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56 超えて向かうは海

 学園から出される、臨海合宿へ向かうための馬車。


 こういう時のために、生徒たちをゆったりと旅路に出させたいという配慮故か大勢乗せられるような、通常ではないような大型の馬車。


 とはいえ、悪路なども配慮しての安定性目的ゆえか、やや形がおかしい感じの2階建ての馬車である。


「むしろこれ、安定性ないような」

「大丈夫と言えば大丈夫ですネ。それなりに設計されていますし、少し甘い部分もありそうですが、バランスを崩して転倒という事は無いでしょウ」


 ガタガタと揺れながら動く馬車の振動に、俺は不安を口にしながらも、ノインがそう答え、少しだけ安心感を得る。


 

「普通の馬車に比べると、かなり大きいですわよね」

「拙者、ちょっと酔ったでござる‥‥‥」

「儂の生前にも似たような馬車はあったが、そこまで技術の進歩は無いようじゃなぁ」


 全員馬車に関しての感想を述べつつ、他に乗車している生徒たちも似たり寄ったりの話ばかり。


 各学科ごとに一両ずつ、渋滞を考慮して時間を置いて走っているので、この馬車は召喚士学科の生徒たちが多く、その他にも召喚獣たちが乗っており、少々詰まっている感じはあるだろう。


 あとルビー、辛かったら寝ていていいからな。






 海を目指して進んではいるが、天気も悪くなく、馬車道中は悪くない。


 将来、卒業後に諜報関係につき、世界を見て回る際に馬車を利用するとは思うが、こういう経験も必要になるだろう。


「そう言えば、ヴィステルダム王国に海がないからデオドラント神聖国の方を通過して向かうって話だけど、神聖国って具体的にどういう状態なのじゃ?」

「ん?授業でやっていたけれども‥‥‥一応聞いておくけど、ゼネの生前の聖女の時とか行かなかったのか?」

「いや、色々あったのじゃが‥‥‥まぁ、それからそれなりに年月が経っておるはずじゃし、今はどのような国なのか、ちょっと気になってのぅ」


 ふと思いついたようにゼネが口にしたので、この間のテストで周辺諸国について出た問題を回答した時の事を思い出しながら、俺は答えた。


―――――――――――――――――

『デオドラント神聖国』

ヴィステルダム王国の周囲にある国々の一つであり、友好国。

職業「神官」が主に治めており、政治方法は神の告げるままと言われており、少々謎がある。

神に仕える事を喜びとするが、その神というのは定まっておらず、多神教国家でもある。

数十年前程までは大腐敗時代とも言われるほど治安が悪化し、汚職などが日常茶飯事であった時もあったそうだが、現在では改革がなされ、徹底的にクリーンな状態へ移行している。

しかしながら、大腐敗時代に「聖女」と呼ばれる職業の者が犠牲となり、他国では新たな聖女が確認されることはあれども、神聖国内では現在まで新たな聖女が誕生していない。

―――――――――――――――――



「…‥‥ふむ、今ではもう、綺麗になったようじゃなぁ」

「その言いぶりだと、ゼネってもしかしてその犠牲となった聖女?」

「まぁ、そうじゃな。名前はもう忘れたがのぅ…‥‥何しろ悪霊と混ざった際に、その部分の記憶も少々曖昧でな、それなのになぜか忘れたい方のははっきりと…‥‥ううっ、大腐敗時代の豚とかよりも、そっちの方が怖ろしかったのぅ……」

「腐敗している状態よりも、何が怖ろしいと‥‥‥」


 いや、これ以上深くは聞くまい。


 現状、ゼネに女子のファンクラブが多い事から、生前も似たようなことがあっただろうし、その時代を考えるとより過激な事があった可能性は大きいだろう。




 何にしても、今回は通過するだけなので特に気にする必要性もないのだが、ゼネ的には気になるらしい。


「私はあまりいい感情は無いですけれどネ」

「あれ?そうなのか?」

「ええ。私の場合は国を訪れたことは無いのですが‥‥‥まぁ、神々の方に関してですカネ」


 それはそれで気になるが、聞いたら面倒そうな予感などもあるので、聞かない方が良いだろう。





 そうこうしているうちに、国境付近まで馬車は進んできた。

ビンッ!!

「ン?」


 っと、何やらいきなりノインのアホ毛の部分が、立ち上がる。


「どうした、ノイン?」

「…‥‥レーダー感知。襲撃、来マス」

「何っ!?」


 その言葉を言い終えるや否や、ガタンっと馬車が急停止する。


 生徒たちがその揺れの反動で動揺しつつも、俺は馬車の窓の方から外を見た。



「‥‥‥なんだありゃ!?」


 馬車の前方から、何やら不気味な物体が近づいてきていた。


 こう、キメラとかそういうモンスターもいるのだが、あの迫りくるモンスターたちはそれとは違う。



 様々な生物が‥‥‥主に魚とか蛇とかイカ、タコなど、無理やり混ぜて、絵の具の変色した色みたいな具合になったものたちが出て来たのだ。


「なんじゃありゃ!?アンデッドにしてもあり得ない造形じゃぞ!?」

「キモち悪いですわ!!」


 口々に叫ぶも、どうやら相手の方は攻撃してくる気があるらしい。


 



 馬車の周囲にいる、生徒たちを守る護衛の騎士たちなどが前に出て、防戦をし始める。


 だが…‥‥


「ぐわぁぁぁあああ!!」

「ぎゃあああああああ!!」


「剣が通用していない?」

「いや、違うようデス。剣が溶解していマス」


 金属を溶かすのか、敵の表面に武器が付きたてられても、それがぐじゅっと溶けていく。


 防戦し切れず、盾も鎧も溶かされ護衛が倒されていく。


「遠距離魔法とかはどうなんだ!?」

「ここ召喚士学科!魔法が扱えるやつ他いないぞ!!」


 外の状況が把握できたのか、他の生徒たちが口々に叫ぶが、生憎ここにはそのようなことができる者がない。


 いや、ブレスなども可能だと言えば可能なのだが、その召喚士の方がビビっていたりするので動けていない。


「こうなったら俺たちの方が出るぞ!!というか後で副生徒会長とかに生徒会だから戦闘しろとか言われる未来しか見えないからな!」

「その理由がなければ、結構いい感じに聞こえマス」


 まぁ、戦闘自体はこちらの分野でもないのだが、今はまず敵を沈黙させたい。


「遠距離攻撃だから、ゼネ、ルビー!!魔法とブレスで一斉射撃!!カトレアは木の根で馬車の周囲を防御し、ノインはその頭のレーダーで他の敵影が無いかの確認!!」

「「「「了解!!」」」」


 素早く馬車から飛び降り、俺たちは戦闘し始める。


 カトレアの木の根がぐるりと馬車を覆って守れるようにして、ノインが頭のレーダーをピンっと立てる。


 そして…‥‥


「混戦状態じゃと死の魔法は扱いにくいからのぅ!ルビー、お主のブレスの補助じゃ!!『ウインドブラスター!!』」

「わかったでござる!!拡散させての『ファイヤブレス』!!」


 ルビーの炎のブレスに乗せる形で、ゼネの風の魔法が発動し、放出されたブレスの勢いと火力を増大させる。


 傷付き倒れた護衛の人達は残ったカトレアの根と、ノインの腕が伸びて回収し、巻き添えをさせないようにして、ものすごい勢いの業火が敵を飲み込んでいく。



ぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

ヴっしゅわぁぁぁぁぁぁぁあ!

「いっ!?」

「何でござるか!?」


 炎に飲み込まれ、これで終わったかと思いきや、突然妙な音が鳴り響く。


 見れば、燃えながらにして怪物たちが倒れつつ、その身から紫色の霧のような物を発生させていた。


「ちぃっ!風魔法では吹き飛ばせない類じゃ!」

「ちょっと、翼で羽ばたいても無理でござる!」

「選択間違えましたネ。どうやら可燃性のトラップがあったようデス」

「そんな事、見ればわかりますわぁぁぁぁ!!」


 霧をどうこうしようにもなすすべもなく、霧が一気に吹き出しまくり、馬車事俺たちを飲み込んでしまうのであった‥‥‥‥


敵への攻撃手段を誤ると、こういう事態もある。

そう学びつつも、いかにもヤバ気な霧が包み込んでいく。

そもそも、この敵は何なのだ‥‥‥‥



…‥‥安易な火力重視攻撃は、痛い目を見る時もあるなぁ。

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