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23:迷える光 後編(Side:ルーチェ)

2021/07/24 更新(2/2)

 デュラハンはSランクに指定された魔物。その討伐資格を得るためにはSランクのハンターにならなければならない。

 元より、その為に私たちは動いていた。そこに更に目的が加わっただけだった。


 アーテルを殺したデュラハンをこの手で殺す。それだけが私の全てになっていた。

 だから積極的に難しい依頼でも受けた。ランクを上げるための後ろ盾を得るために精霊教会との関係を密接にした。


 そうして三年の時間をかけて、私たちはSランクのハンターになる資格を得た。

 これで復讐を果たす資格を得ることが出来た。後はデュラハンを探すだけ――そう、思っていた。


「……デュラハンが、討伐された?」


 アーテルが死んだ時、私の世界は粉々になってしまった。それを繋ぎ合わせて、今日までやってきた。

 その継ぎ接ぎが、また砕かれるような衝撃。ずっと追っていた復讐の仇が別のハンターに討たれてしまったという報せは、私を絶望のどん底に落とすには十分だった。

 それから私は抜け殻のような日々を送っていた。カーティスが心配して様子を見に来てくれるけれど、一方でアーヴァインは腑抜けとなった私に苛立っているようだった。


「こんなところで足を止めて良いと思っているのか! 何のために私たちがSランクハンターにまでなったと思っている……! アーテルのことはどうしようもなかったんだ! デュラハンだって、先に討たれてしまったものは仕方あるまい! こうして塞ぎ込み続けて一体何になるというのだ!」

「アーヴァイン、気持ちはわかるが……ルーチェのことだって考えてやれよ」

「黙れ、カーティス! 私はこれでも付き合ってやった方だと思っている程だ! それはルーチェをリーダーとして立てるべきだと思ったからやってきたのだ! なのに、ようやくスタートラインに立てたと思ったところで腑抜けになられたこっちの身にもなるが良い!」

「お前がチームの名声を気にしてるのはよくわかってる。俺は頭が悪いから、そういうのはお前に任せっぱなしだった。それについては悪く思ってる。このまま腐ってたって、折角Sランクになったところで何の意味もなくなることもな」

「だったら……――!」

「でも、アーテルと一緒に頑張ると! そう決めていたら、そもそもこんな事にならずに済んだかもしれない! 逆にアーテルが死ななければここまで来れなかったかもしれない! 俺たちにとってアーテルは避けられない存在なんだよ!」


 カーティスがアーヴァインの胸ぐらを掴み上げて、鋭く睨み付ける。けれど、負けじとアーヴァインも額をぶつけかねない勢いでカーティスに掴みかかる。


「アーテル、アーテルと! なら、私たちはいつまで囚われれば良い! もう……もうアーテルはいない! 私たちの人生はアーテルのためにある訳ではないだろう! 死者に囚われるなとは言うつもりはない! しかし! ここで足を止めることに一体どれ程の意味がある!?」

「お前の言ってることは正しい! でも、正しいからって効率が全てじゃねぇだろうが! そもそも、効率を求めたせいで俺たちがアーテルを見殺しにしたようなものだ!」

「なんだと……! 私が悪いとでも言いたいのか! アーテルを真っ先にチームを外せと言ったのは私だからな! だが、あのまま連れてきて、その先があったとお前にわかるのか!」

「だから……っ! 正論ばかり言ってても、何も解決しねぇから止めろって言ってるんじゃねぇかっ!」

「なら、いつまで足を止めているつもりだ! お前たちは! このまま解散でもするつもりか!? それすらも私たちには最早、選ぶ権利などないッ!」

「わかってるよ……! Sランクのハンターであることの責任の重さぐらい……!」


 Sランクの魔物は、最早一種の災害にも等しい。だから、それに対抗出来るSランクのハンターは貴重だ。こうして足を止めていることも、本当は望ましくないことだ。

 カーティスの気遣いも、アーヴァインの叱咤も、きっと正しい。でも、私の心は穴が空いたままで塞がる気配もない。



 ――そんな私たちに、ある精霊教会から連絡が届いた。



「デュラハンの討伐者が……街を仇為すかもしれない危険な対象だって?」

「あぁ。何でもSランクハンターとして活動しているヴァンパイアだそうだ」

「ヴァンパイア……あのヴァンパイア?」

「そうだ。最悪の亜人とも言われている存在で、基本的に住処である森から出てくることはない。そのヴァンパイアは〝はぐれ〟であり、教会の監視対象になっている」

「そのヴァンパイアが……デュラハンを討伐した?」

「教会が言うには、デュラハンの魔石を用いて何か暗躍をしているのではないかと疑いを立てている。しかし、相手はSランクのハンターにもなれる程の実力者。神官と言えども迂闊には手を出せないそうだ」

「だから、私たちに協力の要請を……?」

「……まぁ、遠回しに排除に手を貸せと言っているのだろう。話を持って来た教会の神官長は強硬派のようだからな」


 アーヴァインが少しだけ忌々しそうに眉を寄せながらそう言った。そして、私を鋭く睨み付ける。


「……ルーチェ。いい加減、立ち直ってくれないか。これも良い機会だと私は思っている。相手は仇を討った討伐者ではあるが、人に仇を為す危険な者かもしれん。そんな奴に好き勝手にやらせていいのか?」

「……それは」

「俺たちはもう引き下がれない。精霊教会にSランクまで引き上げてもらった恩があるからな。……覚悟を決めてくれ」


 アーヴァインは真っ直ぐ私を見据えながら言う。私たちの様子をカーティスは静かに見据えている。

 私はゆっくりと呼吸を整えて、目を閉じる。目を閉じれば、アーテルのことは今でも思い出せる。

 あの子が命をかけて被害を食い止めた魔物を、そんなアーテルを殺した魔物を悪用されるとしたら……私は、そのヴァンパイアを許すことは出来ないだろう。


「……カーティス、アーヴァイン、今までごめん。まずは、話を聞きに行こう。私たちは責任を果たさなきゃいけないんだ」


 アーヴァインはようやく、といったように息を吐いて、カーティスは静かに目を閉じた。

 少しずつでも良い。足取りは重いけれど、もう一度、しっかりと踏みしめて進んでいかないといけない。



 ――確かに、そう思っていたのに。



 アーテルは、生きていた。

 最初は目撃情報があって、そして目標のヴァンパイア、キャロルムと行動を共にしていると聞かされた。

 最初は信じられなくて、どうしても確かめたくて、相手に洗脳を受ける覚悟で単身、キャロルムが住まう家へと乗り込んだ。


 けれど、私を待っていたのは……アーテルからの拒絶だった。

 あんなに激しく私を拒絶するアーテルなんて見たことがなかった。あの子が言っていたことも当然だと思った。

 ただ、ただ、あの子に拒絶されたという事実が私を滅茶苦茶にした。どうやって街に戻ったのかもすら曖昧で、アーヴァインとカーティスには洗脳を疑われた。


 もう、何もわからなかった。なんとか固めた決意すらも砕かれて、求めていたはずの存在には拒絶されて。

 いつから間違っていたんだろう。いつから正しくなれなくなったんだろう。いつから、こんな事になってしまったんだろう。


「妹さんが生きていたと、しかし拒絶されてしまった。それは……既に洗脳を受けていたからでは?」

「……洗脳」

「えぇ、えぇ! そうに違いありません。デュラハンを討伐したと偽り、生きたまま手元に置いておこうなどと……最早、疑いの余地もありません。奴が行動を起こす前にこちらから討って出るのです!」

「……じゃあ、アーテルは」

「彼女は既にヴァンパイアの手先になっている可能性が高い。それに、彼女は自分をデュラハンだと言ったのでしょう? もしかしたら、貴方の妹の人格や記憶を奪ってなりすましているだけかもしれません。心を操る術を持つヴァンパイアなら、そういった事も可能かもしれませんからな」


 モルゲンの精霊教会の神官長から私たちの補佐としてつけられた神官、オスニエルは拳を握り締め、熱意を込めて私へと語りかける。

 あのアーテルは、デュラハンで、アーテルの記憶や人格を弄んでるのかもしれない。それを否定出来る要素は、ない。

 無闇に彼の言葉を信じることは出来ないけれど、否定することも出来ない。


「勿論、力を貸して頂けますね? 『黎明の空』の皆さん。これは、貴方たちのかつての仲間の弔いでもあるのです!」


 アーテルの弔いを。あぁ、そういえば……アーテルが死んだと聞いてから、弔おうなんて思ったことがあっただろうか。

 わからない、もう、何もわからなくなってきた。自分で考えることが出来なくなって、ただ、ただ言われるままにキャロルムの家を焼く。


 誰か、お願いだから私を正しく導いてよ。

 何を選んでも間違い続けてきた私に、どうか正しくある方法を教えてよ。

 これが正しいことなんだって、どうか信じさせてよ。

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