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81 手段も色々と持っておくに越したことはない

…‥‥巨大な虎のような化け物に出くわし、情報も掴み切っておらず、相手の力量も不明なため、ディーたちは一旦その場から離れた。


 というのも、以前に似たようなな化け物に出くわした際に、安易に炎で焼いた結果ガスが発生したことがあったので、迂闊な刺激は危険だと判断したからである。



「といっても、直ぐに村に戻るのは危険だよな…‥‥」


 いろいろな妨害工作(罠の設置)を行いつつ逃げてきたが、直ぐに村の方に逃げるわけにもいかない。


 俺たちを追って、村まで来られたらそれこそ防衛しづらいし、戦いにくい。


 一応バルンとか、その他職業を顕現している人たちで応戦できない事もないとは思うが、流石に故郷の村を荒らされたくないのだ。


 

「一応、幸か不幸かあの怪物はわたくしたちの方を追ってきていますわね」


 根を張り、森の木々の様子から探り当て、カトレアはそう告げた。




 現在、俺たちがいるのは村近くにあった森の奥深く。


 いつもならばこんなに深くまで入り込むことは無いのだが、事態が事態だけに、相手を惑わしやすく、動きを制限できそうな木々の中に誘い込むことにしたのだ。


 念のために、ルビーに頼んでセラを村の方へ避難させ、万が一に備えて話をして、怪物が村の方へ行ってもある程度対処できるとは思うが…‥‥



「ノイン、分析結果は?」

「精密な部分まではいきませんでしたが、解析完了しまシタ」


 そう言いながら、カタカタと音を立て、どこからか取り出した板を木にかけて、そこに目から光を出して、映像を投影した。


 そこに移ったのは、先ほどの虎のような大型の化け物。


 細かな文字やグラフなどが移されており、ノインの中で処理された映像らしい。


「先日の馬車襲撃時の化け物たちと、データはある程度一致を確認。ですが、接合箇所が甘めとは言え、こちらの方が完成度は高いと言えるでしょウ」

「同一の場所というか、組織などから生み出された化け物って認識で良いか?」

「エエ。研究がされた感じですけれどネ」

「あんなもん、誰が好んで研究するのでござろうか…‥」


‥‥‥ああ、あの時にもうちょっと背後関係というか、そのあたりを調べておけばよかったかもしれない。


 でもなぁ、仕掛けてきた奴らへの丁寧な尋問(拷問)によると、購入した側であり、その撃ってきた相手の素性も良く分かっていなかったし‥‥‥意味なかったか。


「ぬぅ、ちょっと死霊術系に似てはおるのじゃが、混ぜ込み方が酷いのぅ」

「そういうもんなのか?」

「そういうもんなのじゃ。いやまぁ、儂は流石にこんなことをやる気もないのじゃが…‥‥例えるなら、儂が仮に似たような物を作るのであれば、きちんとバランスを考えるのじゃが…‥‥人の限界的なものがあるのじゃよ」


 ゼネいわく、ちょっとにて異なる術というか魔法でもあるのだが、モンスターが扱うようなものでもないらしい。


 というのも、分かりやすく言えばその手の専門家たちであれば、もっとバランスなどを考えて、おぞましい造形にするにしても内部構造などはきちんと整理整頓し、いざという時は自爆も可能なように把握できるようにしているらしい。


 だがしかし、どうもこの怪物を作り上げたところはその手の専門家でもないようで、まだまだ改善の余地も多すぎるうえに、一部が雑で把握しにくくなっているそうな。


「もっと簡単に言えば部屋の整理整頓で、儂のような者ども(死霊術使用可)であればきちっと何もかもそろえる事を基軸とするのじゃが、あの怪物作成者(死霊術使用不可?)のほうならぐちゃぐちゃになっておるようなものじゃ」


 何にしても、そのぐちゃぐちゃぶりがこれまた妙な方向へ作用し、暴走を引き起こしつつ力を無理やり高めて、爪を振り下ろしては斬撃を飛ばせるようになっているのだとか。


「何と言うか、結構面倒すぎる相手だな。…‥‥でも」


 そこまで聞くと、かなり中身がぐちゃぐちゃそうなのが容易に想像できるのが、一つ腑に落ちないこともある。


 あの怪物から逃げる際に、咆哮の中から聞こえてきた、助けを求めるような声。


 ぐちゃぐちゃなら、そういう助けを求めるような自我とかもないとは思うのだが…‥‥


「‥‥‥自我とかってどうなっているんだ?助けを求めるような声が聞こえたのだが」

「恐らく、動力源とされた者の声でしょウ」

「動力源?」


 ノインの分析によれば、確かにあの怪物はぐちゃぐちゃすぎて中身が入り混じり、分析が少々しにくいらしい。


 だが、それでも大体つぎはぎになっているような個所などを見ぬけたうえで、動力源と化している者がいるらしいのだ。


「あの構造ではただの烏合の衆であり、自己崩壊を招きマス。ですが、その崩壊防止と活動のための動力源として、生物で言えば心臓にあたる部位に知的生命体を仕込んでいるようデス」

「つまり‥‥‥生きたまま利用されている何かがあるってことか?」

「その通りデス。そこを破壊、もしくは抜き取ればあの怪物の暴走は収まると思われマス」


 助けを求める声があったからこそ、破壊はしたくない。


 しかし、抜き取ると言っても‥‥‥どうやって?





「ニャギャアァァァァァァ!!」


 っと、そうこうしているうちに、怪物の咆哮が聞こえてきた。


 多くあった罠を破壊しつくし、ようやくたどり着いたのであろう。


「毒・麻痺・火傷など様々な状態異常効果のある植物を罠に仕掛けましたのに、しつこいですわね」

「大盛りの呪い系統も混ぜたのじゃが、どうも元からそれに近いせいか効果が薄いのぅ‥‥‥いや、元聖女である儂がそんなものを使うのはどうじゃと言いたくはなるがの」


 木々が切り裂かれ、姿を見せてくる怪物。


 様子を見る限り設置していた罠は精々進行を遅らせる程度で、効果は薄かったらしい。




「‥‥‥ノイン、抜き取れる手段はあるのか?」

「拘束して、より精度の高い分析が行えれば可能デス」


 ならば、取れる手段としては‥‥‥あの怪物を沈黙させ、捕縛するのみ。


 徹底的に拘束し、身動きできないようにして、その上で丁寧に調べることができれば良いはずだ。


…‥‥捕縛するにあたり、取れる手段としてはいくつかある。


 その中でも、大型の四足の化け物であれば、その足をすべて封じてしまうのが手っ取り早い。


 でも、その爪が斬撃を飛ばすなどの脅威を持つので‥‥‥先ずは爪からだ!



「リリス、箱に閉じこもって最大防御!カトレアは彼女に蔓を巻き付けて、その先をルビーに渡せ!!ルビー、お前はそれを全力で振り回し、あの爪のみを的確に狙え!」

「グゲェイ!」

「わかりましたわ!!」

「了解したでござるよ!!」


 バタンっと箱を閉じてリリスが閉じこもって、その箱をカトレアの蔓が巻き付く。



 そしてブチっと切って、その先をルビーが持って振り回し始める。


 勢いよく回転する、超硬度リリス箱。


「ニャゲェェェェ!!」


 怪物が爪をこちらへ向けて振り下ろし、斬撃が解き放たれる。


「どっせぇぇぇいでござる!!」


 しゅばんっと蔓を動かしてリリス入り箱を振り回して飛んでくる斬撃を受け止めつつ‥‥‥


「そこでござるよ!!」


ガッギィィィィン!!



 ぶぉんっと勢いよく振り回された箱は、怪物の振り上げていた右前足に直撃する。


 硬いものには硬いものをぶつけ、へし折るつもりであったが…‥‥


「‥ダメか」


 すぐに引き戻し、様子を見るも爪は折れていない。


 リリスの硬度は驚異的であったが、流石に角度が悪かった。



「ルビー、もう一回、今度はより力を込めてやれ!」

「わかっているでござるよ!!」


 ぶぉんぶぉんっと勢いよく回転させ、遠心力が加わっていく。


 蔓の強度を考え、カトレアがさらに補充し、ぶっとくなったそれを扱ってもう一撃。



「せいやっさぁでござる!」


 掛け声と共に、怪物が爪を使うよりも前に、地面に置いてあるその先の部分を狙って振り下ろす。


 遠心力、ルビーの怪力、そしてリリスの超硬度を生かした攻撃は…‥‥



ばっぎぃぃぃめごぉぉん!!

「ニギャアアアアアアアアア!?」


 怪物の爪を見事にへし折り、宙を舞わせた。


「って、しまったでござる!!勢い良すぎたぁぁぁあ!!」


 が、それと同時に力を籠めすぎたせいか、盛大に箱が地面にめり込んで、身動き取れなくなってしまった。


 できたのは、右前足の爪だけであり、まだその他は残っている。


「ニャゲェアアアアアア!!」


 爪が折られた怒りか、咆哮をあげながら左の足の爪で斬撃を飛ばしてくる。


 防御しようにもリリスは埋まっているので盾もない。


 でも‥‥‥


「かわすだけなら、問題ないデス」

 

 さっと俺を抱いてノインが回避してくれる。


 カトレアたちも木の根や魔法などで回避し、爪の斬撃後の隙を狙う。


「振り下ろしてすぐに上げられないところにドーンでござる!!」


 空中へ一旦飛び上がり、火炎放射をして加速し、見事な蹴りをルビーが入れて怪物の体がグラっと揺れる。


「ついでに足元注意ですわ!」

「ちょうどいい部分に攻撃するのじゃ!」


 木の根を生やして足を引っかけ、さらに魔法で目を狙う。


「ニンギェアァアアアアアア!?」


 攻撃手段としては、相手の動きを妨害する基本的なもの。


 けれども、ルビーのキックで態勢を崩したせいで注意力もなくして見事にかかる。



 ずうううんっと言う音と共に倒れ込み、再び起き上ろうとするがそうは問屋が卸さない。


「今だノイン!」

「対人用改良型粘着弾デス!」


 ノインの腕が変形し、機関銃を乱射する。


 その弾は銃弾ではなく、滅茶苦茶ねばねばねちゃねちゃする、拘束用の粘着弾。


 それらすべてが相手の手足にあたり、動きを封じ込める。


「ニギャアアア!!」


 咆哮をあげ、もがいて逃げることができないほどその粘り気はすごく、文字通り手足が出せない状態。


 その隙にリリスを掘り起こし、念のために丁寧に爪を砕いていき、ゆっくりと作業できるようにする。


「さぁ、ノイン。これなら流石にその動力源の奴を助けられるよな?」

「ええ、ここまでしてしまえば十分デス」


 牙も脅威であるので、口もしっかりとカトレアが作った毒草で痺れさせまくり、ゼネがゆっくり練り上げた魔法で感覚も奪い、相手はもはや動くこともかなわない。


 ここまでやってしまえば作業もしやすく、俺を降ろした後に、直ぐにノインは様々な道具を出して、作業をし始める。


「では、これより動力源分離手術を始めマス。電気メスっと‥‥‥」


 サクサクサクッと作業を進め、血止めしつつ動かないようにさせつつ、作業は進む。


 ルビーにまた村までの連絡をして、怪物の無力化に成功したことを伝えさせつつ、俺たちはその作業を見守る。


「むぅ、神経部位なども複雑ですが、これは結構粘着質というか、作った人の性格がねじ曲がってますネ」

「外科的なものとはちょっと違うのぅ。薬品にして動力源となる物へ注射し、後はそこから栄養を奪ってやったという感じかのぅ?」


 ノインの分析に続けてゼネも共に作業を行い、地道に分解していく。


「‥‥‥結構グロイな…‥‥カトレア、臭い消しを頼む」

「わかってますわよ」


 体液なども流れ出し、悪臭が凄まじい。


 以前の怪物たちのように毒ガスをばらまかれても困るので、それを打ち消すような薬草などを周囲へふりまき防止しているとはいえ、絵面が少々グロすぎる。


「グゲェ‥‥‥」

「うんうん、まだ閉じこもっていた方が良いぞ」


 リリスも流石にこの光景は気持ち悪くなってきたのか、そっと箱を閉じてしまう。


 俺も気持ち的にはともに閉じこもりたいが、一応最後まで見ておく必要があるからな‥‥‥



 そうこうしているうちに作業は進み、ようやく動力源となっていた部位を切り離せるらしい。


「この肉塊ですネ。袋状になっており、内部のものが動力にされたのでしょウ」


 そう言いながらノインは怪物の体内から、ドクンドクンっと脈打つ袋状のものをこちらへ見せた。


 大きさはそれなりにあり、人一人が軽く入るほどだ。


「その中身か…‥‥切り離せば、怪物は消えるか?」

「ええ、間違いないでしょウ。自己崩壊し、肉塊へ‥‥‥いえ、結合そのものが無理やりですので、砂となって消えマス」

「まぁ、無理やりつなぎとめているだけのものじゃからな。後はこれで十分じゃ」


 そして、その肉袋が切り離されると。脈動は止まり、怪物の肉体が一気に変色した。


 不気味な色合いであった身体は、一瞬のうちに真っ白になり、そのまま風に吹かれて消えていく。


 さらさらと、砂のごとく舞い散っていき、綺麗にその肉体を消失させたのであった。


 そして後に残ったのは、肉袋‥‥‥いや、こちらも完全に消失に、中に捕らえられていた者が姿を現す。


「ってちょっと待てぇ!!ノイン、彼女にすぐに服を着せてあげて!!あと手当とか頼む!!」

「了解デス」

「御前様、儂らとかがおるのに初心じゃのぅ…‥‥」


…‥‥中身から出てきたのは女性。


 だが、人間でもないし、モンスターでもない。


 それは、エルフなどが該当する、人間以外の種族‥‥‥人であらずとも、人でもある亜人種族。


 そのうちの一つ、獣人だった。


 

 猫耳と尻尾‥‥‥猫系の獣人だろうか?これが元となってあの虎のような外見の怪物になっていたのか?それとも違うのか…‥そのあたりは調べないと分からないだろうなぁ…‥‥


 あと、できれば起きたら今起きた、生まれたままの状態的な事だけは伏せておこう。うん、なんかそれはそれで嫌な予感がするからね。獣人に関しての話の中で、あったような‥‥こちらも調べておかないと不味いか。

怪物を倒せたのは良いけど、なんかもやっとするな。

獣人を動力源にしていた怪物‥‥‥そもそも誰がこんなものを作ったんだ?

何にしても、この人を手当てして気が付いてもらえれば、良い情報を得られるかもなぁ。


‥‥‥目の毒というか、何と言うか。ノインたちがいてもそこは慣れない。いや、慣れたら慣れたで問題があるとは思うが。

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