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第七話 「最も現実的で正しい努力を」

 

(あっぶねえええええええ! 死ぬかと思った!)


 その夜、俺はベビーベッドの上でガタガタと震え、戦々恐々としていた。

 昼間、突如強烈な睡魔に襲われた俺は、ベッドの上で気を失った。

 目が覚めると、俺の身体は床に白い粉で描かれた魔法陣のようなものの中心にあった。

 目の前には教会の祭服を着た男が立っていた。横で心配そうに母が尋ねる。


「ウチの子はどうしてしまったんでしょう」


「……こりゃいけませんな。悪魔が取りついておる。それも中年の酒クズの悪魔が!」


「ええ!? なんでそんなものが!」


「恐らく死者の魂が……いい歳こいてエロ同人絵巻き物なんかで抜いてる中年独身男性の魂が取りついてしまったのでしょう」


「え、エロどうじん……?」


「お任せくださいお母様、今にこの哀れな赤ん坊を苛む呪いを解いて差し上げます!」


 男は杖を掲げ、何やらブツブツと聞いたこともないような呪文を唱えながら踊り出した。


「去りたまえ、あぁあぁ~~っ、清めたまえぇぇええええファァアアアアアッッ!!!」


 魔法陣は白く発光し、俺の目を強烈な光が襲った。

 何だかフワフワするような感覚があった。

 肉体から抜けたらダメな何かが、抜けていく感覚があった!



「おんぎゃああああああああああああああああああああああああっっ!!!」



 俺はみっともなく泣いた。泣きわめいた。

 命の危機を前に、三十五歳の中年だった経験などクソの役にも立たなかった。


 それこそ、まさしく赤ん坊のように。


 大声を出して泣く俺に、母さんは抱きついてきた。

 我が子から呪いが払われたとでも思ったのか、よほど安心したらしい。また泣いていた。

 教会から来た男は首を傾げていたが、ついには、


「……まぁいっか」


 なんて言って帰っていった。まぁいいかって何だよそれでいいのか。

 男は首を傾げながら帰っていった。

 二度と来るんじゃねぇ、と俺は心の中で呪詛を唱えた。



         ◇◆◇



 深夜のベビーベッドの上で、俺は親指を噛む。

 ……さて、当面の危機は去ったが、これはまずい。

 俺がどのようにしてタイムリープしたか、それは俺にもまだよく分かっていないが、どうやら魂に干渉するような術をかけられたら即死する可能性すらあるらしい。


(しかもあの男、俺の正体に薄々勘付いていやがった)


 これ以上、教会の連中と関わるのはまずいな、と思った。


(父さんと母さんに心配を掛けたたくはないと思ってたけど、これはますます不安や不信を抱かれるわけにはいかないな)


 命の危機にも関わることだ。

 二人に心配を懸けず、かつ俺が強くなれる方法を探そう。

 そう決めて、深夜のベビーベッドの上で俺は思考を巡らせた。



         ◇◆◇



 俺が二周目の世界で目覚めて、半年の月日が流れた。

 母さんと父さんのほっこりした視線を受けながら、俺はいつものように『訓練』に明け暮れていた。


「てりゃっ!」


 床に手をつき、ハイハイの姿勢でリビングを駆け回る。

 時折コロンと横に転がってみては、笑いながら起き上がる。


「きゃははっ」


 そして満面の笑みを父さんと母さんに向けるのだった。


「うんうん、最近のラベルは元気だな。教会の人が来てからは調子が良さそうだ」


「そうね。ただちょっと元気過ぎる気もするけど……」


「馬鹿言っちゃいけないよ。子供はこれくらい元気な方がいいんだ」


 言いながら、俺を持ち上げようとする父さん。

 俺はサッと手から逃れると、くるっと後ろに一回転。

 起き上がってから自分で自分に称賛の拍手をおくる。


「うふふ」


 父さんと母さんはホカホカとした表情を浮かべていた。



         ◇◆◇



 場所は再び夜のベビーベッド。

 俺は現状の訓練内容と、その結果を振り返りつつ「悪くないな」という実感を得ていた。

 俺がこの半年間でやってきたことは大きく分けて三つ。


 ①実戦のイメージトレーニングを交えた身体能力強化の訓練

 ②魔力と集中力を鍛えるための瞑想

 ③とにかくたくさん飯食って寝る!


 この三つだ。

 そしてこの二つは、現状、両親の目を欺きながら上手いことやれていた。


 ①の訓練は赤ん坊として遊んでいるという体でなんとか誤魔化していた。

 首が据わるまで、また、ハイハイができるようになるまでは首の筋肉と腕の筋肉を二人の目を盗んでは鍛え、大体出生後三カ月で習得。


 身体を動かすのが好きな子、として四つん這いで家中を動き回った。

 一刻も早く立ち上がるためである。

 また、時々横や後ろに回転するのは、戦闘時の回避や受け身の感覚を取り戻し、洗練させるためだった。

 習得後、芸ということで二人に披露したところ受けが良かったので、二人の前でも堂々と訓練ができるようになった。


 ②の瞑想は眠る前、ちょうど今くらいの時間に行うようにした。

 魔力を使った訓練は身体を動かすより何倍も疲労度が高いからである。

 瞑想であれば寝る振りをしながらでもできるため、怪しまれることがなくてよかった。

 瞑想は魔力量、魔力のコントロール、集中力の三つを同時に上げられるので効率が良い。


 方法は簡単だ。

 ベビーベッドで横になりながら目を閉じ、身体中に流れる魔力の流れに集中する。

 魔力の心臓部たる魔核から、血管のように全身に広がる魔力回路を通っていく魔力の流れを追うのである。


 そして支配(コントロール)する。


 自分の意思で身体の中心にある魔核→右の胸部→右肩→右腕→右の手の平→指先→体外といった感じで魔力を流していくのである。


 次に③だが、これが一番重要と言ってもいい。

 つまりは身体と魔力に対する、確かな休養である。


 生前、俺はこれができていなかった。

 もちろん知識として休養が大事、というのは知っていたが、「そんなこと言ってられるか」と訓練の日々に明け暮れていた。

 一日三時間程度の睡眠で迷宮に潜るとかザラであった。

 理屈よりも根性の方を信じていたのである。


 しかし今回、理屈の方を試してみたところ、成長速度は段違いであった。

 身体もそうだが、魔力も休養中にこそ鍛えられる。

 魔力を使えば魔力回路が傷つく。

 食事や睡眠によってその回路が修復されより強固となり、一度に多くの魔力を放出できるようになるのだ。


 次に魔力量について。出力同様、魔力量は魔力を使って回復することで増加する。

 それは生命維持に必要だと脳が判断し、空気中や食事からより多くの魔力を取り込もうとするからである。


 そしてその魔力は回路の修復に充てられ、余剰分は魔力の心臓部たる魔核に蓄えられる。

 魔力を蓄えれば蓄えるほど、胃袋のように魔核は広がり、より多くの魔力をストックできるようになるというわけだ。


 しかし、休養を挟まなければ十分な魔力を蓄えないまま魔力を消費することになる。

 それでも魔力は増加するが、効率は落ちるだろう。


 だからこそ休養は最も大切なのだ。最低でも七時間は確保するべきだろう。

 赤ん坊なので昼間眠くなるから、昼寝の一時間も持っておきたい。


 さて、これら三つのトレーニングを徹底してきた俺だが、このトレーニングはあるコンセプトのもと組んだものである。

 すなわち、強くなるために最短の道を模索する、ということだ。


 生前の俺は様々なことに手を出した。

 魔術、呪術、剣術、槍術、弓術……エトセトラ、エトセトラ……。

 その結果、器用貧乏となってしまった俺は、何を成し遂げることもできなかった。


 だが、だからといって、トンチを効かせて無作為に何か一つを選んで極めようとしても。

 結局は目的を……『最強』を遂行することはできないだろう。

 そんな短絡的思考の上での行動は、努力ではなく「ヤケクソ」だ。

 きっと、それは、何も考えずに「自分の可能性」なんていうフワフワとしたものに期待していた、若かりし頃の俺と……器用貧乏に終わった俺と、何ら変わらない。


 俺は自分を変えたいと思う。自分を変えて、今度こそ夢を叶えたい。

 でも、だからこそ、その方法は最も現実的なものでなければならないはずなのだ。

 強くなるための努力は何だってしてみるべきなのだ。そこは変わらない。

 必要なのは、考えることをやめないこと。考えた上で迷いなく行動に移すこと。

 だから考えた。今の俺にできる努力はなんなのかを。


 魔術の才能は下の下。

 与えられる紋章は「身体能力強化の加護・中級」だなんていう、微妙な性能のもの。

 そして赤ん坊でいる間は、剣を握ることもできない。


 この状況でやるべき努力は限られると、俺は判断した。

 だから俺はひとまず、戦闘における最も基本的なことで、最も重要な技術――。


 すなわち、体術を鍛えてみることにしたのである。



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