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70 後悔後先に立たず

 ざざーんっと浜辺に横たえられているのは、襲撃をかけてきたゲイザーの遺体。


 散々大暴れをした挙句、ディーを飲み込んだ後、ゲイザーは地獄を見ていた。


 そしてその地獄も終わり、ようやく今、やつは安らかに眠りにつけ‥‥‥‥




ズババン!ズバババン!!ズバズバババン!!


 その遺体は、現在丁寧に生徒及び教員たち全員で、解体されていた。


 ゲイザーの体というのは、巨大な単眼モドキの複眼…‥‥簡単に言えば一つの大きな目玉に、大量の触手と後頭部の口だけの簡単な作り。


 体内は見かけ以上に圧縮されているのか多くの内臓が保管されており、消化液などもたっぷり含んでいる、水風船のようなものである。


 だが、その遺体の利用価値は、実はかなり高い。


 体が巨大眼球触手と言えるが、ぶよぶよした体表でもあり、成分に油が多く詰まっている。


 これだけ大きく育った体であれば、何と向こう100年は火をともせるほどの多くの油を含んでおり、用途としても香油にしたり、光源にしたりとできるのだ。


 さらに、その肉自体も適した調理法を行えば非常にうまいようで、高値で取引されていたりもするのである。


 しかも今回のゲイザーは、ビームではなく水流を放つ亜種とも変異種ともいえる分、実は目玉の方にも貴重な価値が付いている。


 従来のゲイザーの場合、討伐後の目玉はビームの連続発射のせいなのか裏側が非常に焦げて使い物にならないのだが、このゲイザーの場合は水流を発射することが幸いしたのか、ほぼ健全な状態。体表の一部は少々何者かの手によってグロイことになっているが、それでも高値で売れる部位は残っていた。


 複眼の一つ一つに人間の目玉の水晶体というような部分があるのだが、この水晶体とやらもかなり綺麗な状態を保っており、薄く延ばせば頑丈な窓に使用できたり、細かく砕いて混ぜ込めば、家の建材代わりになったりと、無駄がないのだ。


 

 襲撃してきた巨大ゲイザーの体は、討伐されれば巨大な富を生む。


 ゆえに現在、指揮を取れる生徒会長及び副生徒会長たち主導の下、関わっていた者たち全員で丁寧に、なおかつ鮮度を落とさないように迅速にさばき、巨大であった巨体は今、見る見るうちに小さくされているのであった。







 一方で、その討伐に多大な貢献をしたノインたちは…‥‥


「胃液に触れてしまったとか、少々危機管理が足りない部分はいけませんが…‥‥ご主人様が無事で、本当によかったデス」

「ああ、失われたと思われてましたが、生きていて嬉しいですわ」

「無事の生還に、心より喜び申し上げるでござるよ」

「うむ、召喚もできぬ状況じゃったらしいが‥‥‥それでも御前様はよく戻って来てくれたのじゃ‥」


 いなかった主が戻ってきたことに安堵の息を吐き、彼女達は失っていたものを取り返せた喜びに浸っていた。


 だが‥‥‥


「もごぉ‥‥‥ぞ、ぞろぞろ‥‥‥解放、して…‥‥」


‥‥‥というか、気が付いてくれ。俺、今死にかけているんだけど。


 いやまぁ、ノイン、カトレア、ルビー、ゼネ‥‥‥お前たちに非常に強い不安を与えてしまっていたことは、良く分かっている。


 でもな、取り返せた実感を求めてか、それぞれがくっつくのは良いが…‥‥解体作業中の他の人達からの視線がすごく痛い。


 美女に囲まれて、いちゃいちゃしているなとか言いたいような感じなのはわかるけどどうしようもない。


 それよりもまず…‥‥カトレア!!ノイン!!お前らが外れてくれよ!!



 ビシビシと手をはたき、できるだけ気が付いてもらおうともがくのだが、ぎゅっと抱き着いている彼女達の拘束を解くことができず、この現状を変えることができない。


 考えればわかりそうなものなのに、喜びに浸っているせいか、冷静な判断ができていないのか…‥‥まずわかれ!!


 俺今、窒息しかけているんだよぉぉぉぉ!!


 訴えかけようにも、頭の方をノインとカトレアの大きなものでふさがれ、手足をルビーとゼネに絡められ、身動きできないこの状況。


「グゲゲー!!」


 焦ったように動く、共に脱出した仲間のミミックが訴えかけるも気が付いていないようで、それぞれが安心感満載の世界に浸っていやがる。正気に戻れよ!!



…‥‥他者から見れば、美女たちに埋もれている羨ましい光景なのだろう。


 だがしかし、現在の俺にとっては、拾えた命を速攻で捨て去せようとしているやつらにしか見えないのであった…‥‥あ、なんか意識が‥‥‥綺麗な花畑と川が…‥‥


「グゲゴグッゲェェ!!」


びしん!!ばしん!!ばちん!!びっしぃん!!

「あふっ!」

「へあっ!?」

「おうっ!?」

「ひべっ!?」


…‥‥俺が意識を失う数秒前に、叫ぶだけでは無理と判断し、ゲイザーの解体会場から急いで使えそうな手ごろなサイズの触手を拝借してきたミミックが、皆をぶっ叩いて正気に戻し、一命をとりとめるのであった。












「…‥‥すいません、ご主人様」

「危い所でしたわね、マスター」

「面目ないでござる‥‥‥主様」

「つい、雰囲気に流されてしまったのじゃ、御前様」

「お前らさぁ…‥‥ちょっとは冷静になって考えろよ」

「グゲゴゲ!」


 全員正座となり、俺の言葉に反省している彼女達。


 足元ではそうだそうだと言いたげなミミックが、持ってきたゲイザーの触手を振り回していた。


「今後、同様の事を起こさないように、プログラムをしておきマス。メイドたるもの、ご主人様の命を奪いかねない行為に、深く反省致していマス。…‥‥それはそうとして、一つ良いでしょうカ?」

「なんだ?」

「先ほど、私たちを正気に戻した、そちらの方、何でしょうカ?」

「あ。そうか、説明不足だったか」


 ゲイザーの体内で、出会った小さな小箱のようなミミック。


 かくかくしかじがと説明し、彼女達はそのミミックについて理解した。


「なるほど‥‥‥元、海賊船のクルーですカ」

「どちらかと言えば、ペット枠ですわよね?」

「召喚士の召喚獣でもないのに、懐き具合がすごいでござるな」

「何じゃろうか、この種族を間違えた性格は」

「まぁ、確かにそうと言えるが‥‥‥」

「グゲェ?」


 首がないけど、箱を傾け、首をかしげるように動かすミミック。


 ミミックではなく、普通の犬であれば、それなりに人気者になったと思える人懐っこさである。いや、海賊船内でも多分人気があったかもしれない。


 ボロボロではあったが、アレは捕食された時の衝撃で傷ついていただけだろうし、丁寧に直せば結構見違えるだろう。


「何にしても、あの体内で見つけた友でもあるし、このまま連れてきたんだよなぁ」


 なお、ゲイザー体内にあった海賊船及び膨大な宝の山に関しては、既に生徒会長たちに報告済みである。


 この場合、発見者である俺の方にどうも所有権があるらしいが、食べられた嫌な思い出しかない宝を持つのは流石に嫌である。


 ある程度換金できるだろうが…‥‥大金を持っていても、ろくな目に合わなさそうなので、ココは面倒として、国へ寄進することにした。


 要は、宝の面倒事を押しつけただけ。場合によっては海賊の親戚だとか、クレクレと言ってくるような輩も出てくるだろうし、あらかじめ関係をなくすことで関わらないようにしたのだ。


 いやまぁ、大金が惜しくないかと言われれば惜しいとは思うが…‥‥面倒ごとの種になりそうなのは、この場の彼女達だけで十分だからね。宝関係の面倒事は国へ押しつけよう。



 それでも、一応このミミックに関しては、扱い的には海賊船の所有物みたいなものではあったが、一緒に脱出した友として、俺の方へ渡してもらったのであった。


「グゲェ!」

「まぁ、割と貴重なツッコミ役になりそうだというのもあるけどな。さっきお前らを正気にしただろう?」

「何とも言えないですわね」

「触手びったんはいたかったのじゃ」


 とにもかくにも、引き取ったのは良いのだが‥‥‥‥ここでちょっと問題があった。


 というのも、こんな小さな小箱でも、人食い箱という話が有名なミミックはそのまま放置するよりも、契約して召喚し、俺の召喚獣にした方が良いという。


 召喚獣にしてしまえば、いらぬ不安もなさそうだというそうだが…‥‥できればこのまま、何もしないでおきたいんだよなぁ。


「どうしてじゃ?」

「ゼネ、お前の例があるからだよ」


 俺の職業は、異界の召喚士。


 他のモンスターを召喚して契約できるが、その際に別の種族に変化する可能性が非常に高いうえに‥‥‥前例たちは、美女ばかり。


 それに、目の前のゼネはその最たるものであり、元は骨だけだったのに、今はきちんと肉が付いているのだ。


 それも種族もおっかないものに変わっているし…‥‥この下の方で犬のようにすりすりとすり寄っているミミックが、人型になるとは限らなくても、よりおっかないものに変わる可能性が無きにしも非ず。


「ノイン、ミミックが別の種族に変わる可能性は?」

「ほぼ100%デス。まぁ、流石に肉も骨もない、このミミックが人型になる可能性はほとんどないですが‥‥‥変化する場合、どうなるのかは見当も付きまセン」


 今、子犬のように懐いている小さなミミックが、人型になる可能性の方は低いようだが‥‥‥それでもちょっと安心できない。


 それなら、何も召喚獣にしなくてもいいんじゃないかというのもありそうだが、成長して人を喰らうものになる可能性も高いので、その可能性を潰してほしいというのもある。






‥‥‥まぁ、うん。ゼネの時は元人間だったからこそ、血肉が付いただけであろう。


 ノインたちだって、元からその姿でもあったし、このミミックが召喚獣になったところで、急激な変化があるとは思えない。


「…‥‥召喚獣になってみるか?」

「グ!」


 俺の問いかけに対して、肯定するように、器用に舌でサムズアップするミミック。


 流石に、この子犬ミミックがノインたちのような美女になる事は無いかな。この感じ、むしろ犬型ミミックにでもなるかもしれん。


「あ、モンスター図鑑によりますと、ミミックに類似した種族で、犬耳が生えた『ワンダフルボックス』などがありますし、そちらになるかもしれまセン」

「なんだそのちょっと面白そうなやつは」



 気になったが、それになる可能性の方が大きそうだ。


 可愛らしいペットのようなミミックが、もしかしたら小型犬のような姿になるかもしれないし、それはそれで期待できるかもしれない。


 できればカッコイイものにもなってほしいという、召喚士になりたい初心も忘れないが…‥‥やってみようか。

 

「それじゃ、このミミックを召喚獣(ペット枠)にしたいけど、全員良いよね?」

「何かちょっとおかしいのが聞こえましたが、大丈夫でしょウ」

「異論はありませんわ」

「うむ、できれば大型犬とかになってほしい願望があるでござる」

「それは流石に無理がある気がするのじゃが、まぁ大丈夫じゃろう」


 満場一致で賛成を得られたし、ゼネの時のようにやってみるか。


「えっと、合意もあるから、まずは召喚文を唱えないとね」

「グゲ!!」


 準備満タン準備万端であると言いたいようにうなずくミミック。


 できればこの可愛さのままで、なってほしいと思いつつ詠唱を開始する。


「‥‥‥『来たれ、甘きものよ、我が元へ』」


「『汝は常に、我が元へ、詰め込むものを、喜びへ変える者へ』」


‥‥‥お、なんかいつもの奴よりも、感触が良い感じの詠唱だな、コレ。期待できる。


「『我が命を受け、ふりまけその喜びも快楽も、さすれば汝に名を与えん』」


 あれ?なんか一瞬、妙な文が入ったような‥‥?


「『さぁ、さぁ、さぁ、顕現せよ、汝に与えし名はリリス!!我が元へ来たまえ!!』」

「グゲェェェ!!」



 何か気になる一文が詠唱に混じったような気がするも、召喚がなされ、ミミックが光に包まれ、煙と共に再びその場に顕現する。


 





「…‥‥んん?」

「アレ?」


 煙はすぐに消え失せ、その姿を現したのだが‥‥‥‥その容姿に、俺は嫌な予感を覚えた。


 元々、手に持てる手ごろサイズの小さな小箱であったミミック…‥‥リリス。


 異界の召喚士、としての職業の影響なのか、その箱のサイズは大きくなっていた。


 人一人が丸々入るような大きなものに変化しており、その装飾品も様変わり。


 全体が豪華な宝石のついた装飾になっており、箱が閉じているだけであれば、ちょっとどこかの宝物庫にでも入っていそうな、豪勢なモノ。


 それだけでならば、まだ良いのだが…‥‥俺の勘が警鐘を鳴らしていた。


 これ、もしかして…‥‥



「グ、ググ…‥‥」


 ぶるぶると震え、蓋を閉じたままミミックが唸る。


 装飾された宝石が連動するかのように輝き、その蓋が開く。


 その中身は、小箱時代は牙と暗闇に光る二つの目に、大きな舌だけであったはずが…‥‥変貌していた。


「グゲェェェ!!」


 変化したことに、喜びの声を上げつつ俺にすり寄ろうとするミミック。


 だがそれは、あの舌だけ外に出ていた姿ではない。


「な、な、何じゃ、こりゃああああああああ!!」


 ばっと飛びついてきたリリスではあったが、その体はどう考えてもおかしい。


 舌だけであった飛び出る部分に‥‥‥ノインたちのような肉が、いや、人の上半身があったのだ!!


 ちょっと薄めの紫色の長髪と眼に、箱に丁度入るサイズの女性の上半身。しかも何もつけていない。


「色々とおかしいだろうがぁぁぁぁぁ!!しかもこれ、種族なんだぁぁぁぁぁ!!」




…‥‥ミミックは、ダンジョンなどではトラップボックスと言われるような、罠満載の箱として恐れられている面もある。


 確かに、これもこれである意味罠になるのかもしれないが…‥‥何かが大きく間違っている。


 この日、俺は一番のツッコミを入れ、やっぱやるんじゃなかったと後悔するのであった…‥‥あ、でも性格自体に大きな変化はないのか。それはまだよかったかもしれん。


返せェェェェ!あのチビミミック返せェェ!

っと、叫んでももはや意味はない。

異界の召喚士という職業事態に、俺はものすごく疑問を抱くのであった…‥‥


‥‥‥でも、人型になったのに、何でノインたちのように人言を離せていないんだ?

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