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46 ある意味命日になるのかな?

「‥‥‥ルビー、その辺でストップ。十分乾いたぞ」

「了解でござるよ!」


 俺の言葉に対して、ルビーはそう答えて火炎を吐くのを止めた。



 ダンジョンの濁流トラップというべきものにかかってしまい、更に奥深くへ俺たちは流され、びっしょりと濡れてしまった。


 幸い、ルビーの火炎放射によって衣服を乾かすことが出来たとはいえ‥‥‥どうも状況は思わしくない。


 関節の痛み等はもう治っているが、ここからどう出るかが問題なのだ。


「どのぐらい奥へ流されたかな…?」

「少なく見積もって、4階層以上は流されましたからネ。今はもう、出口よりもダンジョンの最深部に近くなっているはずデス」


 ダンジョンを脱出したいはずなのに、奥へ奥へと俺たちは進んでしまっている。


 浅い階層ならまだ弱いものが多いが、流石にここまで深く進んできてしまうと強いモンスターや致死性の高いトラップも多く出る可能性が非常に高い。


「んー‥‥‥駄目ですわね。天井の発光植物は、この階層まで来ると土壌の栄養価が高すぎて、むしろ灯りを失ってきてますわ」

「栄養を吸うのはだめか?」

「難しいですわね。この辺りの栄養価は植物系等にとっては、過多になりますわね。ほんの一口で、1カ月以上は光合成をしなくても平気なほどですわ」


 天井部分に薄く光っている植物へ蔓を伸ばし、調べていたカトレアがそう告げる。


 深い階層でも、まだギリギリ明りが確保されていたが…‥‥この階層まで来ると、流石に明りもなくなってくるようだ。


「とはいえ、上に進もうにも迂闊に動けないな‥‥‥」


 上に進みたくともヤヴァイ奴らが多いだろうし、戻りにくい。


 かと言って、脱出できる手段もない。


「‥‥‥手段としては、無いわけでもないデス」

「何かあるのか、ノイン?」

「これだけの深さを誇るダンジョンであれば、最深部の部屋‥‥‥ダンジョンのコアと呼ばれるものがある部屋には、上層部へ帰還できる特殊な移動手段があると、前に図書室の『ダンジョン23の不思議発見』で閲覧しまシタ。その情報がただしければ、奥の方へ進み、コアのある部屋へ向かう方が良いと思われマス」

「ああ、その手があったか」



‥‥‥ダンジョンは奥の階層があると、その分帰還しにくい。


 だがしかし、階層が多ければ多いほど、簡単に帰還できる手段を所持しているダンジョンもあり、このダンジョンもその可能性が非常に大きいのだ。


 となれば、今すぐに上に向かうのではなく、最深部へ向かう方が早いと思われる。


 けれども、その方法は…‥‥


「んー、同じ本を読んでいましたが…‥それ、リスクがかなり高いはずですわ」

「ああ、同じく読んだことがあるでござるよ。コアの前には、それを守る最後の者がいたはずでござる」



‥‥‥ダンジョンのコアは、いわばダンジョンの心臓部。


 そこが破壊されるとダンジョンは崩落し、3日以内に跡形もなく消え失せるそうだ。


 それだけ大事な場所でもある分、ダンジョンが生きているという説もあり、その心臓部を守るための特殊なモンスターがそのコアのある場所の前に常駐しているそうなのだ。


 それはそのダンジョン全体に出るモンスター全てよりも強力であり、下手をすれば命を奪いかねない存在。通称、ダンジョンマスターと言うらしい。


「一応聞くけど、倒せる可能性は?」

「相手にもよりますが‥‥‥この規模を考えると、強力な相手の可能性が高く、難しいカト」


 今の俺たちの攻撃手段が通用しないような相手‥‥‥そう言う類が出てこられては、お手上げである。


「炸裂徹甲弾、特性溶解液弾、荷電粒子砲、冷凍光線銃‥‥‥」

「串刺し、縛りの蔓、毒の薔薇、吸血…‥‥」

「火炎放射、一点集中突き、羽ばたき暴風…‥‥」

「待って、なんか思った以上に手段多いんだけど!!」


 あ、これ多分大丈夫かもしれないやつだ。むしろ、攻撃の余波でダンジョンコアを壊しかねないやつだ。


 とにもかくにも、豊富な攻撃手段があるとは言え、油断はできない。


 慎重に相手を探ってから攻撃するか否かを決めることにして、俺たちは先へ進んだ。











‥‥‥ダンジョン、最下層。


 道中のモンスターたちはノインの機関銃で爆散し、カトレアの木で串刺しとなり、ルビーの火炎放射で灰と化した。


 そしていよいよ、最後の階層にたどり着き、ダンジョンコアがあると思われる部屋の近くへ向かい‥‥‥その前に立つ、ダンジョンマスターを目視した。


「‥‥隠れている俺達のことに気が付いていないようだけど‥‥‥アレがダンジョンマスターで良いよな?」

「ええ、レーダーではこの階層の敵はあれだけデス」

「でも‥‥‥あれって、なんですの?」

「ぬぅ…‥図鑑でもあれば、分かるでござるが‥‥‥」

「あ、持ってきてマス。ちょうど学習させてもらってますので、これでわかるカト」

「ええっと、容姿的にアンデッド系‥‥ってことはこれか?」


 何処にしまっていたんだよと言いたくなるような分厚いモンスター図鑑。


 それを手に取り、あのダンジョンマスターと思われるモンスターについての情報を調べると、すぐにその回答は見つかった。



「頭に小さな王冠、ボロボロの衣服に、禍々しいぎょろっとした目玉付きの杖を持った、骸骨のアンデッドは…‥‥『リッチキング』?」

「んー、王冠のサイズを見ると、『リッチクイーン』ではないでしょうカ?」

「あの禍々しい杖だと、『リッチナイトメア』という可能性もありますわ」

「衣服が少々ぼろいでござるし‥‥‥『リッチモドキ』だと思うでござるよ」


‥‥‥訂正。候補が多かった。


 というか、皆の意見がバラバラだった。



―――――――――――――――――――

『リッチ』

アンデッドのモンスターの中では代表格ではあるが、その生前は何処か高名な魔法使いだったり、神官だったりであり、無から生まれるような類ではない。

魔法を多い、死体ゆえに反動が大きいような魔法を軽々と扱う、非常に危険なモンスターでもある。


『リッチキング』

リッチの中でも、元となった死体が男性でありつつ、なおかつ強力な力を持ったモンスター。頭に自然と王冠が装備されており、投げつけて攻撃することも有る。

その王冠には猛毒が仕込まれており、場合によっては魔法以上に厄介な毒な場合もある。


『リッチクイーン』

リッチの中でも、元となった死体が女性でありつつ、なおかつアンデッドを癒すことができるモンスター。頭の王冠は自然と装備されており、装飾されている宝石から光線を放つ。


『リッチナイトメア』

最凶と言われるリッチであり、魔法よりも呪詛を多く扱い、呪いを振りまく存在。相手を眠りにつかせ、死後も自身のしもべに変えてしまうというモンスター。


『リッチモドキ』

そこまで高名でもなく、今一つ怠惰すぎたがゆえに、リッチになり損ねたアンデッドモンスター。リッチキング・クイーンに容姿は似ているが、異なる点としては攻撃手段が魔法ではなく、杖で撲殺である。


―――――――――――――――――――


「やっぱりサイズ的にキングじゃないか?」

「でも、魔法を扱う様子を見ないと分かりまセン」

「魔法よりも呪いを使えばナイトメアの方ですわよね」

「杖で攻撃してくれば、モドキと決められそうでござるが‥‥‥」


 ああでもない、こうでもないと、思わず議論を俺たちはかわす。


 っと、目視出来ている距離という事は、当然相手からも目視出来ているはずではあるが‥‥‥



「‥‥‥‥‥‥」



「‥‥あれ?そう言えばさっきから動いてないな」

「もう、襲ってきてもいいはずですガ?」


 何やら様子がおかしい。


 疑問に思いつつ、何時でも戦闘態勢に移れるようにして、近づき…‥‥そのおかしい理由を見た。


「…‥‥ぐびぃ‥‥‥ぐごぉぉぉぉ…‥‥ぐぅ……」

「‥‥‥いびき?」

「寝ているようデス」

「本当ですわね…‥立ったまま、熟睡されてますわ」

「油断しすぎでござるが…‥‥どうするでござる?」


 このリッチ、何と寝息を立てていた。


 瞼がない骸骨頭だからこそ、眠っているとは思わせないのだが、近くへよれば思いっきりいびきをかいている。


「呪詛とか、呪文とかじゃないよね?」

「センサー異常無シ。普通に熟睡してますね、コレ」



…‥‥まさかのダンジョンマスターが、思いっきり職務怠慢をかましていたのであった。


「どうしようこれ‥‥‥不意を突いて、攻撃するべきか?」

「起床すると同時に、反撃される可能性もありマス」

「放置するのもいかがなモノでしょう?」

「いっその事、縛るのはどうでござる?」

「「「それ、採用」」」



 ひとまずは、攻撃したら起きる可能性があるので、ルビーの案を採用する。


 攻撃の意識を持たず、丁寧にカトレアの蔓で縛り上げ、先ほどまで使っておきながらも濁流で破損したベッドに寝かせ、そっと布団をかけてあげる。


 あとは、白い布で顔を隠してあげれば…‥‥看取られただけの存在に早変わり。



「よし、このままスルーして、コアのところへ行くか」

「平和的に解決できたのは良い事デス」


 うん、何も見なかったことにしてあげるのが一番良いだろう。


 心なしか、あのリッチも気持ちよさそうに眠っているように見えなくもない。


「抜き足差し足忍び足で、音を立てずにそっと進みましょう」

「案外楽に通過できてよかったでござ、」


『よくないわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』


「「「「「!?」」」」」


 突然、何やら大声が響き渡り、俺たちはびくっとした。


「な、なんだ今の声!?」

「今ので、あのリッチが起きて…‥‥アレ?」


 誰が発したのか分からないが、今のでリッチが起きてしまうと思った俺たちは、その寝かせている方向を見て、驚愕した。



 そこは、先ほどまでご臨終として看取られているかのように置かれていたリッチがいた場所。


 だがしかし、今あるのは‥‥‥いや、あるのではない。


 ベッドがあるだけで、誰も眠っていない。


「消えちゃった!?」

『あいえぇぇぇぇ!?なんでどうして!?』

「というか、この声誰なのですの!?」

「なんかいちいち大きいでござるよ!!」

「発生源、感知!場所は…‥‥あのコアです!!」


 びしっとノインが指を真っ直ぐ向け、その場所を示す。


 そこには、真っ赤に燃える球体のような物‥‥‥このダンジョンのコアと思われるものが鎮座しており、今まさに怒っているというべきなのか、真っ赤な光が何度も強くなったりして点滅を繰り返していた。


『なんなの、なんなの、なんなのあなたがたは!!こちらが用意したトラップでくたばればいいのに、なぜこうも生き延びているの!!』

「いや、少なくともあのリッチに関してはそちらの自己責任かと」


 コアの方から声が飛び出してきており、良く響き渡るのですぐに返答する。


『うるさいうるさいうるさいうるさぁぁぁぁい!!こっちとしては、確実にやばい奴を潰そうととっておきのを出したのに、なんでそんなあっさり成仏させてしまうんだぁぁぁぁぁぁぁ!!』

「確実にやばい奴?」

『そこのデカ乳メイドに吸血魔樹、灼熱翼人たちもそうだけど、それらを従えさせているお前だよ!!なんだよなんだよなんだよ!!色々とやばそうなやつらを御せる時点で色々とやばいだろ!!だから確実にお前を抹殺(・・・・・)するためにもわざわざ用意し、』



…‥‥色々と口が悪いというか、何もかもうまくいかなくて自暴自棄になっている人のように叫びまくるダンジョンコア。


 けれども、最後まで言い切る前に‥‥‥彼、いや、彼女なのかもわからないが、そのコアは言ってしまった。


 目的として俺を抹殺とか、命を奪おうとしていたことを。


 


 言い終わる前に、瞬時に何か影が3つ、いや、ノインたちが素早く動き出す。


 巨大な荷電粒子砲とやらをノインは構え、カトレアは巨大な木の根を木の腕に変えて構え、ルビーは息を大きく吸い込む。


 そして、コアが最後の一言を言い終える前に…‥‥彼女達は、各々の攻撃を解き放った。


 最強の砲撃を、重い樹木の一撃を、超高温になった白い炎を‥‥‥‥






 召喚獣の目の前で、その主に対して堂々と害する宣言をしたダンジョンコア。


 彼女達とどの程度絆が築き上げられているかはわからないが、その言葉だけでも逆鱗に触れてしまったらしい。


 止めようとしたが、流石に止めようがなく…‥‥煙が晴れた後には、そこには何も残っていなかった。


 コアはたった今、あのリッチと同じ場所‥‥‥なのかは分からないが、召されてしまったのだった。




「って、コア、これで亡くなったよね?」

「そうですネ」

「ということは、ここ崩壊するかも?」

「そうなりますわね」

「つまり、やらかした感じが…‥‥」

「そうなるでござるなぁ」


‥‥‥やばい事をしたかもしれない。国の新しい資源となり得そうなダンジョン、たった今抹殺してしまった。


 いや、あっちの自業自得というべきなんだろうけれども‥‥‥どう言い訳をしようか、この惨状。


 ダンジョンコア、塵一つ残ってないしどうしよう。



「やばいやばいやばい…‥‥マジでどうしよう、コレ」

「どうしようと言われましても、どうにもできまセン」

「つい、うっかりやらかしてしまいましたわねぇ…‥‥」

「むぅ、でも拙者たちにどうこうできることでもないでござるよ」

「‥‥‥なら、ワシがどうにかしてやろうかのぅ?」

「出来るならばして欲しいかな…‥‥ん?」

「「「ん?」」」


 何か今、彼女たち以外の声が聞こえたような。


 そう思い、皆で振り向いて見れば‥‥‥‥そこには、カタカタと骨を鳴らしながら、先ほど失せていたリッチの姿があったのだった。




つい地雷を踏んで逝ってしまったダンジョンコア。

消え失せたせいでダンジョン崩壊の危機であったが、そこに救いの手が差し伸べられる。

それは、先ほどまでいなくなっていたはずの、アンデッドであった…‥‥



…‥‥今回の件で、一つ学んだこと。

彼女達を怒らせてはいけない。特に、俺の命に関わる発言がNGだろう。

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