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第一話 「夢と現実」

 

 Prologue 1



 英雄になる、と少女は言った。


 少年と少女が、崩壊した故郷の街を高台から眺めている。

 穴だらけの田舎街を馬鹿にするように、朝焼けは煌々と輝いていた。


 魔災害――そう呼ばれる災厄は、一夜にして二人の故郷を蹂躙した。

 黒き稲妻と共に現れたクラゲ型の巨大な害獣は、住居や田畑を破壊し尽くし、住民や家畜を鏖殺したのだ。


 命からがら逃げだした二人は、降り出した雪に震えながら山奥で一夜を過ごした。

 幸い少女の方は魔術の天才と呼ばれており、頭脳も明晰であった。

 風の魔術で魔獣の出ないスポットを割り出すと、土の魔術で即席の洞穴を作り出し、二人で身を隠した。体の芯から凍えさせるような真冬の寒さの中、二人は身を寄せ合って一晩を耐えた。


 派遣された勇者や軍が害獣を討伐するも、時すでに遅し、といったところであった。

 何せ山の麓にある片田舎である。勇者の対応が遅れるのも仕方がないと言えた。


「ラベルくん、ぼくは英雄になるよ」


 少女はもう一度、知性を感じさせる静謐な声音で呟いた。


「目に入る人を全部守り切れるような、そんな英雄に」


 朝焼けにさらされた白銀の長髪は風に揺れ、極彩の光を照らす。

 琥珀色の理知的な瞳は真っ直ぐと、潰れた故郷の光景に向いていた。


「ねぇ、ラベルくん。ぼくは君に――」


 続く言葉を、「いや……」と言い淀み、リュナは口を閉じる。

 少女は振り返り、ラベルと呼んだ少年を見て問いかけた。


「……君は、これからどうしたい?」


 ラベルと呼ばれた少年は、そんな少女を。

 半歩後ろで、まるで眩しいものをみるかのような目で見て、言った。


「だったら僕は、リュナを守れるくらい強くなる。

 そうしたら、誰も泣かなくて済むでしょ?」


 無邪気な弟分の言葉に、少女は薄く微笑んだ。



         ◇◆◇



「ラベル君、すまないが今日限りで君との契約は切らせてもらう」

「……え?」


 午後の依頼をこなした後、夕食の時間帯に呼び出された僕は、突然の解雇通知に驚きを隠せなかった。

 しばし茫然としていると、団長のカイルは言葉を続けた。


「明日から別のパーティーを探してくれ」


 どん、とテーブルの上に袋が置かれる。中からじゃらりと金貨が溢れ出す。

 退職金……ということだろうか?


「り、理由を聞いてもいいですか? 僕、何か迷惑が掛かることしましたっけ? 心当たりがないんですけど……」


 カイルはブラウンの髪から鋭い目を覗かせて答えた。


「何もしていないさ。いや、何もできていないことが問題というのかな」


 カイルは僕をじっと見つめる。僕は怯みそうになるも我慢し、見つめ返した。

 やがてウェイトレスがカイルの前に紅茶を運んでくる。

 カイルは短く礼を述べると、アールグレイに口をつけながら語り出した。


「知っての通り、僕たち【革命の風】は今、波に乗っているパーティーだ。そろそろランクBにも挑戦できるほどの実力を持っていると自負している」


「はい」


「ただ、そうなるとな、今よりも危険度の高い依頼を受けていくことになる。そんな依頼に中途半端な実力の者を連れていくわけにはいかないんだ」


「……」


 事実であった。

 パーティーのランクが上がれば危険度の高い依頼は増える。

 他のメンバーと比べツーランクほど劣る実力の僕では、迷惑をかけてしまうことは目に見えて明らかであった。


「君の頑張りや努力は知っている。若さが光る我武者羅な君の努力は、少なからず団員に好影響を与えていただろう。でも、もう、そうも言っていられないんだ」


「僕は、足手まといってわけですね」


「ああ、端的に言えばそうなる」


 カイルは目を伏せて、迷いなく答えた。

 僕はその、カイルの厳しさと優しさに、胸のあたりが苦しくなった。


「さて、これからの君の進路だがな、確か君は中級ランク相当の紋章を持っていたね」


「……はい」


 僕は左手の甲を眺める。

 そこには棒人間が足を広げたような紋章が刻まれていた。


「それがあればDランク相当のパーティーには明日からでも加入できるだろう。そこで二、三年働いてみて、地力をつけてみるのもいいんじゃないか?」


 カイルは腕を組むと、滔々と語り出した。


「君は……努力量はかなりのものだが、そのやり方が根本的に間違っていた気がするよ。身体能力強化の紋章を持っているんだろう? ならば体術の訓練に専念すべきだ。君の努力量なら、将来的には上級冒険者になることもできると、僕は思うぞ」


「……ありがとう、ございます」


 僕は下を向き、自嘲するような笑みを浮かべた。

 カイルはそんな僕の笑みを知ってか知らずか、話をまとめ始めた。


「まあ、話はこんなところだ。それで、これからどうする? 移籍先候補のリーダーに、僕から声を掛けておこうか?」


「……いえ、大丈夫です。これからのことは、これから考えます」


「そうだな。考える時間が必要なときは、あるもんな」


 カイルは凛々しい表情を変えぬまま、最後の言葉を告げた。


「これからの君の活躍に、期待する」


 僕は立ち上がって一礼すると、重い足取りでその場を去った。



         ◇◆◇



 鉄のように重くなった足を引きずりがら、僕は帰路を歩いた。

 冒険者の街エルフレイア。

 様々な種族が入り乱れるこの街では、一攫千金を狙う冒険者たちや、その冒険者たちに物を売りつけようとする商人で溢れていた。


「へいへいそこの若い冒険者ァ! てばやきクン出来立てだよぉ! 食ってけや!」


 ちらりと視線をやると髭を長く伸ばしたドワーフの中年が、冒険者たちに人気のてばやきクンを焼いているのであった。むんとタレの香りが漂っている。


 普通なら腹も減ってくる時間帯。

 しかし今は、まったくといっていいほど食欲が湧かなかった。


「結構です……」


 僕が俯きながら答えると、店主は唾を吐いた。


「ケッ、辛気臭ぇヤツだな。仲間でも死んだか」


 商売の邪魔だ、といって店主は僕を手で追い払った。

 僕は黙って通り過ぎた。


 街路を歩くと、様々な声が聞こえてきた。

 それは冒険者同士の喧嘩であったり、恋を囁き合う声だったり。

 果てにはエルフの娼館から漏れる嬌声だったりした。

 陽が落ちても街の光は消えない。


 五年前、決意を固めてここに来たときは、その全てが輝いて見えた。

 けれど今は、その全てが色あせて見える。


「なんで、僕は強くなれないんだろう……」


 言いながら、答えをすでに持っていることに気付いた。

 左手の甲を眺める。そこには二本足を広げた棒人間を象った紋章が描かれていた。


 ――身体能力の加護・中級。


 それが十歳の頃、教会で与えられた僕の紋章であり、僕の才であった。

 決して戦闘の役に立たない紋章ではない。

 しかし同時に、決して最強には届かないという己の才能の限界を表す象徴でもあった。


 ――君の努力量なら、将来的には上級冒険者になることもできると、僕は思うぞ。


 確かにそうかもしれない。

 こんな紋章でも、正しい努力を積めば上級冒険者『程度』にはなれるかもしれない。

 しかし、それでは『最強』には届かない。

 次代最強の勇者になると言われる幼馴染の隣には、届かない。


 だからこそ僕は、様々なことを我武者羅にやってみた。

 身体をとにかく苛め抜くのはもちろん、剣を振ってみたり、弓を使ってみたり。

 魔術にも挑戦してみたりした。その結果が今日の解雇というわけである。


「ちくしょう……」


 僕は下唇を噛み、不意に振り返った。

 エルフレイアの街の中心に聳え立つ巨大な鉄の塔……いや、鉄の城が、街灯に照らされてその姿を見せつけている。

 三大迷宮と呼ばれるダンジョンの一つ、タオラル大迷宮であった。

 その直径は大都市でなければ、街一つを丸々呑み込むほどであった。

 さらに城の天辺は雲の上にあり、その全容を把握することはできない。


「遠い、な」


 僕は溜息をつき、苦笑を浮かべた。

 ダンジョンの天辺と、しばらく目にしていない幼馴染の姿を重ね合わせる。

 リュナ・マリベール。幼馴染の彼女は今、対魔害獣勇者養成学院――通称、勇者学院と呼ばれる英雄の養成機関に通っている。

 僕が守りたいと願う彼女は今や、人類の宝なのであった。


「はぁ……」


 僕は再び、大きな大きな溜息を吐き、街で一番安い宿屋へ向かった。

 背中には、重い何かが伸し掛かっているようだった。


 これが僕、ラベル・エルレイン、十五の春の出来事であった。




お久しぶりです。新作になります。


実は第一部となる話は書き終えていて(大体30話くらい)、綺麗に話も畳めていると思うのでラノベ一巻分読むぐらいの気持ちで楽しんでいただけたら幸いです。


二部以降はどうなるか分かりませんが、

人気が出たら調子に乗って続けると思います。

第一部の話だけでも満足できるはずなので、そこはご安心ください。


読んでいて面白い、続きが読みたいと感じた方は


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評価は感じたままに、とても良い! と感じていただければ星5つ、

微妙やなぁコレと思われたら星1つでももちろん構いません!


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