29 どこかで交える事もあるらしく
「…‥‥なぁ、ノイン、カトレア」
「何でしょうカ?」
「何ですの?」
「今の時間、座学じゃなくて召喚獣とのコミュニケーションを取りあうって授業なのは良いんだけど…‥」
‥‥‥召喚士学科の授業内には、当然座学以外のものもある。
召喚獣との意思疎通、絆向上、連携力アップなどを目論んだ授業もあり、現在はその授業の時間となっているのである。
ディーの召喚獣であるノインとカトレアは、その授業の時間に遅れることなく、召喚する手間も省き、きちんと来たのは良いのだが…‥
「よっと」
今回はコミュニケーションを取り合う手法で、軽い遊びを各々に任される。
道具もきちんと用意されており、各自は召喚獣たちとブラッシングやボール遊び、かけっこ、相撲、暗算対決などをしており、俺は無難にボール遊びの方を選択した。
単純に体を動かし、遊びたかったという理由もあったのだが‥‥‥
「ご主人様、どうゾ!」
「マスター!どうぞ!」
三人で三角形に並び、適当に互にパスをしあって受け取るだけの遊び。
彼女達から俺の方へ渡されるボールは、受け取りやすく、きちんと変えるのは良いだろう。
だがしかし、
「カトレア!!行きマス!!」
「なんの!!こちらの方こそお返しいたしますわ!!」
バッシィィィン!!ってぐらいの、強いボールの音がするのであれば、まだ良い方であろう。
だがしかし、さっきからドッカァァァン!!や、ザッグゥゥゥゥン!!とか、明かにボールではない何かを打ち出して、攻撃しているようにしか見えないのはどうにかならないものだろうか。
「というか、既にボールじゃねぇ!!ノイン!!何その棘付きの強烈な鉄球は!?カトレア!!お前の方もなんだその巨大いがぐりのような奴は!!」
「大丈夫デス、ご主人様。ボールはきちんとご主人様用とこの樹木へし折り鉄球玉と使い分けてマス」
「大丈夫ですわ、マスター。きちんとマスター用と、この人形破壊自然の驚異弾と、使い分けていますからね」
「使い分けているというか、互に隙らあらば亡き者にしようとしていないか!?」
滅茶苦茶というかなんというべきか。
この二人の仲の悪さはあきらめの境地に達したいのだが、この状況にどうしてもツッコミせざるを得ない。
巨大な棘付きの鉄球を、変形させた大型の筒のような腕でカトレアに打ったかと思えば、巨大な樹木で彼女はそれを打ち返す。
巨大ないがぐりよりも凶悪そうな弾を、樹木で作った大きな腕で投げ飛ばしたと思ったら、パイルバンカーという道具でノインがそれを貫き、破壊する。
‥‥‥誰かに間違って当たれば、それこそ大惨事間違いないだろう。
というかお前ら、それどこから持ち込んできた?ノインに至っては体に明らかに入らないサイズの鉄球だし、カトレアにしてもそのサイズのいがぐりは急に育つわけもない。
事前に準備してきたかのようにも思える、隠されない互いの殺意増しの凶悪ボール遊び。
いや、もはやそれはボール遊びではないようなのだが…‥‥ああもう!!
「ツッコミ役があと一人欲しい!!」
切実に、このツッコミ力不足な状況に、俺は非常に嘆くのであった‥‥‥‥
「‥‥‥使える手段は、このぐらいね」
丁度その頃、授業の合間の休み時間に、フローラはリストを書いていた。
帝国との戦争で、民が大勢傷つくことは許せず、簒奪者たちを粛正したく、戦力としてノインを勧誘するも、大失敗。
そこから考え直し、言われたとおりに覚悟を改めて決め、彼女の主である召喚士…‥‥ここまで調べた情報によれば、ディーという名の人物に接触を図り、どうにか交渉できないかと思い、その交渉の種に使えそうなものをリストに挙げたのである。
具体的には、帝国を奪還できた暁に、自身の権力を使って褒美をと思っていたが‥‥‥現実は、そう甘くはない。
国内の混乱ゆえに、仮に取り戻せたとしても通貨なども多く消費されているだろうし、戦争に関してこの国へ助けを求めたので、既にいくつかの領地がとられるであろうことは予想できる。
しかも、祖国を奪還できたとしても、そのまま収めることはできないだろうし、そう大きな権力を動かせないのだ。
「‥‥褒賞授与だけでも、動きそうにないですわね」
リストを作るにあたり、自ら動き、その召喚主について調べてみた。
幸いというか、自称彼の大親友かつ悪友と言える人物などからも多くの情報を入手し、どの様な人柄であり、どう動くのか調べる事もできたのだが…‥‥
「元々、召喚士になろうと、努力してきた‥‥‥ね」
人間性等を見る限り、欲望を持つような類でもない。
かと言って、戦争を早期に終わらせて英雄になろうとか、そういう事を考えるような英雄思考もなさそうなのだ。
「召喚した召喚獣は、最初はあの彼女、ノイン‥‥‥次にカトレア。メイドゴーレムにヴァンパイア・アルラウネ‥‥‥どちらも珍しいモンスター‥‥‥か」
自称友人とやらによると、元々ディーは召喚士に憧れつつも、ドラゴンのようなかっこいいような召喚獣を召喚したかったらしい。
だがしかし、何故かあの美女二人になったそうである。
「最初は、『異界の召喚士』という通常の職業名とは異なる事から、確かめるための最初の召喚…‥そして次が、ワイバーンの群れに襲撃を受け、好転させるため…‥‥戦力を求めつつも、思ったことからやや逸れた形になっているのね」
カッコイイ系統を狙おうとして、何故か美女を召喚しまくる事で、同性たちから嫉妬を受けているようだが‥‥‥この点が、もしかすると交渉における鍵になるのではなかろうか。
「‥‥‥確か、アレがあったはず。元々家族以外には知らされない、秘密の場所…‥‥そこに、使えるものがあったはず」
思考をめぐらし、打開策となりうるような手段を彼女は見つけ出す。
とにもかくにも、集めた情報を元にして交渉へ向かうのであった‥‥‥‥
隙あらば争うの、やめて欲しい。
巻き添えになるとシャレにならないからなぁ‥‥‥
‥‥‥なお、栗の方に関しては、後でおいしく調理しました




