55 だら~んっと緩みたくなる時もあるけど
…‥‥中間テストも終わり、大きな夏季休暇の前にある期末テストまではまだ時間がある状態。
近くなってくればそれこそ必死になる人もいるだろうけれども、普段から真面目にコツコツしていれば、そうすぐに焦る事もない。
だからこそ、緩む人が多くなるのもあって‥‥‥
「‥‥‥だからこそ、身を引き絞めるための行事が行われる訳か」
「ああ、そのようだ」
寮の食堂にて、貼りだされていたお知らせの内容を思い出しながら、俺はバルンと共に昼食をとっていた。
ノインたちも一緒の予定ではあったが、召喚士学科での召喚獣たちで、何やら集まりがあるらしい。
ゆえに、珍しく男同士での話し合いではあるが、何となく気が楽ではあった。
‥‥‥彼女達、美女だからなぁ。いろいろやらかすとは言え、四六時中一緒だとたまには離れたくもなるからね。
「もう季節的にだいぶ暑くなって来ただろ?田舎の方であれば川遊びもできたが、それでは少々物足りない。だからこそ、集団で勉学に励むための臨海合宿が開催されるようだぜ」
「臨海合宿かぁ‥‥‥海へ向かうんだっけか?」
「ああ、馬車で時間をかけて、移動時間を含めないで現地での3泊4日の予定だとさ」
中間~期末の間にある時間で腑抜けてしまう事を考え、季節的にどうも海へ向かうことになったらしい。
とはいえ、勉学に励むのは建前のようなものであり、実質的には他学科も合同で行う行事であり、学科間での学びの違いでの交流の少なさを解消し、円滑なコミュニケーションをとる狙い…‥‥要は、遊びに向かうだけなのだとか。
とはいえ、この学園のあるヴィステルダム王国は他国に囲まれた国であり、海に面しているわけではない。
どこか海のある国を通過しなければならないので、実質的には観光のようなものにもなるそうだ。
で、今回通過する国はデオドラント神聖国らしい。
「何にしても、海への合宿は良いかなぁ。でも、そうだとすると…‥」
「ああ、そう言えばお前の召喚獣の場合、水着が必要になるんだったか」
がたたっ!!
‥‥‥なんか今、バルンの言葉に対して、周囲の男子たちが動いたような気がした。
まぁ、分からなくもない。
普通の召喚獣の場合‥‥‥例えばブラッディスネークや、プチマウス、ナックルバードなどだと、見た目的に着る意味も特にない。
だがしかし、俺の召喚獣‥‥‥ノイン、カトレア、ルビー、ゼネの場合そうもいかないというか、彼女達の場合人とほぼ同じ容姿ゆえに、必要となるのだ。
まぁ、普段から衣服来ているしなぁ…‥‥モンスターとは言え、着る物がいるのである。
あとゼネの場合、元人間でもあるからそこは普通に常識であると理解しているけど、カトレアの方は特に気にしてなかったな‥‥‥植物系モンスターでもあるせいか、そこは特に考えないのか。
「とはいえ、召喚獣用の水着って売っているところあるか?彼女達だと人に近いけれども、一部違うだろ」
ルビーの場合だと尻尾とか翼があるし、カトレアの場合は木の根とかがあるからな。
ゼネの場合は特に問題もないし、ノインも同じ……か?あのアホ毛の部分は邪魔にならないからいいか。
「普通ので大丈夫だとは思うが…‥‥そもそもなぁ、彼女達の水着を買いに行くのも、ちょっと気恥しいような」
「ああ、お前の場合美女軍団だからなぁ‥‥‥男一人だけの水着品評会みたいになるだろうし、多分買いに行く途中で殺されるんじゃないか?」
「割とシャレにならないからやめろ」
ただでさえ、嫉妬の目線とか、ゼネ加入後に女子からも増えているというのに、そんなことを言われたら本当に起こりそうで恐怖を感じる。
彼女達に守られていたとしても、精神的なダメージは守りようがないんだよ。
「まぁ、彼女達だけで買いに行ってもらうのもありか‥‥‥」
「そうした方が良いだろうなぁ。あ、でもそれはそれで不味いかもしれなん」
「何でだ?」
「お前の召喚獣のゼネ、そいつ女子達から人気があるだろう?買い物に向かわせて、お前から離れさせたら、それ幸いとばかりに‥‥‥‥」
「…‥‥ああ」
…‥‥最後まで言わなくとも、何となく察してしまった。
いや、ほぼ間違いなく起こるだろうなぁ、ゼネに関しての争奪戦が。
彼女の場合、ノインたちとは違って生前からその手の苦労もあったらしいが‥‥‥死んでもそこは直らない、いや、周囲が放置してくれないのだろう。
「どうしようもないな」
「どうしようもないぞ」
買い物に向かわせることは決定したが、何となく起きるであろうことに対して、俺たちは心の中で健闘と無事を祈るしかできない無力感を味わうのであった…‥‥
なお後日、買い物に向かわせて3時間ほどで、絶叫が響きわたったというが…‥‥許せゼネ。
「お姉さまのためにぃぃぃ」とか、「選ぶちゃぁぁんす!!」とか「ふひひひひひひひ!!」等、血走った目と興奮した女性陣を止める手立てがなかったんだ。
無力な召喚士の俺をどうか許してくれ‥‥‥‥
…‥‥ディーとバルンで、そのような話しをしていた丁度その頃。
まだ休日でもないのだが、ある事情があって休みを取って、王城に第1王子と第2王子は帰らされていた。
というのも…‥‥
「‥‥‥国王陛下、それは本当でしょうか?」
「ああ、そうだ」
「えっと…‥‥本当に?」
「間違いない」
ゼノバースとグラディの問いかけに対して、目の前の人物…‥‥彼らの父ではあるが、今は国王という立場として接している人物は、そう告げた。
「先日、一時帰国のために向かっていた第3王子と第1王女が‥‥‥行方不明となった」
その言葉に、二人は驚愕の表情を浮かべる。
「何が原因でしょうか?」
「わからぬ。臨海合宿の時期に合わせ、同学年の者たちと合わせて交流を深めてもらおうと思い、時期的に呼び戻したはずなのだが…‥‥デオドラント神聖国と我が国の国境付近で、行方不明となった。賊に襲われた可能性も無きにしも非ずなのだが‥‥‥最近、遊びで聞いた話では少々物騒なことがあるらしい」
「ああ、陛下は遊び人ですからね。その伝手がありましたか」
このヴィステルダム王国の国王、職業は「遊び人」。
けれども、無駄に遊びまくるわけでもなく、交流の幅を広く持ち、情報を他よりも多く得られやすい事を利用して、国を治めてもいるのだ。
「何でも、神聖国の方‥‥‥大腐敗時代の生き残りがいるらしく、その手の輩がうろついているそうだ」
「臨海合宿の時期で、通過しなければいけない国だというのに厄介なことだ。いや、それよりも第3王子はまだ良いとして、第1王女の方が心配だ」
「ああ、そうだね兄上。第3王子はあれはあれで図太いからちょっとやそっとの事で平気だけど、第1王女の方はそうもいかないからね」
「…‥‥息子たちよ、第1王女は良いのに、第3王子の方は辛らつすぎないか?」
「「いいえ、同じように心配『は』してますよ」」
「そうか」
…‥‥兄弟仲は別に悪くないのだが、妹の方が優先されるとはこれいかに。
少々複雑に国王は思いつつも、そこは後でゆっくり話し合うだけで済む。
今はとにかく、きな臭い話しになってきたところに注意を向けなければならない。
「出来れば合宿は中断し、捜査の手を向けたいところだが‥‥‥他国との国境付近では、そうやすやすと行えまい」
「相手の方に警戒され、引っ込まれても厄介ですし…‥‥かと言って、放置もできません」
「となると‥‥‥合宿自体を行わせ、通過時に調査をできればいいのだが…‥‥」
…‥‥盗賊などの危険性も考慮し、合宿にはきちんと護衛が派遣される。
だがしかし、その護衛の量が多すぎるとそれはそれで警戒されるだろうし、うまくいかないのが目に見えている。
「…‥‥いや、待てよ?可能と言えば可能か?」
「‥‥‥弟よ、もしや今、同じことを思いついてないか?」
「なんだ?二人とも何かを思いついたのだろうか?」
ふと、グラディがある事を考えつくと、どうやらゼノバースも同じことを考え付いたらしい。
何を考えたのか国王は尋ね、その内容を聞き、思いっきり眉間にしわを寄せた。
「…‥‥それ、可能か?いや、可能なほどの実力はあるのか?」
「間違いなくあるとは思う。ただ、利用する形になるのは避けたかったが…‥‥」
「バレたらバレたで、怒られたとしても、国王陛下の発案という事で押し付けますので問題ありません」
「いや、問題ありすぎだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
‥‥‥少なくとも、最悪の場合国王が犠牲になればいいだけの話。
発案が王子たちとは言え、実行許可は国王が出す立場でもあり、責任者でもある。
できれば最悪の事態を避けられるように努力するという事になりつつも、国王が腹をくくる羽目になるのであった…‥‥
「…‥‥一応、偶然とかに装えるとは思います。いえ、むしろ相手の方が自ら仕掛けてくれれば、それで良いでしょう」
「それ、失敗したら?」
「国王陛下の葬式の用意をしなければなりませんね」
「国王陛下、どうぞ安らかに…‥‥」
「シャレにならぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
ノイン、カトレア、ルビー、ゼネの水着って、どんなのが似合うのだろうか?
そう考えつつも、まずはゼネの方のファンクラブ(修羅)と化した方を見つつ、何もできない現状に手を合わせるしかないだろう。
‥‥‥人気って、あり過ぎるのも問題になるのかと、物凄く理解させられるのであった。
‥‥‥しかし何やら物騒な話し。面倒事はやめて欲しいのになぁ。




