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魔法使い、魔法を失う

どれほど眠っていただろうか、美しい光に包まれながら、ゆっくりと僕は目を覚ました。


周りには、空中を飛び回っている羽付きの人が大勢。おお〜。すごいな、あんな飛行魔法見たことないぞ。


さらにさらに、離れ小島みたいなものが各地に点々と浮いている。広大な青空を背景にして、神秘的な空間を演出している。山肌を切り開くように流れる滝、青々と茂った木々。空気の透明度が違うのか、風景一つ一つが心を奪ってやまなかった。



「物語のワンシーンみたいだ…。」


出たのはそんなありきたりな感想だ。この世とは思えない美しさを、僕は1人噛み締めていく。


「いやいや、『ゲート』君は本当に規格外だ〜!まさか本当にここまで来てしまうなんて!」


なんだ、いかにも悪者が言いそうな台詞を吐きながら、こちらに羽付きの男の人が近づいてきた。綺麗な出で立ちの男性だ。


いや、違う。多分重要なことは、出で立ちなんかではない気がしてくる。


「あの〜。僕のことをご存知なんですか?」


本来、『ゲート』を使用したことは、使用者本人にしか分からないはずだ。どれだけ僕が『ゲート』使用の際にイメージを置き去りにしたとはいえ、どこかに飛んでいくことは間違い無い。つまり目の前の男性とは初対面、少なくとも僕は彼の顔を知らない。


にもかかわらず、目の前の男性は、あたかも僕を知っているような口ぶりだった。


「当然知ってるさ!だって僕が君を呼んだんだから〜!」


楽しそうに彼は言った。おかしいな、『ゲート』は僕の意思で発動させたはずなんだけど…。行き先をコントロールされたってことか…。


え!?嘘!そんなことってできるの!?『ゲート』に干渉して行き先を決めるって、イメージをコントロールするってことだ。


僕には、明らかに目の前の男性がイカれてる様にしか見えなかった。


「何かの冗談ですよね?『ゲート』に干渉するならまだしも、僕のイメージをコントロールするのは不可能ですよ?」


すると男性は微笑みながら答える。


「そんなことは簡単さ。僕は神なんだからね。」


今まで陽気なテンションだった男性が、ワントーン落とした声色で言ったその言葉は、妙な説得力があった。


いやいや!なにを信じているんだ僕は!神だぞ!?この目で見れるってことは、僕は普通の人じゃ無いってことだ。

生きているのか、死んでしまったのかも分からなくなってくる。


「は、ははっ〜。まさか〜。面白い冗談ですね。」


全く面白くないけど、このイカれた男性の機嫌を損ねるわけにはいかない。お世辞でごまかすんだ…!


「いや、冗談じゃ無いよ、メイス=カミアール君。君をここに呼んだのはこの僕。そして僕は神、ここは神の住む世界『神域』だよ。」


待て待て、情報量が多すぎるよ…。よし、整理しよう。


メイス=カミアールの疑問点

①なぜこの人は僕の名前を完璧に知っているのか


②この人は本当に神なのか


③『神域』とは?


よし、思い切って聞いてみよう…!


「あの、なんで僕の名前を知ってるんですか?あなたは本当に神なんですか?『神域』って一体どこなんですか?」


聞いたぞ…!あ、一気に聞いたらまずいだろ!混乱のあまり、相手を混乱させてしまった…。


「ははっ!ずいぶんと戸惑っているね!まあ、それも無理ないか…。じゃあ、一つずつ解説していくよ。


まず、君の名前を知っている理由は、僕が神だから。っていうことは、当然、僕は神だよね。さらに、神域は神が住む世界、とりわけ人間のみならず、様々な種族、エルフや亜人族たちなんかの世界の管理を行っているよ。僕はその神域の管理者、カイオスだよ。」


すごい…。全部、『神だから』で解決しちゃったよ、このカイオス?さんは。


「あの〜。なにかカイオスさんが神であるっていう証拠があると助かるんですけど…。」


これは正当な権利だ。勝手に僕をこんなところに連れてきてるなら、これくらい求めても平気なはずだ。


「う〜ん。そうだな。じゃあ、世界の管理を行っているということを証明すれば十分?」


十分すぎるよ!『神域』で世界の管理を行っているなら、僕みたいなイレギュラーを除いて、そこにいる人は全員神だ。必然的にカイオスさんが神であることがわかる。


「じゃあ、君のいた世界、メルスティアについて解説しようか。メルスティアでは約200年前に魔法大戦が起こったけど、現在は無事統一されているね。その時は、メルスティア国対魔族の戦いだったけど、君たちの国は頑張った様だね〜。


魔族の国から世界を守るとは、大したものだ。その際に活躍した五賢者の1人の子孫が君ってわけだ。君の異常な魔力量と、規格外の魔法適性はそこから生まれているんだ。」


ふ〜ん。は!?僕、五賢者の子孫なの!?


「僕、五賢者の子孫なんですか!?っていうか、五賢者ってなんですか?」


「確かに五賢者は、伝承されてもいなければ、文献にも残っていないからね〜。おそらく、魔族が『負の記憶』として人々の記憶から抹殺したんだろうね。」


五賢者なんて話は聞いたことない。すごいのかどうかも定かではない。


「五賢者は全員魔族との戦いで命を落としたんですか?」


「う〜ん。まあそうだね。どうやら、『グラビティーアビス』?を発動した際に、反動で死亡したそうだよ、全員。」


『グラビティーアビズ』!?あの、伝説の(いにしえ)魔法か!現在では、『グラビティーアビズ』の魔法理論は失われ、使用できる物は誰もいない…。


それにしてもびっくりだ。僕のいた世界、メルスティアについて正確に知っているだけじゃなく、本人の僕すら知らないメイス=カミアールの生い立ちを知っているなんて…。周りに誰も魔法使用をできるものが居ないけど、賢者の子孫なら、魔法適性が高いのも納得の理由だ…。


そもそも、僕が『ゲート』を使用して来たということを知っているだけでも、目の前の人物、カイオスさんが神であると信じるには十分なのかも知れない…。


「どう?少しは信じてくれた?」


「まあ、はい…。信じるしかなさそうですよね。」


とりあえず、信じるしかない。神なんてみたことなかったから、少し拍子抜けしている。


「それで、僕をここに呼び出したのには、なにか理由があるんですか?」


最大の疑問だ。神がわざわざ僕を呼び出した理由…。


「あ〜。言ってなかったね。君にはメルスティアとは別の世界で、魔族を食い止めて欲しいんだ!」


カイオスさんは、はっきりとそう言った。


「君の『ゲート』では空間は転移できるけど、それはあくまでメルスティアの時間軸の中での話なんだ。」


カイオスさんの話をまとめるとこうだ。世界は、僕が住んでいたメルスティア意外にも、様々存在する。『ゲート』という魔法は、自分が住んでいる世界の中で空間を転移して、時間旅行を楽しむ魔法なのだそうだ。


「でもそれでは君を神域に呼び出すことはできない。だから僕がちょちょっと関与させてもらって、君の魔力に干渉させてもらったってわけよ。君のその魔法の力を活かして、魔族を撃退して、いや殲滅して欲しいのさ。」


すごく大そうな話になってきたな…。魔族って…。メルスティアにはそんなのいなかったぞ…。


「いやですよそんなの!戦うんですよね!?魔物でしょ!痛いじゃないですか!」


痛いのは嫌だし、怖いのも嫌だ。見たこともない相手と戦うのは誰も嫌だろう。


「君は何か勘違いしているね?もう君に拒否権はないんだよ!」


そう言ってカイオスさんは、ある文書を僕の前に見せつける。


『処分令状、メイス=カミアールを神域に到達した罪として、死罪とする。』


「君を、ここに呼び出した僕が言うのもセコいかもしれなけど、君は人間なのにもかかわらず、神域に入った段階でもう十分に犯罪者なんだよ。神域の禁忌を犯したってわけ。」


「ちょ、ちょっと待ってください!カイオスさんが僕を連れて来たんですよね!?それで死罪って…。いくらなんでも酷すぎますよ!」


本気でひどい。僕は神域の存在すら知らなかったし、来ようなんて一ミリも考えてなかった。


「あ、別に殺さないよ?だって僕が呼び出したんだから。ただ、君が異世界で魔族と戦わないなら、まあ言わなくてもわかるよね?」


脅しだ。完全に弱みを握られている気分だ。


「どうすればいいんですか!?断れば死ぬし、行ったら死ぬんですよね!?」


そこでカイオスさんは、カラッとした表情を見せる。


「こっちだって管理のプロなんだよ。異世界に放り込んで死ぬ人なんかを選んだりしないさ。君には十分力がある、それは他の神も認めていることだよ。ただ…。」


ここで、僕は衝撃の言葉を耳にする…。


「君の行く、クルータスは魔力が希薄なんだ…。つまり、魔法が本格的には使用できない。さらに最悪の状況なのは、魔族が『魔剣』を誕生させてしまったこと。」


カイオスさんは、僕に『魔剣』を説明した。どうやら、魔力が具現化した武器らしく、魔王が持つ『魔剣』は通常の武器の比にならない威力を持っているらしい…。


「現在のクルータス民族の力では、『魔剣』に対抗できる力はないよ…。だからこその君なんだ!」


「いや無理ですよ!魔力がないんですよね!?僕の存在価値がないですよ!」


「いや、だから君が魔力を生み出すんだ!クルータスは、完全に魔法が消えたわけじゃないんだ!若干は残っているんだ!だから、どこかに魔力を増幅させる方法があるはずなんだよ!」


どうしよう。断ったら大変なことになるのは間違いないんだけど、どうも無理な気しかしない。


「君は、魔法を自在に使えるだけじゃない!魔法理論や魔法の歴史にも精通しているんだ!決して無理な話じゃないよ!」


そう言いつつ、カイオスさんは僕に手を出すように指示する。


「僕も神だからね!できる限りの支援はさせてもらうよ!」


カイオスさんと手を合わせた僕は、カイオスさんの中にある魔力を流し込まれていく…。僕のとは比にならないくらいの強力な魔力だ…。


「もうカイオスさんがクルータスに行ったらいいじゃないですか!」


「神は下界、つまり君たちの世界に行くことは許されないんだ。君たちが神域に足を踏み入れてはいけないのと同じでね。」


悲しそうな顔を浮かべるカイオスさんだったが、無事、僕の中に魔力を注入する儀式が終わったらしい。


「オッケー!今やったのは、君にとって役に立つスキルを植え付けることだよ!スキルは、まあ戦いを便利に進めるもの、くらいで考えてもらって十分!」


カイオスさんに植え付けられたのは、魔導師の刻印、魔眼、という2つだった。


「魔導師の刻印は、君の魔法威力を3倍に引き上げる優れもの!常時発動してるから安心して!さらに魔眼は、見つめた魔物の動きを封じるよ!」


へぇ〜。すごいな〜。でも…。


「魔導師の刻印?は魔力が薄い世界ならあんまり効果がないような気がします。魔眼は、まあまあかもしれないけど…。」


「鋭いね!まあその通り!ただ、無いよりはマシでしょ?」


適当すぎるだろこの人…。さらにカイオスさんは続ける。


「あとは、これね!クルータスの世界地図と、クルータスの説明書!」


世界に説明書があるのか。完全に神に管理されたレギュレーションで進んでいるんだな〜。


「これは役に立ちそうです!ありがとうございます!」


「いやいや!むしろ勝手に呼び出してこのくらいしか出来ないのが申し訳ないよ!」


それは思う。脅されてきたんだから、もうちょっとあってもいいと思う。


「ただあまり過度に干渉することも認められてないんだ。だから君のポテンシャルに賭けたんだ!君の能力なら間違いなく魔族に勝てる!」


「いや、だから魔力が薄いんでしょ?魔法使いにとっては致命的なんですけど…。」


「大丈夫大丈夫!魔力が微かに存在しているなら、どこかにヒントはあるはず!」


そう言いながら、カイオスさんはみたこともない魔法を発動させ、馬鹿でかい門を作り上げていく。


「困ったら説明書見ればいいから!クルータス世界の大体のことは書いてあるよ!」


とんとん拍子に進んでいく話を追いつつも、僕は、どこか現実味がないような感じだった。


「よし、完成だ!あとは君がここを潜れば、無事クルータス行きだよ!」


うわ〜。門が出来ちゃったよ。潜りたくないけど、潜るしかないんだよな。


「あの〜。やっぱり、行かないとダメですよね?」


「そうだね!じゃないと、君を禁忌破りの男として処分しないといけなくなっちゃうからね!でも安心して!君なら勝てる!」


どこからくるんだよその自信。魔力も薄いんじゃ無理なんじゃ…。でも神ができるって言ってるなら、信じてみてもいいのかな…。


「さ、クルータスへ、いってらっしゃ〜い!」


「ちょ、待って!せめて最後くらい自分の意思で!い、いやだぁ〜!」


カイオスさんが僕の背中を押す。こうして僕は、自発的ではない、むしろ強制的な形で、自分の存在価値すら怪しい、異世界クルータスへと旅立った。







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