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71 怪しむ時もある

‥‥‥現在、臨海合宿の場として設けられた、生徒全員が泊まる海の宿屋に、ディーたちはいた。


 昼間のゲイザーのせいで自由時間が中途半端になってしまったが、合宿中の各学科の訓練時間を減らし、最終日には再び遊びを満喫できるという通達がなされていた。



 その中で、各自風呂からも上がり、生徒会用に設けられた一室にて、生徒会長たちも共に今、あることについての調査報告がなされていた。



「‥‥‥という訳で、あの小箱ミミックに召喚獣契約を行った結果‥‥‥こうなってしまいました」

「グゲェ?」

「なるほどなるほど、あの小さな箱の子が、こんな子に…‥‥いやいや、おかしくない?」

「斜め上の方へ行かされるというか、何と言うか…‥‥」

「ミミックが人型を取るって、あなた何ですか!!しかもまた変わった美女にもなっているし、本当は召喚士じゃない、何か別の怪しい職業ですか!!」


 説明をある程度終えたところで、副生徒会長(グラディ)および生徒会長(ゼノバース)は呆れたようにそう口にし、第1王女(ミウ)はツッコミを入れる。


 一応、留学中の身でありつつ帰還した彼女もこの生徒会に所属するようで、本当は第3王子(エルディム)もいるはずだが、彼は昼間の騒ぎのどさくさでぶっとばされ、現在治療中のため不在。


 この部屋にいるのはこれだけだが…‥‥各自の視線が、少々痛かった。


「俺も流石にこうなるとは思わなかったからなぁ…‥‥」


 そうつぶやきつつ、部屋の端の方にいるノインたちを見る。


 そこに入るのは、今回の報告の中で挙げられたミミック…‥‥リリスと名付けた、元子犬のような小箱の子であり、現在は大きな宝物庫の中にありそうな豪華な宝箱から人が生えた彼女に、全員視線を向けた。



「一応、簡易的な検査を致し、種族の特定はできまシタ」


 ノインがそう言い、資料を各自に手渡す。


 そこには、この会議の場が開かれる前に、彼女が行った簡易検査の結果が記されていた。


「‥‥‥ミミックの亜種、『ハニートラップボックス』?でもあれって確か…‥‥」

「ええ、本来は(・・・)このような肉体を持つものではありまセン。ですが、種族特徴を元に、図鑑などの情報により特定いたしまシタ」



―――――――――――――――――――

『ハニートラップボックス』

世間一般的に言う、ハニートラップ‥‥‥要は誘惑して惑わし、罠にかける習性を獲得してしまった、ミミックの仲間。

箱の中に幻の美女像を映し出し、かかった者たちはとびかかるが幻なのでそのまますり抜け、箱の中‥‥‥そのモンスターの腹の中へご案内され、内部に入ってすぐに眠らされ、そのまま夢でも見るように死に至り、長い時間をかけて捕食される。

普通、そんな怪しいものにかかる馬鹿はいないはずなのだが、ダンジョン限定で出現するモンスターであり、深い階層で生息し、そこに至るまでの道で精神的にも疲労した相手を狙っているため、意外にも成功率が非常に高い。

なお、箱なのになぜか性別があり、メスが女性像を出すのであれば、オスは幻の美男子を出し、女性の被害者も確認されている。

幻の美女・美男子を利用した捕食方法ゆえにサキュバスなどの淫魔系に近いのではないかと言われたこともあったが、あちらは性的、こちらは物理的に食べているので、別物とされている。

――――――――――――――――――


「…‥‥ですが、ご主人様の命命によって名付けられたリリスには、その幻の部分が実体となって存在しているようなのデス。つまり、本当に触れることが可能な、肉体を獲得したハニートラップボックスであると言えマス」

「まさかの、幻が本物になったやつか…‥‥それはそれで予想外だ」

「とはいえ、元々幻用のものなので、発声器官は未熟であり、私たちのように人の言葉を話せるようにはなっていないため、元のミミックと変わらない言葉しか扱えないようデス」


 また、肉体の上半身以外にも下半身も構成されているようだが、それらすべてはあの箱の中にあるらしい。


「正確に言えば、あの箱の方が本体でもあり、上半身の女性部位は第2本体‥‥‥体が二つある状態デス。わかりやすくいうと、ケルベロス、オルトロス、キングコングヒドラなど、多頭のモンスターに状態的には似ていると思われマス」

「どちらも本体であるってことか」

「ハイ」


 何にしても、種族名なども分かったが…‥‥個人的に言わせてもらうのであれば、何故こうなったのだろうか、という疑問がある。


「異界の召喚士の職業柄、どうも普通とは異なるような、何かしらの常識外な奴を出すことは分かっているけど‥‥‥今回はその常識外のさらに外からやってこられたような気がする」

「間違っては無いですけどネ。通常幻な常識を、本物にしているのですからネ」

「というか、何故また女性なのか…‥‥ディー君のその職業、本当に召喚士なのだろうか?」

「それは俺自身が、自分の職業に聞きたいよ」


 本当に、不可抗力なんですけど。


 なんでこうなったのか、俺自身も頭を抱えたいというか…‥‥ああ、なんかカッコイイモンスターを召喚獣にしたかったのに、なぜ皆美女になっていくのか。羨ましい奴もいるかもしれないが、多大な心労をかけられるぞ。



「グゲェ?グー、グー」


 っと、落ち込む俺を慰めるように、リリスが寄って来てすりすりと体にすり寄ってくる。


 一応、流石に素っ裸も不味いし、その女性部分に衣服を着てもらったが‥‥‥これはこれで、絵面が少々いかがわしい。いや、普段のノインたちもそれ相応だが。俺いつか、他の男子(一部女子)たちに背中から刺されるのではなかろうか‥‥‥慰めてくれることに関しては、癒されるからいいか。


「ま、まぁ、報告を聞く限り、またとんでもない能力というほどのものは無いのは、まだいいんじゃないかな?」

「そうだな、文字通りの箱入り娘、と考えれば良い方だろう」


 ちょっとはフォローしてくれるのか、グラディとゼノバースがそう口にする。


 うんうん、確かにそう考えれば‥‥‥


「でも、ノインさん、その様子ですとまだ何かありますよね?」

「ええ、ありマス」


‥‥‥ミウの問いかけに対して、ノインがそう答えた。


「ハニートラップボックス自体、実はそれなりに厄介なモンスターとして知られていることがありマス」

「どういうことかしら?」

「従来の場合、捕食が成功すればいいのですが、失敗する場合ももちろんあるでしょウ。ゆえに、その後すぐに討伐をとなりますが…‥‥討伐しにくい理由としては、これがありマス」


 ちょっと来てくださいと、リリスを近くに呼び寄せ、ノインの腕が変形する。


 そしてリリスが箱の中にしっかりと入り込み、守りを固め…‥‥その状態の彼女に、ノインたちが一斉に攻撃を仕掛けた。


ドガガガガガガ!!

ゴォォォォ!!

ビシバシビシバシ!!

シュワアァァァァ!!


 機関銃、火炎放射、蔓の鞭、なんかやばそうな霧…‥‥各自の攻撃が当てられる。


 だがしかし、それだけ激しい攻撃にあっても‥‥‥


「グゲェ?」

「‥‥‥っと、このように、脅威の防御力がある事が判明いたしまシタ」

「「「「いやいやいやいや!?ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」」


 傷ひとつつかない箱の中からけろっとした様子で出たリリスに、俺たちは全員でツッコミを思わず入れた。


 タダの箱モンスターなだけで済んだかと思いきや、まさかの超硬度・超耐性を誇っていたのであった‥‥‥‥












「…‥‥正直、アレは驚いたね」

「ああ、防御力だけで言えば、タンクマン、パラディン以上だろうな」


 ディーたちが退出した後、残された王子・王女たちは話し合う。


「いや、あれそれ以上どころか、もはや凌駕しているわよね?あの方のモンスター、どんどんおかしなものが多くなってきていません?」

「それは…‥フォローのしようがないね。流石にとんでもない攻撃力を誇るのじゃなくて、防御力だったのは、まだ幸いなのかな?」

「甘いな、弟、妹よ。あの防御力、攻撃に転換された時が真価を発揮するぞ」

「え?」

「どういうことですの、ゼノバース兄様?」


 ゼノバースの言葉に、グラディとミウは首をかしげる。


「…‥‥彼女達の力で、全力であの箱娘を投擲されてみろ。あれだけの防御力を誇る奴が、投げられれば‥‥‥その体自体が、防ぎようのない砲弾と化すだろう。しかも、中身にも損害はないから、何度でも繰り返すことが可能だ」

「「あ」」


 言われてみればそうである。


 防御は攻撃にもなるし、下手に扱われれば、それこそ王城の門とか城壁とか、要塞とか、それらのすべての硬度が役に立たないことになるのだ。


 世のなかにはブラックジャックと呼ばれるような、布に硬いものを入れて殴る武器などもあり、それの応用もされれば、それこそやばい武器へと変貌するだろう。


「そもそもだ‥‥‥あの新入生、いや、もうそれなり時間も経過しているから、1年生と言えば良いが‥‥‥あいつは既に、色々やり過ぎているだろう」

「ああ、そうだよね。彼女達の力が大きいとはいえ、結局召喚獣を操る召喚士は彼だからね。モンスターパレード掃討、ダンジョン制覇、制御、帝国との戦争早期終結‥‥‥‥結構な功績をもう上げ過ぎているよ」

「それを聞いたときにもいろいろ言いたいですけれども…‥‥私たちの救出や、今回のゲイザー討伐もありますよね?」


 見ている方がゲイザーに非常に同情したくなるような、いっそ早く楽にしてあげて欲しいと願うような光景があったとはいえ、討伐したのはかなりの功績。


 しかも、資源の山となるうえに、その内部にあった海賊の財宝自体もそれ相応の大金へと化けるはずだが…‥‥


「‥‥‥庶民感覚、平民感覚で、持つのがむしろ怖いゆえに、国へ献上したのでしょうけれども‥‥‥あれ、確実に悪手ですよね?」

「献身をやり過ぎている。大体、ある程度はとってもいいのだが…‥‥無駄に欲が無さすぎるのが、むしろ裏目に出ていることに気が付いてないのか?」

「彼の場合、田舎出身って言ってたな。あれだけの功績などを上げて、貴族たちがどう動くのか、分かっていないんだろうなぁ」



…‥‥功績を上げ過ぎているせいで、実は現在、国の方では少々揉めていた。


 というのも、ディー本人は将来的に諜報関係で国外を見て回りたいという要望があるようだが‥‥‥そのディーの召喚獣たちが、大問題すぎる。


 見た目が美女だらけなのは、まだ100歩譲っても大丈夫なはずであった。諜報の仕事には色仕掛けなどもあるだろうし、マシな方。


 だが、各自の能力が高すぎることに、国としては頭が痛いのである。



 メイドゴーレムであるノインの場合、その家事能力、料理のうまさなどに関しては良いのだが、戦闘力が高すぎる。


 荷電粒子砲、ガトリング、ロケットパンチなど見たことがない武器を内蔵しており、下手すると一国の軍隊が簡単に全滅するだろう。


 ヴァンパイア・アルラウネであるカトレアの場合、植物を操る力そのものが大きな影響を与えてしまう。


 一国の食糧事情を直撃させ、食の面から攻めてしまう事も可能である。


 ヴイーヴルであるルビーの場合、見た目的にはややスレンダーの竜人と言えば片付くかもしれないが、ドラゴンの仲間に入る分、その潜在能力も非常に高い。


 怪力、火炎放射、熱線、高機動力…‥‥大きくない分、ドラゴン以上の脅威でもある。宝探しに関してはポンコツだが、それは些事であろう。


 ナイトメア・ワイトのゼネの場合、こちらは元聖女の人間である分、まだ良識・常識があるので優しい方である。


 だがしかし、そもそもナイトメア・ワイト自体が姿を見せなかった種族でもあり、恐るべき悪夢のようなことが可能なので、存在そのものが恐怖にもなるのだ。あと、彼女の場合男装の令嬢ゆえに女性陣の人気も高く、そちらはそちらで脅威となっているらしい。



 そして今回、ハニートラップボックスのリリスが加わったことで、足りないように思えていた防御力を補えてしまい、攻守ともに隙が無くなり過ぎた。



「…‥‥非常に多大な功績を上げ、国に莫大な利益を上げ、なおかつトンデモ召喚獣たちがいる時点で、放っておく輩がいないわけがない」

「短くまとめると、如何に異常すぎるのかよくわかるね…‥‥過去に似たような召喚士ってあったかな?」

「ええっと、スライムの召喚士なども聞いたことがありますけれども‥‥‥‥脅威になった例はそこまでないですね」


‥‥‥大体の事を口にして、その場にいる皆、深い深い溜息を吐く。


 王位に就いた際に、まず確実に負担となるのは、彼らの制御などであろう。


 場合によっては、国外に出られて、そのままどこかの国に就かれてしまえば、それこそ大きな脅威になりかねない。


「そもそも功績からして、今回の件も含めると叙爵も視野に入れないと非常に不味い」

「まずは領地を持たない準男爵あたりが妥当かな。領地さえなければ自由に動きやすし、彼の国外を回るような部分にもしっかり沿うことになるだろうしね」

「でも、それ以上のやらかしがなされたら…‥‥考えたくないですね」


 流石に、平民が一気に貴族になっていくのは、元から貴族の者たちによって反発がされるだろう。


 でも…‥‥


「何もしない、ただの管理人程度に、いや、それ以下に成り下がっているやつらよりも確実に国に貢献しているよな」

「ああ、そろそろ証拠もそろって、潰す予定の4家か。まぁ、それ以外の家も結構当てはまるけど‥‥‥」

「潰す予定の無能たちよりも、確実に有能過ぎるのも惜しいわよねぇ」


 将来的に国を担う王族だからこそ、国のために行動し、腐敗させないように彼らも努力している。


 そう言う立場から見ると、ディーたちは非常に逃したくもないのだ。むしろそれぞれの頭を挿げ替えてやった方が良いような気もする。


 それに、もう一つ懸念もあった。


「…‥‥帝国の方も、気が付いているというか、知っているしなぁ」

「ゼオライト帝国の第1皇女フローラ、いや、今はもう女帝だったかな?」

「話には聞きましたけれど、既に他国に漏れているのが痛い…‥‥」


…‥‥あちらの場合、帝国のクーデターから王位を奪還するさいに、ディーの召喚獣たちの力を借りている。


 その力がどれほどのものなのか、既に確認しているだろうし…‥‥同じように、胃を痛めるレベルの厄介さの塊共であるという事も十分理解しているだろう。


 その上、王国に多大な貢献をしている分、帝国の方に来ればそれも見込め…‥‥胃痛と引き換えに、利益を得られるのであればどうにかしたいと思う可能性もある。


「しかもあちらは女帝。一国の王でもあるし‥‥‥今はまだ、情勢が落ち着ききってなく、地盤固めをしているだろうけれども、ディーが卒業するまでには固め終わるだろう」

「そしてそこから、スカウトとかもありそうだよね」


…‥‥いや、あるとみて間違いないだろう。


 むしろ、その予想よりも早く来る可能性もある。


「ああ、頭が痛くなりそうだなぁ…‥‥ディー君、最初は面白半分、興味半分で友達になって見たけど、とんでもない国家最大級レベルの爆弾だったよ」

「友人関係を築けたのは良いが‥‥‥胃を痛めそうだ。まぁ、王位に就くことを考えれば、そこも受け入れればいいだろう」

「はぁぁぁぁ…‥‥兄様方が、まず友好関係を築けていたことに、これほどまで感謝したことがないですよ‥‥‥」



 再び各々で深い深い溜息を吐き、今後の叙爵などもどうするべきか、考える羽目になるのであった‥‥‥


「‥‥‥一番痛いのは、国の面子だけどね。何もしなければ、それはそれで他国から色々言われるし」

「遊び人な、あの父上なら情報を大量に仕入れているだろうが‥‥‥あの人の場合、どう出るだろうか」

「そう言えば、それはそれで頭が痛いですよね。たまにぶっ飛んだことをしでかしますからね‥‥‥」




ペット枠から落ちそうでも、懐き具合からなんか変わりようがない。

ただ単に、大きくなっただけだと受け入れたい…‥‥けど無理あるなぁ。

ああ、できれば今度、同じようなことがあったら絶対に召喚獣にせずに、そのままにしておきたい。



…‥‥意思に反してなどが無ければの話だが。しかしなぁ、頑丈すぎるっていう点は良いかも。万が一の際には、その箱に籠れば無事で済む可能性が大きいからね。

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