魔法の世界、メルスティア、そして転移
魔法がごく当たり前の世界、メルスティア。誰もが魔法を使用し、またその恩恵を受ける。ある人は火を使い、ある人は水を使う、そんな魔法世界。
こんな世界に僕、メイス=カミアールは魔法を求めて日々奮闘している。
「アルケミスさん!こんな感じですか?」
「うん!いい調子だね!メイス君もいつの間にか大魔導師だね。こんなに魔法制御ができるなんてすごいよ!」
今やっているのは、魔力制御と呼ばれるトレーニング。魔力を球体に形を整え、その大きさを拡大していくというもの。ずっとトレーニングしてるけど、やっぱり大きくしていくのは難しい…。
僕は、生まれつき魔法の扱いに長けていた。最初はあんまり大した魔法は使えなくて、簡単な炎魔法だけしか発動できなかったけど、僕の師匠アルケミス=ダイアリー先生のもとで鍛錬を積んだ。先生の魔法理論のおかげで、今では全種類の魔法を使えるようになった。
「いえいえ!大魔導師だなんて…。その呼ばれ方、全然しっくりこないですよ…。」
「このメルスティアで、全種類の魔法を使えるなんて1人もいないよ!これは誇っていいことなんだよ?」
「いや、それでもですよ。先生だってその気になれば魔法を全部使えるんじゃないですか?」
僕の先生アルケミスさんは、魔法科学者という仕事を行なっている。仕事の内容は主に魔道具、つまりは魔法を発動することのできる道具の製作と、魔法理論そのものの研究だ。
先生曰く、魔法は万人が享受できるべき、素晴らしいものらしい。先生は魔法適性の高さを活かして魔導師になるという選択はせずに、誰もが魔法に親しめるような技術者兼科学者のような道を志したのだそうだ。今魔法が広く普及しているのは、紛れもなくアルケミス先生のおかげだ。
ちなみに魔導師は主に国防を担当する軍事の要だ。魔導師は各地方の官吏による推挙、つまりはスカウトのようなもので担当する。魔法を使う者の憧れであり、花形の仕事だ。魔法を使えるものならば、まず皆この役職を目指す。僕は現在16歳で魔導師になり、史上最年少での抜擢となった。ありがとう神様、僕を推挙してくださって。
「私は自分が魔法を使えるかどうかなんて正直どうでもいいからね〜。それを差し引いたとしても、私には君ほどの魔法適性は持っていないよ!」
僕の身体は、異常な魔力適性と、魔力量なのだそうだ。僕自身は、田舎の農家の出身で、特別魔法に恵まれているどころか、周りには魔法を使える人は1人もいなかった。そんなところにパッと生まれてしまったんだから、さぞ驚かれたに違いない。
「君には驚かされてばっかりだ!農家の家から魔導士が生まれたなんて事例は存在しないからね!そろそろ『ゲート』に取り掛かってもいい頃合いじゃないのかな?」
そう、これなのだ。僕が大魔導師と言われることがしっくりこない最大の理由。それは、空間転移魔法『ゲート』が使えない魔導師だからだ。
ゲートは初級から中級魔法に分類され、魔法理論も発動も大して難しくはない。ただし、これはあくまでも一般論。最上級の浄化魔法『ホーリー』や闇魔法『デスグレイブ』を使える僕でも、ゲートだけはどうしてもダメだった。
魔法の発動には魔法理論が重要であるが、僕にはゲートの魔法理論がさっぱり理解できなかった。魔法をイメージすることで魔法は発現するが、ゲートの魔法理論は『別空間をイメージする』これしか書いてないのだ。
なぜこんな理論で、皆ポンポン飛んでいけるのか、経路は?時間は?などどいったことを考えてしまうと、途端にダメだった。
「全く珍しいよ君は。ポテンシャルは最高なのにゲートが使えないのは謎でしかないよ。」
先生がため息をつく。こっちも気にしているのだから触れないで欲しい。
「魔法理論が意味わかんないんですよ!なんですか、『別空間をイメージする』って!アバウトすぎますよ!」
「初級魔法はどれもアバウトな理論なんだ。そのおかげで、誰でも発動できるんだから。」
初級魔法は理論がアバウトになるという法則は、どの魔法にでも言えることだ。魔法初学者の人にも、簡単に発動できるように初級魔法は進化してきた。逆に、最上位の爆破魔法『メテオストーム』は、国一個を吹き飛ばす威力だ。この魔法理論はとても高度で、解釈するのですらやっとだ。こんな威力の魔法が連発されたら大変なので、魔法理論は魔法使用に制限をかけるという意味で重要なのだ。
「それじゃあ、移動先をイメージして、う〜ん。そうだな。じゃあ空を飛んでいくイメージで!」
「それじゃあ、飛行魔法の『フライト』と変わらないじゃないですか!」
「それじゃあ、一瞬で向こうにつくイメージで!」
「それも、『テレポート』と変わらないじゃないですか!」
「あ〜!もう!なんなんだ君は本当に!ゲートになるとめんどくさくなるな〜!」
仕方ないじゃないか。そもそも空間を転移するってどういうこと?
「あの〜。初歩的なこと聞くんですけど、ゲートってなんのためにあるんですか?」
「あ〜。まあ、そう言われると困るんだけどね。手軽に時間旅行を楽しむ目的で作られたって言われてるけど。もちろん、転移先で対象を変化させるような行為は制限されているけどね。歴史が変わってしまうから。」
魔法使いの一番の鉄則、それは『流れを変えてはならない』、ただ一つだ。今ここに僕が存在するのは、どこかの知らない誰かさんの影響だったりするので、ゲートを乱発して過去を操作することは出来ないようになっている。
「過去にタイムスリップはできるけど、あくまで建造物を見たり、時代背景の勉強をしたり、それが使用目的だから対象に触れたりは出来ないんだよ。」
いらないような、欲しいような、微妙な魔法だ。ただ、魔導師である僕がゲートを使えないとなると話は違う。
「君もそろそろ飽きただろう?ゲートの使えない大魔導師なんて言われるのは。」
うん、正直飽きました。それ以外の魔法は使えるから、周りもそれ以上は言ってこないけど、毎回、他の魔導師の人にかわいそうな目で見られるのは正直しんどいです。
「君が今一番いきたい空間をイメージするんだ。そうすれば多分、まあできるはずだ。」
「先生、適当すぎませんか?」
「これ以上言いようがないんだよ!こんな初級魔法、誰も研究してないんだからしょうがないでしょ!」
気持ちは分からなくもない。九九に教えようがないのと同じだろう。とりあえずは、『そんな風なもの』として暗記するのが定石だ。『ゲートなんていらねぇ!』と触れてこなかった僕の責任だよな…、素直に受け入れよう。ただこれだけは言っておこう、ゲートなんていらねぇ!
とりあえず、空間をイメージするか…。ダメだ、うまくいかない。クソ、こうなったらヤケだ、思いっきり魔力をこめてやる。なんとか発現するんじゃないかと淡い期待を抱く。
「お、いいじゃんメイス君!門が開いてきたよ!」
イメージは相変わらずできていない。ただ初級魔法は、発現するのは単純に魔力量の多寡だったりする。いままではイメージに囚われていたからな…さらにこめてやろう…!
ジジジッ!ブオーーーンッ!ガガガッ!
おかしい、明らかにゲートっぽくない音が出てるぞ。
「メイス君、一旦やめようか、なんだか、とんでもないことになりそうだ…。」
「あの…。先生、魔力が止まりません…。」
ええっ!ちょっと待って!コントロールできないんですけど!なにこれ、向こう側に吸い取られるみたいなイメージ!
「嘘でしょ!ちょっとメイス君!あんなに魔法制御が上手だったじゃないか!コントロールできるよね!?」
「…無理です!」
そうこうしてる間にも、門はどんどん大きくなっていく。まずいな、これ…。
「なんでそんな自信満々に無理って言えるんだ!君の魔力に干渉したら、多分私は死んでしまう!だから割り込めない!」
嘘、止めてくれないの!?このまま飲み込まれろってこと!?
「先生!どうすれば!このまま飲み込まれちゃいますよ!」
「大丈夫だ!イメージした先で一定時間が経てば帰ってこれる!それまでの我慢だ!イメージした先は!?」
「…。」
あ、そうか。さっき、自分はイメージを捨てて魔力量でゲートを出したんだっけ…。ーー…、あれ、僕、どこにいくんだ?
バーーーンッ!ドドドッ!
やばい、本格的にダメかもしれない。
「先生、イメージを捨てて、魔力量だけでゲートを発現させたって言ったら信じますか!?」
「信じられるわけないだろ!いや、でも君ならやりかねないよ!」
どんどん僕を飲み込んでいくゲート。なんだか暖かい光に包まれていく。
「とりあえず、どこに飛ばされても大体1日足らずで帰ってこれる!君なら大丈夫だ!」
いやいや、ゲートも出せない奴は魔導師としてどうなんだろう。先生も、もうどっかに飛ばされる前提で話してるし…。仕方ない、僕のせいだからな、大人しく飛ばされよう。
神々しい光が僕を包む。これがゲートなのか。あたりには神秘的な煌きで満ちていた。こうして僕は、どこか分からない、おそらくメルスティアではない、別の空間に転移した…。
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