92 失敗を学び、活かさなければならない
「‥‥‥そうか、情報はその程度しかなかったか」
「むぅ、かといってこれ以上踏み入るのも無理だろう」
‥‥‥フルー森林国、特別議会室。
会議室自体は、先日の怪物騒動の際にあちこち壊れていたが、現在は復興が進み、議員たちがその場に集まることができていた。
囚われていた間の強制的な動力源としての活動を強いられていたせいで衰弱もしていたが、今は何とか全員回復し、欠席者はいない。
そんな中で行われた会議だが、その内容に全員顔は思わしくなかった。
「怪物を出していた、謎の組織の情報が入ったのは良いが…‥‥当分、地下の方に注意を払わなければな」
「それに、そういう類があるという事はどこからか紛れ込み、地下以外にもいる可能性があり、探る必要も出てくるな…‥‥」
王国との話し合いの中で聞いた、怪物を生み出した組織。
この国の学園の地下の方にその工場が密かに建設されていたことには気が付かず、その上まだ詳細も分かり切っていない謎の組織に対して気が抜けない。
だが、それ以外の事に関しても気になる事があった。
「怪物共を討伐し、我々を救助した者がいたそうだが‥‥‥」
「国王の説明では、試験的な特殊部隊が行ったとしか聞けなかったな」
森林国に蔓延った怪物たちを駆逐し、原動力として囚われていた者たちを解放し、再利用されないために工場を自爆させたという人物。
話によればその者が全てを行ったと聞くが、その詳細を彼らは聞き出せなかったのである。
国の危機を救ったともいえるので、できれば表彰したい。
また、それだけの対応力がある人物であれば、国に欲しい所なのだが得られなかった。
「‥‥‥できるだけ詳しく知り、こちらへ引き込めれば、有事の際にも非常に助かるのだが」
「どうもあっちの国では、国家機密レベルのようだからなぁ」
流石に王国とは友好国とはいえ、機密レベルのものであれば探りだせない。
そもそも、この国の危機に対して自ら率先してきてくれただけでもありがたいので、余計に聞き出せないのだ。
なお、当初はその対応の速さゆえに王国自体がそもそもも黒幕なのではないかという声もあったが、流石にそれはなかったようだ。
むしろ、その声を出したことで、更に情報を引き出せなくなったのではないかという事もあり、その事を言ったものは現在、自主的な反省のための謹慎中である。
「しかしながら、その情報に関して国からの説明は無かったが」
「関連するのではないかと思われる人物が、別の方から浮上したのは良かっただろう」
人の口には戸が立てられないという言葉通り、別の方からその情報は自然と入って来るもの。
どうやらその人物と行動したという者がいたようで、そっちからもある程度の情報を得る事もできたが‥‥‥
「‥‥‥学生の身分ゆえに、生徒たちの方から聞き出せたのは良かったな」
「留学させていてよかったともいえるな」
適正学園‥‥‥職業に関しての学び舎でもあるが、国によっては学び方が異なる部分もある。
だからこそ、その異なる部分を求めてより自身の知識などを深めたい者は他国の学園へ留学する者がいるのだが、この国からの留学生で情報を得ていた者もいたのである。
というか、むしろそれしか思い当たらないというか、無茶苦茶過ぎたというか、情報統制ができているようでできていないという事も分かったが、それはそれで良いだろう。
「どうやら召喚士のようだが、ただの召喚士でもないようだ」
「普通の召喚獣とも異なる者どもを使役し、更にまだ増えているらしいからな」
「おもな攻撃面ではそのうちの2体が話に出るようだが…‥‥それだけでも怪物を倒せるだけの実力がある事もうかがえるからな」
情報を確認すると、どうやら一人の召喚士に行きつくようである。
いわく、職業の検査で通常とは異なる召喚士であり、その召喚獣たちも異例な者ばかり。
ほとんど人型でありつつ、その能力は非常に高く、喧嘩も召喚獣同士が行うことがあって、巻き添えになったらそれこそ悲惨なことになるのだとか。
「この国の情報を伝え、共に行動した者からの情報との整合性も合い、ほぼ間違いないだろう」
「信じられぬかもしれないが、これだどうやら事実のようだからな」
「情報を手に入れられたら、後はそれを利用して褒賞とかもしたいところだが…‥‥」
そこからさらに探ってみると、どうやら王国からの報酬の方が多くあるようで、直ぐに手渡せるものでもない。
というか、その功績の方を詳しく調べてみると、とんでもないものばかりのようで、いるだけで国に利益を与えているようなものであるということも判明した。
「だからこそ引き入れたくもあるが」
「それがなかなか難しいようだな…‥‥帝国の方でも狙っている情報があるようだ」
「それに、今はまだこの国同士だが、他の国からも徐々に情報を得ているだろうし‥‥‥」
どうも探れば探るほど、とんでもない沼に嵌ってきているようである。
色々と面倒事も多そうでありつつも、その価値は非常に高く、諦めきる事もできないだろう。
「何とか引き抜きたいが、現状はまだ難しそうだ」
「これはどうにかして、いい案を出さねばな…‥‥」
うんうんと唸りつつ、頭を悩ませる日々がこの国の議会でも始まったようであった…‥‥
「…‥‥すぅ‥‥‥すやぁ‥‥‥」
頭を抱え、悩ませている者が続々と出て、薬局では胃薬や痛み止め、毛生え薬の売れ行きが好調になってきている丁度その頃。
ディーは今、至福の時というべきか、自室での昼寝にふけっていた。
暑くなっている季節ではあるが、この室内は今、非常に快適な状態となっている。
というのも、ノインがしっかりと丁寧に改造を施しており、空調設備が完璧に整えられ、涼しい中で眠ることができるのだ。
暑い中での涼しい自室は贅沢でもあり、それでいてゆっくりと快適にいる空間では眠くなってくるもの。
まだ課題が残っており、手を付けていた最中とは言え、眠気が迫っていたので、一旦眠気に降伏し、昼寝にふけっていた。
「すやぁ…‥‥ぐぅ」
普段、色々と慣れてきたとはいえ、ツッコミは多く、精神的に疲れる事も多かったがゆえに、こういう昼寝の場に安寧を見出す。
そしてその至福を味わっている一方で…‥‥
「‥‥‥狭いデス」
「話し合いの結果、こうなったのですから文句は言えませんわ」
「尻尾とかも何とか曲げてどうにかなるでござるな」
「昼寝が気持ちいいのは分かっているからこそ、負担をかけないようにしてるのじゃが…‥‥」
…‥‥ベッドの上で横たわって寝ているディーの周囲には、ノインたちが上下左右を陣取って共に横になっていた。
話し合いの既に、ディーを起こさないようにベッドを改造して全員がのれるようにしたものの、身長やその身体的特徴などから少々狭く、よりくっ付きたくとも互に阻害してしまう。
けれども、ここで迂闊に争えばディーの眠りを邪魔することになってしまうので、できるだけ争わないように自粛を心掛けているのであった。
傍から見れば、美女に囲まれて眠るその光景は誰もが羨ましいものでもあろう。
けれども、その美女たちにとっては互いがライバルのような者でありつつ、ディーの睡眠を妨げないようにと創意工夫を凝らす争いの場でもあった‥‥‥‥
「…‥‥兄ちゃんが昼寝していると聞いたから、突撃しようとしたけど‥‥‥入れないのー」
…‥‥残念ながら、スペースの問題で入れなかった妹もいたようであった。
ついでに言うのであれば、リリスは今この部屋におらず、こっそりディーの母の昼食用意を手伝っており、なにげに稼いでいたりするのであった。
「あらあら、中々手際が良いわねぇ」
「グゲェグゲェ!」
真夏日の中で、涼しい部屋での昼寝は確かに贅沢かもしれない。
安寧の時でもあり、至福の時でもあり、かけがえのない心安らげる時間であろう。
起きた時には、それはそれで何かありそうな気もするけどね…‥‥
‥‥‥リリス、何気にこういうところはちゃっかりしているようである。子犬っぽいけど、種族的にはサキュバスとは別種でも似ているようなものでもあるからなぁ。




