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魔力解放の旅、ミライアの秘密

 ボスゴブリンの討伐から数ヶ月が経ち、僕たちは着実に冒険者としてのレベルを上げていった。キアム、ミライア、そしてティアは、あれからクエストを相当数こなしてレベル20を超える力を手にしていた。


 当然僕はレベルマックスで、目に見えた成長はなかったけど、以前からの課題であった杖を使った魔法の発動を身につけていった。


「ごめんねメイス。私たちのレベルアップに付き合ってもらっちゃって……」


「え、全然いいよミライア!それに僕だって、ほら!杖を自在に使える様になったんだよ?」


「そ、そうだね。た、たしかにメイスの杖、最初は飾りかと思ったけど……。発動時間が短縮されて、すごく強い……」


 ねえティアさん。自分でも杖はあんまり使えないって知ってたけどさ。飾りとか言わないで?


「最近、二回魔法を詠唱しなくなったもんな〜。あれだけでもだいぶ強かったけど、補助魔法が早く発動できるのは便利だよな〜」


 キアムの言う通りだった。この世界では魔力が希薄な分、何かしらの工夫をしないと魔法が発動すらしない。僕の場合は莫大な魔力量と、魔法を二回唱える『二重詠唱』によって解消していた……。


「でも最近はレベルが上がってきたから、ある程度はメイスの力になれると思うわよ?」


「そうだね、ミライアたちががんばって前線で戦ってくれるから、安心して魔法が使えるよ!」


 やはり次なる課題は攻撃魔法。決して使えなくはない、特にあまり強くない魔物には有効だが、やはりレベルの高い魔物になると話は別だ……。


「あのさ、みんなに相談があるんだけど……」


 僕はみんなに気になっていたことを相談してみる。


「この世界さ、魔力は薄いけど魔法は使えるんだ。って言うことは、

 どこかにまだ魔力が眠っていると思うんだ!」


 そう、そこなのだ。大体、魔力が失われたのは200年前と言われている。


 にもかかわらず、こうして僕が魔法を使えるのは、やはりどこかに微力ながら、魔力の根源があると考えるのが自然だ。


「た、確かにそうかも……。でも、そんな話聞いたこともないかな……」


 ティアが首を傾げながらそう答える。


「僕も王都の図書館に行ってみたんだけど、魔法関係の本が全然置いてなくて……」


 この世界の人たちは、魔法に対しての理解はある。ただ魔法を使える人が1人もいないので、魔法の研究が進まないようだった。言い伝えがメインとなっており、真偽すら確かめられないと言ったところだろう。


「だからさ、旅に出ようかと思うんだ!」


 そう言って、僕は神様であるカイオスさんからもらった世界地図を広げる。


「旅に出るって……。どこに行くつもりなんだよ?」


「まずはここかな、エルタミナ!みたところ砂漠にあるみたいだけど……」


「エ、エルタミナ……。結構遠いわよ?」


 ミライアが心配そうにこちらの顔を伺う。


「ミライア、エルタミナに行ったことあるの?」


「い、いや聞いた話だけどね?数十日はかかるって、話だけど……」


 どうしてだろう?少しミライアが動揺している気がした。


「僕も実際にどれくらい距離があるかわからないけどさ、みんなレベルを上げてきたし、大丈夫だと思うんだ!」


 数ヶ月レベル上げに奔走したんだ、多分大丈夫だろう。


「そうだぜミライア、なにも心配しなくても大丈夫だよ!よし、これで冒険者っぽくなってきたしな!」


「わ、私も……。王都、ちょっぴり飽きた。旅に出たいかな」


 ティアが目を輝かせながら答える。さすがにミライアも根負けしたのだろうか。


「そ、そうよね、私たち冒険者よね!元は魔王を倒すための組織だもの、弱気なっちゃいけないわ!」


「それじゃあ、早速エルタミナに出発しよう!みんな準備はいい?」


 無言で頷くみんな。こうして僕たちは商業都市エルタミナへと旅だったのだった……。




 勇んでエルタミナに出発したが、4人ともエルタミナへの道に疎かったらしく、おかげでなかなかの不運に恵まれていた……。



「たああっ!」


 キアムがホワイトウルフを狩って行く。うん、みんなも強くなっていると確信した。僕の補助魔法も少ない回数で済むようになり、攻撃に転じることも可能になっていた。


「なんでホワイトウルフに囲まれてるのよ〜〜〜!」


 ミライアが悲痛の叫びを上げている。不運とはまさにこのことだ。キアムがズンズンと先に進むため、どこか安心感があったみんなは、あまり疑うこともなくついていったのだ。その結果、見事ホワイトウルフの巣へと一直線だったわけだ。


「け、結構多い……。でも、倒す!」


 一段と動きが機敏になったティア。この子はおっとりした口調からは想像もできないほど好戦的だ。少し怖い……。


 一体の強さはそうでもないが、やはり群れを為すホワイトウルフの数は圧倒的。なんとか互角の戦いといったところだ。


「みんな!ちょっと試したいことがあるんだ、やってみてもいい!?」


 杖に魔力を通し、僕は、一回の詠唱に集中する。この世界に来てからは使ったこともない、爆発魔法を使おうとしている……。


「この状況を打開できるなら大歓迎だぜ!」


 ホワイトウルフの攻撃を凌ぎながら答えるキアム。ミライアの顔にも疲れの色がはっきりと写っていた。あまり時間はかけられない。


 爆発魔法『エクスプロード』。中級魔法でも上位に位置するこの魔法は、この世界で発動するかギリギリのライン、つまり僕の現状では最高レベルの魔法だ。場所のイメージ、そして爆破をイメージ、よし、いける……!


「……!エクスプロードッッ!」


 ホワイトウルフの群れの真ん中あたりで急速に空気が振動する。圧力を解放した結果だろう……。


ドガーーーーンッ!バーーーーーーンッ


 ホワイトウルフたちが宙に吹き飛ぶのが微かに見える。直後、砂埃が辺りを包み込んでいく……。


「せ、成功したかな?」


 砂埃が収まって行くと、ホワイトウルフたちの群れは消え去っていて、近くのホワイトウルフたちが残っていた。


 群れの中央を狙った爆発にしては、意外と高火力が出たのでびっくりだ……。


「あ、魔導師の刻印のおかげか……」


 最近攻撃魔法を頻繁に使用して思うことは、意外と神様にもらったスキルが優秀であることだ。特に『魔導師の刻印』(使用した魔法の威力を3倍に引き上げる)は、魔法弱の世界では使えないと思ったが、僕の魔力量とも相まりなかなかの効果を出している。初〜中級の魔法はメルスティアにいた頃よりは弱いが、それに準する威力を出していた。


「メ、メイス……。つ、強すぎるよ……」


 ティアが困惑している。このくらい魔法を使えば普通なんだけど、爆破魔法とかあんまり見慣れてないからなのかな?


「ティア!まだ残ってるわよ、集中して!」


「う……うん!」


 ミライアに注意を促され、再び機敏に動き始めるティア。もうそれほど数はいなかったのであっという間に片付いた。


「いや〜、やったな!ホワイトウルフの巣を潰しちゃったよ、上級の冒険者でも苦戦するのに……!」


 キアムが嬉しそうに言う。


「元はと言えば、アンタがどんどん突き進むからよ!?まあ、確認しなかった私が悪いんだけど……」


 ミライアが申し訳なさそうにしている。そんなに落ち込むことはないと思うけど……。


「大丈夫だよミライア!ね?ちゃんと無事倒せたんだし……」


 僕の励ましに、ミライアはこちらを見る。やけに真剣な顔だ。


「あなたは強すぎ!なにあの魔法、爆破したわよ!?」


 その言葉にティアも続く。


「そうそう……!ドカーンって!かっこよかった……!」


 目をキラキラさせている。そんな珍しくないけどな〜。


「爆破魔法を使ったからね。もしかして初めて見た?」


「当たり前じゃない!いい?この世界は普通に武器を使って倒すの!あんな広範囲を一掃できる攻撃は無いの!」


 若干怒られた……。怒ったミライアは怖いんだと実感する……。


「あ、ごめんなさい!興奮しちゃって……。怒るつもりじゃなくて、えっと……。ありがとう、本当に助かった!」


 申し訳なさそうにしながらも、ミライアは感謝の気持ちを表す。みんなもそれに続き僕を褒めていく。


「全然大したことないからね?魔法使いだからさ、このくらいできないとまずいでしょ?」


「……、はぁ〜。あなたってほんとに……、まだ魔力が解放されてないのにこの力って、普通ならどんだけ強いのよ?」


 ミライアが半ば呆れ気味に言う。確かに強いのかもしれない。ただ……、


「あんまり連発できるってわけじゃないんだ。だから、力が発揮できるまで、まだみんなの力が絶対欲しいんだ!」


 最終的には、魔眼を発動しながら上級魔法を発動できなければ、魔王を倒すことは難しいだろう。そう考えるとまだまだだ。


「なあミライア。このままだとメイスが他のパーティーから確実に引き抜かれるぜ。俺たちもっと強くならないとな……」


「そうね、メイスくらいは無理かもしれないけど、せめて釣り合うくらいの力はないと……」


「メ、メイス……。どっか行っちゃうの……?」


 ねえみなさん僕を持ち上げるのやめて?そして、ティアの上目遣いはなんと言うか、端的に言えばかなり可愛いと感じた……。


「ど、どこにも行かないって!そもそも引き抜かれないから!」


「いや、そうでもないらしいぜ。初級者のパーティーにめっちゃ強い魔法使いがいるって噂になってるんだ。

 いつ引き抜かれてもおかしくないんだ。」


「今は王都の外にいるからいいけど、戻ったら大変な騒ぎになってると思うわ……」


 何かを考えているキアム。心配そうな顔をするミライアとティア。うん、こんな可愛い子たちがいるパーティーなら離れようと思う男子はいないんじゃないだろうか。ま、理由はそこじゃないけど……。


「よし決めた、今からエルタミナに着くまでメイスは回復魔法だけを使うこと!戦闘は全部3人でやる!」


 1大決心をしたかのようにキアムが言う。


「それならいいかもね!そしたらメイスも私たちのこと認めてくれるでしょ?」


 何を訳のわからないことを言っているんだ……。


「元から認めてるって!みんなのこと弱いだなんて少しも思ってないからね?」


「でも……、それじゃあ私たちの気がすまない……。メイス、いなくなっちゃダメだから……。」


「そうそう!絶対メイスは他なんかに渡さないから!」


 めちゃくちゃ嬉しいことを言ってくれるティアとミライア。


「よし決定な!メイスは今から回復魔法だけです、補助魔法も禁止な!」


「だからどこにも行かないって言ってるのに……」


 こうしてみんなの意向で謎の魔法縛りがかけられた僕。僕が魔法を使わないと言うことで数段気合の入ったみんなは、危なげなく戦闘を勝利していく。正直回復魔法すらいらないレベルだ……。


 川を渡り、野を超え、山を登り、何日も歩き続け、その道は過酷を極めた。その間もみんなは弱音も吐かずに進んでいく。


「いや、絶対僕より強いよこの人たち……」


 戦闘の能力こそ、僕が強いかもしれないが、精神的な面では明らかに僕よりもタフだ。どうしてここまで前を見て進めるんだろう……。


 エルタミナがすぐ目前に迫ったきたある日の野宿。


「んん……。ダメだ、目が冴えてしょうがない……」


 あるよね、なんか寝れない時。少し散歩でもしようかな……。


 少し外に出ると、ミライアが座って考え事をしているようだった。少し影のある様子に思わずドキッとしてしまう。やっぱり普通に、いやかなり美人だよな……。そんな動揺を悟られないようにしながら声をかける。


「どうしたのミライア?眠れない?」


「え!あ、メイスか〜、びっくりした〜。うん、ちょとね……」


 珍しいな、考え事なんて。僕はミライアの横に座る。夜の中でも映える赤い髪が美しかった……。


「最近みんな頑張ってるね、やっぱり強いよ、みんなは」


「みんな、メイスにいなくなって欲しくないって必死だからね〜」


「だからいなくならないって!勝手になんか盛り上がってるけどさ、どこにも行かないから!」


「……、そんなことわかってるわよ。メイスがどこにも行かないってわかってるけど、それでもさ……」


 そう言って言葉に詰まるミライア。どうしたんだろうか、様子がおかしい……。


「やっぱり悔しいのよ……。メイスに助けてもらってばっかりで、冒険者らしいこと何もできてない……」


 悲しそうにそう言ったミライア。辛そうな顔だった……。


「前から聞きたかったんだけどさ、どうしてミライアは冒険者になったの?

 こう言っちゃうと申し訳ないんだけど……、どこかのお嬢様って言われた方がしっくりくるよ……」


 前から思っていたんだ。ミライアは食事の作法、挨拶、礼儀、さらには戦い方、全てがきれいに整っている。いや、整いすぎているとでも言ったほうがいい。明らかに、身体に染み付いているような感じだった。


 冒険者たちの荒さを感じさせない、華のある雰囲気だった。ティアやキアムとは違う出身だと思っていた。


「動作が美しすぎるって言うのかな、キアムとティアとは同じ村の出身って言ってたけど、違和感があったんだ……。」


 さらに決定的なのが、他の2人よりも冒険者であることにあまりに固執している。キアムもティアも冒険自体は楽しんでいるのに、ミライアだけはそんな嬉しさを感じていないようだった。ほんとに冒険をしていて楽しいのかと思ってしまう、そんな脆さを感じてしまう……。


「…………」


 無言になってしまうミライア。まずいことを聞いてしまったかな。


「別に無理に答えなくていいんだよ!どんな理由でも僕はミライアの仲間だからさ、また明日から……」


 気まずくなってその場を離れようとした時だった。


「……、実は私、エルタミナの王女なの……」


 聞こえてきたのは、そんなにわかには信じられない言葉だった……。



 

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