321 待つのは長いが、それでも丁寧に
‥‥‥仮面の組織、フェイスマスク根絶作戦。
その作戦は現在進行形で練られているらしいが、早ければ冬季休暇前にあるらしい。
それさえ終わってしまえば、後はゆったりとした学園生活が待っており、将来に何の不安を残すこともないだろう。
ゆっくりと学び、日々を研鑽しつつ過ごし、諜報としての仕事をやるために学習へ意欲を燃やせばいい。
一つの大きな面倒事を早く潰したくはあるが…‥‥その作戦には多くの国々が参加するからこそ、調節が必要らしいのである。
「まぁ、根絶できそうならばあわてず騒がず、気長に待てばいいが…‥‥‥こっちはこっちで、その時のために鍛練を欠かさないほうが良いと言っても、これはどこで止めるべきかな?」
そうつぶやきつつ、ディーが目にしているのは学園の訓練場の一部で行われているとある模擬戦。
夏季休暇も終え、きちんと早々のテストも終え、召喚獣たちの健康状態なども調べてもらって問題はないと版を押されたのだが、ふとここで全員の実力がどうなっているのかが気になったので、少し模擬戦を行うことにした。
とはいえ、学園が使用しているダンジョンではうっかり崩壊の危機を招きかねないので、ある程度の制限ありきかつ大人数で周囲から止めやすい学園の訓練場を使用して模擬戦を行って見たのだが‥‥‥やり合う組み合わせは適当にくじ引きで決めたとはいえ、最初からこれはちょっとやらかしたかもしれない。
「ミサイル連射、100ミリ機関砲及び連射型レールガンセット完了。連続射撃で沈めマス」
「どれもこれも、サイズが違うだけで似たようなものではないですの!!これなら簡単に防げますわ!!」
だだだだだーんっと弾が放出されつつも、木の根が素早く撃ち落とし、貫通されても二本目三本目で防ぎ、対応される。
そして仕返しと言うように、光を集めた光線が解き放たれるも、光線系は反射されてしまい、意味をなさない。
両者とも、たがいの手を知り尽くしているというか、制限ありとはいえけっこう本気で争ってしまっているとか、模擬戦という事を忘れているというべきか…‥‥どうすべきかな、コレ。
「リザ、あれ止めてきて。流石にそろそろ、やり過ぎて制限を忘れかねん」
「んー、そうでありんすね。でも、制限を忘れてやってしまったら、それはそれで負けになるというルールを覚えているので、そこまでならない気もするのでありんすけど‥‥‥」
ドッガァァン!!
ボッガァァァン!
めごぅ!
「‥‥‥うん、訂正するでありんす。そこまでどころか、同時にやらかしかねない勢いでありんす」
「むぅ、まだ日が浅い方とはいえ、こうもすさまじい戦闘を見せ付けられうと、わらわの強さがいま一つ輝かないような気がしてくるのだ」
「ピャァァイ!ママたち、強ーい♪」
リザとスルーズが冷や汗をかく中、嬉しそうに応援するセレナイト。
この中の悪い二人の大喧嘩一歩手前の光景でも、楽しそうに見えているのだろうか?大物じゃないかな、この子。
何にしても、このままにして置くとやらかしかねないのが目に見えていたのだが…‥‥猛烈な爆撃音とか閃光音が響いたりする中、急に攻撃がやんだ。
ガシャンッツ、ぶっしゅううううう!!
しゅるるる‥‥‥しぉぉ
「ん?あれ、なんか二人とも動きが止まったような…‥‥どうしたんだー?」
「‥‥‥制限ありきでやっていたのですが、冷却装置の限界が来かねないので停止させました」
「これ以上無理やりやると、栄養が少し足りなくなりそうですの」
‥‥‥ある程度の制限をかけた分、攻撃の濃度を高めていたようだが、やや過熱させ過ぎたらしい。
一応冷静な部分があったがゆえに、これ以上の戦闘で負担が大きくなり、危険と判断したようだ。
「ピャ?ママたち、もう戦わないのー?」
「いえ、休憩を挟むだけデス」
「時間をかけて回復して、またやりますわ」
喧嘩する時とかは止めにくいが、こういう模擬戦では引き際をわきまえていたらしい。
休んでまたやるつもりらしいが、それでもここでぴたっと止める姿を見て、俺たちは少し驚くのであった。
彼女達だけだった時に比べると、なんか成長したなぁ…‥‥‥
「次は範囲指定型プラズマカノンか、ツァーリボンバーあたりを使う事にしましょウ」
「それをやるのならば、こちらは腐食型の植物を使用させてもらいますわ」
訂正。全然変わってなかった。というか、なんか余計に危険なものを扱う気が満々のように思える。
なんやかんやで一通り、全員の今の実力を見てみたが、制限をかけていたとはいえ実力は皆等しく向上しているようだ。
アナスタシアが吹雪でルビーの火炎放射と互角に押し合っているかと思えば炎を凍らせていたり、ティアの鎖鎌やナイフの乱舞に対してリザがひょいひょいと身軽にかわしていたり、ルンとレイアの高速戦闘でそもそも目が追い付かなかったり‥‥‥‥相性の問題もあるので何かと変えてみたが、それでも全員の手の内は皆わかっているのか、対応できているようだ。
何かと研鑽し合っているし、経験もあるし、召喚獣になって日の浅いスルーズやセレナイトの実力も十分高い。九尾で叩きつけたり、雲まで届くブレスを出したりするからな。
とりあえずこの様子であれば、フェイスマスクの殲滅作戦で蹂躙することが可能なはずである。
まぁ、相手側の対抗手段を考えると、そううまくいくとは考え難いが‥‥‥‥ハザードのように苦労する怪物もいたし、悪臭の怪物なんぞ鼻を防がないと戦いづらかったし、あの手この手で出てくる可能性がある。
「そう考えると、相手の搦め手なども考えて対策を練っておくべきか‥‥?」
肉体・精神的な手段は多くあるだろうし、何かと対策を練れても万全ではないだろうが、それでもやらないよりはましなはずである。
一応、全員の装備品はノインが製作済みであり、改良も日夜重ねているとはいえ‥‥‥‥うん、ある程度考えられう状況なども想定しておくべきだろうか。
誰かが操られかねないってのもあるからな。というか、その手段は俺が一度受けていたが…‥‥
「‥‥‥ついでに俺も、模擬戦に参加しておくべきか」
装備品を装着し、ガントレットやスーツでの動き方を確認しておくことにする。
全員の動きは見ているからこそ、どの様に動くのかが分かるし、召喚獣たちが基本的に戦闘を行うとはいえ、隙を見て召喚士側に攻撃が加えられかねないからな。自衛のための手段を改めて確認し直しておくべきだろう。
少し全員の体力が戻るまで休憩させ、その後に俺も模擬戦に参加し、全員の相手を行う。
何かとノイン御手製の装備品の数々はこういう時に役に立つとはいえ、前部を把握しておいた方が良いので、何かと充実した模擬戦となるのであった…‥‥
実力確認しつつ、その時まで備えておく。
刃を研いでおき、これまでの恨みつらみなどもぶつけるまで。
そして、面倒事や悲劇の元凶を絶つのだ‥‥‥‥
‥‥‥どうでもいいけど、大分戦力的にこれ諜報に普通になれるのか、という疑問が出てくる。
今さら感が凄まじいが、この殲滅作戦後になんか言われそう。




