剣持キンキンキンの辟易
発想を勢いで押し通しました。
何じゃ、わしの顔に何かついとるんか?
……やれやれ、お主もわしに興味があるのか……暇な奴よのう。
わしの名は、剣持キンキンキン。
日本という国で、本来三つ子の長女の剣持キンという名前で生まれるはずだったのじゃ。
じゃが(いも)、妹達は死産していまい、わしに三人分生きてくれとの親の願いから、名前をキンキンキンにされてしもうた。
この、狂って……狂ってやがる名前のせいで、覗いた事も無い『作家になってみよう!』サイトでは主にエッセイで「キンキンキンだぜ!」等と絡まれ、文化の衰退の代名詞扱いを受けていたらしい。
じゃが(いも)、こんな名前も幸いしたのか、近所の子ども達に慕われ、実際剣術を学んでおったからわしの周りでは常にキンキンキン!の音声が絶える事は無かったのじゃ。
そんなわしも身体が衰え、ボケる前に天に召されたのじゃが(いも)、その直前に見た夢の中で出会ったドン・ジョンソン似のイケメン神様から、「YEAH、美しい貴女はまだ三人分生きてはいない」と口説かれ、天から異世界に転生させられてしまう事に。
わしゃ、既に一回死んどるから恐れるものは何もないし、磨きあげた剣術で争いに討ち勝つ自信もある。
なので異世界転生も特に抵抗は無かったのじゃ。
永遠の17歳で転生すると聞かされるまでは……。
キンキンキン!
キンキンキン!
……何じゃ!戦か?
「も〜キンキンキンったら、さっきからずっと呼んでるのに、耳遠くなったの?」
「……何じゃ、ふじこか。文章表現の無限の可能性にしてやられたわい」
この少女は、峰打ち不二子。わしと同じ17歳じゃ(←自分で言ってて恥ずかしい)。
わしより前に、同じ日本からこの異世界に転生していたのじゃが(いも)、この異世界では普段の生活で日本語が通じない為、日本語を話せるわしと行動しておるのじゃ。
少しばかりオヤジの妄想が入った様なJKキャラに見えなくもないが、明るく元気な娘で、わしにとっては孫みたいな存在じゃな。
ふじこはガチでわしをタメだと思っとるらしいが……。
「聞いて聞いて、山田貫一ってば、今朝もあたしに付きまとって、もう嫌になっちゃう!」
山田貫一とは、この異世界三人目の日本人で、ふじこに一目惚れしたストーカーじゃ。
いや、全く行動が忍んでいないからHENTAIというカテゴリーがお似合いじゃな。
「どぅ〜ふぅ〜ふぅ〜ふぅ〜!ふぅ〜じこちゃ〜ん!」
早速現れたな!このHENTAI!
……どうじゃ?文字で台詞を書き出しただけなのに、どう考えても山田貫一の声しか聞こえないじゃろ?
貴様ら皆堅気の人間には戻れんのじゃよ!
「ふぅ〜じこちゃ〜ん、俺こぉ〜んなにふぅ〜じこちゃんの事想っちゃってん〜だけどもな?」
「やまだやめて!愛は想いで図っちゃいけない時期があるのよ!」
ふじこの台詞にはどこか青春の苦味が薫り立ち、香ばしい奴等を黙らせる力があるのじゃ。
「ふぅ〜じこちゃん!そんなばあ様と付き合うの止めて、俺様と学園生活をエンジョイしよぉ〜ぜぇ〜」
キンキンキン!
「やまだ!ばあ様とは何じゃばあ様とは!(←否定をしようとは思わない事を前向きに検討させていただきます)」
わしゃ、ばあ様と呼ばれる事には慣れておる。
じゃが(いも)、呼ぶ相手の人間性は重視させて貰うぞよ。
「やまだ!大人しく立ち去れい!」
キンキンキン!
「いよぉ〜ばあ様!あ〜んまり無理すっと、ご老体に響くぜぇ〜ぬぅふぅふぅふぅ!」
キンキンキン!
「……くっ!この剣の重み、技のキレ、この17歳、ただ者ではない……あうぅぅ〜!」
やまだはわしの剣の圧力に耐えられず、腰椎を負傷して大地に崩れ落ちた。
「ありがとうキンキンキン!」
ふじこはわしに頭を下げ、近所にオープンしたジャパニーズ・おでん店の割引券をプレゼントしてくれた。
わしの大好物が食べられる……。
結局、長生きしても人間の幸せとはこの程度だという事を、わしは知っておる!
これだから異世界生活も止められないのじゃ!
(終わり)