18:記憶を辿る 04
私は『黎明の空』を抜けた後もハンターとして働いていたけれど、前と違うのはギルド職員も兼任するようになったことだ。
ハンターの契約形態にも色々種類があって、ギルド専属で職員として働く形態もある。これが後々、ギルド長になるためには必要になるし、チームを抜けた私が最も働きやすい契約だった。
私が改めて結んだ契約によって、私より下位ランクの人たちに向けた講習や昇級試験の試験監督を務めることが増えた。
他にも依頼のランクが適正かどうか事前調査する仕事も増えて、純粋にハンターとして活動する場面は減ってしまった。
大事な仕事ではあると思うんだけど、この手の仕事は華々しい活躍をしているハンターから見ると出世街道から転げ落ちた半端者として見られることも多い。だから、私に向けて悪態を吐いたり、挑発をしてくる人も中にはいる。
「アーテル! また雑用か? ご苦労様だねぇ、あの『黎明の空』の一員が雑用だなんて俺には信じられねぇよ。まぁ、あの三人に比べればお前はパッとしないって言われてたもんな。仕方ねぇ、仕方ねぇ」
「……ヘリオンさん、依頼の受注を確認しました。どうぞお気を付けて」
「……チッ、済ました顔しやがって。まぁ、ルーチェに比べれば劣るけど、お前もそこそこ可愛い顔してるよな。お前がどうしてもって言うなら、俺が付き合ってやっても……」
「おい、ヘリオン。いい加減にしろ」
ヘリオンさんのチームのメンバーが、少し苛立ったような顔でヘリオンさんの腕を引く。 他にも受付を待っているハンターや、私と同じように受付に入っている受付担当の人がヘリオンさんに冷たい眼差しを向けていて、それに気付いたヘリオンさんが苛立たしそうに舌打ちをした。
「同じAランクなのに『黎明の空』とは随分、扱いが違うんだな! もうアイツらはいなくなったっていうのによ! このギルドを守ってやってるのが誰だと思ってやがる!」
「いい加減にしろと言ったんだ、ヘリオン!」
「……クソッ! アイツらがいなくなれば全ては上手くいく筈だったのに……!」
ヘリオンさんたちのチームは二十代半ばか、二十代後半のメンバーで構成されている。チームとしては優秀な方に分類される筈なんだけど、比べられたのが姉さんたちだったというのが彼等の不幸だったと思う。
姉さんたちがこのギルドを離れたのも、対抗意識を燃やしたヘリオンさんと付き合うのが億劫になったからとも言われて、ヘリオンさんのチームには密かに悪評が流れてたりする。
チームメンバーに引き摺られるようにヘリオンさんが去っていくと、長くハンターを続けているベテランのおじ様が声をかけてくる。
「大丈夫か? アーテルちゃん」
「はい、大丈夫です」
「……ヘリオンの言うことは気にするな。もう『黎明の空』はこのギルドにいないんだ、いずれ落ち着くだろう。それまでの辛抱だ。アーテルちゃんがしっかり働いてるのは俺たちも見てるから、気を落とすなよ」
「そうですよ! 職員と兼任出来るハンターなんて、それはそれでちゃんと凄いことなんですから! 流石、次期ギルド長候補ですよ、アーテルちゃんは!」
隣に座っていた受付のお姉さんまで鼻息を荒くしながら、少し憤った様子でそう言った。
姉さんたちがいなくなった後、ヘリオンさんのように姉さんたちに嫉妬していた人たちから理不尽な嫌がらせを受けたりすることもあったけれど、それでも私は充実した日々を送ることが出来ていた。
嫌がらせには傷つくこともあるけれど、こればかりは姉さんの隣にいようとした私が悪いのだから、噂が過ぎ去るまで自分が出来ることをするしかない。
「アーテル」
「ギルド長?」
私に声をかけてくれたハンターのおじ様が去ったところで、リエルナさんが声をかけてきた。
「明日なんですが、またDランクの見習いに教習を頼みます。現地での採取ポイントや、採取の際に気をつけること、森の変化の見分け方などを教えてやってください」
「明日ですね、わかりました」
「お願いします、アーテル。……貴方には本当に助けられていますよ」
リエルナさんは私にだけ聞こえるような声でそう言った。その一言を告げてくれるだけで、私はまた頑張れるような気がするのだった。
* * *
「アーテル・アキレギアです。本日の教導はよろしくお願いしますね」
「カトリ・ワーナスです! よ、よろしくお願いします!」
次の日、私が教習を担当するハンターと顔を合わせていた。
カトリちゃんは明るい茶髪に緑色の瞳の愛らしい女の子だ。歳は十三歳と事前に聞いていた。
「今日は森の歩き方や薬草などの素材が採取出来るポイント、そこでの注意点や森を歩く時の注意点を教えていきます」
「は、はい」
まだまだ緊張した様子のカトリちゃんを連れて、私は近場の森へと向かった。
個人で移動する乗り物といえば空を駆けるエアバイクだけど、集団で移動する時は大型の魔動車であるバスで移動することが多い。
バスの定期便に乗り継いで素材が採取出来る森へとやってきた私たちは、森の中をゆっくりと歩きながら言葉を交わしていた。
「この森は街からも近くて、新米ハンター向けの依頼もよく出される場所なんだ。だからこそ、この森の環境は維持しなきゃいけない。採取しすぎたりして、素材が取れなくなると新米ハンターたちに実践して教えられる場所が減っちゃうからね」
「そうなんですね」
「そうなの。だから森の雰囲気も覚えると良いよ。よく観察して森の様子を覚えておくと、変化があった時に何が違うのかを見極められるようになる。その勘を養うには、何より実際に経験して身体に覚えさせるのが一番良いから」
「勉強になります!」
「じゃあ、今日は今のカトリちゃんが入れそうな一番奥まで案内したら戻ろう。それ以上、奧には入ってはいけない場所を覚えておけば無茶をすることも減るからね」
森を歩きながらカトリちゃんが緊張しないように、かつわかりやすく説明出来るように注意して話をする。
人に何かを教えるというのは、何度やっても緊張する。それでも熱心に聞いてくれるカトリちゃんを見れば、やっぱり手を貸してあげたいと強く思う。
「アーテルさんは色んなことをいっぱい知ってるんですね」
「そうでもないよ。教えたのはただの常識だから」
「でも、わかりやすく教えてくれましたし!」
「そう? それなら良かった」
「……アーテルさんって、あの『黎明の空』の一員だったんですよね?」
その問いかけに、私は身を竦ませそうになるのを堪えながら笑顔を保つ。
カトリちゃんは目をキラキラさせていて、私に憧れの視線を向けてくる。その視線が痛くて、少し目を逸らしてしまった。
「私は実力が足りなくて抜けた身だから……」
「でも、アーテルさんがAランクに相応しいハンターだって皆、言ってますよ」
「最近はAランクの依頼は受けてないんだけどね……」
「でも、Aランクにもなる人がここまで熱心に教導してくれるのも珍しいことなんだから、その幸運にはちゃんと感謝しなさいって言われてます」
確かにAランクのハンターともなれば高給取りなので、ある程度は仕事を選ぶ自由がある。その代わり、ギルドとしても対応出来るAランクの依頼は積極的に受けて欲しいので釣り合いは取れているとは思う。
そんな中で下位ランクのハンターの教導や補佐に力を入れている私は変わり種だと言っている人は多かった。だからこそ、尊敬出来るのだと。
(……それはそれで胸を張らなきゃいけないことなんだよね)
いつまでも姉さんたちに追いつけなかったことをくよくよしてはいけない。
そうは思っても、どうしても心が付いていかない。いつかは、この痛みも薄れて慣れる時が来るんだろうか。
(……しんどいなぁ)




