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創生の彼女  作者: 須磨 奏
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アメリアの想い




 王の話にいろいろと引っかかる部分があり、思わず聞き返す。


 「あいざわあさりではありません。あいざわ()()()です。

 それに僕は、一度も魔王を倒しにいくとは言っていないのですが」

 

 無論、藍澤有紗に会うために魔王を倒すつもりはあるのだが。怒りも相まってやや口調が攻撃的になってしまう。


 「それはすまんかった。"ありさ"じゃの。儂、実は読心術を心得ておっての。

 お主らが思うていることが分かるのじゃ。勝手に話を進めて悪かった。

 一応聞くが最終的に魔王を倒すつもりはあるのじゃろう?」


 読心術の心得があると聞き、冷静さを取り戻す。やはり、王ともあろうお方に怒りを抱くのは良くない。


 「はい。あります」

 

 僕の発言に周囲の空気が揺れるのを感じる。背後の騎士団員がどよめいているのだ。

 斜め前のハインリヒの顔色にも動揺の色が窺える。一方で隣のアメリアは風一つ吹かない湖の水面のように落ち着いていた。

 先程から一度も言葉を発していないことが気がかりだった。



 「では、話は決まりじゃな!早速、明日から鍛錬を始めるぞ。……長旅で疲れておろう?今日のところはゆっくりと休むがよい。鍛錬の間も使える部屋を用意しようぞ。」

 

 そう言って、王は近くの従者に指示を出した。しばらくの後、僕らは従者の一人に部屋まで案内された。

 部屋は一部屋で、備え付けの箪笥や、テーブル、中心に一つだけあるベッド以外は何もなかった。

 


 部屋に着くと否や、アメリアはベッドに座り込み、大きな溜息をつく。


 「王様の話長すぎるのよ!勝手に話進めるし、読心術使えるとか怖いこと言うし!こっちはずっと膝立ちしてんのよ!」


 僕は肯く。そもそも、なぜ僕と彼女は同じ部屋にいるのだろう。従者の方もこの部屋しか案内してはくれなかった。


 「……アメリアは僕と同じ部屋でいいの?というか、君は魔王を倒す理由も、鍛錬に参加する理由もないんじゃないか?

 おじいちゃんの話の続きだって聞けたわけだし」

 

 僕がそういうとアメリアは明らかに機嫌を損ねたようだった。眉間には皺がより、口角は弧を描くように下がる。


 「貴方は私と別の部屋の方が良かったっていうの?それとも、1人ぼっちの部屋でナニするつもりなのかしら?」


 「君の方が嫌じゃないかと思っただけだよ。嫌だったら、宿でも探そうかと思ったんだ。不快にさせたなら悪かった」

 

 後半の質問には敢えて答えないことにする。


 「貴方の気遣いはズレてるのよ」


 「どうやらそのようだね。ところで、本当にこれからどうするんだ?まだ、答えを聞いてない」


 アメリアはまた溜息をつく。怒りは感じられない。


 「私はアルベルト、貴方について行く。貴方が会いたいっていう藍澤有紗がどんな娘かって気になるしね。

 私が負けた相手なのよ?それに貴方、私がいないとダメそうだし」

 

 そう言う彼女の顔には確かな覚悟があった。ここで更に問い直すのは無粋だろう。


 「そっか……ありがとう。君がついてきてくれるのは、素直に嬉しいよ」


 僕は正直な感想を口にする。


 アメリアは微笑んでいる。彼女の顔は部屋の小さな窓から射す夕刻の光に照らされて、一層優しく見えた。

 その後、僕らは給仕係が部屋まで運んでくれた料理を食べ、城内にある大きな浴室で身体を癒した。

 明日からは鍛錬が始まる。僕らはそれに備え、早めに眠ることにした。同じベッドで寝るのにも、もう慣れていた。

 僕はアメリアが落ち着く姿勢をみつけるより早く、眠りについた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 アルベルトが隣で寝息を立てている。寝息は一定の調子を保ち、眠りが安らかであることを主張する。

 私はまだ眠れないでいた。彼と同じベッドで寝るのはもう六度目になる。でも、なかなか慣れない。逆になぜ、彼はここまで落ち着いているのだろう。なんとなく、癪だった。

 

 彼は初めて会った時から、めちゃくちゃだった。成人の儀にきているはずなのに、私とは契りを交わせないというし、こことは違う世界の記憶があるとかいうし、その世界の女の子のことが好きとか言うし、私が頑張って誘惑しているのに全然効果がないし。

 

 だけど、彼は私の性格を否定したりはしなかった。私がこれまで散々否定されてきた性格を。

 それどころか、私が勝手にしていることにいちいちありがとうと言うし、私が魔王を倒すためについていくことを嬉しいと言った。

 彼にはもう少し素直になりたいな、そう思う。

 

 明日からは鍛錬が始まる。私は頑張れるだろうか。いつになく、不安だった。それ以前にこうして、城で夜を過ごしていることも実感が湧かない。

 

 そもそも、なぜコテージで彼の話を聞いた時、私はおじいちゃんの話を思い出したんだろう。

 それは唐突に思い出され、気づいたときには声に出していた。思考の回路に道筋がなく、とても奇妙な感覚だった。

 まるで誰かが私の発言を意図的に操作したような……いや、そんなことはあるはずがない。考え過ぎだ、そう言い聞かせる。

 

 小さな窓から射す月光は私と彼の顔を優しく照らす。彼の髪は夜の闇のように黒く、肌は小麦を連想するような色をしている。

 私は思わず、彼の頬に手を触れる。それと同時に彼は寝返りをうち、こちらを向く。私はすぐに手を引っ込める。彼の顔は嫌いじゃない。

 それは初めてみたときにも、抱いた感想だ。決して整った顔つきじゃないけど、見ていて落ち着く。彼の顔を見ているうちに私の不安は少しずつ、小さなものとなっていく。

 

 

 そして、気がつくと朝になっていた。



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