26 他人事のようであったが
「うわぉ、宣戦布告か‥‥‥」
休日も終わり、授業開始までの時間の合間に、寮の各生徒にとある配布物が届いた。
それは、まさかの戦争のお知らせである。
「えっと‥『ゼオライト帝国でクーデターが勃発!!新たに台頭した人物が、ヴィステルダム王国へ宣戦布告!!』の見出しですカ」
「何やら物騒な話しですわね…‥‥」
配布されたお知らせの見出しを読み、ノインとカトレアがそうつぶやく。
この今いる王国と関係が危うい国、ゼオライト帝国。
その国でクーデターが起きた上に、宣戦布告とは‥‥‥あわただしいことこの上ないうえに、とんでもない話しである。
「というか、クーデターって要は強制的な政権交代とか、そういうやつだろ?国内とかあわただしそうな物なのに、宣戦布告する余裕なんてあるのか?」
皇帝が崩御したという内容もあるようだし、直ぐに戦争を起こしに来るとはちょっと考えにくい。
それなのに、なぜ宣戦布告を早々にやったのだろうか?
「ふむ‥‥‥おそらくですが、箔をつけるためでしょうネ」
「箔?」
「記事の内容を詳細に読み込みますト・・・・」
‥‥‥ゼオライト帝国のクーデターは、内容によると、そもそも皇帝の次期継承権争いが原因らしい。
この国でも腹黒王子共が継承権争いをしているが、まだこっちは穏やかな方であり、帝国の方は暗殺者を仕向けたり、事故死を仕掛けたりなど、それこそ血を見まくるような、生々しい物。
そんな中で、その継承権争いで被害を被るような者たち…‥‥継承権を有利にするために領地改革を勝手にやられてむしろ悪化したり、血生臭い争いのせいで勝手に犯罪者にされて冤罪で捕えられて良いように見世物にされたりとした国民が多く、彼らの不満が爆発してクーデターが起きたようなのだ。
「一応、帝国の第1皇女や第1皇子など、まともな人たちもいて、抑え込みつつ、できるだけ無血開城なども考えていたようですが‥‥‥そこに、過激派とか、利用できると思った愚かな人たちがのってしまい、最悪の事態になったようデス」
様々な黒い思惑があふれ出し、渦を巻いて帝国に襲い掛かる。
その結果、平和的解決を望んでいた皇女・皇子は行方不明。その他争っていた皇子たちはその場で捕縛され、皇帝に関してはこれがショックであったせいかそのまま崩御。
後に残ったのは、その過激派の類であり…‥‥
「とはいえ、元々皇帝が収めていた帝国であり、クーデターで乗っ取ったとしても所詮は烏合の衆、打算の関係、利益重視‥‥‥慕う人たちはそこまでいませんし、利権争いなどでより悲惨なようデス。そもそも、この場合はクーデターというよりも国の簒奪に近い形でショウ」
ゆえに、今帝国内はまとまりがなく、場合によっては分裂の危機。
だからこそ、何か大きな目標を立てて、それに一丸となって乗り切り、きちんと一つにまとめ直すという目論見がありそうだという訳である。
「それが、この王国への宣戦布告か‥‥‥迷惑過ぎるだろ」
その目論見のためにこっち側を巻き込むとはひどすぎる。
そもそも、打算的なものがあるらしいとは言え、それでもまずは我先に手柄を立てようとする輩もいるだろうし、余計にひどいことになるのは目に見えている。
「あれ?でも‥‥‥」
「どうした、カトレア」
「この記事の内容を読めば、そこまで推測は出来ますけど‥‥‥内容がやけに詳しすぎますわね」
「‥‥‥言われてみれば」
クーデター、皇帝崩御、宣戦布告。
国内の情報などもそれだけ一気に起きれば混乱するはずなのに、入っている情報がやけに詳しすぎる。
諜報とか、そういう関係機関が動いているのかもしれないけど‥‥‥そんな危い国ですぐに動いて知らせることができるのだろうか?
「ふむ‥‥‥となると、ひとつの可能性がありますネ」
「というと?」
「誰か、この情勢を詳しく知る人が亡命してきたとかですネ」
‥‥‥ノインの予測した、その可能性。
それはまさに、的中していた。いや、詳しく知る人どころか…‥‥
「…‥‥さてさて、皇女様。今は取りあえず、この学園の方で身を隠すと良いよ。人を隠すには、まずは人ごみの中だというそうだからね」
「いや、流石に学園に通うにしても、ここが攻め込まれる可能性が無きにしも非ずなのだが‥‥‥」
「大丈夫大丈夫。通常ならば帝国軍は非常に屈強で大変な相手だけど、クーデター後の烏合の衆ならば、そこまで大変でもないだろうと思うからね。兄上や僕も前線に出て、手柄を立てるための犠牲になってもらうだけだからね」
「…‥‥帝国の皇女の前で、堂々と言う事か?」
‥‥‥学園の校門前、第2王子グラディの言葉に、フードを被った人物‥‥‥帝国の第1皇女、フローラはそうツッコミを入れる。
亡命し、今回の宣戦布告の件を知らせてきたとはいえ、自国の者たちが傷つくのは避けたいのだ。
「言うしかないからね。まぁ、犠牲は少なくしつつ、帝国側に貸しを作る気満々だから気にしなくても良いよ」
「だからそう堂々と言う事か!?」
亡命先を間違ったかなと、ツッコミを入れながらフローラはそう心の中で思うのであった。
「‥‥あ、そうそう忘れていた、一つ注意して欲しい事があるんだ」
「なんだ?」
「この学園に今、新入生の中で、生徒会に所属させた人物がいるんだけど‥‥‥彼に出くわしたら、迂闊に絡まないほうがいい。彼につく召喚獣が、色々としてくるだろうからね」
「‥召喚獣?その相手は召喚士なのか?」
「ああ。でも普通のとは違うからね…‥‥戦闘能力とかも、パッと見る限り前線に出たらそれこそ一騎当千レベルかもしれないけど…‥‥目を付けられると、他で色々厄介だからね。後、その様子を見ると、ツッコミどころが多くて過労死しかねないね」
「なんだそりゃ?」
‥‥‥グラディの言葉に、フローラは首をかしげる。
帝国にも適性検査などで、職業を顕現があり、召喚士という職業ぐらいは知ってるのだが‥‥‥なにやら妙な忠告である。
少なくとも、そのツッコミしすぎるという事は、後で身をもって知るのであった。
戦争とはこれまた物騒な話しだが、学生の身分ならばそう関係ないはず。
やや楽観視をしつつも、万が一のことを考えるとちょっと嫌なニュースでもあった。
できればさっさと戦争が終わってくれればいいな‥‥‥
…‥ついでにツッコミ役も、切実に求めていたのだが‥‥‥




