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創生の彼女  作者: 須磨 奏
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夜行



 夜の森をアメリアが先行して進んでいく。王都までの方角は把握しているから僕が先行すると言っても、


 「大丈夫、この辺りの森は小さい頃からおじいちゃんと一緒に沢山歩いてきたもの。

 それに、王都にだって一度だけ行ったことあるもの。安心してついてきなさい!」


 と、言って聞かなかった。余程、自信があるようなので、任せて後ろから付いて行くことにする。

 

 夜の森を歩く経験は前にもあった。それは今からちょうど一年前の秋のことだった。


 

 夕食後、父は突然、僕にある提案をした。


 「これから俺と母さんの思い出の場所に行く。お前も一緒に来ないか?」


 提案ではあったが、有無を言わせない感じがして、僕は黙ってうなずいた。早速、準備をしようとすると、父はコートとブーツを用意するようにと言った。

 コートは夜は冷えるために必要なことはわかっていたが、ブーツまで必要になるとは、一体どこに向かうつもりだろう。程なく準備は終わり、家を出る。

 

 僕は父と母の後ろに付いて歩いた。二人は里の外を目指しているようだった。里の門を出て森に入る。虫の鳴く声が小さく聞こえていた。

 里の門から、二時間程歩いた場所が目的地だった。途中、小さな魔物にも出交わしたが、父が魔法で全て追い払っていた。

 僕の里のあたりにはほとんど、ネズミや蛇のような姿をした小さな魔物しか生息していなかった。

 

 目的地は、そこだけ木がくり抜かれたように生えていない小さな円形の草原だった。見た目だけでは、ここが思い出の場所と言われても、いまいちよく分からない。


 「ここは、俺たちが成人の儀から帰る途中でみんなから逸れて道に迷った時に偶然たどり着いた場所なんだ。

 俺たちは成人の儀こそ完遂したものの、まだ全然互いのことをわかってなかった。

 だけど、ここでみんなが探しにきてくれるのを待っている間に、互いのことを知り合えた。それで、やっと互いのことを本当に好きになれたんだ」


 「あら、私は貴方のこと、最初から結構好きだったけど?」


 「奇遇だな!俺もだよ」

 

 母が珍しく戯けた調子で話したのが印象的だった。自分の親の仲睦まじい姿は見ていて少しくすぐったかった。

 父は僕の方を向き直り、こう言った。


 「お前は昔、成人の儀をなぜやるのかって、聞いてきたことがあったな。俺は自分なりの答えを言ったつもりだったが、お前は納得していなさそうだったよな。

 ……今もそんなに納得してないんじゃないか?でも、考え込むことはないさ。この先、どんなことがあったってなんとかなる。

 きっと、お前は自分自身が納得する場所にたどり着ける」

 

 僕は成人の儀について、それなりに納得したつもりだったが確かに心の底では納得していなかったのかもしれない。

 父がそんな僕を気遣ってここまで連れてきてくれたのは純粋に嬉しかった。僕は父に礼を言った。父は大きく笑った。


 それから程なくして、僕は納谷創一の主に藍澤有紗についての記憶を夢を通して手に入れることになる。


 そんなことを思い出しながら、感傷に浸っていたため彼女が話しかけてきていることに、気付かなかった。


 「ねぇ、アルベルト!聞いてる?さっきから、妙な足音がしない?」


 確かに虫の鳴く声と木々の騒めく音に加えて、僕たち以外の枯れ葉を踏む足音が小さく聴こえてくる。


 「ごめん。僕も今気づいたよ。どうする?走るか?」


 「賛成!」

 

 夜の闇の中を駆ける。しかし、足音は徐々に距離を詰める。近づくことで足音が大きくなり、足音が四本足から発せられているものだと気付く。

 このままでは追い付かれるのは明白だった。僕は目の前に落ちていた太い木の枝を手につかみ、振り向きつつ足音の方へ全力で打ち込んだ。

 鈍い手応えがあり、短い悲鳴が響いた。アメリアもそれに気付き、振り向く。

 視線の先には狼の姿をした魔物がいた。一撃を喰らったことで警戒してすぐには距離を詰めてこないようだ。

 

 「アメリア、まだ魔法は使えるか?」


 こちらから魔物との距離を縮められない以上、遠距離の攻撃で威嚇をするしかないだろう。


 「今日、一日の調理で魔力全部使っちゃったわよ!大体アルベルト、貴方が魔法使えばいいじゃない!今まで使ったところ見たことないし、魔力あり余ってんじゃないの?」


 「僕だってそうしたいよ!だけど、今まで一度だって魔法の火力な調整ができたことがないんだよ!

 もし、失敗したら、君に怪我をさせてしまうかもしれない」


 「私は絶対に上手く避けるから、うだうだ言ってないで早く使いなさいよ!私達が言い合ってる間にもあいつ、少しずつ近づいて来てるわよ!」


 「分かったよ!どうなっても知らないぞ!」

 

 僕はフランを唱える。案の定、火力の調整に失敗し、大きな火柱が轟音と共に立ち昇る。

 僕たちはそれを合図に全速力で走る。後ろを振り返ると灰色の煙の中にぐったりと倒れた狼の魔物の姿が見えた。

 僕は安堵し速度を落とすが、轟音に気付いたのだろう。他の狼の魔物の遠吠えが響き渡る。

 それは僕の潜在的な恐怖を煽る。全身が鳥肌立ち、一瞬足が竦んだ。

 その様子に気づいたアメリアが僕の腕を掴む。


 「何ボケっと突っ立ってんのよ!早く逃げるわよ!」


 アメリアのおかげでなんとか恐怖を振り払うことができた。僕らは夜の暗い森の中を成り振り構わず、駆け抜けた。

 どうにか逃げ切ったと確信した頃には朝日が登っていた。

 

 あまりに成り振り構わず走ったせいだろう。たどり着いた場所はアメリアの全く知らない場所のようだった。


 「あーあ、貴方が無茶苦茶するから道に迷っちゃったじゃない!こんなことなら、付いて来なければ良かったかしら。」


 「仕方ないだろ!ああでもしないと、どっちにしても死んでたと思うね!」


 「いいえ!そもそも、貴方がきちんと魔法を使えればよかったのよ!」


 アメリアの正論は僕の反論しようという気持ちを見事に削ぎ落とす。


 「確かに、君の言う通りだ。本当にごめん。それに……腕を引っ張ってくれてありがとう」


 「なに?急に謝ったり、お礼いったりしないでよ。当たり前のことをしたまでよ。気にしないことね!」

 

 やはり、アメリアは優しい。とりあえず僕たちはこれからどうするか、話し合うことにした。

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