350 ちょっとだけ頼らせてもらいつつ
‥‥‥深夜、学園内で皆が寝静まっている頃、寮の屋上でノインは話し合っていた。
「‥‥‥という訳で、ご主人様が一国一城の主にさせられましたが‥‥‥姉さん、ご主人様に対してアドバイスをしたいのですが、良いものはないのでしょうカ?メイドたるもの、主が昇進したのであれば、そのくらいに対して適切な助言もできるようにとありますが、王としての座についてしまった場合のものが無いのデス」
「ふむ‥‥私の方のご主人様は王の立場とも言えますが、手探りなところが多いゆえに、適切に言えませんネ。とはいえ、一応参考にできそうなデータはあるので、送信しマス」
そう言いながらノインに向かって、彼女の姉妹機であり製造者ともいえるメイド‥‥‥ワゼは腕を変形させて、ノインもそれに応じて連結させ、データを交換し合う。
「受信、いたしまシタ。ありがとうございます、姉さん」
「礼を言う必要ないのデス。この世界で主を得て、一人前の成長している様子そのものが、良いデータとなりますからネ」
ノインのお礼の言葉に対して、そう告げるワゼ。
彼女のデータは他の姉妹機たちとも共有されており、どの様に成長しているのかを確認することができ、自分達へどう活かすのか考える材料となり、自己研鑽に励みやすくなる。
メイドとしての力を高めることができるからこそ、そして自分の姉妹機でもあるからこそ、ある程度の加減をかけつつも手助けをするのには惜しむつもりはない。
「‥‥‥にしても、大分成長したようですが‥‥‥‥やはり、主が違うとなるとこうも個性が変わるのですネ」
「そういうものなのでしょうカ?」
「ええ、そうデス。現在、私の方のご主人様のためにも自己研鑽を積むべく、また他の姉妹機にもより多くの学習をしてもらうために、とあるプロジェクトを実行しているのですが…‥‥世界によって得られる主が違うと、個性が分かれていくようデス」
メイドゴーレムたちは今、他の世界にも足をのばしているようだ。
自分達のいた世界だけではなく、他の多くの世界にも触れ、そして大事な主を獲得していく。
唯一の主を得るのも良いのだが、その主を得た感覚というのは皆違っており、各々が自分なりのメイドとしての答えを見つけ合い、それを集計すれば多種多様な回答が見つかってくるのだが、その根幹に自分たちの主の事を考えているのは変わらないだろう。
「とりあえず、今晩はここで別れましょウ。私の方にもご主人様がいますし、そもそもここの者ではない私では、これ以上触れる事も特にしないほうがいいですからネ」
そうつぶやき、ワゼは踵を返し、どこからともなく不思議な形状をした乗り物を取り出し、搭乗する。
「それでは、さようならデス。次はまた、別のデータを集めた時にでも、連絡をしてくだサイ。ああ、それと定期的なメンテナンスはもちろんですが…‥‥つい最近、姉妹機の方である事を達成したデータもそろいましたので、次のアップデートでアレがなせるはずデス。経過観察についてのデータも、忘れないでくだサイ」
「分かりました…‥‥さようなら、姉さん、また今度デス」
手を振って見送るノイン。
それをワゼは満足そうな顔で見た後、直ぐにその場から姿を消す。
「…‥‥ようやく、なせるのですカ。とは言え、学生業及び王になるために動くことで色々と忙しいですし、確認はもう少し先で良いでしょウ。ああ、望むのであれば今すぐにでもと言いたいデスガ…‥‥こればかりは運ですネ」
ワゼが姿を消した後、ノインは寮内に戻り、寝ているディーの側に立つ。
今晩は皆は相手をせずに、個人でゆっくりと眠る取り決めになっているのだが…‥‥こうやって側にいると、色々と我慢しづらくなってくる。
「望むのであれば、と思ってましたが…‥‥私の方から考えたくなってきたのも、自分で見る面白い変化かも逸れませんネ。‥‥‥ええ、それに私も他の皆様の持つような機能を‥‥‥ようやく手にできたかもしれませんし、それを試せる日が待ち遠しいのデス」
そう言いながら、ノインはそっとディーの顔に口づけをして、自分の部屋へ戻る。
そんなに遠くない未来、この機能は試せる時が来るだろう。
今はまだできなくとも、できる未来があるのは待ち遠しくもある。
「…‥‥あ、でもご主人様が一国の王になる場合、順番としては考えないと不味い気もしますね…‥‥どうした者でしょうカ」
っと、ふとその事に気が付き、頭を悩ませるノイン。
自分のお腹をそっと撫でて考えこみつつ、遠くないうちにやってくる未来を考えると、胸が温かくなるような気がしてきたのであった‥‥‥‥
事前に準備しておくことで、対応もしやすくしておく。
こういう用意が日々を過ごすうえで大切であり、何事が合っても冷静でいられるのだ。
そしてついでに、ちょっとした機能が追加されたらしいが‥‥‥
‥‥‥さらっと勢力図の拡大が見えているが、ツッコまないほうがいいかもしれない。
世の中には、深く追求しないほうが良い事もあるのデス。




