309 取り込んでいるからこそ活路はある
「‥‥‥っと、塔のダンジョン上部に変化がありまシタ」
議論しつつ、それぞれが最大の力を発揮できるように準備している中で、塔の方を見てノインがそう口にした。
ディーたちが一斉にその上部の方に目を向けて見れば‥‥‥‥
【ジョグギガァァァァァ!!】
「…‥‥ハザード、頭部、でかくなってない?」
「というか、怪物がより怪物になっているのじゃが」
塔のダンジョンの上層、嵐に覆われていたあたりが急に晴れ始め、その怪物の姿を現した。
それは、俺たちが相手をしたハザードという怪物の頭というか…‥‥塔を上から丸呑みするかのように肥大化した物体。
おおきな口の中にいともたやすく塔を真上からぼりぼりと砕きながら、吸い込むがごとく捕食していた。
「どうなっているんだ、アレ?」
「細胞の異常活性化及びダンジョンコアの反応を確認。おそらくは、急激な自己成長を引き起こし、暴走にやや近い状態かと思われマス」
ハザードの巨大化した頭部に捕食されていく塔を見ながらつぶやけば、ノインがそう分析をした。
どうやらあのコアと一体化していた仮面の奴も呑み込み、ハザードはダンジョンマスターも兼任しながらもコアも体内に入れる事で外に出る自由を手に入れたらしい。
だが、急激な自己成長のために体の栄養が一気に不足したようで…‥‥そこで、ダンジョンそのものを捕食して補うことにしたようだ。
ダンジョン自体が生き物みたいなものだし、その内部にはモンスターも沸いている。
なので、全部を食べれば確かに栄養になるのかもしれないが‥‥‥ダンジョンコアがあるのにダンジョンを食べるのは良いのかという疑問がわく。
そうこうしているうちに、あっという間に塔のダンジョンは喰らいつくされ、ハザードが地面に降り立った。
そして、ぎょろぎょろと巨大化した目を動かし…‥‥俺たちの方に目を向けた。
【ゴギュルグアァァァァ!!】
おおきな咆哮をあげ、こちらへ口を向けるハザード。
あの階層でやっていた光弾でも発射するのかと思った次の瞬間…‥‥ぐばぁっと大きく口が開かれる。
その内部は暗闇になって見えず、飲み込まれた先がどうなっているのかもわからない。
こちらにその深淵のような口を大きく開き続け…‥‥ずぉぉぉっと音がし始めた。
「っと、吸い込みか!!」
「吸引し始めましたね…‥‥私達を吸い込むつもりのようデス」
草木が引っ張られ、引っこ抜かれていく。
地面そのものも吸引力によって引きはがされ、ボロボロと砕かれた破片のようにハザードの口元へ向かっていく。
さらに、その直線状に位置する俺たちにも、その吸引力が作用し始めた。
ゴォォォォォ!!
「ぐっ、引っこ抜かれそうな勢いですわね!」
「ぬぅ、踏ん張りがきいても時間の問題だ!!」
体に来る吸引力にそれぞれが踏ん張っても、じめんそのものまで吸われては意味がない。
各自がそれぞれなんとか耐えようとするのだが、このまま吸われ続ければいずれあの中に飲み込まれるのが目に見えている。
「とはいえ、体内にわざと入るって手段も無理そうじゃな…‥‥どうなっているのかもわからぬし、入ってすぐに溶かされる危険性もあるのじゃ」
「剣/溶けないかも/でも/飲まれるの嫌!!」
「うぉぉぉ!!鎖鎌で何とか突き刺しても、引っ張られるぜぇぇ!!」
ごぉぉぉっと猛烈な風が真正面から吹くがごとく、ハザードの巨大な口の中へ俺たちは引き寄せられそうになる。
いっその事、この吸引力を活かして攻撃を仕掛けてしまう方がいいのではないかと思ったが‥‥‥
ドォォン!!
「‥‥‥駄目ですね、レールガンの弾が引き寄せられ、飲まれまシタ」
「冷気も吸われているのに、まったく凍る気配ない!」
魔法、物理的な弾‥‥‥その他諸々遠距離攻撃手段で攻撃を試みているのだが、どれもこれもがこの吸引力には勝てないようで、自然とその口内へ軌道が曲がり、内部で直撃しているにも関わらず、ハザードの動きに変化はない。
ただひたすら強烈な吸い込みを続けるだけで…‥‥次第にこちらの足元が心もとなくなっていく。
「まさかの大吸引で一気に殲滅か、あるいは呑み込んで己のものにしようとしているのか…‥‥どっちにしても最悪だな」
ガントレットを変形させて地面に突き刺してこらえるのだが、限界は近い。
各自の踏ん張りもそろそろ地面事持っていかれそうで無駄になりそうだ。
「となると、やれそうなのはこのまま吸い込まれて体内へ入って攻撃だが…‥‥危険も大きいか」
変わり果ててよりいっそうおぞましいような怪物と化したハザードの体内がどうなっているのか、あの深淵では皆目見当がつかない。
とはいえ、このまま耐えていても無理があるし、こうなったら腹をくくるしかないのだろう。
‥‥‥ゲイザーに一度食べられた経験があるので、トラウマなのもあるが…‥‥それでも、このままでは状況は変わらない。
「こうなったら思い切って吸い込みにのってあいつの中へ突撃するぞ!!ノイン、あいつはダンジョンコアも体内にあるって見ていいんだよな?」
「そのはずデス。なので、あの一体化していた仮面の者も飲み込まれて中にいると推測していいですが‥‥‥」
「だったら、あの中がダンジョン化している可能性はあるのか?」
「…‥‥ありますネ」
ダンジョンコアを取り込み、ダンジョンそのものを喰らいつくしたハザード
であれば、その体内がダンジョンのように変化を起こしている可能性も否定できず、むしろコアを取り込んでいるのであれば何らかの関係性を構築している可能性があり、コアの破壊でどうにかなるかもしれない。
「全員、突撃用意!!喰われてすぐに溶かされる可能性もあるが、この吸引力での勢いに身を任せて一気に突入する!!バラバラになった場合は俺がすぐに召喚し直し、全員そろって内部を突き進むぞ!!」
「「「「「了解!!」」」」」
それぞれが踏みしめていた足元を放ち、各自の加速方法で吸引の流れに乗る。
最悪の場合、捕食されてすぐにあの目に見える巨大な円周状についている牙にかみ砕かれる可能性があるが、ぼきぼきと食べられる前にさっさと口を通過すればいいはずだ。
俺自身も装備品の中でジェットブーツを起動させ、ガントレットのドリルモードを突き出し、吸引の流れに乗ってハザードの体内へと突撃を開始するのであった…‥‥‥
怪物の中身がどうなっているのかはわからない。
空気もない真空だったり、細胞内が栄養を求めて張り付く触手だったり、はたまたは何でも溶かす胃液で充満していてもおかしくは無いだろう。
けれども、ダンジョンコアを取り込んでいるからこそ怪物の体そのものがダンジョンと化した可能性もあるので、それにかけるしかないのであった…‥‥
…‥‥なんかこの突撃方法だと、某ピンクの悪魔のロボの攻撃の方法か、あるいは有名な何とかブレイクになりそう。




