33 期待を膨らませているんだよ!
「大体の準備は、これで良い感じか」
授業も終え、各自が自由に過ごす放課後。
ディーたちは今、学園内でも一番広い場所…‥‥ツッコミを入れるときりがなく、難しく考えても、もはや訳の分からない場所と化している、寮の自室の一つ、ノインが新たに作り出した室内にて、ある作業を行っていた。
「方向性、召喚時間、及びに媒体となるらしいモノのセット完了デス」
「うまいこといくのはか分かりませんが、あとは詠唱部分だけですわ」
ノインとカトレアが細かい箇所をチェックし、最終的な準備が整う。
「さてさて、本当にできるのかはわからないけど‥‥‥やってみるか」
‥‥‥ゼオライト帝国の第1皇女フローラから、首謀者撃沈などに関してもらった褒美、召喚についての本。
それも、召喚士であれば喉から手が出るほど欲しくなるほど欲しくなるであろう、希望通りのものを召喚できるようにするという一品であり、それを使って今、俺たちは召喚に挑もうとしていた。
ノイン、カトレアに続く3体目の召喚であり、本当に召喚できるのかは疑問だが、昔からの夢の一つを叶えるためであれば、細かい所は気にしない。
あの大空を行く、ドラゴンに乗った召喚士の姿を見て、俺はそもそも召喚士になりたいと願っていた。
カッコイイ系を求めたが‥‥‥出て来たのがメイドに植物と、方向性が全く違う。
でも、この本を元に召喚を行えば、今度こそ求めている召喚獣が召喚できるはずである。
「大抵は1体限り‥‥‥複数体を従えた例は余り無いし、『異界の召喚士』という職業であっても、3体目が出せる保証がない。だからこそ、失敗しないようにしているけど‥‥‥これだけ準備すれば、成功する確率は高いよな?」
「ええ、大丈夫でしょウ。カッコイイ系というか、ご主人様が特に狙うような、ドラゴンの類が召喚獣として出る確率は99%以上デス。これで成功しないはずがありまセン」
「本当に計算できていますの?召喚士が召喚獣を召喚するその仕組みについては、まだ分からない事もあるはずですわよね?」
「ええ、そうデス。けれども、空間・世界・時間軸などの影響を与える事も視野に、計算してみるとほぼ間違いないと断言できマス」
難しい計算式が色々あるらしいが、少なくとも本に書かれている内容は正確なところが多く、きちんと召喚できる可能性が高いとノインは告げる。
「とはいえ、残り1%未満の不安要素もありますが‥‥‥それでも、成功しなければおかしいでしょウ」
「ああ、絶対に成功させないとな」
これだけ念入りに準備をしても、どうしても不確定要素があり、その部分に不安は感じる。
けれども、ここまでやったのだから、しっかりと成功させてみせよう!
「生徒会長及び副生徒会長、学園長にも既に通達済みだよな?」
「ええ、大丈夫ですわ。ただ、カッコイイ系統の召喚獣の場合、体が大きいものが多いので、出す場所に注意が必要らしいですわ」
「流石に、今回用意させていただいたこの部屋のサイズであれば、50メートルサイズのものでも余裕なはずデス」
室内なのに、天井が見えないというところにツッコミを入れたいが、流石に無駄なのは分かっている。
だからこそ、今はただ、召喚に集中するのみだ。
「最後に必要なのは、頭の中に浮かぶ詠唱文の選択か‥‥‥」
初召喚時に使用する、頭の中に自然と浮かぶ召喚の詠唱。
内容は毎回異なるが、実は召喚獣を選ぶ際に重要になるそうで、結構影響を与えるらしい。
今までの例を考えてみると、「汝は常に、我が元へ、命じるままでもあり、自由を求める者」という文から、命令に忠実に従うものとして、ノインが召喚されたし、「汝は常に、我が元へ、この地に根を張り、すべてに芽を向けて従え」で、根を張る=植物なのか、カトレアが召喚された。
そう考えると、影響は結構あるようなので、頭の中でいくつもの召喚に関する詠唱を浮かべる中で、目的を成し遂げられそうなものを選んで、召喚するしかない。
今回は、カッコイイ系‥‥‥できればドラゴンなので、それ繋がりの詠唱を浮かべられたら、それを唱えれば良いようだ。
ちなみに、召喚士学科の他の同級生たちに、召喚時の詠唱分に聞いて尋ね、似たような類‥‥‥ちょっと違うかもしれないが、蛇とかトカゲとか、召喚できた人たちの文を参考にして、探ってみた。
「‥‥‥よし、この詠唱で行くか」
いくつか詠唱を頭の中で浮かべ、適切なものを選択し、心を落ち着かせて深く深呼吸し、召喚に取り掛かる。
「‥‥‥『来たれ、飛来し、我が元へ』」
最初の文が、ノインたちの時とは異なるが、想定内。後はゆっくりと、落ち着いて間違えないように、浮かぶ召喚の詠唱を唱えるだけ。
「『汝は常に、我が元へ、秘宝を守り、収集していくもの』」
‥‥‥ドラゴンと言えば、洞窟などで宝を守るという話もあり、一種のコレクターでもあるようなので、この詠唱文ならば、おそらく間違いないだろう。
「『我が命を受け、加護を与えるモノとなれ、さすれば汝に名を与えん』」
「『さぁ、さぁ、さぁ、顕現せよ、汝に与えし名はルビー!!我が元へ来たまえ!!』」
召喚陣が発光し、輝きが増した次の瞬間、その姿がその場に現れる。
万が一に備えて、かなり広い場所をとっていたが‥‥‥‥どうやらその心配は杞憂だったようで、そこに現れたのはちょうどいいサイズで…‥‥んん?
‥‥‥気のせいだろうか。ドラゴンとかそう言う類を読んだはずなのに、何故か妙に小さい。
いや、なんかすごい嫌な予感というか、気のせいというべきか‥‥‥飛翔の文がある分、きちんと羽があるのも間違いない。
だが、どう見ても…‥‥人間サイズ。
燃え盛る炎のような真紅の翼に、大地にのしかかる大きな尻尾。
鷲のように強力なかぎづめのある足を持ち、額には宝石のようなものが赤く輝いている。
‥‥‥うん、この明らかに人外な部分だけを見れば、成功したようには思えるよ。
分類的に言えば、ドラゴンの仲間なんだろうけれども‥‥‥そう言えば、これって「希望した種族」とかはできる限り呼べるけど「希望する姿」までの指定は…‥‥なかった。
「‥‥‥個体名『ルビー』の名前、確かに承ったでござる。これから、末永く付き合わせてもらうでござるよ、召喚主様」
「‥‥‥わかったけど、さっそく一つ聞いて良いかな?」
「何でござる?」
「種族名、自分で何なのか分かる?」
「うむ!拙者は種族『ヴイーヴル』でござる!これでもれっきとしたドラゴンの一種なのでござるよ!しかも拙者は、一族の中では常識外れの機動力を誇るのござるよ!」
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『ヴイーヴル』
額に個体ごとに異なる種類の宝石を持つ、上半身が女性でありつつも、足が鷲、翼を有して大空を舞うことができるモンスター。
リザードマンに近いともいえるが、こちらの場合は幻術などを操る事を得意としており、自身で吐く炎をさらに感じられるように誘導したりする。
宝を貯めこむという一面を持ち、どこからか様々な宝石以外にも、珍しいものであれば宝として認定し、蓄えていくゆえに、それを目当てに襲うモノもいるが、すべて苛烈に撃退する。
人に近いモンスターであるゆえに、召喚時に性的な意味で襲う召喚者もいたが、本来召喚者に従順気味な召喚獣とは異なり、召喚初期は確実にマイナスな方から始まり、命を落としてしまう例もある。
なお、すべて雌しか存在できず、繁殖時期になると彼女達の生息域から雄は全力で逃げるが、狙われたが最後、逃れることはできない、恐怖の存在と化す。
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自信満々に答え、胸を張るルビー。
まぁ、確かにドラゴンの一種と言っているし、『異界の召喚士』の影響か自称する機動力以外にも、最初からマイナスな関係でもないので、間違ってもないが‥‥‥‥
「‥‥‥全然、それっぽくねぇぇぇぇぇぇえぇっ!!」
一言で表すならば、東洋の方にあるという忍び装束を纏うとされる、「真紅露出低艶強ドラゴンくノ一」。
大空を行く雄大な姿のものを創造していたはずが、まさかのノイン、カトレアに次ぐ容姿だけならば美女3体目であった…‥‥滅茶苦茶、泣きたい。男としては良いのかもしれないけど、期待していたものとは異なるのが非常に辛い。召喚したからには責任持つけどさ…‥‥
「ご主人様、気を落とさないでくだサイ」
「ま、まぁ、そういう時もあるのですわ」
ぽんぽんっとノインとカトレアが慰めてくれるように肩に手を置いてくれるが、その目憐れみを持った目は、今の俺に非常に突き刺さる。
「えっと、その、なんでござろうか?拙者、何か粗相をしでかしたでござるか?」
その光景を見て、ルビーは少々戸惑ったように尋ねてきたが、彼女の責任ではない。
ただ、今はこの本は全く宛にならないと確信し、後で皇女にクレームを言いに向かおうと、固く誓うのであった。
‥‥‥非常に期待していた分、これはひどいと落ち込みはする。
まぁ、確かにドラゴンの仲間なら間違ってもないのだが…‥何かが間違っているようにしか思えない。
なんなの!?この後なんか怨嗟の視線とか増加するようにしか思えないんだけど!
‥‥‥こうしてまた、少年は一つ学ぶ。「世の中は、恐ろしく甘くなく、計画通りにいかないことはある」と。




