34 一見マトモだとしても
‥‥‥ヴイーヴルという、モンスターを召喚してしまった。
いや、種族的には確かにドラゴンの仲間にあたるので、間違ってもない。
とはいえなぁ…‥‥
「…‥‥なぁ、ディー。胃薬いるか?」
「いるっちゃいるかも‥‥‥というか、そんな風に見えるのか?」
「ああ、というか、そのなんだ、後ろの奴らとか見るとな‥‥‥」
朝食の食堂の場で、悪友でもあるバルンにそう声をかけられた。
そして言われた通り、後ろを見れば…‥‥
「まぁ、ご主人様のために働く召喚獣が増えたという点は良いでしょウ。ですが、お二人が出るようなこともございませんので、ゆっくりと部屋で待機してドウゾ」
「いえいえ、そんなことは無いですわ。わたくしの方がより一層、マスターに対していろいろできますし、貴女たちの方こそ休んだほうがいいですわ」
「拙者はまだ召喚されたばかりでござるが、少なくとも二人とも拙者以上に働いてきたご様子。ここは拙者にお任せするのが良いと思うでござる」
バチィっと、何やら火花が散っているようにも見えなくない、混沌じみた状況。
それぞれ違う方向性の美女だけあって、普通であれば見惚れるかもしれないけれども、こういう争いの場だと、その分余計に恐怖を感じる。後ついでに、嫉妬や怨嗟の視線が増えたような気がするような‥‥‥いや、気のせいではないか。
「‥‥‥なんか一名増えてないか?」
「ああ、ちょっと色々あって召喚したらできちゃった、3体目の召喚獣ルビーだ。流石に他の二人に比べて、まだ主張はそこまで強くないようにも思えるが‥‥‥」
ノイン、カトレアに比べてルビーの主張は何処か一歩引いたモノに思える。
3体目の召喚獣というだけあって、先輩ともいえる2名の方に気を使っているのかもしれない。
‥‥‥でも、俺の勘がささやいている。絶対にコイツも何かやらかす可能性がでかい、と。
「なんというか、美女を侍らせて幸せそうにも見えなくもないのだが‥‥‥なんとなく、苦労を背負って居そうなのが分かる。お前もしかして、召喚獣じゃなくていらない苦労の方を召喚しているんじゃないか?」
「ある意味その可能性の方が大きいような」
異界の召喚士って、もしかして召喚獣じゃなくてストレスを召喚しているのではなかろうか?
胃がキリキリと痛みそうな空気の中、バルンのその言葉に俺は納得してしまうのであった。
「‥‥‥えー、本日の授業は、召喚獣と共に、各自で配布された課題をこなすものにする予定だが…‥」
「ナンカ増エテネーカ!」
教師の鳥型の召喚獣であるヘルールの言葉を言わずとも、増えているだろう。
というか、教室内の視線がちらちらと気になるようになって見てきているのが分かる。
「色々面倒ソーダシ!!チキチキナッテドッ、」
「黙ってくだサイ」
「まだ何もしていないのですわ」
「曲者!!」
…‥‥ヘルールが、いつもの唾液玉と言えるような物を飛ばそうとしたその瞬間、ノインたちは素早く動く。
ノインは右手を変形させ、光線のようなものを放ち、カトレアは蔓を成長させ、大量に向かわせ、ルビーは口を開き、火炎を吐く。
ドドドドドド!!
「ギャァアアアアアアアアア!?」
「おいぃぃぃぃぃぃ!!お前ら何やってんの!?」
まだ攻撃動作をしただけなのに、過剰すぎる反撃。
「何かしようとしてましたので、正当防衛を行いまシタ」
「安心してください、ただ無力化しただけですわ」
「うむ、拙者的にはまる焼けで良い匂いがする程度にできたと思うでござる」
三者三葉、様々な返答。
おそらくは控えめにしたのだろうが…‥‥それが3人同時に行われてしまえば、意味もない。
見よ、あのヘルールの状態を。
蔓で縛られてまんべんなく当たるように形を整えられ、光線・炎でカリっとあぶられた姿を。
しゅうしゅうっと煙をあげつつ、良い焼き鳥の香りを周囲へ拡散させてしまう亡骸を!
「死ヌカト思ッタァァ!!」
‥‥‥あ、生きていた。あの召喚獣は召喚獣で、不屈の生命力を持っているなぁ。
何にしても、先生からの注意を受けつつ、本日の授業の内容に入る。
今回は各自に配布された課題の内容をこなすものであり、それを如何に早く行えるか、またどれだけ実行し切れているのかを調べるモノ。
他の人達に配られた課題内容としては、全速力でどこそこに駆け抜け、しっかりと往復して戻ってくるようにだったり、騎士学科などに模擬戦を挑み、何人かに勝利せよというものだったりと、各々の召喚獣にできるだけ合わせた課題が出されているようだ。
とはいえ、基本的に一人の召喚士の、一体の召喚獣向け。
俺の場合は、3体も召喚獣がいるので合わせるように…‥‥
「3つの課題か…‥‥」
「ふむ‥‥‥そこまで難しいものではないデス」
ノインとの課題は、「料理10種作成」。単純だけど、きちんと栄養バランスなどの組み合わせを考えなければいけないらしい。
「わたくしのは‥‥‥これもそう難しい事ではないですわね」
カトレアとの課題は、「学園内の花壇の手入れ」。こちらの場合、花の操作なども含めて配色などを調節する必要がありそうだ。
「おお、拙者のもあるのでござるか」
来たばかりだというのに、ルビー用の課題も用意されており、その内容は‥‥‥
「‥‥学園の貴重品鑑定?」
「お宝鑑定というやつでござるな」
適正学園は色々なものがあり、その分貴重な品々もあるらしい。
その中でも、どれがどれだけ貴重なのかという観察眼に関してのものらしい。
「拙者に合っているでござるよ。こういうお宝の鑑定は、ドラゴン専門でもあるでござるからな」
「そう聞くと、なんかイメージ的に間違ってないような気がするな‥‥‥」
ヴイーヴルという種族と言えども、ドラゴンの仲間。
戦闘などのイメージも強いのだが、お宝をため込むというイメージの通り、こちらも宝をため込むらしい。
ゆえに、そういう関係の鑑定眼もあるようで、召喚士の中にはドラゴンの鑑定眼を利用した鑑定士となって、貴重な品々の発掘や、偽物鑑定なども行うそうだ。
とにもかくにも、まずは一つずつこなしていくべきであろう。
分担して、各自で行えばいいのだが、今回の授業はあくまでも召喚獣と共に動くものであり、一緒にこなしていくべきなのだ。
となると、誰のからやるのか、という話になるが…‥‥料理時間、手入れ時間などを考慮して、まずはルビーの課題から、取り掛かることになるのであった‥‥‥‥
「ふふん!せっかくなので主殿、拙者の鑑定能力の高さをご覧いただこう!」
「けっこう、自信満々だな」
(…‥‥私の分析・解析センサーでわかってしまうのですが…‥‥まぁ、黙っておきましょうカ)
‥‥‥密かにノインが、空気を読んで黙ったのは言うまでもない。
まずはルビーの課題から、進めて行こう。
花壇の手入れも時間かかるし、料理も冷めたりするからね。
何にしても、その鑑定眼を見るいい機会なのだが…‥‥
‥‥‥なお、ルビーの額の宝石自体も、結構なお宝だったりする。其のあたりはまた別のお話。




