30 とっておきというものはあるもので
本日の授業も終わり、放課後となった現在。
生徒会室へ向かう用事も特になく、あちこちで今起きている戦争に関しての話が多く出ており、それなりに情報が飛び交っていく。
「戦争し始めたって話を聞くけど、ここ大丈夫なのだろうか?」
「大丈夫じゃねぇか?国の軍が出ているだろうしね」
「首都の周囲は、騎士たちがさらに守りを固めているし、そうそう攻めてくることはないだろう」
「‥‥‥案外、戦争についての話題が多いな」
「学生の身分でありながらも、将来的に騎士などになる方々の場合、気になる話題になるのでしょウ」
ついつぶやいた言葉に、ノインがそう答える。
まぁ、騎士学科に、魔法使い学科、タンクマン学科‥‥‥主に戦闘をメインに考える人の場合、斬っても切れない話題なのだろう。
召喚獣学科も、戦闘をメインに考える人なら話題に出すことが多く、学園内は今、その話題で持ちきりのようであった。
「とはいえ、俺達にはそう関係ない話しか‥‥‥」
俺の場合は、召喚士だけど戦闘系をメインにするわけではない。
小さい時に、大空を召喚獣の背に乗って飛んでいた召喚士のように、世界を見て回りたい。
要は諜報とか、そういう類の方につきたいだけであり、戦闘をメインに考えているわけではないのだ。
一応、ノインとカトレアの戦闘能力の高さは分かっているけど‥‥‥彼女達だって戦闘を主にするわけではないし、どちらかと言えば情報戦向きであろう。
っと、そう考えていると、ふと後ろから声をかけられた。
「すいません、ちょっと話をしていいかしら?」
「ん?」
振り返って見れば、そこには一人の少女が立っていた。
白金色の髪色に、ちょっと目がつり上がっているというか、上品さも感じさせる雰囲気。
けれども、それ以外にも何かこう、重い雰囲気のようなものも感じさせられた。
「‥‥‥話って言うけど、誰だ?」
学園に来てまだ日が浅いとはいえ、同級生たちの顔をよく見る分、目の前の人物に見覚えがない。
ちょっと警戒しつつ、俺はそう尋ね返す。
「私は‥‥‥‥」
「‥‥‥帝国の皇女が、俺達へ救援要請?」
「ええ、そうよ」
話の内容的に、ちょっと人前では言いにくい事のようだったので、俺たちは場所を移し、生徒会室内で話を聞いていた。
いつもならば第1,2王子辺りがいるはずだが、今日は都合が悪いようで、誰もいない。
だからこそ、その話しを聞くには都合が良かったともいえるが…‥‥
「失礼ながら、尋ねさせてもらうけど、第1皇女は行方不明って聞いているのに、何故そう名乗れるんだ?」
「色々と、都合がありましたけれども、きちんと相手の信頼を得るためには、素性を隠さずに話したほうが良いと思ったのよね」
‥‥‥目の前の少女、ゼオライト帝国の第1皇女フローラは、そう答えた。
現在、この王国と戦争をしているはずの帝国の皇女が学園内にいる事も驚きだが、この話しかけてきた内容にも驚くものがある。
「いや、でも流石にノインとカトレアの二人が前線に出ても、事態が好転するとは思えないんだけど」
「いえ、可能なはずです。明らかに人外じみたその戦闘能力があれば、戦争を早期に終結へ導き出せるはずですもの」
内容としては、ノインとカトレアの二人に命じて、戦争に参加してもらい、早期解決をして欲しいというもの。
とはいえ、非情に大暴れをしてもらうとかそういう事ではなく、的確に潰す方針を固め、現在帝国を担っている輩たちを集中的に攻撃して欲しいという事であった。
帝国はクーデターが起き、現在はその首謀者たちが国を牛耳っている状態。
そこから皇女は亡命してきており、どうにかして欲しいと既に国の方は頼み込んでいるそうである。
「領地の分割や賠償金などの条件は、ほぼこちらの国通りにするようにはしています。けれども追われてきた身とは言え、それでも帝国の地を赤く染めたくは無いのです」
その牛耳っている、簒奪者たちを倒したいのに、その前に国民が犠牲になっては元も子もない。
余計な血も流してほしくないし、短期決戦・早期解決をして欲しいそうなのだ。
だがしかし、世の中そう簡単に事が進むはずもなく、クーデターを起こした簒奪者たちによる烏合の衆とは言え、数はあるし、それなりに戦うことができる。
そのため、速攻で攻撃してもすぐに片付くはずがなく、結局血が流れてしまうのだ。
それをどうにかしたいと彼女は考えているなか‥‥‥ここへ身を潜めた際に、ある事を目撃した。
それが、ノインとカトレアのいつもの喧嘩による大暴れである。
「どう考えても、その二人だけで軍を相手にできますわ。多勢に無勢とも言えるかもしれませんが、彼女達であれば、一人で百人力…‥‥いえ、千人力はあると思えます。だからこそ、その力を振るって、どうにかして欲しいと考えているのです」
「なるほど…‥‥」
まぁ、確かにそうかもしれないだろう。
並の人間が相手になるような物でもないし、実際にワイバーンの群れを討伐した実績などもある。
あと風呂覗きの輩たちも撃退しており、頑丈さが売りのタンクマンたちも潰しているし‥‥‥実力だけ見れば申し分ない。
でも…‥‥
「‥‥‥生憎、受ける気はない」
「どうしてですか?」
「都合よく利用されているだけに見えるし、今後の事を考えても受けるメリットが無さすぎるからだ」
そもそも、戦争に出られるような物でもない。
いくら実力が伴うとはいえ、実際の戦闘と比べてどうなのかもわからない事もあるし、今回だけ受けたとしたら、あの腹黒王子とかによって他の戦争に出て欲しいという要請もあるかもしれない。
戦う事よりも、俺はあちこちへ出向く方がいいし、そう縛られたくもないのだ。
「戦争に縛られそうな気もするし…‥‥そもそも、彼女達を一戦力としてみなしているのも、なんか気に喰わない。大事な召喚獣であるし、失いたくないとも思うからな」
「ご主人様‥‥‥」
「マスター‥‥‥」
俺の言葉に、ノインとカトレアがキラキラした目で見てきたので、ちょっと気恥しくなる。
いやまぁ、カッコつけたわけでもなく、本当に大事な召喚獣たちだからこそ、戦争の場に出したくないという想いがあるのだ。
‥‥‥あと、あえて口には出さないけど、この二人の仲の悪さが不安要素だったりもする。戦争のどさくさにまぎれて互いに争ったら、それこそ目も当てられない事態になりかねないからね‥‥‥想像したくないな。
とにもかくにも、戦争に彼女達を連れて行く意思もなければ、出るように命じる意思もない。
「彼女達は、俺の召喚獣。だからこそ、召喚士という立場上、彼女達の事を考えると、戦争に出向かせるわけにもいかない。別に活躍して英雄になりたいとか、そういう願望もないし、褒美をもらったとしても、元々田舎育ちの自分にとっては、価値も分からないことがあるからな」
だから、この話はこれで終わりだ。
そう思い、その場から離れようとしたところで…‥‥その言葉が耳に入った。
「‥‥‥では、出来た暁に、褒美として金などではなく、召喚士に関係する情報を渡すのはどうでしょうか?」
「召喚士に関する情報?いや、もともと授業などで学んで、」
「複数体を従える例で、なおかつ希望通りの召喚獣を手繰り寄せるすべがある情報だとしても?」
「‥‥‥何だと?」
‥‥‥基本的に、召喚士は一体の召喚獣を従える。
過去にも複数体の例も効いたことはあるが…‥‥希望通りの召喚獣とは聞いたことがない。
何しろ、召喚する際には確かにある程度の意思も左右するようだが、それでも指定するような物になるとも限らないし、頭の中に浮かぶ詠唱分で呼ぶしかないのだ。
「でも、その決まり事を覆し、希望通りの召喚獣…‥‥この話をする前に、色々と調べさせてもらいましたがが、貴方はドラゴンなどの召喚獣を、元は欲していたらしいですよね?しかも、複数体を
召喚できる可能性を考えると…‥‥3体目を呼ぶとして、希望通りのドラゴンを、呼んでみたいとは思いませんか?」
「‥‥‥‥その情報は、前払いできる物か?」
「いえ、無理です。きちんと戦争を終結させ、なおかつ帝国の王城を奪還しないといけませんからね。皇帝及びその一族しか知らない秘密の部屋に、各職業に関する貴重な資料が多くあり、その中にその召喚士用のものもあるのです」
‥‥‥どうしよう、なんか速攻で心が揺り動かされてしまった。
ノインとカトレアもいるけど、確かに3体目を呼べる可能性はあるし、それが希望通りの者になってほしいという思いもある。
ツッコミや癒しを兼ね備えたようなドラゴン‥‥‥いや、字面が酷いけど、幼い時に、あの大空を飛んでいた召喚士が従えていたような、ドラゴンを呼べる可能性…‥‥
「‥‥‥でも、得るには参戦か‥‥‥」
戦わせたくはないけど、その情報は非常に惜しい。
今のまま、国に任せていても多分終わるだろうけれども、その前に帝国のその貴重な資料もうっかり焼き払われでもしたら目も当てられないだろうし…‥‥
「‥あの、ご主人様。何も参戦しなくても、良い解決方法ならありますヨ」
「え?」
「所詮、相手は烏合の衆…‥‥頭を潰せば、それだけで簡単に崩壊するのが目に見えてマス。なので、わざわざ兵士たちを相手取るよりも、その一点集中だけで済みマス」
「いやいや、そう簡単にいかないだろうし、そもそもその頭とやらも潰すには、周囲の守りを突破しないといけない様な…‥‥」
「私ならば、それは可能デス」
「‥‥‥本当に?」
悩んでいる時に、ノインが提案し、そう告げる。
「あら?それでしたら、わたくしも可能ですわよ」
「カトレアも?」
‥‥‥どのようにしてやるのかは分からないが、何やら二人とも自信たっぷりである。
「‥‥‥一応聞くけど、本当に大丈夫なのか?兵士を大勢相手にするような目になるのも嫌なんだけど」
「ええ、大丈夫デス。そこの樹木よりも効率的に、そして手早く終わらせられマス」
「ええ、大丈夫ですわ。そこの人形よりも効果的に、そして瞬時に終わらせられますわ」
ばちぃっと互ににらみ合い、火花が散ったようにも見えなくもないが…‥‥本当に可能なのか?
「だからこそ、後はご主人様の判断次第デス」
「他へ手を出したくはないですが、マスターのためでしたら、何なりと」
互にバチバチと火花を散らしながらも、そう告げるノインとカトレア。
‥‥‥不安が色々あるというか、何かこう、盛大にやらかされるような気もするのだが‥‥‥まぁ、大丈夫なのかもしれない、多分。
むしろ、相手の方に何か同情を覚えそうな予感がして、胃がその不安でキリっと痛んだような気もするのであった。
「‥‥‥やる気みたいだし、受けるけどさ。もう一つ追加で良い?」
「なにかしら?」
「出来れば胃薬も…‥‥非常に良く効くやつで」
「‥‥‥あ、それは絶対に探し当てますね。なんかこう、苦労が目に見えていますからね」
乗り気ではないが、何やら気になる情報が。
それを得たいと思ったら、二人が進んで提案してきた。
‥‥‥被害も犠牲も少なく出来るなら、やってみてもいいかもしれない。
‥‥‥でもね、やりすぎることは無いようにして欲しい。あと、目立ちすぎないようにね。




