320 当初の予想とはある意味合っており
「ピャァァイ!!」
「そうそう、そう言う感じでござるよ。翼できちんと風の流れをつかめば飛びやすいでござる」
‥‥‥夏季休暇も終えて授業が始まり、放課後の穏やかな時間。
上空にて、ルビーが先日産まれたファフニールの幼体に対して、飛び方を教えていた。
まだまだ小さいドラゴンの体ではあるが、成長は早いらしい。
手に持てるような小型犬サイズだったのに、数日たった今では大型犬サイズ‥‥‥このペースで行くとひと月もすれば成体と大して差がないほどまでに大きくなるようだ。
「というか、ドラゴンの子供って成長早いのか?」
「そのようデス。精神面の成長は長くかかるようですが、体だけを見るならば早い方ですネ。というのも、ドラゴンの種族は強い力を持つ反面、その体自体が貴重な資源となりやすく、だからこそ自衛のためにもまずは大きくなることを優先するからと言われていマス」
ファフニールの幼体の成長ぶりに対し、紅茶を入れながらそう返答するノイン。
「んー、でもまだ良いのかのぅ、御前様?まだ名前を付けていないのは、ちょっと呼びにくいのじゃ」
「といってもなぁ…‥‥召喚獣に正式にしたほうが良いのだろうけれども、不安だからね」
まだあの幼体には名前を付けていないが、ちょっと不安がある。
いやまぁ、名づけだけならともかく、一応ドラゴンの仲間なので召喚獣に正式にしたほうが所有を示すなどで安全のために良いのだが…‥‥俺の召喚獣契約だと、不安しかないのだ。
良い例がゴロゴロ転がっているというか、周囲にいるというべきか…‥‥人型になりそうで、ちょっと怖いんだよね。
「ようやくまともな子がいるのに、また人型になったとかだったら目も当てられないし…‥‥不名誉というか、勝手に広まっている呼ばれ方などを払しょくしたいんだよなぁ」
「無理だと思うでありんすな」
「まだ召喚獣になって日が浅い方でありんすけど、それは無理だと断言できるのだ」
「グゲェグゲェ」
「無理だと思うぜ?我が君のやらかしはとりつくろえないからな」
「‥‥お前らがそれを言うのかよ」
俺の言葉に対して、召喚獣たちが口々に言うのだが、ぐぅのねも出ない。
まぁ、数名ほどが違うとはいえ、召喚獣となって種族も容姿も変わったやつらが多いのだが、それでも全員美女の容姿。
ゆえに、学園内での噂話で「美女召喚士」とか「美女製造機」だとか、そういう風に隠れて呼ばれているんだよなぁ…‥なんでこうなったし。
しかも、それなりに年月を経たせいで今さら払しょくしきれないというのも分かるのだが、それでも貴重なまともそうな要因を失くしたくないのだ。
先日も、ようやく人型ではない獣が出たと思ったのに、見事に裏切られたからな…‥‥まぁ、尽くしてくれるのは良いけど、こうやって即答されるのもちょっとむかつく。
何にしても、名前がないと呼ぶのが不便であり、全員仮の名称で呼んでいたりするのだが‥‥‥それでもやっぱり、きちんと名付けたほうがいのかもしれない。
うん、それに召喚獣契約をして今回も流石に人型というのは無いと思いたい。ドラゴンの種族だとヴイーヴルであるルビーがいるので、同じようなものになる可能性が無きにしも非ずなのが怖ろしいが。
「とりあえずルビー、その子と一緒にそろそろ降りて来てくれ!この際、勢いでやってみたらいい感じになるかもしれないからな!」
「了解でござるよー!!っと、降りる時は着地に気を付けるでござるよ」
「ピャァァイ!!」
すぃぃぃぃっと滑空してルビーとファフニールの幼体が共に着陸し、目の前に着く。
一生懸命飛んだ楽しさゆえか、幼体の方の尻尾がピコピコ動いてちょっと可愛らしくも思えるだろう。
まぁ、そもそもファフニールは黒い身体のドラゴンだけど、この子の場合白い身体の赤い目で、なんかカッコイイよりもかわいい感じに見えるからな…‥‥配色って大事なんだなぁ。
「なぁ、名前を付けて召喚獣にする気にはなったけど、なる気はあるよな?」
「ピャ?ピャァァアイ!」
問いかけて見れば、やる気十分と言うように頷きまくる幼体。
名前を付けて召喚獣になれば、どういうう感じになるのかは他の皆の話を聞いていたようで、召喚獣に正式になりたかったらしい。
というか、産まれたての子供ゆえなのか、全員母親とかそう言う風に見ているようだし‥‥‥名前で呼ばれたかったのだろう。
「なら、俺の方も勢いで決心して見たし、ここで一旦召喚獣契約を結んでみるぞ。ただ、なった途端に体が変化するかもしれないけど…‥‥それは大丈夫か?」
「ピャイ!」
問題ないというように、自信満々に頷く幼体。
可愛いけれども、この子が人型になったらどうなるのかが想像つかないし…‥‥人型には多分ならないだろうと思いたい。無邪気なあどけなさは、貴重だからな。
‥‥‥など、契約した際に姿が変わる時のリスクの話で、なんかふと思い出したことがある。
過去にはドラゴンを召喚獣にしようとしたら子猫になったとか言う例があるし‥‥‥それは流石にならないよな?人型になるのとはまた違った意味で不安になるような、人型ではないのでそれはそれでなんかいいような、どっちつかずのような気分にもなる。
まぁ、そんな事を今は気にする必要はあるまい。
「やる」と決めたのであれば、その決心が変わらないうちにやったほうが得策である。
「‥‥‥『来たれ、反転せし邪のものよ、我が元へ』」
頭の中に自然と浮かぶ、契約のための召喚文を詠唱し始めたが…‥‥なんか最初から変なものがあるような気がする。
「『汝は常に、我が元へ、理に対して流され抗い、天へと挑む者へ』」
それでも、変なものになり切らず、まともそうな方向へ行きそうな召喚文になってきた。
「『我が命を受け、月夜に表し守護するものへ、さすれば汝に名を与えん』」
「『さぁ、さぁ、さぁ、顕現せよ、汝に与えし名はセレナイト!!我が元へ来たまえ!!』」
「ピャァァァイ!!」
詠唱し終えると同時に、幼体は‥‥‥セレナイトが鳴き声を上げ、その足元に魔法陣が浮かび、煙が吹きあがる。
そして、煙が貼れると同時に…‥‥セレナイトの姿は変わっていた。
「ピャ、ピャ‥‥‥‥ピャァァイ!!」
「‥‥‥なんか、一気に成長した?」
「というか、種族も変わってませんカ?」
魔法陣が消えうせ、煙が貼れて姿を現したセレナイトは、あの小さな幼体の姿から変わっていた。
人型ではなく、一気にかなりのサイズへ…‥九尾のスルーズよりも小さいとはいえ、それでも一軒家と言う位の大きさにまで成長していた。
白い体表は光沢の具合が変わり、宝石のような輝きを纏う。
赤い目だった部分は変わらないのだがこちらも輝きを増し、頭にはユニコーンのような角が生えており、そちらは金色に輝く。
「ピャピャ‥‥召喚主様!!セレナイト、名前貰ったよ!!」
「なんか喋れるようになってた!?」
‥‥‥いつものようにとはならず、安心したような何か違う者が刺激されたような、変わったセレナイトの言葉に一瞬ドキッとさせられる。
まぁ、この契約で一気に成長できたのは良いのだが…‥‥中身が変わってないような気がする。
「ママたち!ボク、セレナイトという名前になったよ!!」
「‥‥あの、一つ良いでしょうカ?『ママ』というのは、もしかして私たちの事でしょうカ?」
「うん!!皆、ママ!!大事なままだよ!!」
「「「「「!?」」」」」
嬉しそうにそう告げるセレナイトの言葉に、召喚獣たちが一斉に胸元を抑えて倒れ込む。
「大丈夫か?」
「‥‥‥は、ハイ」
「種族が違うけど、卵からの子でござるし…‥‥」
「子どものように見ていた分、今のは破壊力が…‥‥すさまじかったのじゃが‥‥‥」
「昇天/子供/怖い」
‥‥‥召喚獣というか、セレナイトはどうやら俺たちのことを親と完全に見ていたそうで、いきなりのパパ・ママ呼びである。
その破壊力は召喚獣たちの力を軽く凌駕したようであり、召喚獣というか我が子と言うべきか、そのおそ恐るべき力を盛大に出したようであった‥‥‥‥
‥‥‥なお後日、ルナティアとアリスもママ認定されていたようで、彼女達も撃沈していたりする。
「ニャ、ニャァ‥‥血の繋がらない子なのに、何でかニャ…‥‥」
「ふふふふ、子供なのはいいけれども…‥‥早めに教えて欲しかったですわ…‥‥がくっ」
「あ、良い笑顔で失神した」
「衝撃が強すぎたようデス。おそらくですが、魅了のようなものが混ざっているのではないかと思われマス」
効果抜群すぎる、子供からの親特効と言うべきか…‥‥‥何だろう、召喚獣の中で一番ヤヴァイ子にしてしまったのかもしれない。
召喚獣となったのに、我が子のようにもなるとはこれいかに。
というか、他の召喚獣たちもママとみなしていたのか‥‥‥まぁ、卵は確かに全員交代しながら温めていたけど、それを覚えていたのだろうか?
おおきな姿になったとはいえ、それでも子供だからこその純粋さが眩しすぎたというか、全員への強烈な特攻である…‥‥
‥‥‥何だろう、召喚獣としては何か間違っているような、それでいて悪くもないような。




