60 どっちが襲撃者なのだろうかと言いたくなることもある
‥‥‥ガタガタと振動する、薄暗い幌馬車の中。
その中には多くの子供たちが眠らされている中…‥‥
(‥‥‥困ったわ)
目隠し口封じ手足拘束の、まさに手も足も出ずに、一寸先も見えず、叫ぶこともできない中で、ヴィステルダム王国の第1王女であるミウは、心の中でそうつぶやいた。
薬で眠らされていたようだが、どうも今は効き目が切れたらしく、状況がばっちりわかってしまっている状態。
辺りが見えないが、耳までは隠されていないので、音だけでもなんとか推測できているのである。
(何かの幌馬車‥‥‥布ずれからして、荷馬車というべきでしょうね。荷物に紛れ込ませて移動しているのでしょう)
耳をすませば、小さな寝息が幾つも聞こえ、自分以外の囚われていた子供たちが眠らされていることを確認できる。
自分の兄でもある第3王子が集めてきた、未来溢れる子たち…‥‥あの少々特殊な性癖までは理解しがたいが、それでも国民となるのであれば、大事にしなければいけないだろう。
この状況を考えると、自分たちを何処かへ輸送しているのは間違いない。
問題は、どこになのかだが…‥‥大方の予想とすれば、馬車を襲撃したあの化け物共の雇い主か、あるいはその雇い主から購入した者の方か‥‥‥どっちにしても良い未来が見えるわけでもない。
(さて、どうしましょうか?)
それでも諦めずにどうにか行動したいところだが、まずは何をすべきなのかが分からない。
これが、もし騎士とかであれば力づくで、魔法使いとかであれば魔法で脱出を図れるのだが‥‥‥生憎、彼女の職業は、荒業向きではない職業。
まさかの父親と同じ職業『遊び人』なので、無理に動けないのである。
遊び人という職業は、名前の通りに遊ぶだけに思われがちだが、それは違う。
情報収集能力に長け、人々と円滑にコミュニケーションを取りやすく、自然と触れ合えるようになり、そしていつの間にか膨大な情報を取ることができる、ある意味諜報向けの職業。
もちろん、ギャンブルなどにも強いというのもあるが、それよりもその能力に目を付け、高めるようにしている人は多くいたりするのだ。
中には、その情報収集能力や洞察力を持って、王族に意見をして政治を正すことができる道化師になる者もいたりはするのだが…‥‥今は、その職業の能力で、ただ情報を集める事しかできない。
(何もできないわけではないし、せめて情報を集め…‥‥んん?)
周囲の音に耳を澄ませ、最後の時まで、役立つような情報を集めるべきかと方針付けた矢先、ふと、彼女の耳に妙な音が入った。
―――――ぁぁぁぁ!!
(叫び声?)
馬車の周囲にいる者たちではなく、後方から迫りくると思われる、男の叫び声。
いや、少々角度が上向きなのがおかしいのだが、その声の様子からして色々とやばそうな感じがあり、いやな予感を彼女は覚えた。
――――――あああああああああああああああ!!
(‥‥‥この角度、接近速度、感情の恐怖心‥‥‥ま、まさか)
どんどん迫りくる音に対して推測し、どの様な結果があるのか理解してしまった彼女は、冷や汗をかく。
せめて、被害を免れようと思った、その瞬間。
どっがぁあぁあああああああああああああああああん!!
ものすごい勢いで、馬車の前方にその悲鳴の主と何かが落下した音が響き渡り、ちょっと着弾位置の予想が外れていたことに、ほっと安堵の息を吐く。
だが、一体何が落ちてきたのだろうか?
疑問に思う中、外の声に耳を傾けると、どうも騒ぎになっていた。
―――――おい!!なんだ目の前に何かが落ちてきたぞ!!
――――だれだ!!そこにい、
―――邪魔デス
ゴッスゥゥン!!
―――――ぎやああああああああ!!
(‥‥‥あ、先ず一人、何か硬いもので殴られたのかしら?)
――――ひでぇぇえ!!この女、何をしや、
――――遅れてしまったのですわ。えいっ。
ぶっすぅぅぅん!!
――――ぎゃっぺぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
(こ、今度は何か鋭利なもので、お尻を刺された感じ?)
どうも、何者かが落ちてきて、周囲の者たちを襲撃し、撃退しているらしい。
だがしかし、何と言うか撃退方法がおかしいような気がしてきた。
―――ひぇぇぇ!?こ、こんな奴らを相手にできるか!!
―――おっと、逃がさないでござるよ。
びっだぁぁぁぁん!!
―――ごげぇぇぇぇぇ!?
(‥‥‥?何かしら、今の?何かを叩きつけたっぽいのは分かるのだけれども、鞭でもないですし‥‥‥)
―――ぬぅ、皆好き勝手やっているのぅ。ま、これだけの人数相手では早い者勝ちじゃしな。
―――油断しているお前を、せめてやっつ、
―――――あ、すまんのぅ。そこ、既に仕掛け済みじゃ。
めごぉぉぉぉうっす!!
―――――あああああああああああああああああああああああああ!?
――――しまった。、仕掛け方を間違えたのじゃ。潰れちゃったのじゃ。
(潰れたって、何が!?)
次から次へと、彼女達を襲撃した者たちが、飛来してきた何者かにやられていく様に、ミウはただ傍観することしかできない。
色々と危害を加えようとして来た相手が悲惨な目にあうのは良いのだが、どことなく悲惨過ぎるような気がしなくもない。
―――痛たた‥‥‥ノイン、まさか全員で砲撃してそのままふっ飛ばすとか、どんな輸送方法だよ。
―――空中キャッチして着地の衝撃を和らげましたヨ?
―――いや、確かに十分なクッションとなるようなところはあったけど…‥
――油断しているなこのやろぉぉぉ
――おっと、取りあえずこれデ。
バァァァン!!
――このハリセン、ご主人様が扱われる前にテストしましたが、これ、私たちに使われるとシャレになりませんネ。
――使わないぞ!!というか、金属製のハリセンって使えるかぁぁぁぁ!!
(金属製のハリセン!?)
ぎゅううううううううう!!
―――んー、骨も砕かないレベルの蔓の練習に、ちょうどいいですわね。
――いや、なんか砕けているけど!!骨木っ端微塵で軟体化しているだけだ!!
(骨粉砕!?)
びだだだだだだだん!!
――お、主殿。こやつらビンタだけで倒せるようでござるよ。
――首が変な方向に曲がっているんだけど!!一回転しているやつもいるし、これ完全に逝ったぞ!!
(ビンタでどうやって!?)
ずずずず…‥‥
―――ふぅ、お茶がうまいのぅ。後はもう、放置で十分じゃな。
―――茶のすする音かとおもったら、なんかどす黒い沼ができて相手沈みこんでいるのだが!?
(それ、同じように思ってましたけど、なんか違うの!?)
あっちこっちで敵の断末魔が聞こえてきており、もっとヤバい奴らの襲撃に合っているのではないだろうかとミウは思った。
そして数分後、ようやく馬車の周囲が静まり返り、地面に伏せて痙攣している者たちの音だけが、静かに響き渡る。
――――やり過ぎだろ、コレ。
(その言葉に、滅茶苦茶同意します)
聞こえてくるその言葉に内心同意しつつも、彼女は身構える。
どうも助かったような感じがしつつも、もっと危険そうな感じもする、周囲の状況。
声からすると、男女比率は1:4程度であるが‥‥‥それだけでは、何が起きたのか詳細が分からない。
そうこうしているうちに、ふと目隠しのされている中でも、馬車の中に光が当てられたことに気が付いた。
「ライト機能、ONデス。やや薄暗くして見えないようにしていますが、この程度であれば問題ありまセン」
「いや、布を取り払えば良いだけの話だろうけど‥‥‥まぁ、良いか。結構荷物があるけど、攫われた王女や子供たちはここにいるんだよね?」
「間違いないでしょウ。センサー反応あり‥‥‥そこの箱の横ですネ」
そう聞こえてきたと思うと、がごっという音と共に、傍にあったらしい箱が無くなる。
「本当だ。子供数名に‥‥‥あとは、あの第3王子が言って居た王女様か」
(!)
兄であり、あの場所に残された第3王子の言葉が出て、ミウは驚く。
どうやら、あのアジトの方からやってきたようであり、この様子を考えるに、既に殲滅済みでどうにかしてきたに違いないだろう。
…‥‥とは言え、外の光景を音から推測すると、かなり阿鼻叫喚なことになっているのは間違いない。
しかもこれ、移動中の襲撃のようなものであり、救出の方を考えてある程度加減していたのであれば、移動せずにその場に的があるようなアジトの方は、より悲惨になっている可能性がある。
救出に来てくれたらしいが、むしろよりヤバい奴の助けのような、と思わず彼女は思うのであった。
弾着し、一気に制圧完了。
周囲がやや悲惨ではあるが、暴れられなくしたのでまだ良いのかもしれない。
しかしなぁ、これ相手の方が本来の襲撃者だよね?俺たちの方がよりヤバい襲撃者になってない?
…‥少なくとも、合宿までの道中で余計な手間を取らされたので、そのうっぷん晴らしにはちょうど良かったのかもしれない。




