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王女と異世界転生者

 ミライアのお母さんは、魔物によって殺されたというのは、僕にとって衝撃だった……。


「そして辿りついたのが、ニカの村だったんだ。あの時は大騒ぎだったな〜、小さい女の子が逃げてきたって」


 ニカの村はエルタミナのだいぶはずれにある村。護衛の人のおかげもあったのか、長い距離を逃げて来たようだ。


「私は、自分が王女であることなんてどうでもよかったから、身分は隠して生活してた。王族に入ったことで狂ったって言ってもおかしくないから……。それからは、ティアの家にお世話になってね、そのうちキアムとも知り合って……」


「じゃあ、キアムとティアにも言ってないんだ?」


 小さく頷くミライア。


 そこから幼なじみと言われるようになったのだと理解する。出身はボルテの街だけど、育ちはエルタミナで、さらにニカの村。う〜ん、若いのに相当な移動をしていると実感した。


「私が冒険者になろうとしたきっかけは、母が魔物に倒されたから。魔物を倒せば、母への恩返しができるかなって……。それで、冒険者学院のある王都に移って、ギルドに入ったの。当然、3人一緒にね」


 復讐ってことか。マイナスの理由で始めたんだな、冒険が楽しいとか感じる訳ないか……。


「メイスが言った振る舞いなんかは、王族になった時に叩き込まれたから、そのせいじゃないかしら?」


 これで所作が美しいことの説明がつく。あとは……。


「怖くないの?魔物と戦うの。トラウマとかなかった?」


 冒険は楽しいかどうか?だ。


「ま、まあ最初は怖かったよ?お母さんが殺されたところが目に浮かんできて、気持ち悪くなることだってあった……」


 途中からとはいえ、王女様だったんだ。いきなり魔物はハードルが高いだろう。


「でも、負けられないって。絶対魔王を倒すんだって、そう決めたから」


 力強い目つきになるミライア。本当に強い子だと思った。


「でも、今はメイスがいるから大丈夫かな?怖いって言うよりも、安心して強くなれるって言うか……」


 はにかむような顔をするミライア。僕もそんなことを言われると恥ずかしい……。


「エルタミナでは、ミライアを探して大慌てじゃないの?」


「う〜ん、どうだろ?あの魔物の襲撃で生き残ったのは私だけだからね。全員死んだとでも思われてるんじゃないかな?」


 あまり気にしていないと言った表情のミライア。基本的には王都で冒険者をしているから、エルタミナまで情報が届くとは思えない。


「それに、あの国には未練がないの!こうやって、みんなに出会えただけで嬉しんだ!」


 嬉しそうなミライアの顔を久しぶりに見た。やはり笑顔が一番可愛いと思う。



「ミライアが自分のことを言ってくれたから、僕も少し話があるんだけど……」


 こんな話を聞かされたんだ、僕もミライアには自分のことを知ってもらってもいいと思った。どこかフェアじゃない、そんな気がしたから……。


 それから僕は、自分が異世界からきた人間だと説明する。生い立ち、魔法が全部使えること、神に頼まれこの世界にきたこと、言えることなら全部話した。あまり信じてもらえないと思っていたけど……、


「なんだか不思議、全然意味わかんないのに、メイスの言ってることすぐに信じれるんだよね」


 ミライアは僕の話を頷きながら、ちゃんと聞いてくれたのだった。


「嘘だとか、思わないの?」


「ううん。思わないよ?だって、メイスだもん、信じれるかな!」


こんなにも僕を信じてくれる人はおそらくいないんじゃないか?そう思ったのだった。 もう何時間話し込んだかわからない、あたりは少しずつ明るくなっている……。


「できれば、このことは他の人には言わないでほしいんだ。めんどくさいことになりそうだから……」


 信頼はしているけど、一応ミライアに釘を差しておく。


「当たり前じゃん!それに私のことも周りに言わないでね?今まで隠してのが台無しになっちゃうから!」


 もちろんだ。ミライアが王族でしたなんてことになれば、最悪パーティー解消だ。またパーティー探しになる。


 それよりも、そんな、ミライアが悲しむことはしたくないと思った……。


「えへへっ!私たちだけの秘密だね、メイス!」


 今までの重い空気を一変させるようなミライアの笑顔。こんなの可愛いに決まっている。思わずドキッとしてしまう……。


「どうしたの?顔赤くしちゃって?」


「な、なんでもない!」


 思わず顔を背ける。見てらんないよこんなの……。


「もう明るくなってきちゃったな……、私たち全然寝てないね!」


 寝れる訳ないな、うん。なかなか重い話だからね。でもミライアがスッキリしたみたいで安心した。


「ねね、メイスは好きな子とかいるの?」


「え、な、なんでこのタイミング!?い、い、いないよ!」


 なんで今聞くんだよ!それに、ちょっとだけミライアが好きになりかけてるだなんて言えないよ。仮にも王女だし、それに絶対迷惑がられるよ……。


「いないんだ!よかった〜」


「な、なんで!?関係なくない!?それよりミライアこそどうなの?」


「むっ〜!そんなこと言うんだ?いいもん、答えてあげない!」


「どうして怒るんだよ!?教えてよ?」


「メイスよりカッコ良くて優しい人なんてい〜っぱいいるもんね!」


 へ、凹む……。


「そ、それはミライアは可愛いからいろんな人から……」


 ここで自分がとんでもないことを言ってしまったことに気づく。この状況で可愛いとか言ったら、半分告白したようなものだ。


「あ、いや、そんな、うん。そう言うことじゃなくてですね……」


 呆気にとられていたミライアだったが、頬を赤らめながら答える。


「ううん。ありがとう。すごく嬉しいよ……」


 そう言って手を握ってくるミライア……。え、嘘、これどうなっちゃうの?


「私は……」




「よう、ふたりとも!随分と早起きだな、ってどうしたんだ?」


 誰が見てもいい雰囲気の時に、1000年に一度レベルでキアムが早起きして散歩に出てくる。この場所、散歩で通りかかる率高くない?とりあえず、ミライアの名誉のため、スッと距離をとる。


「え、なんでもないよ?ね、ミライア?」


「あ、う、うん。なんでもないの!少し話しててね?」


「なんの話だよ〜!俺にも聞かせろよ〜」


 しまった、完全にタイミングを逃してしまった、少し残念そうにするミライア。ごめんねミライア。また後で話できるといいなと思う。




 こうして、僕のいろんな意味でドキドキした夜は過ぎ、冒険の日々に戻ろうとしていた。


「ミライア、一応聞くけど、エルタミナに行っても平気?」


「うん、平気だよ!それよりも、魔力を解放する方法を探すのが先でしょ?私のことは気にしない気にしない!」


「いや普通に気にするよ!いきなり連れてかれるとか無理だよ?」


「ちゃんと変装していくから大丈夫、それに、王宮に近づかなければ平気だよ!私なんか一年ちょっとしかいなかったんだから誰も知らないって!」


 まあ、言われてみれば。ミライアはすぐに国を離れることになったから、確かに顔がそこまで知れ渡っているわけではないか……。国民にお披露目するみたいなこともなかったみたいだし……。


「あんまり派手なことしなかったら大丈夫か……」


 こうして僕たちは、エルタミナに向かって再び進み始めた……。


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