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47 救の手というか、都合のいい交渉というか

…‥‥コア消滅から、どうしたものかと俺たちは悩んでいた。


 だがしかし、まさかそのコアの前にダンジョンマスターとしていたはずの‥‥‥


「先に言っておくがのぅ、ダンジョンマスターをやらされていただけで合って、ほぼやる気は無かったからな」

「あ、そうなんだ」


 リッチと言って良いのか、そのアンデッドの言葉にディーたちはあっけに取られていた。


 ダンジョンマスターと言えば、ダンジョンのコアを守るために置かれており、そのためにも全力を尽くす者でもあると思っていたのだが‥‥‥どうやら事情があるらしい。


 コアの破壊後、先に敵対する気はないと言ってから、俺たちの会話に混ざって来た。




 話を聞くと、このアンデッド‥‥‥リッチではないようだ。


「おぬしらの会話、眠っている中でも聞こえておったが…‥‥先に言っておこう。儂はリッチでもキングでもクイーンでも、そしてモドキでもないのぅ」

「え?じゃぁこの図鑑にあるやつで他に一致するようなものが‥‥‥」

「阿保か?何もかも、全てがそのようなものに記録されているわけがなかろう?ちょうどいい例が、その小娘どもにあたるじゃろう?」


‥‥‥ぐぅの音も出なかった。


 その言葉に、ノインもカトレアもルビーも、納得いくようないかない様な顔になっている。


 まぁ、確かにその通りと言えばその通りなんだが‥‥‥


「じゃあ、自分で種族が分かっているのでしょうカ?」

「当り前じゃ。儂はアンデッドでありながらにして、元職業聖女であった蠢く死体!!種族名は『ホーリー・ワイト』!!聖なる死体なのじゃ!!」

「色々と矛盾してないか、それ?」


―――――――――――――――――――

『ワイト』

死体に悪霊が憑りつき、動き出したアンデッドのモンスター。

リッチに似てはいるのだが、あちらは元々の肉体が勝手に動き出し、こちらは悪霊そのものが死体の憑りついたものであるので、まったくの別物として分類される。

簡単に言えばリッチの上位互換ともされている珍しいモンスターであり、より高い知能を有し、中には人込みに混ざって活動している者もいるらしい。


『ホーリー・ワイト』

職業『神官』より上の更に高位の聖職者の職業であった者の死体に、超高位の悪霊が憑りつくことで生まれた、アンデッドすらも癒せるモンスター。

大勢のスケルトンやグールなどのアンデッドモンスターを従えることが可能であり、倒しても倒しても片っ端から簡単に癒しまくり、全滅を知らない死霊の軍団を作り上げる事もあるモンスター。

過去にはとある国がそのモンスターのせいで滅んでしまった例もある。

――――――――――――――――――――


「まぁ、色々と訳アリでアンデッドとしての生を受け(?)、適当に楽しんでいたんじゃが‥‥‥ある時のぅ、なーんか突然この場所に飛ばされたと思ったら、縛りつけられたんじゃよ」

「あのダンジョンコアにか?」

「そうじゃよ!あやつ、自分のところまでたどり着くような奴はいないと言いつつも、不安過ぎるので適当に近くにいた強力な奴を呼び寄せ、ダンジョンマスターにしたとかふざけたことを抜かし負ったのじゃ!!抵抗しようとしたのじゃが、どうも不意打ちのようにダンジョンマスターにされた身では、コアに害を与えることができなくてのぅ…‥‥」



 いくら高位のモンスターだったとはいえ、このワイトはどうも不意打ちを喰らい、無理やりダンジョンマスターにさせられた身だったらしい。


 やる気もなく、どうせ辿り着く訳もないと思って立ちながら眠っていたそうだが‥‥‥そこに、俺たちが来たのを見て、チャンスと思ったようだ。


「あやつ、生まれたてのコアでありながらも、ふてぶてしい最悪の性格でな。イラっと来たから守る価値もないと思い、寝たふりをしてお主らにベッドへ乗せてもらった後、陰へさっさと隠れたんじゃ。このようにのぅ」


 そういうと、持っていた杖を一振りしたと思ったら、半分ほどが影に沈みこんだ。


「うわっ!?どうなっているんだよそれ!」

「魔法の一種じゃ。影がなければ使えぬし、強烈な光で追い出されてしまう弱点もあるのじゃが、身をひそめるのにうってつけじゃろう?」


 その魔法を使い、俺達に捕らえられたように見せた後、影に潜っていたらしい。


 そのままベッドで寝ているのもありだったかもしれないが、ダンジョンコアに一泡吹かせてやるためだけに、わざわざ隠れたそうである。


「何にしてもじゃ、ダンジョンコアが消滅したのはありがたいので、礼を言っておこう」

「あ、ああ、でもやったのは彼女達なんだけどね」


 短い期間の拘束だったそうだが、それでも相当ダンジョンコアにムカついていたらしい。


 自ら滅ぶような言葉で、ノインたちにフルボッコにされて消滅したその景色は超スカッとしたそうだ。



「って、それはそうとして‥‥‥ダンジョンコアの破壊でここを壊しそうになっている件で、何か案があるようだったけど‥‥‥どうにかなるのか?」



 話し込むのもこの辺りにして、本題へ話を戻す。


 このダンジョンのコアをうっかり破壊し、貴重な資源となりそうなダンジョンが崩壊するのは避けたいところ。


 そこに、どうも策があるらしく、話しかけられたのがそもそもの始まりだが…‥‥



「うむ。だてにホーリー・ワイトと呼ばれておらんくてな、このダンジョンコア程度ならば直せるからのぅ、それにダンジョンを治めてもらえば良いだけじゃ」

「でも、そしたらまたダンジョンマスターにされませんカ?」

「くっくっくっく、何も策がないという訳でもないのぅ。直す前にちょーっと弄ってあるように想わせつつ、性格矯正してしまえば良いだけじゃ」


 滅茶苦茶悪い笑み…‥‥骸骨の頭ゆえに表情が分かりにくいが、そう笑ったように見えた。


 あ、これ相当頭に来ていたなこの人(?)。









『-------ガー、ガガガーピー。ダンジョン、再起動完了。自壊システム停止。ダンジョンマスター不在証明無し。攻略済み。素材提供率を30%から90%、モンスターの発生率を90%から30%へ、トラップ生成サイクル鈍化へ変更いたしました』


「うむ、成功したのぅ」

「色々魔改造されたなぁ…‥‥」



 数分後、思ったよりも時間を取らずにダンジョンコアは復活した。


 先ほどまでのあらぶっていた様子もなく、どことなく堅苦しいような状態となり、赤い発光が青色に変更されている。


 あと、何か気になるドクロマークが側面に有った。



「自爆用じゃ。これさえあれば、またおかしくなってもすぐに自爆させられるからのぅ」

「ふむ‥‥‥理にかなってますネ。しかも遠隔操作もできるようにとは、中々の腕前デス」


…‥‥憐れむべきなのだろうか、このダンジョンコアを。


 いや、もはやあれとは別物と言えるほどだし、そこまで考えなくてもいいかもしれない。



 

 っと、そう思っていたところダンジョンコアのあった部屋の一角が、急に輝き始めた。


「なんだ?」

「ああ、あれが地上送還用のポータルと呼ばれるものじゃな。こやつ、どうもわざと隠していたようじゃったし、再起動のついでに起動させてやったのじゃ」

「あれ?そう考えると拙者たちってもしかして、コアを倒しても脱出できなかったかもしれないでござるか?」

「その通りじゃな」


 危なかった。帰還できない危機があったのか。


「えっと‥‥なんかいろいろとありがとうございました」


 一応、お礼を俺たちは述べておく。


 相手は既にダンジョンマスターでもなく、ほぼ野生のモンスター、ホーリー・ワイトではあるが、その力のおかげで助かったような物だからな。


「うむ、別に気にすることないのぅ。儂としてもこやつに一泡吹かせたかったじゃけだし‥‥‥さて、どうしたものか」

「ん?」

「いやのぅ、さすらっていたのじゃが、今回のような強制的な下僕にされるような真似はもう嫌なんじゃよね。でもこのままいたとしても、また別のところでダンジョンマスターにされるような気がするし…‥そこでじゃ、お主、召喚士じゃよな?」

「あ、ああ」

「じゃったら、儂と契約して召喚獣に加えてくれぬかのぅ?誰かと契約を結んでおれば、もう二度とこんな真似もないじゃろうしな」


 まさかのワイト側からの召喚獣希望。


 召喚士がモンスターと契約して召喚獣に可能というのは聞くけれども、まさか自分の方でもそうなるとは思わなかった。



「…‥‥ノイン、カトレア、ルビー。このホーリー・ワイト、召喚獣に加えても大丈夫かな?」

「んー、問題ないですネ。敵対心もないようですし、ご主人様の意思であれば文句もありまセン」

「同じく、文句はないですわね」

「同意でござるな」


 一応、ノインたちにも聞いて見たが、入れる事には文句はないそうだ。


「えっと‥‥‥それじゃ契約をすればいいんだろうけれども‥‥‥」


‥‥‥あれ?そう言えば、どうすればいいんだろうか。


 召喚士が召喚獣を召喚で呼び寄せるのはわかっているが、野生の奴と契約したくてもどうやってやるのか、それが今一つわからない。


「ん?契約方法は簡単じゃ。相手の何かを持って、通常通りの手順で召喚して見ればいいだけじゃ。そうすれば召喚獣としてきちんと契約が成り立つのじゃよ。だてにワイトとして長生きはしておらぬ」

「いや、通常の召喚だと何が出るのかは‥‥‥」

「媒体を使えばよかろう?そうじゃな‥‥‥儂のこの杖を持って、召喚してみぃ。詠唱文もしっかりと頭の中にでて、召喚することが可能なはずじゃ」


 そう言って渡された杖を持って、通常の召喚のように詠唱を思い浮かべると…‥‥驚いたことに、確かにそのとおりになっているようである。


「とはいえ、これは契約召喚のようなものじゃ。両者の合意がなければ絶対にできぬ。愚かな召喚士が契約方法を知りつつもそこは知らずに、勝手にやらかし‥‥‥派手に爆砕した光景は見たことがあるのぅ」

「爆砕?」

「あとそうじゃな、合意があって契約が成立しても、そのまま召喚できるとは限らぬ。巨大なドラゴンと心を通わせ、契約のためにやって見た次の瞬間には、何故か子猫になっていたときもあるからのぅ。他にもケセランパセランとか言うのと契約して見たら、毛玉からつるつるのモチに。ゴブリンと契約したはずなのに、何故かオーガへと、まったくの別物へ変貌を遂げる場合もあったのぅ」


 何それ。特にドラゴンの方は聞きたくなかったかも。


 個人的にはカッコイイ感じを思い浮かべているのに、それが猫になるってのはなんか悲しいような、それはそれでいいような‥‥‥




 何にしても、召喚してみたところで希望通りにできる可能性が無いのは、通常の召喚と似たようなもの。


 しかも、俺の場合は『異界の召喚士』だし、そこも相まって作用したらどうなるのかが分からない。


‥‥‥もっと禍々しいものになったりして。いや、それはそれでカッコイイ系になりそうならありかも。



「まぁ、やってみないことには分からないか」


 できれば、禍々しさを兼ね備えつつ、何となくカッコイイ系になってほしい願望も抱きつつ、詠唱を開始し始める。


 言われたとおりにして見れば、確かに通常の召喚とほぼ同じような‥‥‥‥


「‥‥‥『来たれ、冥界のものよ、我が元へ』」


「『汝は常に、我が元へ、死と破滅をもたらし、生者に死を与える者へ』」


‥‥‥あれ?なんか妙に物騒なものになってない?願望の禍々しい部分、混ざった?


「『我が命を受け、敵となりし者たちへ滅亡を絶望を、さすれば汝に名を与えん』」


「『さぁ、さぁ、さぁ、顕現せよ、汝に与えし名はゼネ!!我が元へ来たまえ!!』」


 どう考えても、物騒さ満点の詠唱文。


 ノインたちの時よりも、明かにやばそうな言葉が混ざりつつ、召喚を終えると同時に浮かび上がっていた魔法陣が輝き‥‥‥そこに立っていたはずのワイトが消えうせ、魔法陣から煙が上がり始め、そこに姿を現していく。



 ボロボロだった衣類は闇夜を思わせるような黒さに染まったマントと化し、衣服をきちんとその身へ纏わせる。


 王冠は輝きを取り戻しつつ、小さく変化しつつも高貴なモノへ。


 そして、骸骨であった身体には、血肉が通い…‥‥んん?



「‥‥‥あれ?」


 なんか変だなぁ…‥‥俺の目がおかしくなったのかな?


 なんか人肌になってない?いや、違う。骨に生体が戻ったのか。



 スラっとした骨だけだった場所に、元の人肉がまとわりつき、華奢な体に変貌する。


 骸骨だった顔も肉付けされ、生前の容姿を再現したような姿となる。


 長い黒髪に、黒い目。口からのぞくのは鋭くとがった犬歯のようなもの。


 男装の令嬢というべき様な姿になりつつも、何かが間違っているような…‥‥


「‥…おぅ、これはこれは久しぶりに肉が付いたのぅ。しかも‥‥‥種族も変化されておるな」


 そう口にして、ワイト‥‥‥いや、彼女、ゼネは笑みを浮かべる。


「召喚完了、種族『ナイトメア・ワイト』。これからよろしくのぅ召喚主様(御前様)



「‥‥‥え、『ホーリー(聖なる)』から『ナイトメア(悪夢)?』」

「あ、それは図鑑にありますネ」


――――――――――――――――――――

『ナイトメア・ワイト』

正体不明のモンスター。一説では悪夢そのものと言われており、誰もその姿を見た者はいない。

というのも、そのモンスターが現れるのは決まってその対象が死亡する時だけであり、この世のものとは思えない様なおぞましい悪夢を振りまき、そのショックで死亡した魂を喰らうとされているのである。

狙われたが最後、何者にも守ることはできない。知能が高く、わざわざ手紙で襲撃を連絡し、防衛していた者たちをあざ笑うかのようにして、対象を確実に仕留めていた。

死体に悪霊が憑りつくワイトと同じ名がついているのは、辛うじてその正体の一端に近いと記録されていたからである。

――――――――――――――――――――


「‥‥‥なんか余計にやばくなった?」

「そんなことはないのぅ。攻撃魔法が半分ぐらい使えなくなって、その代わりに幻術や猛毒などの絡め手の方が強化されたのぅ」


 いや、それはそれで非常にやばいような気がするのだが。


 むやみやたらに力任せに暴れるような奴よりも、精神的な意味合いではそちらの方が余計にパワーアップしている感じがする。


 あと、ジジババくさい話し方をしていたが、こうしてみると女性らしいし‥‥‥男装している分、男子たちからの怨嗟の視線を減少できるか?


「しかし、なんか肉が付いた分動きづらいのぅ。一旦そぎ落とすか?」

「グロい光景になるからやめて」


 怨嗟が減少しても、今度は人目すらつかない様な感じになる。


 いや、それはそれでいいかもしれないが、グロい物は見たくない。



 何にしても、ダンジョンで出会いがないとは思っていたが、まさかの新しい召喚獣が加わってしまうのであった…‥‥




「‥‥‥あれ、そう言えばなんか違和感あると思ったら‥‥‥」


 男装している=女性らしさは余り無い感じがすると言うか、どことは言わないがノインたちほどは無い…‥ああ、なんかちょっと安心できるかも。


「なんか今、チョットムカつくような感情を覚えたのじゃが」

「いやいやいや、何でもないってば」

「先に言っておくが、どこの翼娘のように戦闘の邪魔になるから締め付けているだけじゃからな?影にすぽっと入れてしまえば結構楽なんじゃよ」


…‥‥できればそのままにして欲しい。変に落ち着かなくなるよりも、そっちの方がまだ目に優しいような気がするし、本当のサイズは‥‥‥聞かないでおこう。





ま、まぁ今回はノインたちとは違って、女性らしい見た目とかじゃないからね。

女性らしいけれども、その見た目のおかげで怨嗟の目線は抑えられそうかも。

‥‥‥種族のヤバさに関しては、考えないでおこう。



‥‥‥しかし、『異界の召喚士』の影響はあるはずだと思うけれども‥‥‥異常性は現状見られない様な?

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