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夢見る明日に天罰を。  作者: 淡月ゆきや
4/11

魔女の遺言

「じゃあ、正野殺すか」



透花の家で勉強を教えて貰っていた時、今日の出来事を話した。黙って聞いていた透花は開口一番にそう言った。



「また正当防衛?」

「お前の兄貴の時は失敗したからな。ちゃんと殺せなかったし、今度は上手くやれるぜ」

「でも二人だと限界があるよ」

「手伝って貰うか?」

「理解してくれる人いるの?」

「椎名先生とか」

「先生は大人だよ。捕まったらすぐには出てこれない」

「バレなきゃいい話だろ」



そんなに上手く事が運ぶと思っているのだろうか。



「正野に恨み持ってる奴なんて沢山いるだろ」

「そうかも知れないけど……。第一、どうやって殺すの?」

「秋に文化祭あるじゃん?祭りに乗じて殺っちまえばいい」

「そんな簡単にいくかな……」

「……あんま乗り気じゃねぇな。どうした?」

「いや……。正野ってガード堅そうじゃない?バレたら逆にうちらが殺されない?」

「それこそ正当防衛で殺れるだろ?」

「……透花は怖くないの?」

「だってオレ、死なねーもん」

「……え、なに……?不死身か?」

「言ってなかったっけ?オレ、魔女と契約して不老不死になったんだよ」



……あぁ。そういう設定の話か。なるほど。そういう事なら私も話に乗ろうではないか。



「良いなぁ。最強じゃん」

「だろ?数年前に騒がれたじゃん。ほら、なんとかの魔女がどうたらって」

「そうだっけ?」

「メンヘラの男に高校生達が死傷された事件!その犯人が、魔女がどうとかって言ってたの結構話題になったよ」

「マジか……。家庭が荒れてたからな。他所の事件に構ってる暇なかったし……」

「だから大丈夫だって!危なくなったら海凪の事は守るし」

「わぁ、イケメン」

「あとは内容だな」



文化祭までまだ結構時間がある。これは念入りに計画しないと成功率は低い気がする。



「クラスの出し物で演劇を押して、正野にも飛び入り参加ってのどお?」

「安易過ぎない?」

「一番バレない手だと思うんだけど。オレが言えば女子は百パー賛成してくれるだろうし」

「すっごい自身だね」

「海凪も演劇って案出してよ。そしたら被ったとかでどっちかに決定するから」

「……頑張ります」



自身は無いけど。案を出すだけなら出来るかな。


「"備えよ。たとえ今でなくともチャンスはいつかやってくる”」

「……ん?」

「ウィリアム・シェイクスピアの名言。知らない?」

「……誰それ?」

「えっ……!?マジで?」

「有名な人?」

「ものすごく。沢山名言残してるし、作品も盛り沢山だし」

「俳優?」

「劇作家だよ。【リア王】とか【ハムレット】とか読んだことない?」

「さぁ……?聞いた事ない」

「マジ……?」



おかしいなぁ、と頭をかきながら戸惑う透花。

劇作家なんて興味無いし、舞台とかも行った事ないからな。

凛都に聞いたら知っているかな……。



「まぁ、とにかくだ。"成し遂げんとした志を、ただ一回の敗北によって捨ててはいけない”。これだよ」

「また名言?」

「そう。文化祭までは悟られない様に過ごさなきゃだな」

「あいつまた絡んでくるよ。私は良いけど、凛都が責められるのは嫌」

「見た目なんてスルーしちゃえば楽なのにな」

「昭和気質な人には理解出来ないんだよ」

「あ、またなんかされたら言って。忠告しとくから」

「ありがと」

「オレもあいつ嫌いだし」



透花も何かされたのだろうか。

それを聞く勇気は無かった。

態々、思い出してまで話したくはないだろう。



「海凪さ、普通に入り浸ってるけど、警戒心とかない訳?」

「……今更?」

「他の男にもこうするの?」

「しないよ。透花の事は信頼してるからだよ」

「じゃあ、今この瞬間、オレに犯されても嫌だって言わない?」

「うん。透花なら良いよ」



その行為には慣れているし、透花は酷い事はしない。警戒も拒絶も彼に対しては抱かない。



「受け入れられると襲い難いな」

「やりたかった?」

「……ちょっと」

「透花は、そういう女の子作らないの?」

「他の女に魅力感じねぇ」

「姫月の時はどうしてたの?」

「抜き合いっこはしたよ」

「その先は?」

「したけど、男同士はキツい」

「そっか……」



そういうものなのかと考えながらそれ以上は聞かなかった。



「正野の事はこれから考えるとして、お前、勉強大丈夫なん?」

「えっ……」



話題を変えられ、私はギクッとした。



「数学だけやばくね?計算式と公式覚えるだけじゃん」

「それが出来たら苦労しないよ」

「何がダメ?応用?」

「全てかな。数字自体苦手なんだよ。しかもXとかYとか暗号みたいで訳分からん」

「数学の時間、ダルいだろ?」

「耳がおかしくなる」

「壊滅的だな。ま、試験近くなったらオレが纏めたノート貸すからそれ丸暗記すりゃ満点だ」

「ほんっと助かります!」



拝むジェスチャーをしながら私は感謝を示した。



「海凪がバカで良かったよ」

「……いきなり何だ?」

「口実が出来るからさ。もう集中力なくなったし、やらせて?」

「……どうぞ」



透花には借りが沢山あるので拒否が出来ない。する意志も無いけど。これはもう親友としての域を超えているかもしれない。でもこういう関係も悪くない。特別な事をしているみたいで優越感に支配されていた。



透花にされるがままで行為は終わった。

気付けばもう夜の七時を回っていた。

随分長居してしまったなと申し訳無さそうにしたら「オレの所為だから」と透花は笑んだ。



「送ろうか?」

「大丈夫。まだそんな暗くないし」

「人通りの多い道歩きなよ」

「うん。またね、透花」

「バイバイ」



手を振る透花に見送られながら私は街灯のある道を選んで歩いた。すれ違う人達も結構居たけれど、我が家のある路地に入ると途端に閑静になる。

もう少しで家に着くという所で絡まれている稀を発見した。

相手は同級生か、見覚えのあるシルエットだ。

彼らは稀を囲む様にして何かを囁いている。稀は抵抗すらしていない様子で俯いている。こういう場合、身内が割って入っていっても良いのだろうかと迷う事がある。

暫く距離感を保って傍観していると、稀の抵抗する声が聞こえてきた。何かを酷く嫌がっている声だ。彼らは周りから稀を隠す様に取り囲んで私の位置からでは何をされているのか分からない。

次第に稀の声も聞こえなくなり、彼らの笑う声が耳についた。

もう、色々考えている場合ではないな。

私は早足で稀の元に向かった。近付くに連れ、彼らの嘲笑が嫌なものに聞こえてきた。


「稀!」



私の声にビクッと彼らは反応し、何人かが振り向いた。

おや……?近くで見ると全く知らない人達だ。男の子は髪型も服装も似通っているから同じに映ってしまうのだろう。



「弟に何をしているのですか?」

「なんだ、こいつの姉貴?ならちゃんと教育してくれなきゃ困るよ」



一人がニヤニヤしながら言ってきた。



「俺らの言うこと聞けないからお仕置してたんだよ」



彼らの間を通って稀を見つけると、ボロボロに傷付いた姿が目に焼き付いた。

服は脱がされ、痛々しい痣がついている。殴られていたのか。火傷の後もあるし、何より稀の身体に飛び散っている白い液体が気持ち悪かった。それは聞かなくても知っている、卑しいものだ。



「お仕置って、強姦?稀はまだ小学生なんだよ」

「そいつのダチに頼まれたんだよ。殴られたから仕返ししてくれって。だから、裸で土下座したら許してやるって言ったのに全然言うこと聞かないし。なら、お仕置してでも分からせるしかないじゃん?」



言っている事が正野と似ているのはどういう思考だ。

男はみんな性欲を制御出来ないのだろうか。

いや、それよりも、稀が友達を殴ったというのは信じ難い。都合のいい理由を並べ立てて性欲を晴らしただけじゃないのか。



「度が過ぎる」

「先に手出したのはそいつなんだよ。しかも、何回も殴られたって言ってたぜ?あんたも被害受けてんじゃねーの?」

「だったら、殴られた本人がやりにくれば良いだけの話だ。あんたらは関係ないんでしょ?他人が横槍入れるな」

「随分と強気じゃん。そんなに突っかかってきて、ほんとは俺らに相手して欲しいんだろ?」

「……は?」

「丁度タイプだし、付き合ってよ!」

「触んな!」



伸ばされた手を思い切り叩き払った。彼らの表情が一瞬にして凍りつき、私を取り囲む。

ヤバい……。なんだよこいつら……。頭おかしいんじゃないか……。



「あんたにも、お仕置しないとね」



バッと身体を押さえ込まれ、複数の手が身体に触れてきた。

……気持ち悪い。嫌だ……。透花と全然違う……。

怖いのに、嫌なのに声が出ない。叫びたいのに恐怖で何も出来ない。

そのまま私は、彼らの玩具にされた。




随分と弄ばれた気がする。

終わったと気付いた時には彼らの姿は無く、月明かりが綺麗だった。

身体を起こすと痛みと鈍みが同時にきて、イラッとした。

やるだけやってスッキリしたことだろう。

あいつらの顔は忘れない。いつか、必ずまた会ってやる。

その時は、もうビビったりしない。

今回は護衛用の武器も持っていなかったから、というのは言い訳 だ。あってもきっと使えなかっただろう。



「──あ」



後ろで声がしてビクッと反応してしまった。

無音の中にいきなり声が聞こえると無条件に怖い。

だから振り返れない。



「気が付いた?」



そう言いながら私の前に腰を下ろしたのは見知らぬ学生。いや、同級生か?うちの学校の制服を着ているし。



「……だれ?」



思ったより声が震えていた。

身体も震えているのに気付く。意識がまだ薄いせいだ。



「ごめん。交番に行ったんだけど、警官いなくて。間に合わず、済まなかった」



彼は頭を下げ、謝罪した。

……いや、誰だよお前は。



「けど、証拠は録った。あいつらの顔がはっきり映っている」



端末の動画を見せながら淡々とした口調で話す。

そこには先程の憐れな私の姿も映されていた。



「……その証拠、私にくれない?」

「嫌じゃないか?」

「いいの。警察きらいだし、やられたらやり返さないと割に合わないし」

「あんたが良いなら、送る」

「ありがと」



会ったばかりだが、貴重な証拠なのでさっと連絡先を交換し、送って貰った。



「オレの方のやつは消すから」

「うん」



目の前で彼は動画を消してくれた。こんなもの、無関係な彼がいつまでも持っているのは嫌だろう。



「身体、平気か?」

「……どうかな……」

「病院行こう。検査して貰わないと」



稀もまだ倒れていた。相当酷い事をされたんだろう。



「かかりつけの医師がいるから、そこで」



兄の所為でお世話になっている先生がいる。その人ならどんな事情も受け入れてくれる。

その後、彼が呼んでくれた救急車で私と稀は病院へと運ばれた。事情を話すと先生は黙って頷き的確な処置を施してくれた。

検査の結果も割とすぐに出て、私の方は妊娠の可能性は無いと告げられた。流石にリスクまでは負えなかったか。

稀は身体の傷も酷かったので手当に時間が掛かったらしい。まだ未発達な身体に無理矢理な性的暴力を受けたので、もしかしたら成長過程で問題が発生するかも知れないと先生は悩みながら説明した。



「今日はありがとう。ここまで付き合ってくれて」



稀は念の為、一日入院する事となり、手続きを終えた私は待合室にいる彼に頭を下げた。



「当然の事だろう」

「それでも、嬉しいよ」

「そうか」



優しく微笑む表情は柔らかく、全てを許してしまいたくなる様な安心感を覚えた。



「まだ名乗っていなかったな。オレは、千歳(ちとせ) 逢羅(あいら)。同じ高校の三組だ」



藍色の髪と瞳が印象に強く、透き通る声は所謂イケメンボイスというやつで顔立ちも整っているから、とても素敵な人なんだと思ってしまった。

いや、本当に内側から伝わって来るような錯覚になる。



「……ん?三組?」

「あぁ。恵海とは親しくして貰っている」

「……その口振りからすると、私の事知ってた?」

「よく一緒に居るだろう?恵海と。それに、綺麗だからすぐに名前も解った」

「……どうも」



サラッと褒められ、柄にも無く照れてしまった。



「吉原 海凪で合ってるか?」

「うん。私は二組だから」

「次のクラス替えでは同じクラスになれると良いな」



早い……。まだ高校生活始まって間もないよ。

でも、仲良し同士は同じクラスにして貰える事もあるって副担が言ってたっけな。

叶うといいな。



「恵海とは付き合っているのか?」

「……えっと……恋愛とかでは無い方の付き合い……みたいな」

「え、そうなのか?話を聞いていたから、恵海の彼女なのかと思っていた」

「……ん〜……よく勘違いされるんだよね」



告白すらされてないし。

友達よりは濃厚な関係になっている訳で、でもそこに恋愛的な感情は持ち併せてないし……。

セフレ?



「恵海はキミの話ばかりしている」

「……私の話……?」



何処まで話しているのだろう。

兄の事までは流石に口外して無いとは思うけど。



「バカで可愛いっていつも言っている」

「……可愛い?」

「ベッドの上だとめちゃくちゃ可愛くなるって……」

「えっ……」



行為の事は話してるのか?

まぁ、別に隠している心算は無かったけど。



「お喋りだな、透花は……」

「オレは偏見も差別もしない。恵海とそういう関係である事も口外しない」

「……そう」



会ったばかりではまだ信頼は薄い。裏切られた過去があるから余計だ。



「家まで送ろう」

「……ありがとう」



彼の厚意に甘え、私達は話しながら帰った。

道中、彼は意外にも沢山話してくれた。家庭事情とか友人関係とか将来の夢とか。

私は聞いているだけだったけど、それでも沈黙は無く気まずさの訪れないまま無事に帰宅出来た。



「今日は助かった。ありがとう」

「あぁ」

「……襲われた事、一応透花には話すね。後々聞かれると面倒っぽいから……」

「解った」

「後で報告するね」

「待っている。また何かあれば頼って貰って構わない」

「ありがとう」



今日は何回、お礼を言っているだろうか。

それぐらい、世話になってしまった。



「街灯少ないから、気をつけてね」

「あぁ。また学校で」



手を振りながら分かれ、彼の姿が見えなくなるまで見送った。

あんなにイケメンなのに、名前すら知らなかった。

透花の人気に埋もれていたのか。女子の見る目が無いのか。

面倒見も良いし、当然彼女もいる事だろう。

そう思った瞬間、胸がザワついた。



「……気のせいだ」



色々あったから気持ちの整理がついていないだけだ。

今日はもう早く寝よう。

悪夢を見ないことを願って。

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