魔力解放のヒントと、取り合い
僕に魔法が取り戻せるチャンスがあることを、アルラウネは語る。
「この世界には5匹のドラゴンがいます。魔王はこの5匹に魔力を封じ込め、魔力を希薄にしました」
だから200年前に魔法が消えたってことか……。
「その際、私たち精霊は魔力をこの森に持ち込み、維持してきました」
ここでキアムが疑問をぶつける。
「でもシーリスの森に魔力があるなんて話聞いたことないよな?」
みんなが無言で頷く。単に気づかなかっただけだろうか?いや、そうは考えにくい。
「この森の魔力は、魔法をある程度使いこなせなければ気づくことができません。そのくらいの量しかないのです。
しかしこの世界では一番魔力が残っていますから、マスターだけはお気づきになられたようですが」
200年前に魔力が失われていため、魔法使いが現れることもない。その結果、魔法が衰退していく。さらに周りが、『もう魔法は使えない』と思い込んでしまったというわけか。
「それじゃあ、その5匹のドラゴンを倒せば、魔力は解放されるっていうことですか?」
「そうでございますマスター。ですから敬語はお止めください」
そういって、僕にすり寄ってくるアルラウネ。200年前の出来事を知っているってことは……。
「ごめん。アルラウネって何歳なの?」
「いくらマスターでもレディーに年齢を聞くことは失礼ですわ。お答えできません!」
れ、レディーって。とりあえず離れてもらえると、みんなの視線が痛い……。
「それで、どこにドラゴンはいるの?」
まずは場所だ。しっかり聞いておかなければ……。
「はい。メスフィア山脈、アルラス平原、パラチア水郷、テスタール雪原、キマイラ火山の5つの洞窟ですね」
地図を開いて確認する僕。
「え、ほぼこの世界全域じゃん!? こんなの周りきれないよ?」
絶対無理だ。こんなの倒し切ったときにはみんなおそらく寿命が近い……。
「あ、でも、なんか聞いたことあるかも。この近くってキマイラ火山よね? その火山の洞窟、扉が開かないって」
さすがミライア、元地元なだけあって、エルタミナ付近には詳しい。
「じゃ、じゃあドラゴン討伐は無理なんじゃ……」
ティアが寂しそうに言う。周りきれない上に、扉が開かないんじゃ実質不可能だ……。
「確かに今まではそうでした。しかし、その扉が開かなかった理由は、その扉にあった属性魔法を発動できなかった
からです。しかし、私たちには愛しのマスターがいます」
そういって、さらにすり寄ってくるアルラウネ。美人にこんなことをされると色々と困るんだけど……。
「ちょ、ちょっと! 愛しのって……。いい加減離れなさいよ!」
慌ててアルラウネを引き剥がすミライア。怒り心頭のご様子のミライア。
「ああ、止めてください! マスターのおそばに居させてください!」
縋り付くように引き剥がされるのを拒むアルラウネ。痛いって……。
「ベタベタしないで! メイスは……」
そこで言い淀んでしまうミライア。とりあえず喧嘩はやめて欲しい……。
「あら、そんなに必死なんて……。もしかしてマスターがお好きなのですね! でも残念、マスターは私がいただきます!」
好きと言われて、顔を真っ赤にするミライア。恥ずかしいのと怒りでめちゃくちゃになっている。
まずい、なんとかしないと……。
「ちょ、アルラウネ。一旦離れて、ね?ミライアもそんな怒んないで! で、扉のことは解決したとして、あとは移動手段か……」
魔法が使えないから、魔力が解放されない。魔力が解放しないから、魔法が使えない。魔王もとんでもなく理不尽なことをするものだ。
「と、とりあえずドラゴンを倒してみるっていうのはどう?近くにあるみたいだし、メイスがいれば大丈夫だと思うんだ……。それから移動手段は考えよ?」
ティアが弱々しくそう言う。
「確かにな! せっかく倒せる条件は揃ってるんだし、まずは一匹倒してみるのは良さそうだな!」
キアムもそれに続く。
「じゃあ、行ってみよっか! ミライア行くよ? 元気出して!」
ミライアの肩を優しく抱く。アルラウネに相当メンタルやられてるな……。
「う、うん。ありがとねメイス……」
「私もお供いたします、マスター!」
いま、なんて言ったんだろう。アルラウネらしき人が何か言ったような……。
「ア、アルラウネさんも行こう……。旅は、多い方が楽しい!」
「そうだな! よろしくな、アルラウネさん!」
「はい! ありがとうございます、ティアさん! キアムさん!」
「え、ええ〜 !アルラウネも行くの!?」
「はい、当然じゃないですか? マスターのそばを離れるわけないじゃないですか〜」
またすり寄ってくるアルラウネ。だから対応に困るからやめて欲しい……。
「はぁ!? あなたもついてくるの? 絶対、絶対ダメ!」
拒絶するかのようにミライアがアルラウネを引き剥がす。
「どうしたんですか〜? マスターを取られるのが悔しいんですか?」
アルラウネはミライアを煽る天才らしい。また、みるみるミライアを怒らせていく。
「あ、あんたなんかに取られるわけないでしょ!? あんたみたいなおばさんに負けるわけないわ!」
おばさんと言う言葉に顔を硬らせるアルラウネ。まずいぞこれ……。
「あ、あら〜、言ってくれるじゃないですか〜。あなたの胸は相当な貧弱っぷりですけどね〜。顔がいいからって調子に乗らないでいただけますか〜?」
遠回しに貧乳と言われまたイライラするミライア。
「メ、メイスは巨乳がいいの……?」
頼むからティア。そんなんこと聞かないでよ……。
「お、大きければいいってもんじゃないでしょ!? そ、それにメイスは胸になんて興味ないんだから!」
「そ、そうなのかメイス……、それは男としてどうかと思うぜ……」
僕、なんでキアムから引かれちゃってんの?
「さあマスター? この顔だけ貧弱女を置いていくか、この知恵の働く美しい私を置いていくか。決めてください!」
「メイスなら絶対私を選んでくれるわ! こんな胸だけババアなんか置いて、さっさといきましょう?」
「なんでどっちか置いていく前提なんだよ!? アルラウネは魔法を使えるんだよね?」
「はい、もちろんですわ。回復魔法と補助魔法ならマスター並みに使いこなせます!」
「じゃあ、アルラウネも行こう。アルラウネもいれば絶対負けないだろうから」
アルラウネがいてくれるなら、だいぶ冒険が楽になるはずだ……。
「この女を連れて行くの!? 絶対やばいってメイス! 襲われるわよ? 夜這いされるわよ?」
「そんなはしたのないこと、するはずありませんわ。あなたがそんなことをするんじゃないですか〜?」
「んんああっ〜、もう! ほんっっとイライラするこの女!」
「2人とも落ち着いて! みんなで協力すれば大丈夫なんだから! そんなことで喧嘩しないで仲良くしよう?」
ミライアもアルラウネも貴重な戦力だ。こんなところでどっちかを置いて行くなんて考えられない……。
「よかったですね〜、マスターが寛大なお方で。あなただけ置いていかれてもおかしくありませんでしたよ?」
「はぁ!? 置いていかれる方はあんたでしょうがこの変態ビッチ!」
ダメだ、これは、この先喧嘩する未来しか見えない……。こうして、なんだかんだありながら、ありがたいことにアルラウネがこれから帯同してくれることになった……。