40 一息つきたいところではあるが
早朝から始まった、モンスター・パレード。
ダンジョンからあふれ出たモンスターたちが凶暴化し、襲い掛かる災害でもあり、その災害に巻き込まれた者たちは等しく協力し合い、助け合った。
一番大きな規模では、終息までに一カ月以上もかかったとされるが、今回の首都間近で起きたのは、幸いにもそこまでの規模に至らず、昼前には終息し切った。
とはいえ、あふれ出ていたモンスターたちの数は計り知れなく、終わった時には周囲に大量に残る死骸だらけ。
放置すればアンデッド化してくる可能性があったので、その処理に追われ始める。
モンスターの中には、素材として使える部位が存在するものもあり、無駄なく解体作業を素早く行い、残ったものを火葬用に作られた臨時の火葬場へ運び込む。
「ふぅ、なんとか一息つきたいところなのに、後始末が大変だな‥‥‥」
「ご主人様、お疲れでしたら私たちで作業を勧めましょうカ?自室へ戻り、お休みになっても良いはずデス」
「いや、疲れはしたけど、こういう経験ってそうそうないからな。最後まできっちりとやり遂げたほうがいいし…‥」
そう言いつつ、俺はちらりと火葬場の方を見た。
「ファイヤァァァァァァ!!まだまだ火炎放射を行えるでござるよ!」
「火災促進用木材、まだまだありますわ」
「‥‥‥あの二人も、まだ頑張っているしね」
ルビーとカトレア、二人が働いているし、召喚獣に任せきりでいるのもダメだろう。
「そうですカ」
「だからね、ノイン、とりあえず今はこの山となった死骸の解体作業と、運搬に協力しようか」
「ハイ。御命令とあれば、了解デス」
腐臭とか漂ってこられても困るし、できるならばさっさと片付けた方が良いだろう。
モンスターの大群が来る気配は失せたとはいえ、その後始末の方へ今度は尽力を尽くすことになるのであった。
「‥‥‥やはり、あの大量発生の元凶は、ここに出来ていたか」
「規模としては、結構大きなものだな」
丁度その頃、解体作業・火葬作業が行われている中で、首都内の一部の者たちは調査隊を組み、今回のパレードの原因を探りに、近くの森へ訪れていた。
その中には、ゼノバースとグラディもおり、辿り着いて少し先に進み、その元凶を発見した。
森の中にできている、不自然な大きな岩山。
その側面部にはこれまた大きな穴が開いており、中から外の方へ向けて、多くの足跡が残っていた。
「ふぅむ‥‥‥きちんと整備すれば、首都の活性化にもなるだろうが、まだ把握していない状況だと、危ないところが多いな」
「そうですね、兄上。この様子ですと、次にいつ起こるか分かりませんからね」
調査隊として連れてきた兵士たちが行う、簡易的な調査結果の報告を聞きながら、二人はそうつぶやく。
この岩山の中、そのモノがダンジョンとして出来上がっており、今回出現したのをきっかけに、モンスター・パレードが起きたのはほぼ確定だろう。
ダンジョンだとすれば、うまく利用できれば宝の山ともなりうるが、失敗すればまた二次災害として起きる可能性がある。
「首都の近くに、この規模が出来たのを知ったら、あの弟の方が喜びそうだな」
「今いなくてよかったですね‥‥‥いやまぁ、実力は良いけどあの弟の方がやらかすかもしれませんし…‥」
今はこの場にいない、第3王子の事にも触れつつ、ダンジョンである岩山を見上げる。
「内容的には下層へ向かう感じか‥‥‥岩山としてできている割には、上じゃないんだな」
「ダンジョンの例を見れば、まぁ納得はできるだろうね。塔だと思えば下へ向かったり、階段を下りていたと思ったら、いつの間にかはるか上空だったという話もあるぐらいですしね」
人の理解を超えていたりする、摩訶不思議な建造物ともいえるダンジョン。
そのすべてを解明できないが、それでも危険性と有用性は隣り合わせになっており、その事を考慮していかなければならないのだ。
「当分はないとしてだな‥‥‥早急な調査が必要となるだろう」
「しかし兄上、今回のパレードによって疲弊した人が多すぎます。今すぐに調査隊を組むにしても、時間はかかるかと」
「それも問題か‥‥‥早く終わらせたとは言え、それでも疲労は多いからな」
「どさくさに紛れて、犯罪も起きてますしね」
火事場泥棒ならぬ、モンスター・パレード泥棒の被害も報告されていたりする。
もちろん、そのような真似をした犯罪者は、この非常事態に関して何をやらかしてくれているのだという事で、きちんと重い処分がされていた。
「‥‥‥準備ができるまで、見張りを配置。異常があればすぐさま伝令、狼煙などで知らせるようにすれば良いか」
「あとは、ここまでの街道整備かな。ダンジョンと知って、挑戦したくなる者たちもいるだろうし‥‥‥今年は特に、召喚士たちの方で目指す人たちが多そうだからね」
「‥‥‥ああ、そうか。召喚士の方で動く輩が多い可能性もあるのか」
グラディの言葉に、ゼノバースは理解を示す。
‥‥‥今回のモンスター・パレードの場において、各自が協力し、事態の収拾にあたっていた。
その中で、ひときわ目立つ者たちがいたのだ。
「ディーとか言う召喚士‥‥‥見た目が麗しい美女の召喚獣を操っていたからな。ダンジョンは召喚士にとって新しい召喚獣を得られるかもしれない絶好の場。同じようなものを得られるかもしれないと思い、挑む者が多く出る可能性はあったか」
それに、何も召喚士だけが狙う訳でもない。
見た目が麗しい彼女達を我がものにしたい者たちが、召喚士という職業につけてなくとも、色々と調教して手に入れようと画策する者たちがいるかもしれないのだ。
「場合によっては、放置して勝手に入り込み、帰らぬものが出る可能性も考えると…‥‥下手に扱えぬな」
「そこらへんが問題と言えば問題ですからねぇ」
王族という立場であり、王位継承権争いをする中とは言え、こんなダンジョンで大事な国民たちが勝手に自滅していく様は見たくはない。
とはいえ、入り込むのを禁止にすることはできないだろうし、放置してまたモンスターが貯まり、同規模、いや、それ以上の規模のモンスター・パレードが起きてもシャレにならないだろう。
「あ、そうだ」
っと、そこでぴこんっと、何かを思いついたかのようにグラディが口にした。
「ん?何か思いついたのか?」
「ああ、解決策をね。ダンジョンはモンスターが多くいる分、実践の機会にも恵まれている。今回のである程度落ち着いて中の数も減っているだろうし‥‥‥学園の方で、ここを授業に使えないかなと思ってさ」
「‥‥‥生徒たちだけでか。いや、教師たちもまとめて定期的にここで訓練などを行えれば、それなりに駆除もできて、間引きもできるわけか」
「似たような例は他国にもあるはずだからね。ならばいっその事、富を生む場だけじゃなくて、人の力を上げる訓練場としても利用すればいいだろう?」
訓練場としても利用しつつ、定期的な間引きともなり、人がいつも入り込めば、やらかそうとする者たちが動きにくくもなる。
一石二鳥とも、それともそれ以上ともいえる案に、ゼノバースは納得する。
「まぁ、この案が受理されれば、有能性の面で僕の方がリードできるというのもあるけどね」
「‥‥‥ふっ。それは甘いな。有効性を示したところで、まだ大雑把なものにすぎん。ここで細やかな調整をして、こちらがより示してやろう」
「兄上だけじゃなくて、きちんと発案した僕自身も動くからね」
「それでも、聞いているこちらもしっかりと色々と手を回させてもらおう」
一見、互に背伸びしあうだけの微笑ましい兄弟の会話にも見えるが、王位継承権を争う黒い笑みを浮かべ合うその様子に、思わずその場にいた者たちはぶるっと悪寒で体を震わせる。
‥‥‥一説によれば、ダンジョンは生物でもあるらしく、気のせいかその微笑ましくも腹黒く見える会話に、ちょっとダンジョン自体も震え上がったように見えたという話も出たそうであった。
腹黒兄弟の会話…‥‥微笑ましくも見えるのに、よく目を凝らすと周囲は震えてしまう。
血生臭い争いではないが、それでも悪寒を感じてしまうほどなのだ。
さらっと巻き添えにされたダンジョンも、ある意味可哀想であろう…‥‥
‥‥‥第3王子、ちょくちょく話に挙がるけど、登場までまだ時間かかりそう。いつになったら出せるかなぁ。




