ゴブリン討伐、そしてボスゴブリン
ギルドでクエスト受注を終えた僕たちは、ジスカール平原でゴブリンを狩っていた……。
「はぁぁああー!」
キアムの気合の一撃がゴブリンに入る。
「…えいっ!たぁあっー!」
おお〜、ミライアも凄い迫力だ。さて、ティアは……、
「…………」
無言でゴブリンを抹殺している。後ろを取り、急所を1突き。なんだか楽しそうだ。
「シールド!からのシールド!そして、イグナイテッド!からのイグナイテッド!」
防御力強化魔法と、攻撃力強化魔法を3人に付与する。
魔法効果が薄いこの世界では、二重詠唱によりある程度の力を発揮することがわかった。それでも補助系魔法や、初〜中級魔法に限っての話だ……。
「は〜!だいぶ倒したな!」
キアムが武器をしまい、達成感を含ませながら言う。
「10匹倒せばよかったけど、少しやり過ぎちゃったね〜、30匹くらい倒しちゃったかも」
「そ、そうだね、でも、楽しかった……」
ティアもミライアも充実感を噛み締めているようだ。
「メイスがいるおかげで安心して攻撃ができるな、狩りが捗るぜ!」
「今までと全然違うわね、おかげでレベルも3上がったし、だいぶ強くなった気分!」
「それはよかった、役に立ててよかったよ」
「こ、これなら、メイス1人だけでも、冒険ができちゃうんじゃないの……?」
「いやいや、攻撃に関しては武器の方が効率がいいからね、みんながいるのといないのでは全然やりやすさが違うよ」
それを聞いたティアはどこか不安そうだった。
「大丈夫だよ!みんなを置いてどこにもいかなから、4人でチームでしょ?安心して!」
僕の一言で安心したのか、ティアの顔がパッと明るくなる。すぐに顔に出るところがなんとも可愛らしいな。
「心配すんなよティア!メイスが俺たちを裏切るわけないじゃん!な、ミライア?」
「そうね、今日だって私たちに多く経験値を入れるために補助に徹してくれたもんね!そう言うところ、本当優しいね!」
ニコッと僕に笑いかけるミライア。やめてほしい、優しいなんて、照れるじゃないか……。
「ま、まあ一応レベルマックスだしね〜、僕が倒してもあんまり意味がないかな〜って」
順調に強くなって行くみんなを見ていると、なんだかこっちまで嬉しくなる。強くなって、より強い敵を倒して行く。意外と楽しいな、この世界。あの時、ゲートの発動をミスったことを良かったと思い始めていた……。
「よし!一旦ギルドに報告しに行くか!」
キアムの一言にみんなが頷き、僕のテレポートを使ってギルドに戻った僕たち。
「あら、もう終わったんですか?ずいぶんと早いんですね!」
受付のフィオナさんが驚いた表情で僕たちを見る。
「はい、メイスの補助で、スムーズに狩れました!」
ミライアの報告にティアも続く。
「あ、あの、すごく凄かった、キュピ〜ん、ビビビってなって……私たちの力とか、強くしてくれました……!」
「補助魔法のことですね、みんなも連携の取れた動きであっという間に片付けてくれましたよ」
僕たちの報告を笑顔で頷きながら聞き、クエスト完了のハンコを押していく。
「確かにゴブリン10体、いやクリスタルには30体以上狩っていると記録されていますね、それでは、30体分の報酬をお渡ししますね、お疲れ様でした!」
お〜、ちゃんと超過した分は報酬が増加するんだ!これはいいシステムだ……。
ミライアがフィオナさんから報酬(増加分も含めた)銅貨10枚を受け取る。ゴブリンを狩るだけでこんなにもらえるなら一生ゴブリンを狩る人も出てくるかもな……。ここで、フィオナさんが続ける。
「今日のクエストが楽勝のようなら、ボスゴブリンでも討伐してみますか?ゴブリン繋がりでやりやすいと思いますよ?」
「やります、ゴブリン倒します!」
誰よりも早く返事をした僕。ボスゴブリンを倒して初めてゴブリンを知ることができる。みんなの意見を聞かずに決めちゃったけど、どうやらみんなもゴブリンを狩りたくてたまらないようだ。ニッコリと頷いている。
「わかりました、それではボスゴブリン1体の討伐のクエストを受注しました!お気をつけていってらっしゃい!」
元気なフィオナさんの声に押されて、僕たちはカスタール平原にテレポートで向かう。
「そういえば、ボスゴブリンってどのあたりにいるんだろう?」
僕の疑問にティアが答えてくれる。
「ボ、ボスゴブリンは基本的に夜行性って聞いたことあるけど、昼でもゴブリンを倒してると怒って出てくるみたいだよ……」
「じゃあ、またゴブリンを狩るのか、俺たちゴブリンマスターだな!」
なんとも微妙な称号を身に纏った僕たちは、見つけたゴブリンを手当たり次第狩って行く。
「一体何匹くらい倒したかしら?結構倒したと思うけど……」
「また30体くらいは倒しただろ、ぜんぜん出てこないな〜」
「それにしてもメイス、さっきまで補助魔法ばっかりだったのに、普通に攻撃魔法でゴブリンをボコボコにしてるわね……」
「みんなはボスゴブリンが出てくるまで休んでて〜!僕が狩っておくよ〜」
後ろで僕を遠目で見ているみんなを尻目に、ひたすらゴブリンマスターになるべく……、いや違った、ボスゴブリンをおびき寄せるため狩り続ける。
「それにしても、メイスって本当に強いわよね〜、あんなに魔法を撃ってるのに全然疲れないの〜?」
ミライアがそんなことを僕に聞いてくる。
「イグニス!イグニス!あ、魔力量は体内にある分はある程度時間が経てば回復するんだ!だから、ファウンテン!ファウンテン!気にしなくても大丈夫だよ〜」
火属性中級魔法『イグニス』と水属性中級魔法『ファウンテン』を発動しながら僕は答える。僕の魔力量は、クリスタルで見ると大体3200000くらいらしいので、連発しても回復量と貯蔵量の関係でかなりの回数魔法を発動できる。仮に撃ちすぎても、夜の時間帯でしっかり休憩すれば、次の日は完全回復できるってわけだ。
「ゴブリンが……かわいそう……」
ティアはどうやらゴブリンの味方らしい。さっきあんなに楽しそうに狩ってたのに……。
「おいあれ!ボスゴブリンじゃないか?こっちにきてるぞ!」
キアムが指を差す方向をみると、通常ゴブリンの3倍くらいの体格を持つゴブリンがこちらに突っ込んできた。
「グオォォォォ〜〜〜!」
うわ、トレンドマークの棍棒も一際大きいな〜。
ドンッッ!大きな棍棒が振り下ろされる。僕たちはその棍棒を回避し、武器を構える。
「さっきみたいに、僕は出来るだけ補助するから、みんなは攻撃に集中して!シールド!……」
「よし!任せたメイス!」
キアムの声に3人が一斉にボスゴブリンに襲いかかる。
「グオッ!」
ブンッ!棍棒を振り回すボスゴブリン。図体が大きい割に攻撃の隙が小さいな……。
「くっ、近づけないわね……」
なんとか棍棒攻撃を凌ぐ3人。ミライアが槍を突き出すも、ボスゴブリンも棍棒で応戦する。
「これじゃあ、いつまでも倒せないな……」
決定的な一撃が入らず、攻めあぐねる。そうだ……。
「ティア!僕が相手の動きを封じるから、ティアはゴブリンの急所を攻撃して!」
「え……、うん、わかった!でも……どうやって……」
「魔眼!」
「グガァァ!」
この能力実はめっちゃ強いんじゃない?相手の動きを封じれる時間は、魔力量が続くかぎりだ。僕の魔力量3000000は、莫大な数字に見えて、この世界ではもうちょっとほしいくらいだ。
魔力量が薄い世界では、自身の魔力量しか頼れるところがない。それに消費量が結構凄いのでこのレベルの相手の動きを封じれるのは、せいぜい10分間程度か……。
「今だティア!でも10分くらいしか動きを止めれないから、頑張って!」
「……、10分もあれば、余裕!」
低い姿勢から短剣を構え、一気にボスゴブリンとの距離を詰めるティア。的確にボスゴブリンの弱点をついて行く。
ザクッ!グザッ!
1発の威力が弱いアサシンは、弱点をつくことで相手の動き、戦闘力を鈍らせていく戦い方だ。
「グガッ!グオォ!」
よし、確実にダメージが入ってるぞ。今なら防御力が落ちてるはずだ……。
「キアム、ミライア!今ならボスゴブリンを叩ける、一気に畳みかけて!」
「よし、行くぞミライア!」
「ええ!たぁぁ〜!!」
ティアが崩したボスゴブリンを、キアムとミライアが攻め立てる。キアムの剣術は素人の僕から見ても力強い。そしてミライアの槍は早く、そして正確だ。
「グォォ!グガァァァ!グホッッ!」
よし、あと少し……!しかし、ボスのピンチを見てか、通常ゴブリン達が3人に向かって襲いかかっていた。
「ティア!後ろ危ない!」
「え……」
まずい……!くそっ!間に合うか?
「くっ……、イグニス!から…の、イグニス!」
魔法発動ならば結構魔力量を消費するが、それよりも魔眼の魔力消費量が凄まじい。動きを止めるなんて強すぎる能力を無条件で発動できるわけないよな……。なんとか発動したイグニスがゴブリンたちを一掃する。
「ティア大丈夫!?イグニス当たらなかった?」
「……、うん、平気!あ、ありがとう!」
体制を立て直したティアは、ボスゴブリンの首を1突きする。
「グオオオッ!」
まだ倒れないの!?すごい体力だな……。
「たあああぁぁっっ〜!」
ミライア渾身の突き!
「おらああぁぁっ〜!」
キアムの会心の1振り!
「グ、グオオオオオオオオオッ!」
バタリ!な、なんとか倒せた〜。
「や、やったな〜」
疲れた様子のキアムはぐったりと座り込んだ。
「1時はどうなるかと思ったわ、メイスがいなかったら絶対勝ててなかった〜」
ミライアも、ティアも疲労困憊のようだ。
「お疲れ〜、みんなありがとね!力を合わせてのチームだからさ、僕もみんながいなかったら絶対勝てなかったよ!」
「あ、あの、助けてくれてありがとう……!あの動き止めるやつ、凄かった」
「あ、あれね!一応魔法みたいなやつなんだけど、結構魔力使うから、あんまり使えなくてさ〜」
「あんな必殺技みたいなやつ使えたら、どんな奴にでも勝てるんじゃねえの?」
「全くキアムったら……、私たちがもっと威力の高い攻撃が出来たら、メイスの負担が減らせたかもしれないでしょ?
私たちがこの調子じゃ、全然だめよ」
少し残念そうな声を出すミライア。
「そ、そんなの気にしないで、ミライアもすごく綺麗だったよ!みんなもがんばったんだし、また明日からレベル上げ頑張ろ?」
「き、綺麗って……!メイスったら何言ってるの……!」
「あ、ごめん!違う違う、槍のこと槍のこと!」
綺麗と言われて顔を赤らめるミライア。やばい、変なこと言っちゃったから嫌われたかな……。でもなんだか嬉しそうな顔をしてたので、とりあえず助かった……。
「じゃあ、明日からまた頑張るか!とりあえず帰ろうぜ!」
僕はテレポートを使いみんなをギルドに連れて行く。ミライアとキアムが報告をしてくれているので、必然的にティアと2人きりになる。
「あ、あの、私は、どうだった……?」
「うん?なんのこと?」
なんのことだろう。どうって言われても……、いつのことだ?
「え、その、戦い方って言うか……、なんと言うか……」
「戦い方?う〜ん、良かったと思うよ?」
「それは嬉しいんだけど……、そ、そうじゃ、なくて……」
なんかいまいち煮え切らないな〜。何か気にしてるのかな?
「……、き、綺麗だった……!?」
え?い、いつのこと?でもティアは綺麗って言うか……。
「……、ティアは可愛いんじゃないかな?いつも必死に戦う様子とか、うん」
思った答えと違ったのか、少し複雑な表情をするティア。でも少しすると、満足したそうに笑顔になっていた。
「可愛い、可愛い……、えへへ」
なにかぶつぶつ言っているけど、楽しそうならまあいいかな。
そうしていると、2人が帰ってくる。
「お待たせ〜、あれ、どうしたのティア?なんかいいことあった?」
ミライアにそんなことを聞かれ、ティアは慌てている。
「な、なんでもないの!うん、ゴブリン倒せて、嬉しいなって……!」
「あ、そうなの〜?それより、報酬で銀貨もらったから、今夜はメイスの歓迎会をしましょうか!」
「お、いいね〜、最近いいもの食べれてないから、いっぱい食うぞ〜!」
「昨日メイスからおいしいご飯分けてもらったでしょ〜、昨日はごちそうさまねメイス、今日は私たちがおごるわ!」
「そうは言ってもよ〜、やっぱりおいしいものは何回でも食べたいじゃん」
「ま、まあね、それじゃあ早速向かいましょうか」
こうして僕はミライアたちの奢りで歓迎会を開いてもらった。昨日のご飯も美味しかったけど、やっぱりみんなと食べるご飯は格別の味だった……。
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