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魔法使い、初めてのクエスト受注

 目を覚ますと、いつもと見慣れない天井が目に入って来た。そうか、自分は異世界に来たのだとぼんやり自覚していく。


 顔を洗い、眠気を覚ます。パーティーのみんなとは、ギルドで待ち合わせと言ったけど、まさか同じ宿屋に泊まるとは思わなかった。


 コンコン、すると部屋の扉がノックされる。誰だろ……。


「メイス〜?起きてる?ミライアだけど……入っても大丈夫?」


「は〜い、起きてるよ!」


 ガチャ、中にミライアが入ってくる。昨日は戦闘のためのきっちりとした装備だったけど、今は普段着のようだ。


 「おはよう!今日はメイスも入れてクエストやってみようかと思うんだけど、どうかな?」


 あ、そうだ。僕は昨日無事パーティー入りを果たしたんだ……。じわじわと優越感が押し寄せてくる。僕は勝ったんだ……、孤独との決別だ。


「メ、メイス?どうかしたの?そんな浸ったような顔をしちゃって」


「あ、ごめんごめん、うん、クエストやってみたいよ、行く行く!」


「オッケー!じゃあ、宿屋の入り口に集合ね!ティアは起きてるけど、キアムがまだ寝てるから、悪いけど起こして来てくれる?」


「うん、わかった、起こしてくるよ」


 ゆっくりと立ち上がり、キアムの部屋に向かう。こうしてみると、メルスティアにいた頃は、魔法ばかりでろくな友達もいなかった。自分でも寂しい生活を送っていると分かってはいるが、こうして異世界に来た方が人とのつながりを感じるなんて、どこか可笑しかった。


「キアム〜?メイスだけど、入るよ?」


 ノックをし、部屋に入る。あ、まだ寝てるな。え、なんだあの体勢!縦に置かれたベットに、ほぼ横切るように寝ているキアム。頭はかろうじてベットに乗っているが、足に至っては思い切りはみ出している……。あれでよく寝れるな。

 

「キアム〜、ミライアがクエストに行くってさ、起きて〜」


「ん、んん〜、あと5分〜」


 明らかに寝坊をしそうな人が言うセリフを吐きながら、キアムはもう1度眠りしそうだった。


「絶対5分じゃ起きないでしょ、今起きた方がいいよ〜」


 まあまあの強さでキアムをゆする。危ない危ない、キアムの頭がベットから落ちそうになる。キアムもそれを察してか、


「ん、な、なんだメイスか〜、おはよう!」


 さっきまであんな眠そうにしていたのに、目覚めは良さそうだ。少し安心する。


「おはよう、ミライアがクエストに行くってさ、宿屋の入り口集合らしいよ」


「あいつは熱心だな〜、このところずっとクエストやってるんだよな〜」


「ずっとクエストやるのはむしろ冒険者として正常な気がするんだけど……」


「まあ、そうだけどよ〜、冒険者になってからまた一段と真面目になったって言うか」


「冒険者になる前のミライアも知ってるんだ?」


 前から、ミライアのことを知っているような口ぶりに違和感を覚える。


「あ、言ってなかったか〜、ティアと俺とミライアは、幼なじみなんだよ!」


 え、え〜!そうだったのか、冒険者のパーティーなんてノリや即席で決めるものだと思ったけど、つながりの強い幼なじみのパーティーに入ってしまったとは……。


「僕、邪魔じゃない?」


 自分1人だけ場違いな雰囲気を感じざるを得なかった。先ほどまでの優越感は嘘の様になくなっていく。


「そ、そんなことないって!昨日のことで、俺たちみんなメイスに感謝してるんだよ!

 むしろお前みたいなすげ〜人がパーティに入ってくれて感動してるんだぜ!」


 この人たちは変わっている。魔法使いが毛嫌いされる世界で、こうも純粋に僕の存在を喜んでくれるなんて。


「キアム、僕一生君たちについていくよ!」


「お、おう!俺たちもメイスについていくぜ!」


 この人たちと一緒に冒険がしたい、心からそう思えた瞬間だった。


 胸に感動を秘め、僕は自分の部屋で準備を進める。服装は基本的にメルスティアと一緒だけど、この杖だけは慣れない。メルスティアでは、基本的に魔法使用の際は『無詠唱』、そしてフリーハンドで行う。杖は基本的に古典的な魔法使用法だ。


 昨日の戦いでも、杖があるにもかかわらず、杖を使わない戦闘を無意識にチョイスしてたから、杖を最大限活かす戦いも身につけたいところだ。


 よし、準備ができた。はやる気持ち抑え、集合場所である宿屋の入り口へと向かった。すでにミライアとティアが揃っていた。


「あ、準備ばっちりだねメイス!今日もよろしく!」


 先ほどの普段着から打って変わり、バッチリと槍と鎧を装備しているミライア。


「よろしくね、その鎧、重くないの?」


「え、あ〜、まあちょっと重いかな〜?でももう慣れたよ」


 僕は多分その格好で戦えと言われても無理だろう。しっかりと鍛えているんだろうと思った。


「あ、あの!お、おはよう、メイス……」


 消え入りそうな声でティアが挨拶する。こういうのは、男からするべきものなのかな〜っと少し反省する。


「おはようティア!そういえば、ティアはアサシンなんだよね?珍しいね」


「う、うん、アサシンは確かに少ないかも……、昔からすばしっこかったから、適性があったみたいで」


 おっとりしてそうなティアが、すばしっこいなんて想像もできないけど、クリスタルのジョブ適性は驚くほど正確なので信じることにする。


 短剣に、身のこなしが容易い軽装備で身を固めているティア。小さい身体なことも相まって、一撃で倒れてしまいそうな、そんな脆さを感じた。


 そこに遅れてキアムが到着する。うん、さすがは男の子だ。剣士がなかなかに似合っている。


「よし、みんな揃ったな!それじゃあギルドに出発だ!」


「なんで一番遅れて来たアンタが仕切ってるのよ!まずはごめんなさいでしょ!」


 ミライアからごもっともなツッコミをもらうキアム、それをクスクス笑っているティア。本当に仲がいい3人なんだなと、胸がほっこりとした。


 4人揃ってギルドに向かう。


「やっぱりすごく大きなところだよね、王都って」


「それはそうだろ!クルータスにはいろんな国があるけど、ここが一番大きい都市なんだぜ!」


「キアムのお父さんも、よくここにきて鍛冶屋を手伝っているもんね、今はニカの村で店をやっているんだっけ?」


 ミライアがキアムのお父さん情報を話してくれたところで、ティアが僕に説明をくれる。


「キ、キアムのお父さんは、鍛冶屋をやっているの……、私たち、ニカの村ってところの生まれなんだけど……、

 そこでは、腕のいい職人さんって有名なの」


「私たちが持ってる武器も、キアムのお父さんが作ってくれたんだ!使いやすくて、冒険者たちの間でも評判なの!」


 ミライアがそんなことを言うと、照れる様な、誇らしい様なそんな表情を浮かべるキアム。お父さんを尊敬している、そんな様子だった。


「それじゃあ、キアムは職人になるべきだったんじゃないの?」


 僕は疑問に思い、そんなことをキアムに尋ねる。


「そう思ったんだけどよ、父さんが『職人は稼げないから、もっと稼げる仕事をしなさい!』ってうるさくてさ〜、

 冒険者なら楽しそうだし、結構稼げるからそうしたって感じだな」


 自分の仕事は稼げない、なんて子供に言うのは相当勇気がいるんじゃないだろうか。最悪の場合、幻滅されることだってある。でも実際、キアムはお父さんを尊敬しているっぽいし、余程すごい腕の持ち主なのだと想像できる。


 そうこうしている間にギルドに到着する。昨日きたとはいえ、やはりこの扉を開くのは緊張する。


 そんな僕の緊張をよそに、3人は何食わぬ顔で扉を開く。結局、みんなが開けてくれたので、緊張は杞憂に終わる。


 扉の先には、昨日と変わらなく賑わった様子のギルドだ。違うのは、仲間を見つけた僕だけだ。妙に誇らしくなる……。


「ようこそ!あ、メイスさん!パーティーを見つけたんですね!」


 昨日の受付のお姉さんだった。見たか、僕はパーティーを見つけたぞ。一矢報いた気持ちになったが、お姉さんの心底嬉しそうな顔をみると、一気にそんな気持ちは消えてしまった。なんだかんだ、心配してくれていたのだと感じる。


「はい、無事僕の引き取り先がありましたよ、それも最高の場所です」


 僕がそんなことを言うと、パーティーの3人はとても恥ずかしそうにする。


「あ〜、キアムさんたちのパーティーに入ったんですね、納得です!キアムさんたちも、数ヶ月間にギルドに加入したばかりなので、メイスさんたちと話が合うかもしれませんね」


 受付お姉さんは、うんうんと僕たちの様子を見ている。


「聞いてよフィオナさん!メイスったら凄く強いの!」


 ミライアは、受付お姉さん、改めフィオナさんに僕の凄さを力説している。そんなすごくないんだけどな〜。


「まあ、シャドーベアをフルボッコに!メイスさん、さすがレベルマックスの魔法使いですね!」


 え、えぇ〜!と周りの人たちが驚愕する。キアム達だけではない。ギルド内が騒然としているのがわかる。


「おい、あいつ、レベルマックスって、それも魔法使いだろ、めちゃくちゃ強いんじゃ……」


 じろじろと僕を品定めする様な目を向けてくる。いやん、そんなに見ないで、なんてふざけていると、


「メ、メイス?あなたレベルマックスなの?私達、大体平均レベル8くらいよ……、なんで私たちのパーティーなんかに入ったの?あなたなら、もっと上級者のパーティーにでも……」


 キアムもティアも同意する様に頷いている。まずいな、完全に僕を怖がっちゃってるよ……。


「いやいや、本当にこのパーティーがいいんだ!こんなに僕を暖かく迎え入れてくれるパーティーは他にないよ!」


 昨日はまじで凹んでいた。魔法使いなだけで門前払いだったからな、せいぜい回復役としか思われてなかった。


「キアムもミライア、そしてティアも僕を異物扱いせずにメンバーとして迎え入れてくれた、それだけで本当に幸せなんだよ!」


 だからこそ、些細な優しさが心にしみるのかもしれない。だからと言って、些細な優しさがありふれているかと言ったらそうではない。むしろ人に優しくする、そんなことが当たり前にできる3人は本当に素晴らしい人だと思う。


「ぐすん、お姉さん、泣きそうです!みなさん頑張ってくださいね!」


 目頭を抑えたフィオナさんは、期待の眼差しを向けてくる。3人は、なぜだろう、僕に畏敬の眼差しを向ける。周りも、僕たちのパーティー結成を喜んでくれているようだった。めでたしめでたし。じゃなかった、クエスト受けないと……、


「今日は、クエストを受注してみようと思って……」


「はい、それでは、今これが受注可能なクエスト一覧です!」


 そう言ってフィオナさんはクエスト一覧を見せてくる。3人も一覧表を確認している。難易度は、☆の数で表されており、1~8までに分かれている。昨日は、ゴブリンを狩ったけど、まだあいつらの顔をみるとイライラするので、今日も狩っていこう。


「じゃあ、無難にゴブリン10体の討伐でも……」


 難易度も☆2だし、いい感じだろ……。


「な、なあミライア、これいけるんじゃないか?」


 キアムがミライアに示したのは、難易度8!?ライネールドラゴンの討伐だった……。確かに報酬と経験値は異常だけど……。キアムがそんなチャレンジャーだとは思わなかった。さすがに厳しいだろ、ミライアが止めてくれるだろ。


「そ、そうね、私たちだけじゃ無理かもだけど、メイスがいれば……」


 え、なんで行こうとしてるの?無理だって!


「ティアはゴブリンの方がいいよね?絶対ゴブリンだよね?」


「ドラゴン……メイスが倒してくれる、お金、いっぱい……」


 ちょっとここにもライネールドラゴンを殺ろうとしてる人がいます。


「ちょっとみんな、僕でもこれは厳しいよ!それにみんなのレベルが上がりきってないなら、どっちみち無理だよ!」


 ここで我に帰ったミライアが言う。


「た、確かにダメよ、メイスが大変よ!それに私たちが死んじゃうわ!」


 そうそこだよ、確実に死ぬよ?


「ご、ゴブリンがいいな……、まだレベルを上げないと……」


 よかった〜。ティアも正気に戻ったようだ。


「そ、そうなのか?もったいないな〜、せっかくの報酬が」


 若干一名手に入れてもいない報酬を惜しんでいるが、ここは無難にゴブリン虐殺クエストを受注する。


 あまり僕の力を過信されても困るので、今日は補助系魔法をメインに立ち回っていこうと思う。


「はい、ゴブリンの10体討伐ですね!気をつけていってらっしゃい!」


 こうして、初クエストを受注した僕。ジスカール平原へと、勇んで足を進めて行くのだった……。

 











読んでいただき、ありがとうございます。せひ感想や、ブックマークなどよろしくお願いいたします。

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