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森の精霊アルラウネ

僕たちは、再びエルタミナに向かうための旅を続けていた。


「メ、メイス。申し訳ないけど、回復してもらえる?」


「いいよ、ティア。はい! これでどうかな?」


「う、うん。ありがとう。メイスの魔法は本当にお手軽ですごいよ……」


「全然大したことないって! それより、まだ先は長そうだから気をつけてね?」


「う、うん! 頑張るね!」


 僕の、謎の回復魔法のみ使用可能なルールは続いており、みんなは頑張って敵を倒して行った……。


「へへっ! どうだメイス! 俺たちもなかなかやるだろ?」


 シャドーベアとの戦闘を終えたキアムが僕に言う。


「だから、元からすごいって思ってるから! そろそろ戦闘に参加させてよ!」


「いや、ダメだ! な、ミライア?」


「え、あ、うん。ダメね」


 僕とティアを交互に見つめながら、ミライアは僕が戦闘に参加することを却下した。


「ティアは僕が参加してもいいよね?」


「うん。やっぱり、メイスがいた方が楽だし、……それに楽しい」


 やっぱりティアは優しい。これで2対2だ。多数決で敗北するという線は消える。


「……、ティアとメイスは仲いいの?」


 なんだか怒っているミライア。


「別にそんな仲いいわけじゃないよね?」


「え……、仲悪いの?」


 ティアが悲しそうにこちらを見てくる。言い方がまずかったかな?


「ごめん、仲良いよ! すっごく!」


 すると嬉しそうな顔をするティア。素直でとても可愛らしい。


「……。あーそう。仲良さそうで何よりね」


 みるみる不機嫌になっていくミライア。


「ミライアとも同じくらい仲良くない?」


「……、同じじゃ嫌だ……」


 小声で何を言っているのか聞き取れなかったけど、そうこうしてる間に一段と青々とした森に差し掛かっていた。


「ねえ、ミライア。ここってなんて言う森なの?」


「え、えっと確か、シーリスの森だったかしら?ほら、地図に書いてあるわ」


 不機嫌だったのも束の間、ミライアは地図を見ながら答えてくれる。若干だが、機嫌が治って何よりだった。


「シーリスの森なんて聞いたことないな〜。ま、俺たちなら抜けられるだろ!」

 

 キアムの言葉に励まされ、みんなが森の中に入っていく……。




 森に入ったのも束の間。僕の身体が微かな変化を起こした。


「ここ、魔力の流れが若干強い……」


 明らかに他の場所と魔力の流れが違ったのだ。上級魔法なら数回撃てるくらい違いがある……。


「私たちには全然わからないわね〜。ティアにはわかる?」


 首を横にふるティア。やはり魔法使いじゃなければわからない程度しか違わないのかと考え直す。


「でもメイスのいうことが本当なら、ここに魔力解放のヒントがあるかもな!」


 そうだといいんだけどな〜。淡い期待を抱きながら、魔物が全く出てこない森をひたすら突き進む。


「なんだ、全然魔物が出てこないな〜。これならあっという間にエルタミナについちゃうぜ?」


 あっという間に着いた方がいいんだけど……。キアムは一体何を求めているのだろうか?


「はやく着いた方がいいに決まってるじゃない……。キアムったら、なんか出てきたらどうするのよ」


 ミライアの的確なツッコミが入る。


 それにしても不思議な場所だ。魔力は強いけど、魔物は出てこない特殊な空間。魔法使いにとっては神聖な場所といった感じだ……。


「やっぱ冒険者だからさ、魔物出てこないとつまんねーよ」


 まあ、確かに。魔法使いに魔法がないくらいつまらないんだろうと、自分の身に置き換え考える。


 すると突然、あたりの空気が変化した。まるで、魔力がざわつくような、そんな感覚に陥る。


 ーーあなたを待っていましたよーー


 そんな声が僕の脳に響いてくる。他のみんなには聞こえていないようだ……。一体なんだ……。


 ーー横にお進みくださいーー


 まただ、でも抗うことのできないような強制力を秘めている。なんだこれ……。不思議と身体が進む。


「お、おいメイス! どこにいくんだよ?」


「ごめん、みんなも付いてきてくれないかな?」


「え、何いってんだよ。もう出口はそこなんだぜ? なんで……」


「ごめんキアム。何か大事なことがありそうなんだ。信じて付いてきて」


 いつにも増して真剣な僕の声に、みんなも渋々と付いてくる。出口にはまっすぐに行けば着いたが、脳内の声に従い、横道にそれて進む。


 どんどんと青が濃くなっていき、気がつけば行き止まりになっていた。


「うわ〜。きれいな場所!」


 ミライアが感嘆の声を上げる。緑に満ちた木々、流れる水の音、澄んだ空気、神秘的とはまさにこの空間のことだろう。


「お待ちしておりました。稀代の魔法使い、メイス殿、そして御一行様」


 突如辺りが光に包まれる。木々たちがさらに色濃く輝き、どんどんと魔力が一点に集まっていく。みんなは未知の何かに備えるように僕にすがってくる。すると、精霊のような女性が姿を現した……。


「お初にお目にかかります、メイス殿。私はアルラウネ、この森の精霊です」


 意味がわからない。魔力が集まってきていると思ったら、急に女神みたいな人が現れたのだ。実際に女神を見たことはないけど、神々しいものを感じる……。


「あ、あなたはな、なぜ僕を知っているんですか?」


「あなたをここで見ていました。あなたこそが魔王を倒す能力をお持ちです、メイス殿」


 微妙に答えになっていない気がする……。しかし、女神さん、もといアルラウネさんは続ける。


「あなたは莫大な魔力量を秘めています。まるでこの世界の人間ではないような気を秘めていますね。


 私には魔力の量が分かるのですが、あなたが旅をしている様子も、魔力を通じて見させていただきました」


 魔法でそんなことができるのかと驚く。少なくても僕にそんなことはできない。ただ者じゃないと少しだけ身構える……。


「安心してください、別にあなた様と戦おうとはしていません。ただ、申し訳ありませんが、あなた様の実力が本物かどうか、測らせていただきます」


 そうしてアルラウネさんは、魔力障壁を展開する……。


「私の魔力障壁を破壊することができれば、あなた様にお力をお貸しします。とはいっても、あなた様の実力など、とうに把握させていただいております。


 今一度、ぜひこの目で確かめさせていただきたいのです」


 アルラウネさんが展開しているのは、とてつもなく強力な魔力障壁だ。とても今の魔力が破壊できそうにない。


「どうしても実力を見ないとダメですか? とても、アルラウネさんの魔法障壁を破れる気がしないんですが……」


 有り体に言えば自信がない。こんな魔力障壁見たことがないんだ……。


「この空間では、大気中の魔力はおそらく最高レベルになっているはずです。あなたの本気の力、見させていただきます」


 や、やるしかないのか。でも最高レベルって……。確かに、メルスティアにいた頃と同じ身体の感覚だ。どうなっているんだ、ここはクルータスのはずだ。


「この空間は精霊たちの魔力の宝庫です。今現在この世界にある魔力を供給している場所です」


 この場所から、世界中に魔力が流れているのか。


 でもこの人は一体なんなんだ? でもこのアルラウネさんなら何かを知っているはずだ。魔力の解放のためのヒントを持っている気がする……。


「ごめんみんな、少し、いやかなり下がっていて。本気でいくから……」


 僕の真面目な声に押され、みんなが距離を取る。


 みんなは、これから何が起ころうとしてるのか、全くわかっていない様子で目をパチクリさせている。


「メイス、気をつけてね?」


「大丈夫ミライア。必ず破って見せる」


 障壁の厚さは、多分最高クラス。僕と同じ、いや、間違いなくそれ以上だ。


「すみません、使った方が良い魔法があれば教えてください。威力が足りずに破れないのは嫌なので」


「そうですね。『デスグレイブ』なら破れると思いますよ?ただ、相応の練度があれば、ですが」


 闇属性最上位魔法『デスグレイブ』これを撃てる魔導師は、メルスティアでも僕だけだった。久しぶりに使う魔法に少々の緊張を覚える……。


 もう杖なんて使っている暇はない。杖を置き、いつものイメージを作り上げる。ここはメルスティアと同じだ、自分を信じるんだ……。


「…………! デスグレイブッッ!」


 突如辺りが闇に包まれる。暗黒の根源『魔素』の集合体が、アルラウネさんの魔法障壁と激しくぶつかり合う。


 グゴゴゴゴゴォォ! ドドッドォ!


 容赦無くアルラウネさんの障壁を削っていく。周囲は、大気が震え、すざまじい爆音が響く。しかし、まだ若干の余裕を見せるアルラウネさん。


「うわっ! やばいぞこれ、本当にここが吹き飛ぶんじゃないのか!?」


「す、すごい! もうどうなってるかもわからないよ……」


 キアムとティアはもはや身の危険を感じているようだった。


「こんなものですか? あなたはまだ強いはずですよ、さあ!」


「くっ、まだだっ!」


 僕の魔力が尽きるか、アルラウネさんの障壁が消えるのが先か……、勝っても負けても、おそらく僅差だろう。


 さらに魔力を込め、押し込んでいく。久しぶりに魔法を本気で使っている、その興奮が僕を支配していく。


「……アルラウネさん、魔法はやっぱり楽しいですっっ!」


 微かにアルラウネさんが笑った気がした……。


「頑張れ、メイスっっ!」


 微かにミライアのそんな声が聞こえる。


「うおおおっっっ!」


 もうこれ以上は魔力を使えない、そんなレベルで自分の魔力をアルラウネさんにぶつける。


 ギギギッ! バッッリーーーーンッ!!


 割れたんだろうか、いや、僕の魔力が尽きたか。大きな音がしたのは聞こえた。


 割れてなかったらもう無理だ、もう魔力が残っていない。正確に言えば、デスグレイブを撃つ魔力がない。初級魔法でも精一杯だ……。


「私の負けです、メイス殿。いや、マスター。完全に打ち破られました」


「ほ、本当ですか!? よ、よかった〜!」


 どうやら間一髪で打ち破ったらしい。全く恐ろしい相手だった……。


「やった……! 勝ったよメイス!! すごかったよ!」


 ミライアが僕に抱きついてくる。心地よさに身を任せていると同時に、徐々に自分のやっていることを自覚していく……。


「み、ミライア! は、恥ずかしいよ! でもありがとう、ミライアのおかげでなんとか頑張れたよ」


 僕の声で、我に帰ったのか、顔を真っ赤にして僕から離れるミライア。


「あ、ご、ごめんなさい! でも本当にすごかった!あれがメイスの本気なのね!」


 他のみんなも驚いた様子で僕を祝福してくれる。


「やはり私の目に狂いはありませんでした。これよりはあなたのしもべとなりましょう」


「し、しもべだなんてそんな! 僕だってギリギリでしたよ、顔を上げてください!」


 そういって無理矢理頭を上げさせる僕。明らかにアルラウネさんの方が強い。僕がしもべになりたいくらいだ……。


「ありがとうございますマスター。この空間では私の魔力は上昇します。素の魔力量でしたらマスターの方が遥かに上かと」


 こんな化け物レベルの魔力量に勝っているなんて、全く信じられない……。


「アルラウネさんは一体何者なんですか?この世界でいったい何を……?」


「アルラウネさんだなんてよしてくださいマスター。アルラウネで結構ですよ?


 私はこの森で魔力の強い人材を探しておりました。『魔剣』に対抗できる人物を」


 きょとんとする3人。どうやら魔剣という存在を知らないらしい……。


「皆様もご存知の通り、この世界には魔王が存在します。その魔王が持つ武器こそが『魔剣』です」


 ここでキアムが質問をする。


「じゃあ、俺たちみたいな魔力を持っていない奴らには、魔王を倒せないってこと?」


 アルラウネは渋々頷く。


「正直厳しいかと。鉄で打ち込んでいるような剣では、全くもって歯が立たないでしょう。ただ……」


 みんなはその先の言葉を待つように、じっと聞き入っている。


「マスターが魔剣を打ち破れさえすれば、あなた方でも十分魔王に対抗できるはずです。


 そのためには、この世界の封じられた魔力を解放する必要があります。マスターの真の力を取り戻すために……」


 ついに、僕が力を取り戻すヒントをアルラウネは語ってくれることになる……。


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