27 苦労とは、思わぬところでかかっている
…‥‥私の名前はフローラ。ゼオライト帝国の第1皇女。
先日、我が帝国内でクーデターが起きた上に、王国への宣戦布告もあり、なんとか国を戻すために、そして無駄な血が流れぬように亡命して、このヴィステルダム王国の適正学園に身をひそめることになった。
14歳以降の適性検査により、職業を顕現させ、その能力の使い道などを学ぶ教育機関は、当り前のように各国に存在している。
帝国では、軍事に力を入れていたために、主に騎士学科、魔法使い学科、タンクマン学科などに予算が多く分配されていたが‥‥‥そのほかの職業の素晴らしさなどは、知っているつもりであった。
ただ、そこまで詳しいわけでもなく、ちょっと知識を齧った程度である。
だから、できれば詳しい人がいれば、今目の前で起きていることに関して、ご教授願いたい。
「ちっ!無駄に頑丈ですネ!!」
「そちらこそ、攻撃が半端じゃないですわ!!」
…‥‥100歩譲って、召喚獣がほぼ人の形をしている事例があってもおかしくないという事は受け入れよう。
だがしかし‥‥‥‥
ドッゴォォォゥ!!
メッゴォォォウ!!
メイド服を着た女性のような召喚獣が、さっきから腕を分離して飛ばしくまくって、その腕のあった場所には多くの謎の筒が生えて光線を放ち、
ザシュザシュザシュ!!
グォォォォッバァァァン!!
木の椅子に座る褐色の召喚獣が、何やらぶっとい木の根っこを振り回したり、地面から串刺しにするように棘を乱舞させるこの光景。
「ノイン、カトレア!気が済んだら適当なところで切り上げろよ!!」
「わかってますとも、ご主人様。適当なところで切り上げマス」
「ええ、了解ですわよマスター。適当なところで切り上げますわ」
召喚士と思わしき生徒の声に、彼女達はそう答える。
‥‥‥というか、あの二人の女性って、先日助けてくれた者のような。ああ、間違いない、追手たちを分sない玉砕したのは良いけど、その後始末を苦労させられたのだが‥‥‥文句を言いに行けるような状況じゃないなぁ。
いや、まず何この、帝国の兵士たちでも太刀打ちできない様な状況は‥‥‥
「あー‥‥‥喧嘩を思いっきりさせると、こうなるのか」
ドッカンバッカンと暴れる彼女たちを見ながら、ディーはそうつぶやく。
帝国との戦争が近づくが、適正学園の生徒たちは生徒という身分上、参戦することはほとんどない。
けれども、教員の中でも戦える人たちが戦線へ出向き、少々授業が減ってしまい、自由な時間が増えるのである。
一応、俺の所属している召喚獣学科の先生は、そこまで戦えるわけでもないが、本日は体調不良で休校となったので、各々での研鑽となったのだが‥‥‥どうしてこうなった。
「しぶといデス!!しかも火炎放射器の火をはじくとは、ずるいデス!!」
「ずるくないわ!!こういう弱点も克服ぐらいはしますわよ!!それに、そっちの方がその耐久度がずるいですわよ!!何で串刺しにならないのですの!!」
「‥‥‥いや、本当にどうしてこうなった」
…‥‥毎度おなじみというか、何と言うべきか、そりが合わないノインとカトレア。
今日の研鑽中に、ちょっと衝突しあい、以前のように喧嘩しすぎて時間を忘れるという事の無いように、今回は目のつく場所で、お互いに発散して見れば良いと言ったのだが…‥‥激しい戦いが目の前で繰り広げられている。
ノインの場合、どこに仕込んでいたのだと言いたいぐらい、食器を投げ飛ばして武器に扱い、自身がゴーレムなのを良いことに体を分解して動かし、奇妙な動きで惑わしまくる。
カトレアの方も、この戦闘前にちょっとだけ俺の血を飲ませて欲しいと言い、与えたところで、こちらはこちらで何やら活性化したようで、先ほどから強烈な大木が成長したり、茨が急成長して生きているかのように動き回ったりなどしている。
その武器とかそう言う類を無視すれば、美しき舞踊のようにも見えなくはないが‥‥‥無視できないこの状態だと、完全に試合ならぬ死合になっている。
彼女達の本気ぶりを見て、ちょっとシャレにならないなぁと思っていると、いつの間にか野次馬たちが増えていた。
生徒たちも各々研鑽を積んでいたようだが、この死合に惹かれたようで、あっけにとられる者や、気が付けば賭け事をしている者など多種多様であった。
‥‥‥人の召喚獣同士の戦いで賭け事をするのもどうかと思うけど、誰かこれ止められないかな?
‥‥‥周囲の誰もが、どうやって止めるべきかとも考える中、ようやく決着がつくときが来た。
ドッゴォォォォォス!!
片や、ノインの放たれた拳が、カトレアを上空へ打ち上げ、片や、カトレアの突き上げた木の根がノインを上空へふっ飛ばす。
クロスカウンターともまた違うが、とにもかくにも、互いの渾身の一撃が決まり合い、本日も引き分けとなるのであった…‥‥
串刺しにはならず、焼き尽くすこともならず、両者痛み分け。
喧嘩をすれば友情が芽生えそうなものでもあるが、こいつらの場合芽生えるどころかその度に殺意が高まっているような気がしなくもない。
かと言って、どちらか一方に肩入れをすることもできないしなぁ‥‥‥ああ、何か一致団結してくれればいいのだがなぁ‥‥‥
‥‥‥そして一方では、その激突にツッコミどころが多すぎて、動けなくなった皇女もいたようであった。




