われたくないだけだよ」
「結構人気ありますよ、柊先生」
「え、そう?」
「保健室は癒しだって有名になってます」
「すげぇな」
実際、この保健医を狙っている子は少なくない。若いし、爽やかだし、優しいし、気が利くし。ハイスペックか。
何かと耳にする事もある。その上、独身と聞いたらアタックをしまくる生徒も出てくる。その都度、軽くあしらっているのを見たことがあった。
「みーちゃーん!」
ガラッ、と勢い良く扉が開き、凛都が飛び込んできた。
「具合どう?大丈夫?」
「うん……。ありがと、凛都」
「熱は?」
「休んだら治ったよ」
「そっか!良かったぁ」
凛都は安堵の表情を浮かべながら配られたというプリントを渡してくれた。文化祭についての手紙だった。
「やるのは秋なのに早いよねぇ」
「準備があるからじゃない?」
「そんなに大変なのかなぁ。みーちゃんはやりたいものとかある?」
「……えっと……演劇……とか……」
透花に言われた通り、案を言ってみる。
「演劇かぁ!面白そう!」
「凛都はヒロインになりそうだね」
「みーちゃんだって主役に推薦されるよ」
「内容にもよるけどね」
その上、透花のクラスに取られたらまた違う案にしないといけない。
「あ、そうだ!デートの場所、何処がいいかな?」
「うーん……定番だと水族館とか?」
「凛都も行きたい!でも、こったん、お魚さん苦手なんだって」
「そうなんだ……」
あんなゴリゴリなのに可愛い所あるんだな。
「じゃあ……映画館は?」
「えっとねぇ……凛都眠くなっちゃうからダメだな」
「そう……」
子どもか。
「なら、遊園地とか夢のパークとか……」
「遊園地いいね!あの落ちるやつ乗りたい」
「勇者だね」
「こったんもアトラクション好きだから大丈夫だよ」
「私も苦手では無いかな。あとは千歳くんか」
彼も大丈夫そうなら目的地は決まりだ。まぁ、アトラクション嫌いでも楽しめるものはたくさんある。
「千歳くんも此処に来るの?」
「うん。凛都の事、紹介するって言ったから」
「わぁ!嬉しいなぁ!」
暫く凛都と話していると透花と千歳くんが静かに入ってきた。透花とは気まずくなるかと思いきや、いつも通りに笑ってくれたので安心した。
「──よろしくね、千歳くん」
「こちらこそ」
二人の紹介もサクッと済ませ、互いに見知った所で私達は保健室から出た。
「海凪」
昇降口から出た時、透花に呼び止められ私は振り返った。千歳くんと凛都は話が合ったのか二人でサクサクと歩いていく。
「ん……?」
「何かあったら千歳頼れ。お前のことも守ってくれる」
「……あー……。最近襲われ気味だからね。気を付けるけど」
「良い奴だからさ。優しいし」
「うん。ほんとに素敵だよね」
「楽しんで来いよ、ダブルデート」
「……うん!透花も、何かあったらさ、連絡して貰えると……」
「いいの?」
「勿論」
「……分かった。メールする」
「了解」
何も無い事が一番だけど。
待ち遠しかった土曜日まであと少し。
どんな服装にしようか、そう考えるだけではしゃいでいた──。