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第六話 「忘れていた温もり」


 この二周目の人生では、弱い自分を変えてみせる。

 守れなかった大切な人たちを守るために。自分自身に、絶望しないで済むために。

 そして、幼馴染の隣に立てるような最強の勇者になるために。


 そう決めて、俺がまず確かめたのは、一周目の人生で出来たことが二周目でもできるのか、ということだった。

 かつて俺が使えた魔術は、火系統の初級魔術だ。

 散々迷走していた時期、色んな魔術に手を出したが、結局はこれしか使えなかった。


「……」


 とはいえ火の魔術はとても便利だ。

 戦闘でも迷宮探索においても、火の魔術が使えて困ることはない。


 両親が寝静まった深夜。静かに寝息を立てる母さんとガーガーいびきをかく父さんの隣。

 ベビーベッドに寝っ転がって、俺は手を天井に向けて突き上げた。

 人差し指を立て、魔力を込めてみる。イメージするのは火。威力は抑えめで。


「【ふぅぅ、りゃぁむっ】!」


 …………ふむ、発音は失敗したようだ。

 まぁ仕方ないっちゃ仕方ないか。俺、赤ん坊だし。

 というか、ラ行ってこんなに難しかったっけ……。


 当然だが、呪文の詠唱が失敗して魔術が成功する道理はない。

 指先から魔力が放出された感覚はあったが、火が出ることはなかった。

 そして魔力が出たと思った瞬間。


「うっ」


 激しい頭痛が襲ってきた。脳みそがグルグル回っているみたいな感覚に陥る。

 次第に目の前の景色が霞んできた。


(あ……これ、やばい)


 思ったときにはもう遅く、俺は気絶してしまった。



         ◇◆◇



 俺の目が覚めたのは、気絶してから二日後のことだった。

 目の前には泣いている母さんとホッとしたような表情の医者の姿があった。


(また医者を呼ばせてしまった……)


 顔に手を置き溜息をつくと、母さんが涙を流しながら抱き着いてきた。

 涙で濡れた胸元に押し付けられる。

 湿った涙と、忘れていた温もりに、俺も気づけば泣いていた。


「よかった……よかったぁ……」


 泣き崩れる母さんを見ると、ズキリと胸が痛くなる。

 しばらくすると、仕事場から戻ってきたのか作業着姿のままの父さんがやってきた。

 我慢していたみたいだが、父さんも目尻に涙を浮かべていた。


 どうやら、二人にはまた心配をかけてしまったらしい。

 これ以上心配はかけないようにしよう、と強く思った。




 気絶から回復した後の夜、ベビーベッドの上で俺はまた寝っ転がっていた。

 母さんと父さんは横でぐっすりと眠っている。

 もしかしたら、ここ二日は眠れていなかったのかもしれない。


「……」


 両親の寝顔を見ながら、俺は考えていた。

 そして結論をだした。

 俺が気絶し二日も寝込んだ理由、それはきっと魔力の欠乏によるものだろう、と。


 魔力は筋力と同様、鍛錬と食事、睡眠でその量を増やすことができる。

 逆を言えば、赤ん坊の頃の魔力は基本的に腕の立つ魔術師が気づかないほど矮小なのだ。


 そして俺は元々魔術が得意なわけではなかった。

 効率よく魔力を放出することもできず、微弱な魔力しか持たないのに魔術を使ってしまったことで、脳が生存を優先して気絶してしまったのだろう。

 気絶することで過度な魔力放出を抑え、回復に充てたのである。


 そういえば生前、魔術を覚えようとして読んでいた教本には「子供に魔術を教えるなら十歳から」と書かれていた。

 もっと前から教えればいいじゃん、と俺は思っていたが。

 あれは子供の命を守るための文言だったのだろう。


 ……だがまぁ、例外は存在する。

 一周目の少年時代に聞いたことだが、魔力量と魔力制御に才を持っていたリュナは、それこそ幼い頃から誰に教わるわけでもなく家の中にあった教本を手に取り魔術を覚えていったらしい。


(リュナ、あんた人生何周目だったんだ……)


 こう考えると、リュナは当時、既に二周目の俺にもできないことをやっていたということになる。

 対して俺は、魔術を使おうとすれば気絶する始末……。


 ……うーむ。

 この分野で戦うのは厳しい気がする、という思いがふつふつと沸き上がってくる。

 思えば一周目の自分は、あれもこれもと手を出した結果、失敗した。

 おそらく、そこいらの魔術師よりかは魔術と向き合ってきたが、結局習得できたのは火の初級魔術だけだ。


 何か他の方法を考えなければ、と思った。

 それも早く考えつかなければならない。時間は限られている。

 これから約十年後、俺とリュナが紋章を教会で授かったその年に。

 前世と同様であれば、魔災害は故郷の街ラスクを襲うはずだ。


 一応逃げるように呼び掛けてみるが、子供の世迷言だと笑われるのがオチだろう。

 父さんと母さん、そしてリュナぐらいは真剣に聞いてくれるかもしれないが、街にいる皆を見捨てることになる。


 そんなのはいやだ。

 誰かが死ぬと分かっているのに、見捨てることはできない。


 何より、それを許してしまったら、きっと俺は、再び俺に絶望してしまうだろう。

 きっと俺は俺を許せなくなる。

 そんな気持ちのまま、最短でも三十五年もの人生をもう一度生きるのは拷問に近い。


 だから早く強くならなければならない。あの化け物どもに勝つために。

 二度目の人生だなんていう幸運な権利を得たのだから、俺に止まることは許されない。


 母さんの温もりを思い出す。

 父さんの目尻に溜まった涙を思い出す。


(……やろう)


 故郷の街も、両親も、俺自身の願いも――今度は、命を懸けるつもりで。



         ◇◆◇



 翌朝。

 アーナとバルドの二人は、親父座りで涙を流し拳を握りしめる我が息子の姿を見た。


「何だこの悲壮感溢れる中年のおっさんみたいな赤ん坊は……」


「一昨日のことといい、大丈夫かしらこの子。何か悪いものでも乗り移ってるんじゃ……」


 後日、家に教会の霊能者がやってきて、その日から息子の奇行は減った。


「ようやく悪魔が出て行ったのね!」


 と、アーナは心の底から喜んだ。


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