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73 遊びも少々兼ねているらしい

…‥‥臨海合宿、最終日。


 ゲイザー騒動のせいで不完全燃焼ではあったものの、前日までの各学科での訓練を経て、生徒たちは解放感に喜び溢れていた。


 時たま雨が降るかと思う事も多かったが、本日は初日と同じく快晴であり、憂いなどない。


 再びゲイザーのようなモンスターの襲撃の可能性もあったが…‥‥それはどうも無いようである。


 というのも、ディーが飲み込まれた際に、ノインたちが一斉に暴走状態というべきか、やらかした余波があったらしく、むしろ他のモンスターすら寄り付いていない状態であった。


 回復までは2,3週間ほどかかると予想されるが、悪影響というほどでもない。


 むしろ、安全性が確保されたということで、もうちょっとだけ沖を目指す生徒たちも出ていた。




「こっちはこっちでやれるのは良いけどね。ルビー!右に3歩、前に12歩ほどだー!」

「了解でござる!」


 俺の言葉に対して、目隠しをしながらルビーはそう答えた。


 今、俺たちは泳ぎも楽しんでいたがいったん中断し、スイカ割りというものに挑戦していた。


 ノインが臨海合宿へ向かう前に、ちょっと学園の図書室で『海での遊び:ヒャッハースペシャル120選』から学んでおり、そのような遊びもあるということを知ったのである。


 とはいえ、そう都合よくスイカは無いので、代わりにカトレアが同等サイズの果物を用意し、それを利用してスイカ割りモドキをやっていた。


 トップバッターはルビー。彼女の場合、果物を割る棒を構える姿が中々映えている。



「ぬぬぬ‥‥‥指示だとここでござるな!でりゃぁぁぁぁあ!!」


 勢いよく棒を振りかぶり、その一撃は‥‥‥‥


ドッゴォォォォォォン!!

「よし!!手ごたえありでござ…‥‥あ」

「…‥‥グゲ!」


…‥‥指示通り、ちゃんと行く方向に行ったはずが、歩数を間違えた。


 通り過ぎて、その向こう側にいたリリスに直撃したのである。


 一応、箱の中に入って守っていたので無傷なのだが、やらかしたのは間違いないだろ。


「グゲゲゲ!!」

「あひゃはやはひゃはやや!!く、くすぐりやめるでござるよぉぉぉぉ!!」


 罰ゲームとして、リリスから盛大なくすぐりを彼女は受けるのであった。



「‥‥‥ふと思ったんだけど、尻尾とかを叩きつけて、その振動の位置とかで探る事とかできなかったのかな?」

「そこまで考えなかったのでしょウ」




 くすぐり終え、ルビーが木蔭でダウンしたところで、2番手にゼネがなった。


 ノインも参加しようとしたが、彼女の場合は頭のレーダーがあって目隠ししても意味がなく、カトレアの方も植物系ゆえか位置が分かってしまうので、ちょっと限られている。


 まぁ、こうしてみるのも面白いが‥‥‥ゼネの場合、棒ではなく彼女の持つ杖でやるようだ。


「ふふふふ、儂なら一発でやってみせるのじゃ!ちょっと非力でもあるのじゃが、この杖を使えば綺麗に割ることができるからのぅ」

「じゃぁ、失敗したら罰ゲームだけど、くすぐりで良い?」

「ふふん、大丈夫じゃ!」


 びしっと指を立て、自信満々に答えるゼネ。


 その様子に、周囲で見ていた女性生徒がキャーッと黄色い声援を送るが、俺はなんとなくこの後の展開が予想できていた。


 だってね、今復活してきたルビーがすっごい悪い顔で見ているもん。後カトレアもノインも、いたずらを思いついたような感じになっているし…‥‥


「グゲェ?」

「ん?ああ、リリスもこの次にやってみるか?」

「グゲ!」


 やるやるっというようにうなずくリリス。


 あの果物が割れれば次が来ないとは思うが、割れない予感しかないので、次の約束が出来たのであった。











「おーい、ちょっとディー君良いか?」

「ん?どうしたグラディ(副生徒会長)?」


 3番手にリリスの番となり、彼女は棒ではなく自身の箱を利用して割ろうと意気込んでいるところで、ふとグラディの方から声をかけられた。


「この臨海合宿の後の事で、ちょっと話があるんだが‥‥‥」

「ああ、じゃあちょっと場所を移すか」


 そこでぴくぴくと痙攣して倒れ伏し、女性生徒たちになすがまま攫われているゼネを気にかけつつも、多分途中で逃げられるだろうと思いながら、ちょっと話を聞くことにした。







「…‥‥功績に考慮して、叙爵の可能性?」

「ああ、そうだ。というのも‥‥‥」


 ちょっと人に聞かれると不味い話しでもあるのか、少し人気がない場所で話すことになったが、その内容を聞き、俺は驚愕した。


 一応、平民からの出世の一つにあるような、準男爵…‥‥領地を持たない貴族に叙爵させられるかもしれないという、話なのだ。


「なんでそんな話が急に?」

「ディー君、ちょっと自分の胸に手を当てて聞いてくれないかな?」


‥‥‥心当たり、あり過ぎるな。


 モンスター・パレード掃討、ダンジョン制覇、王族救出、そして今回のゲイザー討伐…‥‥冷静に考えてみると、いや、考えなくともやり過ぎている。


「それだけならば、まだ国からの褒賞も手だったんだけどね。ディー君、ほら、ゲイザー内部の海賊の財宝を国へ投げちゃったでしょ?そのせいで、お金での褒美では少々無理だと考えて、爵位を与えようって話になりそうなんだよね」

「え?そのせいでかよ!?」

「まぁ、その他の功績も該当しまくるんだけど‥‥‥‥今回のそれが決め手となっているんだよ」



 ノインたちがやってくれたことが多かったとはいえ、最後の意思決定は完全に俺の責任であった。


 そりゃそうだよ、お金で褒美をもらいたくないなら、次は爵位とかでと国から来る可能性もあったよ。

 

 というか、国からもらえるレベルなのかと言いたくなったが、そもそも王族救出の時点で完全にアウトというか、確定していたらしい。


「国は国民がなければ成り立たず、だからこそ大事にするために、功績を上げた人に褒美を上げなければいけない。で、ディー君の場合は相当功績を上げているし、あげないと国の面子とかがねぇ…‥‥」

「なんかごめんな」

「いや、別に良いよ」


 国の面子などを考えると、功績を上げている人に何かしてあげないといけなさそうだというのが分かってしまう。


 一応俺は平民だが、その平民が功績を上げ過ぎているという時点で、色々と問題の種にならない訳がなかったのだ。


「まぁ、今すぐに叙爵ともならないんだけどね。しいて言うなら夏季休暇を終えた新学期頃には、確実に王城へ呼ばれることだけは覚悟して欲しい」

「休暇明けに…‥‥」


 平民に領地を持たない爵位とはいえ、貴族の位を与えるためには色々な手続きがいるらしい。


 いやまぁ、領地とかはそもそもいらなくて世界を見て回りたいからそれはそれでありなのだが、その手続きでちょっと時間がかかるそうだ。


 一応、今目の前にいるグラディや、あっちの方で遊んでいるゼノバースにミウ、また何かボコボコにされているエルディムなどの王族たちは、平民に対しては偏見の目は無いそうだが‥‥‥何と言うか、いかんせん反対するような者たちもいるもので、それらに対応する必要もあるらしい。



「あまりにも煩かった場合は、プチッと潰せるけどね。流石に王族が権威を振りかざし過ぎるのも不味いから、我慢するよ」

「なんかさらっと怖い発言があったんだが」


…‥‥そう言えば、忘れがちではあったが、そういう事をする話も聞いたことがあった。


 何にしても、休暇中は特に無さそうだが、終わった後にそう言うことがある事を心に留めておいてと言われるのであった…‥‥ああ、今更というか、見たくないような功績に対して目をそむけていたつけが来たのか‥‥‥


分かっていたというか、分かりたくなかったというか、目を背けていたことがやってきたらしい。

いやまぁ、俺じゃなくてノインたちがやったことが多いのだが、その主としての責任を取れという事であろう。

できればまだ、金とかの方が分かりやすかったが‥‥‥うん、でも、領地もない貴族にってことは、将来にそうそう影響を与えないよな!うん、何もない、ただ貴族という名が付いただけの平民に変わりないはずであろう!!



‥‥‥できるだけそう思いたい。面倒事、頼むから来るな来るな…‥‥

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