358 卒業の時と言っても
‥‥‥月日は流れつつ、ようやく卒業の時が来た。
一番初めのころは、職業が「召喚士」になってほしいと強く願っていた時を思い出すと、入学した時が懐かしく思える。
「というか、もう何十年も過ごした気分なのに数年しか経過していないのかよ…‥‥」
「月日が濃すぎたというのもあるのでしょウ」
うん、その通りだろう。
一体どこの世界に、年中何かと騒動に巻き込まれ、その度に色々とやらかされて、あちこちに向かう羽目になる奴がいるのだろうか。いや、俺だったわ。
召喚士になりたかったのに、何故「異界の召喚士」というのになってこんな個性的過ぎる召喚獣たちが出て来たのかという謎もあったが‥‥‥そのあたりも血筋が原因というべきものなのが分かって多少はスッキリしている。
でも、召喚獣がほぼ美女な召喚士なのはどうなのか…‥‥セレナイトが本当に大きなドラゴンで色々と助かったが、結局色々な呼ばれ方に関しては払拭すらできなかったか。
何にしてもそんな話は置いておくとして、本日はめでたい卒業式。
わざわざ新国王やその補佐になっているゼノバースやグラディが祝いの言葉を述べつつ、その他にも各国からの客人も呼ばれている。
ガランドゥ王国や森林国、神聖国などの主たる国以外にも、その他の国々からも…‥‥いや、流石に一国の卒業式に集まる国が多いような。
「そのあたりは、ご主人様のせいでしょウ。卒業の数日後には、きちんと国王として新任される予定が立ってますからネ」
「何かと接触をしたい人がいる中で、こういう機会がもっと出会いやすくなるからのぅ。卒業式後の宴の場では、多分話しかけようとする輩が多いじゃろうな」
ぐぅの音もでない言葉である。
どうしてこうなった。いや、原因が明らか過ぎるがそれでも限度というのを知ってほしい。
あと気になるけど、ノインの子機のシスターズがちょいちょい視界の端に移って、色々と捕縛しているような‥‥‥‥うん、見なかったことにしよう。
置いておくことというか、気にしすぎても切りが無さすぎることを投げつつ、卒業式は進んでいく。
皆それぞれ卒業証書を学園長から受け取り、俺も受け取って卒業する実感を得る。
各自にいきわたり、この国の国王となっているゼノバースからの祝いの言葉などが改めて述べられ、卒業式は無事に終わりを告げる。
後は卒業記念の宴なども開催されるのだが‥‥‥‥こうやって終えてみると、よく無事に卒業出来たものだと思えてしまう。
色々と命の危機が多かったというか、面倒事かこれでもかと投げつけられるほどにあったり、異世界とかそんな別世界の事も知る機会が幾つもあったりと…‥‥そう考えると普通の学園生活を送れなかったのが唯一の心残りである。
「でもまぁ、これでようやく学生という身分も終えて…‥‥次は国王の身分かぁ」
何だろう、このやっと終わった長い濃い生活に対して安堵の息を長く続かせない状況は。
というか、ソレはソレでどうしてこうなったんだと思いたくなる自分がいる。
「正直、ご主人様って普通の生涯を終えることができない星のもとに生まれたのではないかと思ってマス」
「それ、わたくしも思ってますわよ。何かとありすぎますもの」
「うんうん、主殿は何かと騒動に愛されていると言って過言でもないでござるかなぁ」
宴が始まる中で出された飲み物を飲みつつ、そう語り合う召喚獣たち。
正直すぎるのだがあながち間違ってもないような言葉に何も言えない。
「まぁ、御前様はそういう運命があったと思えば良いじゃろう」
「グゲェグゲグゲェ」
「屈しない日々でもあったでありんすからねぇ」
退屈はしていないが、死にかけたことがあるのはどうかと思う。
「でも、ゆっくり過ごせる時が、無いわけでもない」
「一部、忙しすぎたがな…‥‥」
「とは言え、それでもやり切っている感はあったのだぜ!!」
わいわいがやがやとそう口々に言いあう召喚獣たち。
ほんのりと寄っているようだが、そこまで度数が高い酒はなかったような…‥‥いや、これはただ、場の雰囲気に酔っているだけなのだろうか。
「でも今後/まだ何かある/間違いない」
「どうしようもない運命はまだあふれているのだと思うのだ」
「ピャァァイ、その通りかもー!」
「まぁまぁそれでも何かと面白いこともあったから良いではないかニャ?」
「国の滅亡の間際もあったのよねぇ」
「こちらなんて、小さくなった時もありましたわねぇ‥‥‥」
っと、ついでのようにルナティアたちも寄って来て、話にまじりあっている。
うん、確かに面白いこともあったけどとんでもなく厄介なこともあったからなぁ。何回ぐらい世界の危機があったと思うんだよ。
…‥‥でもまぁ、それでもここで皆、無事に祝いの場にいるのは良い事なのかもしれない。
いつ命が無くなってもおかしくはない状況は何度もあったし、それでも乗り越えてこの日々を勝ちとっているのだから。
今後も絶対に何かしらの騒動に巻き込まれる未来が無いという訳でもないが…‥‥無いと良いなぁ。
「あ、それは無理デス。先ほど姉妹機の方から連絡がありましたが、どうあがいても何かしらの面倒ごとに巻き込まれる運命は覆せないという返答が来まシタ」
「さらっと希望を消し飛ばすなよ」
というかノイン、それってどの姉妹機情報だよ。
しかも人の運命に関してそこまで言えるって、俺の人生今後どうなるの?
色々と不安を抱かされてしまったが‥‥‥そこでふと、俺はノインを改めて見た。
「ン?どうなさったのですか、ご主人様?」
「…‥‥いや、何となくだが、すべての原因もしかしてお前にあるんじゃないかと一瞬疑いたくなってな」
考えてみたら、すべての始まりはこの召喚獣のメイドゴーレム‥‥‥ノインから始まっていないだろうか?
俺の職業顕現後に、試しに呼んだ彼女からこの騒動が産まれたとも言えなくもないだろう。
しかもこうやって人の運命に関して何かと見るというかできるらしい姉妹機の存在もほのめかしているあたり、ノインがこの状況を全部作り上げたのではないかと思いたくもなる。
「いやいや、流石にそれは無理デス。ここまで出来るのはメイドの嗜みにもありませんし、全部ご主人様が積み重ねてきたことなのデス。‥‥‥多少、干渉しましたガ」
「さらっととんでもない発言しているじゃん!!」
このメイド、本当に何なのかと叫んでしまう。
でもまぁ‥‥‥‥今分かっている事だけを言うのであれば、俺の召喚獣の最初の一体であり、メイドで有りながらもあり得ない能力の数々やすさまじい技術力を所持して…‥‥あ、駄目だ、全然わからない。
いくら考えても無駄だという気がするのだが、もういっその事この件に関してのツッコミは生涯放棄しよう。していたら早死にするのが目に見えている。
「それに、これからまだまだやる事も多いだろうし…‥‥諦めたほうが早いか」
悟らされたというか、まだ若いのに境地に至るというべきか、遠い目をしてしまう。
何でめでたい卒業式の場で、悟りを開かされなければいけないのだろうか。
でもまぁ、それでも彼女がいたからこそここまでの人生もあるし、生き残れたのは間違いない。
「何にしても、今はめでたい卒業式の場だし、パーッと騒ぐ方が得か」
「そうしたほうが良いでしょウ。ご主人様が死んだ魚のような目をされていたら盛り上がりようがないですしネ」
「誰のせいだと思って‥‥‥ああもうツッコミを入れることはもう無しにするって今決めたばかりだろう!!」
やや自暴自棄かもしれないが、気を楽にして発散させたほうが良いだろう。
そう思いつつ、面倒ごとを全部頭の片隅へ投げ飛ばしつつ、卒業した実感をしつつ、この宴を楽しみ始めるのであった‥‥‥‥
しんみりと締めくくらされずに、学園生活は終わりを告げる。
濃すぎた日々ではあったが、今後を考えると胃が痛いかもしれない。
よく効く胃薬はないかと、探し求める日々もありそうだよなぁ…‥‥
‥‥‥割とあっさり、学園での生活は締めくくられ、学生という身分は終わりを告げる。
そしてこの物語もようやく終わりを告げるだろう。
最後までもう少し‥‥‥か




