59 とりあえず犠牲は確定しまして
‥‥‥カクカクシカジカっと、話を聞くと、どうやら王子たちは既に、この第3王子及びこの場にいない第1王女が行方不明になっており、この国境付近での物騒な話しを入手していたらしい。
「ああ、これは国王陛下‥‥‥こちらの父が入手してきた情報だ」
「僕らの父の職業は『遊び人』だけど、その伝手を活かして情報収集をしていてね、その中にちょっとこのあたりがあぶないんじゃないかな~って情報を得ていたんだよ」
「となると、国王陛下から言われてわかっていたけど、合宿を行ったのは?」
「国王命令だ。道中で何かあっても、こちらで対処できるだろうし」
「弟、妹の姿を見かけて、直ぐに判断できるのも僕らぐらいだという事で、合宿が中止にされなかったんだよね」
「要は全ての元凶は、国王陛下でよろしいでしょうカ?」
「「その通り」」
「‥‥何だろう、今、父上が兄上たちの手によって売られたように見えたのだが」
ノインの言葉に対しての第1.2王子達の返答を見て、第3王子がそうつぶやく。
その意見、俺も同意である。王族だけど、国王が王子に売られたようにしか見えない‥‥‥まぁ、隠していたことを考えると、売られても文句はないだろう。俺、平民、国王に何か言える立場じゃない(召喚獣たちの行動に関しては制限し切れないから考えたくないというのもあるが)。
しかし、相手は王族とは言え、流石にこの危険性を考えるとなぁ…‥‥バレないように、ちょっと報復できないものだろうか?
「ご希望であれば、根絶薬を塗り込んでいきましょうカ?」
「いや、流石にそれは…‥って、その薬自体何?何を根絶するの?」
「具体的には金貨、まだら、さみだれ、ざんばら…‥‥様々な不毛の大地ができるだけデス」
とにもかくにも、どうやら元凶は国王の方にあるらしいというのは後にして、第3王子エルディムの方からも、俺たちは話を聞くことにした。
第3王子及び第1王女は、この二人の王子とは異なって他国の方へ見聞を広めるために国外へ留学しており、夏の長期休暇の前にある合宿を目安にして、帰国してきたそうなのだ。
周囲の国々を越えた先の、また別の国から遠路はるばる進み、神聖国内を通過して王国へ入ろうとしたところで…‥‥俺たちが遭遇したあの化け物の襲撃に遭い、捕らえられたそうである。
と言っても、力づくで抑えられたとかではない。
「人質を取られた。近隣の村で休憩を取っていたところで、急に襲われてな…‥‥」
「人質かぁ‥‥‥それは確かに、仕方がない事かもしれないな」
「ところで聞くけど、その人質って?」
「わざわざ、引き取って来た未来溢れる幼子たちだ」
いわく、この第3王子はわざわざ他国へ留学してる中で、自費を用いて、孤児院などにいた子供たちを引き取り、国へ連れ帰ろうとしていたらしい。
「そう、子どもは世界の宝、未来への原石。失われて良い物ではない。それらをすべて囲い込み、将来を確保するために動くために、何をためらおうか!!」
「おお、なんかまともな発言に聞こえ」
「本音は?」
「ちびっこ可愛いのに失われるのが勿体なさすぎる!!」
…‥‥んん?
「あー‥‥‥ディー君。弟はね、結構まともそうなことを言うけど…‥‥わかりやすく、平民などで良く聞く言葉で言えば、ロリコン、ショタコンなど混ざっているんだよね…‥‥」
「職業はタンクマンとは異なるけど、似たような職種の『シールドマン』。ドMという部分は消え失せているのだが‥‥‥性癖はこじれた者になっているのが多いやつだ」
――――――――――――――――
『シールドマン』
タンクマン以下の攻撃力、以上の防御力を持つ、完全防御特化型ともされる珍しい職業。
ドMではなくなっているのだが、その代わりに何故か性癖を拗らせ、昇華させるような者たちが多く、「何かを守る」という面に対して固執しているがゆえに、そのような者たちがなりやすい職業ではないかと言われている。
守る役目に対して普段の生活でも振るうことが多くなり、この職業を利用して孤児院の経営、村の防衛、飢える人々の救済など、人々を守るような将来性を持つ。
――――――――――――――――
「ああ、だがそれで何が悪い!!幼子たちの悲鳴を聞かずに済む、全てを守る良き未来!!悪しき思いなどが混ざり合う、混沌とした大人の世界にはない、純粋無垢、無邪気な、綺麗な子供の世界を、築き上げてみせよう!!」
「‥‥‥良い方向へ振り切った人にしか見えないのだが」
「甘いね。こいつ、大人になったら切り捨てるから」
「子どもの時は手間をかけるが、大人になったら自立するように促しつつ、離れさせるからな」
つまり、子ども限定の正義の味方のようなものであり、大人になってからは放置してしまうのだとか。
ついでに話によれば、王族というのは後を継がせるための子孫を残すために、早めに婚約者などを決めて将来を共にする相手を選ぶのだが‥‥‥この第3王子、絶対にその相手について譲らない部分があるらしい。
「出来れば永遠の子供ボディを持った相手でなければ独身を貫く!!」
「そんな相手、いないだろ!!」
話が少々脱線したので、戻すと、その手に入れた子供たちを人質に取られた結果、抵抗し切れずに捕縛されてしまい、このアジトへ運び込まれたらしい。
そして色々調べられた結果、王子であることが判明したので、王家に対して資金回収目的での身代金要求をしようと、ここにいた者たちは考えたそうなのだ。
「だが、それだとミウと、その話しに出ていた子供がいないわけが分からないぞ?」
「それなのだが…‥‥」
人質にするのであれば、王子一人で十分。
あとは王女だろうが子供だろうが、多くいると世話をするのも面倒であり、別の場所へ連れていくことにしたそうなのだ。
ここにいたのはその残りの奴らで、王子の方の面倒を見て捕縛し続けており、王女及びその他に関しては、つい1,2時間ほど前にここを連れ出されたそうなのだ。
行先は、神聖国内の、今回の襲撃者たちのさらに黒幕とされる人物の元へ。
断片的な会話をつなぎ合わせると、道中に出て来た怪物の材料か餌目的で…‥‥
「「それを早く言えよこの馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
ごごっす!!
「ぐべっつ!?」
王子二人の腹パンにより、華麗に宙を舞って落下する第3王子。
自身の性癖談義などよりも、そっちの方が明らかにやばいのに、なぜこうも話をずらしてしまったのだろうか。
「とにもかくにも、急ぐぞ!!王城へ連絡して援軍を呼ぶにしても時間は無い!!」
「こうしている間にも、妹と其の他が危ない目に合うからね!!」
「第3王子が痙攣してあぶく吹いて気絶しているけど、どうするんだ?」
「「放置で良い!!」」
王女含めてその子供たちを運ぶとなれば、相手の移動手段としては、できるだけ目立たないものを選ぶだろう。
荷馬車に偽って乗せるか、あるいは騒がれないように薬で眠らせて運ぶか‥‥‥何にしても、事態は一刻を争う。
第3王子自身は身を守れそうなので、放置して俺たちはアジトを飛び出し、後を追いかけ始めるのであった‥‥‥‥
「って、駆け足で行って追いつくか!?」
「馬がある!!気絶させた奴らが持っていたやつだ!」
「俺馬乗れないんだけど!!乗ったことないし!」
「では、ご主人様は私たちが運びましょウ」
「ええ、そうした方が良いですわね」
「主殿ならば、拙者たちで運べるでござるしな」
「安全性は確保できぬがのぅ」
‥‥‥あれ、なんかすっごい嫌な予感がするのは気のせいだろうか?
全速前進で、向かわなければいけないだろう。
王女が攫われるのは本気でシャレになっていないのだ。
…‥‥第3王子は一応、放置し切らずに後でどうにかしてもらっておこう。
…‥‥全速力で向かうけど、なーんか嫌な予感しかしない。
いや、彼女達に運ばれるっていうのは速い方法かもしれないが、こう、勘がね…‥‥




