エピローグ
…‥‥かつて、ムーン王国という国が存在していた。
いや、ある時を境にして「王国」という名称は消え失せ、ムーン情報大国へと変わっていた。
その理由としては、その国を治めていた王が全権を完全に民へ譲り、運営を任せたことによって王を名乗る必要が無くなったそうだ。
王がいない国は、直ぐに滅亡しただろうか?そんなことは無い。
その王は家臣や妃たちと共に議論し合い、民たちからも話を聞いてしっかりと自分達がいなくてもやっていける基礎を作り上げ、そして少しづつ手元から離していったそうだ。
王が王で無くなった後は、ただの一国民として皆と同じ目線に立ったそうだが、それでも各国からは頼られていたという話もある。
なんでもその王のそばには素晴らしい召喚獣たちが付き添い、支える妃も存在し、あちこちで問題が起きる前に動きつつ、世界中を巡って争いごとを消したそうだ。
だからこそ後世では「平和の使者」や「公平の王」とも記録されているが‥‥‥‥その王が亡くなった後は、ばったりと王の妃たちの記録は途絶えている。
どうしてなのかそのあたりは謎だが…‥‥一番有力なのは、王に対して愛を捧げていたからこそ、一緒にどこかへ向かったのではないかという説が存在しているらしい‥‥‥‥
「‥‥‥なるほど、こう伝わっているのですカ」
‥‥‥ムーン情報大国にある大きな図書館内にて、歴史の本をを閉じてそのメイドはそうつぶやく。
そっと本棚へ戻し、その足で向かったのは…‥‥今年度で建国五千年目を迎える記念として復元工事が行われているかつての王城。
今は観光名所として使われていたが、記念すべき年として当時の王城を再現しようと、長い年月の中で老朽化した城を復元しているらしいが、どうやら難航している様子。
無理もない、王城に使われた建築技術は、流石に年月を経過ぎて廃れてしまっているのだから。
いや、当時でも十分ぶっ飛び過ぎた技術を投入していたのもあるが…‥‥ボロボロになっているとはいえ五千年も形を保ちづづけたその耐久性に驚くべきだろうか。
そう思いつつも、メイドはすたすたと工事を行っている人たちの横を素通りして奥へ向かっていく。
まるで彼女がそこにいるなんて気が付かないように工事が進められている中で、メイドは隠されていた階段の扉を開け、地下へ進んむ。
カツン、カツンっと音を響かせつつ、光の届かない闇の中へ突き進めば、一つの頑丈な扉の前にたどり着いた。
「‥‥‥さてと、そろそろ皆、出る時デス」
そうつぶやきながら扉を開けば…‥‥そこは、明かに今の世界とは隔絶された世界が広がっていた。
地下なのに太陽の光が降り注ぎ、広い大地が広がっている。
そしてその扉が開くとほぼ同時にか、奥の方から人影が集まって来た。
「‥‥‥やっとですの?交代し続けて、どのぐらいの回数を積み重ねたのかしら?」
「百から先は数えていないでござるなぁ」
「まあ、全員転生処理とやらで隔絶されながら、一年に一人交代していたからのぅ」
しゅるしゅるっと蔓を戻して周囲の植物の世話を終え、大空から舞い降り、死者たちとの語りを終えた者たち。
「でもまぁ、用意した祝い酒は熟成ばっちりでありんす。即席もあるが、待つのも悪くはないでありんすからなぁ」
「グゲェグゲェ、グゲェ」
「凍って閉じこもったのも、楽」
酒樽を転がし、宝石を飾り付け、凍っていた体を動かす者たち。
「しかし出来れば、他の3人も一緒だったらよかったな‥‥‥」
「それは無理だったぜ。人間でないからこそこの面子は過ごせたけど、普通の奴なら精神がおかしくなっているとは思うぜ」
「この程度/問題ないけど?」
駆け抜け、水面に顔を出し、剣から姿を現す者たち。
「いや、普通は問題大ありだと思うのだ」
「ピャァァイ、でも長く待ったかいはあったよ?」
大きな狐の姿を変じて人となり、出られない可能性を心配する巨体。
「ええ、その通りデス。私の姉妹機の方から伝達があり‥‥‥‥長い月日を得て、ご主人様が転生され直したという情報を得たのデス」
全員の健康状態を軽く診断し、異常がない事を確認するメイド。
かなり長い歳月を経たが‥‥‥‥時々転生処理を全員行いつつ(一部必要なかったが)、待っていた価値はあった。
既に当時の記憶はないだろうし、知っている彼ではない。
けれども、その魂自体は変わらない物であり…‥‥それはまた同時に、同じように過ごすことになる可能性が大きいのだ。
「さてと、それでは皆で向かいましょウ。今世ではどのような職業を得るのかは不明ですが…‥‥共にいることが、召喚獣にとって幸せですからネ」
時の中で着実に改良を積み重ね、より人らしい笑顔を見せるメイド。
その変化に集まっていた者たちはちょっと驚かされつつも、楽しみなのは皆一緒なのだ。
「さぁ、今世も仕えましょう、私達の大事なご主人様のもとへ」
…‥‥その日、情報大国の王城跡地にて大きな揺れが襲った。
最初は地震かと思われたが揺れ方が異なり、何事かと思う中で突然復元工事中だった王城が崩れ去り、工事にあたっていた人たちは休憩中だったので死傷者は出なかったのだが、苦労を思いっきり泡にされた現状に茫然自失となる。
そしてその土煙が舞う中、大きな影が蠢き、飛び去ったのであった…‥‥‥
「…‥‥あ~う?」
「あらあら、どうした坊や?」
数日後、とある田舎町の片隅にて、ゆらりゆらりとゆりかごに揺られていた赤子が首を傾げ、母親は問いかける。
まだ幼い息子だけど、何かに気が付いたようで気になるのだ。
「だー、だー!!」
「あらら?何か嬉しそうな声ねぇ。何か楽しい事でもあったのかしら?」
母親は息子の喜びように微笑ましく想い、何を感じたのかはわからないけれども微笑ましく思う。
「さてと、そろそろ家の中に戻りましょう、坊や。ああ、そうそう。坊や、お父さんが私の負担軽減のために、新しくメイドたちを雇うそうなのよ。乳母がわりになるだろうし、楽しみにしてね」
「だー!」
母親の返答に対して赤子は分かっているように答え、互いに笑いあう。
‥‥‥それは本当に、良く晴れた綺麗な青空の中。
その日はかつて、とある召喚士が召喚を行い、その時から運命が定まった日でもある。
そんな事は知らないだろうけれども‥‥‥‥全てはその日から始まり、そしてまた同じ日に新たな物語が始まろうとしていたのであった‥‥‥‥‥
「だー!!」
「あらら、メイドさんがいっぱいねぇ。ねぇ、貴女の名前から教えてくれないかしら?」
「ハイ、私はノインでして…‥‥そしてこちらが、ここの息子ですネ?」
「ええ、つい最近産まれて、元気一杯な子なの。面倒を見る手伝い、お願いね」
「了解デス。…‥‥そして、これからもよろしくお願いします、ご主人様」
――完――
本当に長い物語だった。というか、長すぎたがゆえに徐々に面白みが薄れてしまった気もしなくはない。
けれども、ここまでご愛読をしてくださる皆さまがいたことを、心から感謝を。
長い間の愛読…‥‥本当に、ありがとうございました!!




