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282 何度もあれば流石に慣れて

‥‥‥ヴィステルダム王国の辺境にある田舎のヌルングルス村。


 穏やかな村であり、のんびりと過ごす人が多い中で、ディーの妹であるセラは今、村の中を駆け抜けていた。



「もうすぐお兄ちゃんが帰って来るし、今回は出迎えるために花を用意するのー!!」


 だだだっと駆け抜けて向かうのは、村のはずれの方にある花畑。


 わざわざ花を用意するのは兄想いの妹として良い感じに見て取れそうなものだが、その内情はやや複雑な物がある。


 というのも、ブラコンであるというのはもうすでに受け入れており、否定すらしないのだが…‥‥悲しいかな、その兄の周囲に美女が多すぎるのだ。


 いや、召喚獣なので人ではない者たちだが、それでも容姿だけを見れば恐ろしくかけ離れた存在。


 そんな美女たちに日夜囲まれている兄を考えると、妹としては不安になるのである。


‥‥‥まぁ、流石に何度も顔合わせをしてしまえば、だいぶ落ち着き、受け入れはしてる。


 けれども、兄が村に帰ってくるたびに、大抵増やしてくるのはどうなのかと思ってしまうのである。


 兄であるディーの人格は良いのだが…‥‥わざわざ増やしてきてほしくない。


 下手すると義姉と言わなければならなくなるような人が増加するのは、妹という立場としては複雑であり、何処かで歯止めをかけて欲しい。




 とはいえ、一応最近の手紙などを見る限り、そう増えている様子はない模様。


 昨年が一気に増えすぎたというのもあり、今回の夏季休暇のほうで見れば、増えたとすればルンという人ぐらいであろうか?


 いや、剣の精霊なのでこれまた人ならざる者なのだが…‥‥それでも、増加ペースが抑えられたのは良い事である。


 なので、抑制できているのであればそのついでに妹としての立場もしっかりと固辞しておこうと思い、兄に対して自信を印象付けようと考え、今回の帰郷に合わせて花束でも作って送ろうと考えたのだ。


 帰郷までの予定はあと数日ほどのようだが、召喚獣たちの無茶苦茶ぶりを知っており、それより早く帰ってくる可能性はある。


 そのため、今のうちに花を摘んでも問題はないはずだと彼女は考え、花畑に向かったのである。



「っと、これで十分かも」


 花畑にたどり着いて十数分ほど。


 どれが良いのか迷いながら、組み合わせを考えつつ、彼女は一生懸命花束を作った。


 正直、村ではもう見慣れた花だし、植物関係で言えばディーの召喚獣にカトレアがおり、頼めばより豪快な花を作ることもできるだろうが、そんなことは気にしない。


 そう、量や質よりも、心を大事にしたいのだ。


「あとはとりあえず、綺麗に繕えば良いかなー?」


 ぎっしりと詰まった花束を抱え込みつつ、帰路に付くセラ。


 村の方へ戻ろうとしているところで‥‥‥ふと、彼女は気が付いた。



『---』

「ん?」


 何かこう、か細いような、それでいて何かの鳴き声のようなものが聞こえ、彼女はその声がした方向を振り向く。


 そこはさっきまでいた花畑であり、ある程度採ったとはいえ咲き誇っているのだが…‥‥風に紛れて、小さな声が聞こえてきたような気がするのだ。


「何?」


 気になったので警戒しつつ、そっとその声の発生源を彼女は探り出す。


 一応、万が一に備えてということで、ディーの召喚獣であるノインが以前作ってくれた、不審者撃退用携帯爆弾というのを取り出しておく。


 そして、耳を澄ませて何とか聞き取り、その声の主を捜してみれば…‥‥


「‥‥‥ここ?」


 咲き誇る花畑の中で、花をかき分けた地面にその主がいた。


 見れば、小さな蝶のようだが‥‥‥普通の蝶ではない様子。


 翅の色が見るたびにきらきらと綺麗に移り変わりつつも、大きな傷を負っていたのだ。


『-----』

「声じゃなくて、この翅のこすれた音なのかな?」


 そっと拾い上げて見れば、弱々しく震え、翅の付け根辺りから音が聞こえていた。


 なんというか、本当に弱っているようであり…どうしたものかと彼女は考える。



 この辺りで見たことが無いような珍しい蝶だが、この傷はちょっとおかしいような気がする。


 普通に鳥や獣にやられたにしては深すぎるような気がするし‥‥‥なんとなく嫌な予感がしたのだ。


「とりあえず、うちに運ぶ方が良いのかも」


 手当の仕方などは分からないが、幸いもうすぐ彼女の兄が帰ってくる時期。


 そしてその兄の召喚獣たちには治療が得意なのもいるし、診せる時まで持ってくれれば、なんとかなるかもしれない。


 怪我してながらも綺麗な蝶を花束の上に乗せつつ、彼女は急いで帰宅するのであった…‥‥。











‥‥‥セラが帰宅している丁度その頃。


 適正学園では生徒たちが次々に帰郷用の馬車に乗っていき、散らばっていた。


 そしてディーたちもまた、同様に帰郷のために動いていた。

 

「今回の帰郷にこれを使うのか?」

「ハイ。改造も済みましたしネ」


 帰郷用に寮の自室の荷物を整理して、外に出れば、そこにはノインが用意した新しい馬車が出来上がっていた。


「ふむ、牽引を軽く‥‥‥お、これは中々、ちょうどいい重さだな」


 レイアが牽引用のロープを持って、馬車の重量を確かめる。


 どうやら彼女にとっても引きやすいようで、特に問題はないらしい。


「性能向上ついでに、技術力も向上しましたからネ。船はリリスの中にしまっているので水上はそれで十分ですが、陸上はこの馬車を使うことになりマス」


 装飾も施されており、中の方はノインのお得意の空間作成などで部屋が多くあり、移動する家のような状態らしい。


 前にも似たようなのを作っていたり、時々試作している姿もあったが‥‥‥現時点では、これが最新になるようだ。



「というか、馬車内なのにきちんと風呂場まで設置しているのはどうなんだろうか‥‥‥‥というか、これの水源ってどこから?」

「あ、それは自分だぜ?魔法で貯水しているのを使っているだけだ」

「ついでに儂とアナスタシアも、それぞれ氷を作ったりして溶かしてやっているからのぅ。実質、尽きることはないはずじゃな」


 ティアにゼネ、アナスタシアの協力もあったようで、水源は無限に等しい。


 さらに、カトレアの手によって内部に小さな農園も築かれているようで、自給自足も可能なようだ。



‥‥‥馬車というには、色々詰め込み過ぎているような気もしなくはないが、ツッコミを入れると疲れるのでしないでおこう。


 なんというか、もう慣れたからなぁ…‥‥でもこれ、王子たちが見たら頭を悩ませそうな気がする。


「とはいえ、それはそれでいいかもな‥‥‥胃痛を押しつけよう」


 問題というのは一人で抱え込むよりも、助けを求めて共有してもらう方が良いだろう。


 そう、決してツッコミ不足故の道連れにしてやるとかは、思っていない。多分。



 何にしても、馬車に乗り込み、俺たちは村を目指して出発するのであった…‥‥


「ああ、そう言えば屋敷の方は?国王陛下からもらっているけど、夏季休暇の間図と留守になるよね?」

「ああ、それでしたら大丈夫デス。とは言え、詳しい説明は村に着いてからにしておきましょウ」


‥‥‥うん、案の定というか、まだ何かあるようだ。


 何を披露しようと思っているのかは聞かないが、これで何か大問題レベルだったら王子たちに相談しよう。


 場合によっては国へ相談したほうが良いかもなぁ‥‥‥うん、慣れたとはいえ、決して胃痛の種になりそうなのを押しつけて道連れにしようとは思っていない…‥‥わけでもないな。自信無いな。


 


慣れてきても、どうしようもないことはある。

だからこそ、それを皆でどうにかしようと考えたりする打開策は必要になるのだ。

まぁ、結果として薬屋などが儲かるらしいので、ある意味経済に貢献しているのだが…‥‥




‥‥‥ふと思って、去年の夏季休暇時と比較して気が付いた。

ディー、やっぱりちょっと腹黒くなってない?巻き添えというか道連れを増やす方法を学んでないかな?

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