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63 それは過去からのものでもあり、油断していた者が悪かったようで

本日2話目。ちょっと短かったので…‥

…‥デオドラント神聖国はかつて、大腐敗時代と呼ばれるほどの汚職などですさまじく穢れている時もあったが、今は大掃除がなされ、徹底した公衆衛生の向上、腐敗した者どもを一掃、今後の予防策などがなされ、今では綺麗な姿に変貌していた。


 とはいえ、かつての負の遺産は消えたわけではない。


 大腐敗時代に甘い汁をむさぼっていた者たちは逃げ延びていたり、その腐敗の中で生まれた狂信者たちも同様に姿を忍ばせており、復活の時を狙っていた。




 それを油断せずに警戒し続けているも、長い年月を経て脅威を忘れ、対応できなくなる者たちが増えてくる。


 だからこそ、定期的にその増減に対応できるようにということで、当時の技術の粋が、いや、それ以上のものが結集され、残された者たちがいた。


 



‥‥‥深夜、その技術が眠っている中で、ひとつのものが目覚める。


 起床理由は、増減への対応‥‥‥ではなかった。


 そう、彼女だけは、その理由を表向きのものとして、ここで眠っていたにすぎない。


 今、その裏の方で企んでいたことに関して、目覚め、その目ざめに気が付いた管理者たちが彼女を手助けし、コンディションを整えさせる。


「…‥‥‥ふふ、ふふふふふふう、あれからもう、かなりの年月が経過していますのね」


 今の年代を聞き、自分がどれだけの長い間、この地で眠っていたのか彼女は理解し、眠っていた体を起こさせるために、準備運動をし始める。


 彼女は人間。けれどもその想いは、その人間としての枠組みを超えた並外れた力を持つ。


「ちょっと起床に時間がかかってしまいましたが…‥‥風が運んで来た、この香り。間違いないわ」


 キランっと目を光らせ、外に出て夜風からほんの僅かにしかないはずのその香りをかぎ、にまぁっと笑顔を作り、向かい始める。


「色々と変わっているかもしれませんが…‥‥間違いない間違いない間違いない間違いない!!今行きますわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 そう叫び、疾走をし始める。


 やや想いが暴走したがゆえに、人として何かこう、いけない物を無くした気がしなくもないが、地面を踏み砕くほどの勢いで、彼女はその目当ての物が去る前に、確実に会うために駆け抜ける。


 物凄い土ぼこりが後を遅れて舞い上がり、踏み砕かれた道がその想いの凄まじさを物語っているのであった…‥‥









「ふわぁ‥‥‥ありゃ、まだ夜中か」


 なんとなく、いつもの部屋と違うせいか、宿の一室で俺は目を覚ましていた。


 まだ真夜中のようで暗いし、二度寝を‥‥


「いや、トイレに行くか」


 ちょっと寝る前に水を飲み過ぎたようだし、洩らすのも嫌なので宿のトイレに俺は向かった。


 部屋を出て廊下を渡り、直ぐに用を済ませてしまう。


 そして、さっさと布団に潜り直そうと思っている中‥‥‥ふと、気が付いた。


「ん?」


 月明りゆえに、窓の外に宿の影が道に映っているのは分かる。


 ただ、その影の‥‥‥ちょうど、宿の屋根の部分に、誰かがいるらしい影があった。


「誰か起きて、屋根で月でも見ているのかな‥‥?」

「確認いたしましょうカ?」

「うおっ!?」


 突然、背後から話しかけられてビックリして振り返って見れば、そこにはノインが立っていた。


 いつものメイド服でありつつ、まったく眠っていた気配もない、いつも通りの彼女。


 でも、気配もなく忍び寄っていたのはやめて欲しい…‥‥今、心臓が本当に止まるかと持った。


「危なっ、叫ぶとこだったけど‥‥‥いや、先ずお前何でここにいるの?別室で寝ていなかったか?」

「私、眠る必要性は余り無いですからネ。メイドとして、ご主人様の身の安全を守るために、この付近を巡回していたのですが、そこで見かけ、つぶやかれたのでそれに対応しただけなのデス」

「そうか」


‥‥‥眠る必要性か。そう言えば、彼女メイドゴーレムだったな。確かに、ゴーレムに睡眠の必要性があるのかは疑問だが‥‥‥


「あ、でも、カトレアとかルビーも寝ているのか」

「ええ、そうデス。ですが、私の他に、もう一名眠っていないのが…‥‥」










「‥‥‥何じゃ、御前様かのぅ。後ノインか」

「やっぱり、ゼネか。お前何で屋根の上にいるんだよ」

「ん?儂だって、たまにはこうやって感傷に浸りたい時もあるのじゃ」


 ノインに担いでもらい、屋根の上に登ってもらえば、そこにはゼネが座っていた。


 夜風に吹かれてきているマントのような衣服がなびき、ちょっと月明りで神秘的な光景にも見える。


「ノインから聞いたけど、お前寝ていなかったのか」

「うむ。ナイトメア・ワイト…‥‥アンデッドとなったがゆえに、睡眠自体必要なくてのぅ。ひどく疲れておるのであれば、流石に寝るのじゃが、必要ない時はこうして起きてしまうのじゃよ。それに‥‥‥この国は、昔の儂にとっては、色々あったからのぅ」

「その事を思い出して、ちょっと感傷にふけっていたてって訳か」

「そう言う事じゃ。あ、隣座るかのぅ?」


 さっとノインに屋根でも平気な椅子とやらをセットしてもらい、そこに俺達は腰かける。


 宿自体はそこまで高くもなく、神聖国全体を見る事もできないが、月明りの景色はどことなく良いものように思えた。


「‥‥‥色々あったというけど、それは生前の話か」

「そうじゃな。どれだけの月日が流れたのかはわからぬが…‥‥御前様も聞いたことがあるじゃろう?儂、元聖女じゃと」


 そう言いながら、彼女は軽く、過去を話してくれた。



‥‥‥ゼネは、今でこそアンデッドのモンスターではあるのだが、彼女は元人間。


 それも、職業では物凄く珍しい聖女というものを持っていたそうなのだ。


 彼女は生前、どうやらこの神聖国に住んでいた時があったそうなのだが…‥‥その時代は、不運なことに、この国の大腐敗時代と言われる時だったらしい。


 聖女という職業は、医師や魔法使いとは異なる魔法や癒しが扱え、非常に珍しい存在として見られ、その力を利用しようと企む者たちがおり、物理的にも性的にも狙われることがあったようだ。


「ま、全部潰したからのぅ。今はナイトメア・ワイトゆえにそこまで力があるわけでもないが、当時は活発でな、襲ってきたらもう二度と子孫が残せない状態にしてやったことが多かったのじゃ」

「聖女ってなんだっけ?」


 とにもかくにも、彼女は今よりも活発であり、後ついでに余計な事なのか男以上の男らしさもあったようで‥‥‥いや、その点に関しては、口をつぐんでしまった。


 どうやら相当トラウマがあるようで、その部分に関しては話せなくなるようである。


「ま、まぁ気を取り直すが、それでも儂は、聖女として何をすべきかを考え、人々を救ったりしたのじゃ」



 民からの信頼の声も厚く、ドン引きレベルの信奉者もいたようだが、それなりに順風満帆な人生を送っていたらしい。


 とはいえ、流石に生涯独身ともいかずに、結婚相手を探そうとしたその頃合いで‥‥‥悲劇が起きてしまった。


 当時の神聖国の腐敗は進み過ぎており、聖女として動く彼女を利用したいと思う者たちがいる一方で、むしろ邪魔者になるとして、排除しようとする者たちもいた。


 そしてその両者がどこかで協力関係を築き上げ…‥‥彼女を罠に嵌めたのである。


「まぁ、利用:排除の割合で1:9ぐらいじゃとは思う。子を成せぬ輩が多かったし、むしろ儂自身を排除すべく、罠にかけたようじゃ」

「その罠って?」

「単純明快に、毒じゃな」


 彼女が眠っていた真夜中、その結託した者たちが忍び寄り、彼女の部屋に強力な毒を捲いた。


 聖女ゆえに、浄化能力もしっかりとあったようで、ほとんどの毒を排除はできたのだが…‥‥その浄化作業中の隙を突かれ、飛び道具で腱を狙って攻撃され、倒れたところで押さえつけられ、更に動けなくされたのである。


 そこから相手の行動は早く、素早く動けなくした彼女を昏倒させ、輸送した。


 そして、目が覚めた時に彼女がいたのは‥‥‥神聖国内に当時あった、処刑台。


 腐敗した者たちが、自分たちにとって都合の悪いものをそこで処分しており、そこに彼女は送り込まれたのである。


 流石に色々と無くなっていた相手が多かった故か、寝ている間に女として辱められることもなかったそうだが、気が付けばその処刑台に連行されており、刑がなされる状態にされていた。


 周囲には、彼女を逆恨みしていたり、邪魔者に思っていた者たちが観客として大勢集まっており、刑がなされるのを今か今かと待ちわびていた。


 抵抗しようかと、彼女は考えたそうだが‥‥‥生憎、寝ている間にさらに薬でも打たれたのか、体に力は入らない。


 拘束されているし、どうしよもない状況なので、彼女は潔く諦め…‥‥


「‥‥‥処刑方法は、聖女ゆえの浄化能力も考えてなのか、毒薬ではなく断頭じゃった。流石にそこから蘇生はできぬし、醜い笑みで見ておったのぅ。じゃけど…‥‥」

「ん?」

「‥‥‥御前様、先ほど儂、ドン引きレベルの信奉者たちがおると言ったじゃろう?そんな奴らが、儂の処刑に関して黙っておると思うのか?」

「‥‥‥まさか」



‥‥‥今の、ナイトメア・ワイトとして俺の召喚獣になっているゼネ。


 ノインたちとは違って女子生徒たちの方に好意を持たれており、それはそれで結構熱いお姉さまコール的なものを浴びせられたりもするのだが‥‥‥生前、それもドン引きレベルとなると‥‥‥



「‥‥‥間に合わなかったのじゃが、人って断頭された後もわずかに意識があるようじゃ。そのせいで、観てしまったのじゃよ」

「その信奉者たちをか?」

「その通りじゃ。儂の処刑の話を素早く手に入れ、阻止しようと各地から集まって‥‥‥処刑台がやや高めの場所にあって、遠くからでも見えるほどまで近づき、そして処刑された瞬間…‥‥憤怒の形相から、さらにその上を行く、言い表せないほどのやばいものをのぅ」


 今でこそ、正常化されており、きれいさっぱりとゴミ一つないほどの神聖国。


 だが、大腐敗時代はゴミも多くあったようで、彼女達がその顔に切り替わった瞬間、ゼネは見たそうである。


 ほんのわずかな、命を落とすまでの時間の中で、怒りを越えた怒りを持った信奉者たちの姿を。


 瞬時に着火して、本当の業火を引き起こした者たちの姿を。


 その場が処刑場から、断罪場へと切り替わる、その瞬間を‥‥‥‥


「正直言って、笑っておったその豚共に怒りは持ったのじゃが‥‥‥憐みも持ったのぅ。あれは本当に、死ぬかと思った。いや、儂死んでおるのじゃが、生きとし生けるものすべてが生きていけぬような、真の地獄になったからのぅ‥‥‥その後が見れなくて、良かったのかもしれん」



 遠い目をして、ゼネはそう語り終えた。


 よっぽど恐怖の光景だったのか、足をややガクブルと思い出し恐怖に震わせて。


「なんというか、最後が凄まじいというか‥‥‥そこまで怖かったのか」

「うむ、アレはもう、睨むだけで命を無くせるような、そんなものじゃった‥‥‥」


 思い出し、ガクブルと震えるゼネ。


 彼女のための行動だったとはいえ、その地獄を見せられてしまうのはよっぽどの恐怖だったのだろう。


「特に、先頭におった、儂の妹が一番怖かったのじゃ‥‥‥あやつ、姉妹なのに一線を越えようと凶行に走りかけたこともあるしのぅ」

「あ、妹いたんだ。俺と同じか」

「私も同じですネ。妹と呼べるかは疑問ですが‥‥‥」

「そうかそうか‥‥‥」

「「「ん?」」」


‥‥‥あれ?今なんか、お互いに初めて知ったような話があったような。


「‥‥‥え、ノインも妹がいたの?」

「私の場合は、姉妹機というべきですが‥‥‥ご主人様に、妹様がいらっしゃったのですか」

「ふむ、これまた意外な情報じゃな。知らんかったわい」


 まぁ、そこまで家族の話に、俺たちは触れたことはない。


 ノインの場合は番号から後続機とか予想できたけどね。



 まさかの妹持ちということに、俺たちが互いに驚きつつ、共感を覚えていた‥‥‥その時であった。



ーーーーーズドドドドドドド!!


「「「ん?」」」


 なにやら妙な振動音が聞こえ、その音がする方向へ俺たちは目を向ける。


 見れば、遠くに何やら物凄い土煙が出ているようだが、発生源に追いつかない様子。


「‥‥‥何だ、アレ?」

「何か、接近してますネ」

「何事かのぅ…‥うぉっ!!」

「どうした、ゼネ!」

「なんか今、すっごい悪寒がして‥‥‥まさか、まさか!?いや、流石に無いじゃろ!!結構年月は経過しているはずじゃし、この感覚があるとは言え、いるはずもあるまい!!」


 急に震えだすゼネ。


 何かを否定するように口にするが、その顔には物凄い不安が現れていた。


 一方で、その土煙はさらに接近しており…‥‥曲がり角を抜けて、こちらに向かってくる姿が捕らえられた。




 身長的には、ゼネよりやや小柄な方。


 だが、彼女に似ているような容姿でありつつ、少しばかり年齢が上回っているような、長髪の女性。


「あああああ!!やっぱり、やっぱり間違いないです!!ついにこの時代にて巡り合うことができましたわ愛しのお姉さまぁぁぁあああはすはふふふふふしゅぬぬいしゅあなおうすおあ!!」

「なんか興奮しすぎて頭がおかしくなっているような人が来た!?」

「げええええええええっ!?な、何で相当な年月が経過しておるはずじゃのに、ほとんど老化しておらぬのじゃ!!」

「え!?まさか!?」

「あれ、今の話の妹じゃよ!!いや今はそんな事よりも、御前様全速力で儂はこの場から逃げるから、ある程度引き離せたところで召喚して逃れられるように頼むのじゃぁぁぁぁ!!」

「逃がしませんわよ、お姉さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 ゼネが急いで屋根を飛び跳ねながら駆けぬけて逃亡した後、続けてその謎の女性‥‥‥年月が経過しているのにおかしい若さの女性が屋根までひと息で飛んで、続けて後を追いかけ始める。


 そのまさかの姉妹の鬼ごっこに、俺たちはあっけにとられるのであった…‥‥‥




「‥‥‥なぁ、ノイン。あれ、本当にゼネの妹か?」

「‥‥‥抜けた髪の毛から、遺伝子照合…‥‥間違いありまセン。子孫とかではなく、本当に妹のようデス」

「じゃあ、何で若く見えるの?結構年月が経っているって聞いているんだけど」

「流石の私でも、直ぐには分かりまセン。手段としては、いくつかあることは確認済みですが‥‥‥どうしましょウ?」


‥‥‥いや、本当にあれどうしよう。姉妹の再会にしては、微笑ましいどころか、どこか狂気じみたものを感じ取ったし、彼女が全速力で逃げたのであれば、無理に会わせる事もないだろうし…‥‥


「‥‥‥ルビーを起こしてきてくれ。ゼネをもって最高速度で距離を引き離して、ある程度大丈夫な時間経過で、召喚して連れ戻す」

「了解デス」


 今はまず、逃亡に手を貸したほうが良さそうだ。なんか狂気じみていたのを感じ取ったし、逃げるのも無理はないと思えたからね‥‥‥‥謎は多いが、ひとまずはそうしよう。





‥‥‥あの姉妹、仲が悪くは無さそうだが、妹の方から狂気を感じたような気がする。

狂信者とは、まさにあれなのかと思いたくもなるような‥‥‥取りあえず、逃亡に手を貸そう。



‥‥‥しかし、ほんのわずかしか見んかったけど、本気で怖かった。うん、あれ逃げるのも無理ない。

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