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69 後悔とは遅いものであると

「ゲザァアァァァ!!ァァァァァァアアア!!」


…‥‥ゲイザーは叫んでいた。なぜこうなったのか、理解できずに。



 自分と同等、もしくはそれ以上の相手がいるらしい、この浜辺。


 その相手を動かしていたと思われる者を捕食し、指示がなければバラバラになるだろうと思っていたはずなのに‥‥‥何故、相手はこうも見事な連携を、いや、地獄の行いをしてくるのだろうか、と。



 触手を伸ばし、水流をさらに圧縮してものをスパッと切れるようにし、防げるものなどいないはずと思っていた攻撃をしたというのに…‥‥



ゴォォウ!!

ガギィン!!


 触手のほうはいともたやすく焼き払われて灰となり、水流の方は瞬時に凍り付かされ、砕かれる。


 しかも、じわじわと体が痛むと思っていたら、自身の真下は黒い靄のような物が覆っており、じくじくと痛めつけてきているのだ。


 脱出しようにも、回転して振り払おうにも、この場から逃げることはできない。


 大きな目玉全体を逃さないように太い蔓が幾重にも巻き付き、更に鎖のようなものも追加で巻かれ、捕縛されている。


ザスザスザスザス!!

「ゲザァァァァァアアア!!」


 刺さるような痛みが何度もあると思ったら、単眼に見える複眼の一つ一つが丁寧に、ナイフで刺されまくっていた。



「…‥‥さぁ、ご主人様を返しなサイ。いえ、もしくはここで息絶え、かっさばかせなさい」

「栄養全て、吸い取って、干物にした後にマスターを取り出させてもらいますわよ」

「主殿のためにも、まずはお主を的確に仕留めねばならないでござるからなぁ」

「ああ、魂の方もしっかりと痛めつけるのじゃ。精神的な魔法の分野では、儂の方が得意じゃからのぅ」


 ふふふふっと、目の前で笑うのは美女たちだとは思われるが‥‥‥‥笑い声はしていても、その顔は笑っていない。


 その目の奥には、ゲイザーに向ける怒りの業火が燃えたぎっており、ただでは済まさないと異様にしか見えないだろう。


「ゲ、ゲザアァァッァァァァァ!!」


 いっそあっさりと討伐してくれと言いたいのに、こいつらはそうはさせない。


 気が狂いそうになるというのに、この黒い靄の方から精神が修復される気配もしており、許されない。


 巻きつけられる蔓から根が生え、自分に刺さっていくのを止められない。



…‥‥今まさに、ゲイザーは後悔と絶望の狭間に置かれていたのであった。











「‥‥‥んー、やっぱり、俺程度のへなちょこパンチじゃダメか」

「グゲェェェ…‥」


 ゲイザーの腹の中で、ディーは脱出を試みて、あちこちを移動していた。


 骨の島を渡り歩き、壁際に‥‥‥胃の壁と思われる部分を見つけたのだが、ただの人間のパンチじゃびくともしない。


「胃液辺りがあるから、協力してもらったけど‥‥‥これ以上は無理?」

「グゲェイ」


 胃液防止のために、手をちょっとミミックに喰ってもらい、その小箱の体をグローブ代わりにして殴って見たが、俺程度の力ではこの壁はぶち破れない。


 何回かやって見たが、ミミックの方に負担が来そうなので、一旦諦めることにした。



「はぁ‥‥‥だいぶ疲れたなぁ」

「グゲ」


 腰を落とし、浮島に倒れ込むと、ミミックの方も俺のつぶやきに同意するように答える。


 一人ぼっちじゃなくなったのは良いのだが、一人と一匹の力では、全然この状況を好転させることができていない。


 この空間は俺たちを逃すまいとでも言うように、堅牢であり、希望を見せてくれないようだ。


「召喚さえ使えればノインたちを呼びだして、脱出できそうなのに‥‥‥」


 いかに、普段召喚に頼ってしまったのか、俺はちょっと自覚した。


 うん、忘れがちにというか、ツッコミを放棄したくなるというか、ノインたちって結構凄かったからね。


 家事能力、植物生成、怪力、幻術‥‥‥各々がいかに優れ、そして助けになっていたのか、この隔絶した空間の中でひどく身に染みる。



「‥‥‥ノイン、カトレア、ルビー、ゼネ‥‥‥今、どうなっているんだろうか」


 召喚したいのに、召喚できない彼女達。


 ミミックという友人をここで作っても、やはり心細くなっては来るのだ。


「グゲェ、グゲェグ」


 っと、ちょっと悲しくなってきたところで、すりすりとミミックが俺にすりついてきた。


「慰めてくれているのか?」

「グゲ!」


 そうだよ、というように舌を出して器用にサムズアップするミミック。


 ありがたいというのもあるけど…‥‥考えて見たら、俺よりもこのミミックの方がゲイザー内部に長くいるわけだし、より心細いのもあったのかもしれない。


 なんというか、寂しい者同士で慰め合い、気力を取り戻す。


「そうだよな、諦められないもんな。拳とかが駄目なら、その辺の骨を拾ってきて、刺してみるか!」

「グゲェ!」


 殴って駄目なら刺してみろ!!もしくは刺して駄目なら抉ってみろ!


 幸いというべきか、この辺りに浮かぶ骨には鋭いものも多く、何かの肋骨とか牙の可能性もあるが、利用できそうなものがそれなりにあるのである。


‥‥‥というかここ、骨とか溶けていないけど、貯まり切ったらどうする気なんだろうか?それとも別の場所につながるところがあって、そこで骨も溶けているのだろうか?


 ちょっと気になりはすれども、やってみる価値があるならば挑むのみ。



「適当に、都合よさそうでなおかつ海から拾えそうなのは‥‥‥あれか?」


 丁度いいサイズの鋭い骨があったので、それを試すことにした。


 手に構え、ランスのように突き刺すイメージで‥‥‥いつぞやか、ゼネが王子を宙へぶっとばしてしまったあのイメージで…‥‥


「どっせぇい!!」


ばぎぃ!!

「‥‥‥あ」

「グゲェ…‥」


 壁に激突させた瞬間、骨が一気に砕けた。


「…‥‥もしかして、脆くなっていたのか?」

「グゲェゴゲ」


 見た目は頑丈そうなくせに、どうも中身がスカスカだったようである…‥‥いや、待てよ?


 そうじゃなくて‥‥‥もしかして、ここら辺に浮いている骨全てがそうではなかろうか?


 この消化液、骨や木材などは溶けないと思っていたが、考えてみればゲイザーがあの巨大サイズまで成長するのには、それなりの年月も食料も必要だろうし、今以上にここは大量の骨などに埋もれていた可能性もある。


 そうだとすると、浮島のように点在している理由としては…‥‥骨も溶けているのではないだろうか。


 肉とかのように一瞬ではなく、じわりじわりとゆっくり溶けて‥‥‥だとすれば‥‥‥


「‥‥‥なんか、すっごい嫌な予感がするんだけど」

「グゲ」


 たらぁっと冷や汗が流れ始め、いやな予感に対して同意するようにミミックもそう答える。


 この骨、今のも相当脆かったけど、もしこの辺りに一帯も同じような状態であれば‥‥‥



――――ベキッ!!


 その瞬間、いやな音が聞こえ始めた。


 俺たちが、ここいらを歩き回り、渡るために飛んだり、壁を殴るために踏み入れていたりしていた代償が今、あらわになってしまうようだ。


―――ベキベキ、バキバキ!!

「げぇぇぇ!?崩れ始めた!!」

「グゲゴゲェ!!」



 周囲を見渡してみれば、あちらこちらの骨の島にひびが入り、砕けていく。


 しかも、その骨の日々は俺たちが乗っている浮島にも及び、こちらも今まさに、砕け散ろうとしていた。


「逃げろぉぉぉぉぉ!!」

「グゲェェェェ!!」


 ミミックを抱え、俺が走り出すと同時に、先ほどまでいた場所が砕け散り、消化液の海へ沈んでいく。


 しかも、崩れ始めた島が多すぎるせいで安全地帯を捜しにくく、辛うじて残っている島を命がけで渡らなければならない。


「よっと、ほっと、あっと、へっと!!」


 川にある石の上を遊びで渡る要領で、命がけの島渡りを開始し始める。


 落ちたら最後、溶けて死亡するのは目に見えている、命がけの島渡り。


「グゲゴゲェ!!」

「あっちの方か!!あれはまだ、砕けてないからな!!」


 びしぃっと舌で方向を示すミミックに従い、俺はその方向へ向かえる島を素早く判断して渡っていく。


 この状況だと小箱のミミックも確実に溶ける可能性が大きいし、俺たちは今まさに、一蓮托生の命がけの逃走をしているのだ。


「グゲッ!」

「右!」

「ゴゲェ!」

「左30度!」

「グゴゲェ!!」

「斜め後ろステップからの大ジャンプ!!」


 ミミックの方でも渡れそうな場所を判断し、その島へ向けて飛びつつ、再び目的地へ向かうように軌道を修正していく。


 



 そしていよいよ、あと3個ほどの島を渡ればいい…‥‥そう思った、その瞬間であった。


「よし!!あとはあれとあれとあれだな!!」

「グ、」


ドッゴォォォォォン!!

「「!?」」


 突然、先ほどまで何も揺れることがなかった空間に、強烈な音と振動が伝わる。


 その衝撃によって、今まさに渡ろうとしていた島が砕け散り、次に止まる予定が無くなった。


「うっそぅ!?ここに来てかよぉぉぉぉ!!」

「グゲゴゲェェェェ!?」


 あともうちょっとだったというのに、その振動のせいで着地地点が消滅している。


 残っているのは、はぁいっと言っているような肉を溶かす消化液。


 もはやこれまでか‥‥‥‥!!そう思った、次の瞬間。



しゅるるるるるるるるるるるびしぃっ!!

「ぐえっ!?」

「ゴゲッ!?」


 何処からか、聞いた音が聞こえてきて、手で抱えていたミミックごと。俺は何かに巻き付かれた。



「こ、これは‥‥‥蔓!ってことは!!」


 見れば、巻き付いているのは見たことがある蔓であり、気が付けば何もなかった天井に大穴が空いていた。


 先ほどの振動はその穴が空いたせいであり‥‥‥そこにいたのは、召喚したかった彼女達。



「分析完了、下の液体にご主人様を落とさないようにしてくだサイ!!カトレア、締め上げそのまま、ルビー、全速力!!」

「わかってますわよ!!ルビー、マスターを引っ張り上げるのを手伝ってくださいませ!」

「引き上げ手伝い完了でござるよ!早急にやるでござるよ主殿!」

「傷口は固定しているので、閉じることは無いのじゃよ!なので御前様を落ち着いて引き上げるのじゃぁ!!」


「ノイン!カトレア!ルビー!ゼネ!!」


 ゲイザーの傷口と思わしき部分を黒い霧のようなものでゼネは覆い、ルビーはカトレアが俺達へ巻き付けている蔓を翼を広げて宙へ牽引し、ノインが落ちないように微細な調整角度をカトレアに伝えている。


「グゲゴゲ!」

「ああ、彼女達だよ、俺が会いたかったのは!」


 助かったことにミミックが喜びつつ、俺もこの九死に一生を得たことに、心の底から感謝するのであった…‥‥




…‥‥ところで、その位置って多分ゲイザーの眼球部分だよね?もしかして、内部にはいる間にゲイザーを倒し終えたのだろうか?


 それにしては、なんかやけに焦げ臭いというか、肉が不十分に焼けた臭いがするような‥‥‥‥


 





いかに普段、ノインたちに助けられていたのかが、良く分かった。

今回のような状況に陥った時の対策をしなければならないだろう。

今は何にしても、この再会を喜ぶだけで良い…‥‥



…‥‥ところで、すっごい嫌な臭いが周囲から漂っているのだが。

ゲイザーを討伐したのは良いのかもしれないけど、何をどうしたんだ?

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