267 あると言えばあるもので
【【【アウウェェェェェェン!!】】】
月と星々の明かりしかない深夜に響き渡る、不気味な咆哮。
似たような性質を持ちながらも、それぞれは異なる種族であるはずだが、アンデッドっとなっている今はそれぞれ同じ様な物の扱いになるようだ。
「とはいえ、流石に元凶にどさくさに紛れて逃げられる可能性もある!カトレア、アナスタシア、二人でまずは逃走経路の遮断!!」
「了解ですわ!!」
「了解、即凍結!」
目の前で蠢き出す3匹の怪物たちに目を取られているだけでは、この怪物たちを蘇らせた元凶が逃げかねない。
ゆえに、戦闘態勢に移りつつもまずは全部まとめて拘束できるように周囲から逃走経路を消し飛ばす。
「氷結、全部、凍って!!」
「海側ですけれども、それでも生えますわ!!」
それぞれが手を振るうと、ぶわっと二人の大量の蔓や氷が見る見るうちに周囲へ広がっていき、辺りを一気に囲み上げた。
言うなれば巨大な氷結した植物で出来た鳥籠が出来上がり、まずは俺たちごとその中に放り込ませる。
「ほう、まずは全部を覆って来たか。怪物どもに任せるだけにもいかぬようだし、我輩も戦闘するしかあるまい!」
「っと、人工悪霊だろうが死体を操ろうが、その手の輩はむしろ儂の専門じゃ!!御前様、こやつの方は儂に任せるのじゃ!!」
アポトーシスが攻撃を仕掛けようとしたところで、ゼネが前に立って先手を仕掛ける。
アンデッドみたいな相手だし、目には目を、歯には歯を、アンデッド野郎にはアンデッドな彼女もぶつけられるだろう。
それに、ナイトメア・ワイトというモンスターの身ではあるが元聖女でもあり、その技能がすべて失われているわけでもない。うっかり自分自身に誤爆して昇天しかける時があるらしいが。
「分かった、ゼネはそいつを集中的に狙え!!カトレアとアナスタシアはこの鳥籠の維持と拘束手段で他への補佐!!」
「わかってますわ!!」
「何とか、止める!」
「あ、そうじゃ。アンデッド相手じゃし、先に全員に浄化魔法を付与するのじゃ」
ふと忘れていたことに対して、ゼネがそうつぶやき全員に杖を振るって魔法をかける。
アンデッド系統のモンスターにはまともな攻撃手段が通じにくいし、こういう時に死体に効果抜群の攻撃を取れるようにしてくれるのはありがたい。
瞬時に役目を振り分けつつ、残る3体のアンデッド共に目を俺は向ける。
人数を割くのであれば、それぞれにできるだけ対応しやすい相手でかつ、できるだけ直ぐに他の皆に応戦できるように分けないとな。
「ルビー、ノイン、二人はクラーケン・アンデッドに攻撃を!!周囲に氷の牢獄があるが、そこまで気にせずに全力で火炎放射など火の攻撃で!!」
「了解でござる!!」
「了解デス!」
「レイアとルン、ティアはオクトパウロス相手に拘束戦闘!!敵の触手に気を付けつつ、絡ませる勢いで動きまくれ!」
「了解っと!!」
「お任せ/ぶった斬る!!」
「鎖鎌やナイフで刺し身にしてやるぜぇ!!」
「リリスとリザは俺と共にギガジェリーフィッシュに攻撃を仕掛けるぞ!!召喚士が前に出るのもどうかと思うけど、守りを任せるからな!」
「グゲェ!!」
「素早く癒すサポートをこなすでありんす!!」
ひとまずはそれぞれが対応しやすそうな相手を瞬時に割り当て、俺自身も装備品をしっかりと装着して戦闘に参加する。
普通の召喚士なら後衛で指示を出すが、流石にこの状況だと指示を出すだけでなく、直接前に出た方がやりやすい。
それに、このアンデッドたちはフェイスマスク製の怪物やろうが創り上げたものだろうし、油断できない。
各個撃破を目指しつつ、直ぐに他の皆の援護をできるようにしないとな…‥‥
【アウェェッェェェェン!!】
「っと、これはこれで、厄介だな!」
「触手の動き/不規則すぎる」
「けれども切ればたいしたことないぜ!!」
オクトパウロスを相手に、レイアとルン、ティアが戦闘を始めるが、相手は巨大なタコのようなモンスターであり、攻撃手段は大量の触手。
アンデッドになっているせいか、腐臭も漂っており、できれば触りたくもない相手だが、動きは彼女達の方が早い。
けれども、アンデッドゆえに相手は既に死んでいるので、どうやって対処するのかという疑問が出るかもしれないが…‥‥それはゼネの浄化魔法の付与で解決済み。
なので、遠慮なくズバズバと攻め込めるのだが‥‥‥そう簡単に物事は進まない。
【アウェェェ!!】
「触手の再生が早い!!」
「普通は切れたらそのままになるんじゃねーのか!?」
ただのアンデッドではないのか、切りつけても切りつけても、直ぐに触手が再生していく。
切ったものは砂のようになって消えていくのだが、大本の本体をどうにかしないといけない類であると彼女達はすぐに理解する。
だが、触手が一つ一つ切れたとしても、それらを束ねて防御されると刃が立ちにくい。
一点集中して攻めこむのであれば良いかもしれないが‥‥‥
「となると、この槍の出番だな」
触手の猛攻をかわしつつ、レイアが自慢の槍を回し、狙いを定める。
この臨海合宿前に失われた鎧も、本日迄には既に修復・改良されており、そんな簡単に傷つけられることはない。
「というか、槍に変な改造が付いているが…‥‥これを使って大丈夫だろうか」
「大丈夫/と思う。多分」
「あー、ノインがそう言えば威力増強用に全員の武器を改造すると言って、臨海合宿中に数回ほど手を加えていたぜ」
槍についたいかにも怪しいボタンにレイアはちょっと不安になったが、多分大丈夫だとは思う。
ポチッと押してみれば、槍の先端部分が回転し始め‥‥‥
ドドドドドドドドド!!
「お、これは確か、マイロードのガントレットのロケットパンチと同じものだが…‥‥これはこれで都合が良い!!」
猛攻をしのぎつつ、ルンとティアが触手を切り裂き、再生の合間にできる防御の薄い部分に彼女は狙いを定める。
本当は手に持って一気に貫くのが良いかもしれないが、迂闊に突っこめないのであれば、投げ飛ばした方が良い。
「そこだぁぁぁぁぁぁ!!」
振るうだけではなく、大きく槍を投げ飛ばすレイア。
同時にノインの改造によって付けられたジェットエンジンが一気に猛烈な火を吹き出し、瞬時に加速していく。
【アウ、アボェェェェェェェェェ!?】
ズドンッとそのまま勢いよくやりは突き進み、その巨体に大穴をあけるどころか木っ端みじんに吹き飛ばすのであった…‥‥
「うわぁっ!?思った以上に絵面がグロくなった!?」
「威力の上げ過ぎだぜ」
「貫通性能/着弾/爆発性能チェンジ?」
【アウェェェ!!】
「焼き払うでござるよ」
「火炎放射器、改良型セット完了デス」
一体が倒されるその数分前に、ノインとルビーはクラーケン相手に炎を浴びせまくっていた。
アンデッド系への炎の攻撃は有効手段の一つでもあり、さらにゼネの補助もあって浄化魔法付きの炎を放てる状態。
ただ、相手もやはりただのアンデッドと化した存在ではないのか、ある程度の耐性があるようで、直ぐに効果が表れるという事もないようだ。
【アグヴべェェェェェ!!】
クラーケンの触腕が回転し、炎を真正面から受け止め、振り払っていく。
他の触手では歯が立たないようだが、より頑丈な二本の触腕であれば何とか耐えてしまうようだ。
「っと、思いのほか頑丈でござるが‥‥‥いや、この場合は防火性能が高いというべきでござろうか」
「なら、こちらも火力を上げましょウ」
言うが早いが、ノインが自身の腕を変形させて出していた火炎放射器をさらに変型させ、巨大なタンクが装填された状態になる。
「対カトレア、コホンコホン、拡散放出モード、作動デス」
さらっと本音が漏れたような気がしたが、新たに出された炎は先ほどとは様子が違う。
さらに高温になったというよりも、圧縮し‥‥‥‥はじけ飛んだ。
バァァァン!!
【アグブブべェェェェェ!?】
真正面から受け止め切る自信はあっただろうが、それはあくまでも触腕部分のみに集中すればの話。
今の炎は触腕すらもかいくぐり、広がって燃える炎ではなく、一つ一つが超高温の火の球となって襲い掛かるのだ。
「ただの広範囲攻撃ではなく、一つ一つが単発と同等のでござるか…‥‥よし、それをやるでござる」
ノインの攻撃手段を見て、ルビーも同様の手を取る。
圧縮して熱線と化した攻撃を解き放ち、真正面から相手に浴びせかける軌道を取る。
だが、その攻撃は直線で一気にはじけ飛び、先ほど同様に火だるまにさせていく。
【アブブブブベェェェェェェ!!】
「なんか、良い香りがしてきたような気がするのでござるが」
「まだ鮮度が良いアンデッドだったのでしょうカ?」
アンデッドに新鮮さがあるのかどうかは不明だが、良く焼けたイカの香りが広がりつつ、クラーケンは焼かれていく。
流石に食せる状態ではないだろうが、少なくとも効果はあったようだった。
【アヴヴヴヴェェェェェン!!】
「あのクラゲ頭のどこに、鳴ける部分があるのか気になるが…‥‥っと、危ない危ない」
「グゲェグゲェ」
「放電してくるとは、これはこれで厄介でありんすなぁ」
素早く右へ左へ避けているのだが、有効手段がちょっと無かった。
ガントレットで殴りかかっていきたかったのだが…‥どうもあのギガジェリーフィッシュの体は電撃を纏っているようで、下手に触れれば感電してしまう。
しかも、纏うだけではなく放電も可能なようで、より厄介であり、リリスの箱に逃げ込んでヒット&アウェイを狙いつつもどの武器も効果が薄い。
ロケットランチャー、火炎放射器、ロケットガントレット、カッターミサイル、チャクラム投げ…‥‥火だろうと爆発だろうと物理攻撃だろうと、どの攻撃も効果があまり見られない。
浄化魔法の付与があるので多少はあると思いたいが、相手はどの攻撃も受け止めつつ、耐えきってしまう。
「自己再生能力が高いというべきか、効果的な点が見えにくいが…‥‥」
「いや、ある事はあるようでありんすけど、体の中身を動かせるようでありんすからなぁ」
ギガジェリーフィッシュの体は一見大きなクラゲのようだが、実はどちらかと言えばスライムの仲間に近いらしい。
中身にある核を破壊できれば容易に討伐が可能らしく、アンデッドとなっていてもその部分は変わらないらしい。
だがしかし、その核に攻撃が当てられるかと言えば、そうはいかない状態。
体の構成はほとんどが液体ー固体の中間にあるようなドロドロした物質らしく、体内に何か武器が入ってもすぐに妨害して排出してしまうのだ。
光線とかその手の手段も使って見たが、内部で屈折率を変えて霧散したり、逆にこちらへ返してきたり‥‥‥まともな攻撃が攻撃として使えないようである。
であれば、どうするか?
「アナスタシア、こっちへ補助を!」
「了解、直ぐ、凍らせる!」
氷の籠の維持だけではなく、補助をしてもらう。
あいての体液がうねうねと動いて、着弾してもずらされるのであれば、動けないように固めればいい。
アナスタシアが手を振るい、強烈な吹雪が一気にギガジェリーフィッシュに襲い掛かる。
瞬間凍結し、全身がカチコチに固まったところで‥‥‥
「リザ、相手の急所は!」
「右下23度、そこを全力で叩けばいけるでありんす!」
「わかった!!リリス、滅茶苦茶硬い宝石を一つ!」
「グゲェ!!」
氷結したがゆえに、結露だとかそう言うので見にくくなるが、ツボ押しで鍛えたリザの目からは逃れられない。
的確な位置を特定し、なおかつそこに一撃で叩き込める弾としてリリスお手製の宝石をセット!
「ノイン御手製、最新版レールガン発射!!」
本来であれば金属球を超加速させて発射させる武器らしいが、何でも打ち込めるように改造済みであり、装填したのが宝石であっても問題なく打ち出される。
しかも外さないようにできるだけ近距離で狙って射撃したために、空中での失速などが起きる前に最大威力で直撃。
【-------!!】
凍っているせいか、声にならない断末魔を上げ、相手は木っ端みじんに粉砕されていくのであった…‥‥
「あっちはあっちで、全員なんとか勝ちそうじゃな」
その様子を見つつ、ゼネが杖を振るいアポトーシスから飛ばされてきた魔法をかき消しまくる。
「く!!なかなかやるな!!」
「いや、そちらの方が弱いだけじゃないかのぅ?人工だとか、憑りついただとか、そんな話のようじゃが、天然物のアンデッドには及ばぬ感じがするのぅ」
アポトーシスが叫んだ言葉に対して、そう返答するゼネ。
制御下を離れた悪霊が憑りつき、アンデッド化したに近い相手のようだが…‥‥こちらの方が一枚上手。
というか、元々駄目なオッサンに憑りついた悪霊に対して、元聖女のアンデッドでは、格が違うのだろう。
いかに組織の手によって強化されたり、制御下を離れて自分で強化しているという可能性があっても、それではたいした差にはならないだろう。
「まぁ、カトレアやアナスタシアのおかげで、逃げるようなこともできぬようじゃしな…‥‥いっその事、ここで一気に昇天させてしまうかのぅ?」
海洋王国の国王の体を使っている相手のようだが、そんなことは知った事ではない。
というか、色々とろくでもないことしかしてない相手のようだし、あそこで3体のアンデッドがやられたようだがまだ隠し持っている可能性が大きい。
ならば、ここで余計な事をされる前に、聖女時代に培ったもので一気に消し飛ばしてしまう方が良いかと彼女が思っていると…‥‥ふと、ある事に気が付いた。
「ぬ?」
よく見れば、アポトーシスはまたもや不気味な靄を発生させているようだが…‥‥いや、違う。
発生させているというよりも、自分自身の体を変換し、靄そのものに近い状態にしているようにも見える。
「何か仕掛ける気じゃろうが、そうはさせぬのじゃ!!」
厄介なことをされる前に、素早く動き、魔法を放つゼネ。
だが、その魔法は着弾せずに体をすり抜けた。
「なんじゃと!?」
「くっくっくっく‥‥‥くはははははははは!!馬鹿め、我輩は最初から実体があると思ったか!?あれらを解き放ったのは、貴様らの能力の確認や、こちらの当初の目的のための、観察を行うための時間稼ぎに過ぎぬ!!」
ぶわっと靄が宙に舞いながらそう吠え、一気にその場に体が一つ残される。
そしてその体からも最後の靄が飛び出してきて合体し、一つの不気味な靄の塊が完成した。
「なんだあれ!?」
全員でアンデッドを倒し終え、ゼネの援護に行こうと俺たちが眼にした先には、巨大な靄の塊が出来上がっていた。
「なるほど、そう言う事でしたカ」
「どういうことだ、ノイン」
「あの姿は見せかけであり、本体はあの靄そのもの…‥‥人工悪霊とか言ってましたが、その悪霊本体があの靄のようですネ」
「そのとおりだ!!」
ノインの言葉に対して、肯定を返すかのように靄から声が響き渡る。
逃がさないようにカトレアとアナスタシアが周囲の籠の密度を高め、隙間一つもあかないようにし始めたが‥‥‥その事すら気にせず、余裕そうに靄が、もといアポトーシスが動き出す。
「体をよく見るために、観察用の時間稼ぎを行っていたが…‥十分だ。いや、むしろ実際に目にするまでは半信半疑なところがあったが、予想以上の素晴らしさに我輩は心躍る!!」
「よく見るためだと?」
「そうだ、そもそもそうでもなければここに訪れなかったが…‥目的の大半は出来たと思って良いだろう。だからこそ、後は残る部分を成し遂げるだけだ!!」
言うが早いが、靄の一部がいきなり伸びてきた。
その靄が伸びた先は、俺やゼネ、リリスにカトレア、アナスタシアなどではなく‥‥‥ノイン。
「メイド、我輩はお前を貰おう!!」
「貰われる気はありまセン。私はご主人様のメイドなのデス」
伸びてきた靄に対して、軽くバックステップで離れ、腕を変形させて機関銃に彼女は切り替える。
ずだだだだだっと連射するのだが、実体のない靄に効果はない。
「なら、これデス」
もう片方の腕を変形させると、今度はゼネが持っているような杖が出てきた。
「悪霊なら、浄化魔法。浄化を分析して作り上げた人工浄化杖を喰らいなサイ」
そう言うと、杖を振り上げ、その先から光線が出てきた。
バチィッツジュワァァァ!!
「あじゃあああああああああああ!!」
「なんかかなり効いてないか!?」
「ふむ、浄化魔法のようじゃが…‥‥ちょっと攻撃的にしたもののようじゃな。っと、見ている場合じゃないのじゃ」
まともに傍観しているわけにはいかないと、本家本元というべきかゼネが同じように浄化の魔法をかけようとする。
だが、その範囲から逃れるように靄が素早く動き、俺たちも攻撃をかけようにも実体が無さすぎて手ごたえが無い。
「あじじっ、しかしこれはこれでさらに気に入った!!未知のものをさらに生み出すその能力は、まさに手元に置くにふさわしい!!」
浄化魔法を喰らいながらも、ノインを狙うのはあきらめていないのか一部を伸ばして迫るアポトーシス。
それに対してノインが攻撃をし続け、近づけないかと思われた‥‥‥次の瞬間。
ズドン!!
「ッ!?」
「何!?」
真正面か来ていたがゆえに、油断していた。
どうやら一部が切り離されてて潜んでいたようで、地面から突然一部が飛び出す。
ギリィッツ!!
そのまま伸びまくり、ノインの体にぎちっと巻き付いた。
ついでに浄化がうっとおしかったのか、勢いよく杖も弾き飛ばす。
「くくくくはははははははは!!捕らえたぞ!!あとはここから逃げさせてもらおう!!」
「そうはさせないのじゃ!!」
靄が逃げようといたところで、ここは既に密室と化しており、隙間一つない。
というか、実体のないアポトーシスに対してノインは実体があるし、そう簡単にはいかないはず。
なので、素早くゼネが浄化魔法を直撃させようとしたところで…‥‥
「さらばだ!!」
ビュン!!
「なっ!?」
「消えたじゃと!?しまった、瞬間移動の魔法か道具を使われたのか!!」
瞬時にその姿がノインごと消えうせてしまった。
カトレアとアナスタシアが速攻で籠を解除し、周囲を見渡しやすくしたが様子に変わりはない。
あるとすれば、先ほどアポトーシスいた場所におっさんが一人転がされているだけで、沖合の方に船も…‥
ドォォォォォォン!!
「うわっ!?」
「船が爆発しましたわ!?」
沖合の方に停泊していたらしい、海洋王国の船。
だが、既に正体を現したアポトーシスにとっては、不要だったのか攻撃を仕掛けたらしく、爆炎が上がる。
船の方で悲鳴が上がりつつ、周囲を見渡すもノインや奴の姿はいない。
どうやら、完全に連れ去られてしまったようだ。
「って、そうだ、忘れてた。召喚すればいいんだった!!」
連れ去られても、ノインは召喚獣。
なので召喚士の俺が召喚すればすぐに奪い返せると思ったが‥‥‥‥それができなかった。
「『召喚、ノイン』!!」
簡易的な召喚を行うも反応がなく、ノインが呼びだせない。
正式な詠唱を素早く行っても、彼女が答えることはなく、何も呼び出せない。
…‥‥どうやら既に、召喚対策は取られていたらしく、召喚不能状態。
「くそう!!」
奪われた悔しさと、呼びだせない苛立ちで砂浜に拳を叩きつけたが、意味も無いだろう。
とにもかくにも、今は彼女の不安を祈るしかできなさそうであった‥‥‥‥‥
ああ、油断していた、逃げられた!!
何かしらの情報があるかもと思ってもいたが、ここで塵一つ残さずに消し飛ばせばよかった!!
何故、こういう時に何も学んでいないようなことをしてしまうんだ!!
‥‥‥‥召喚獣、メイドゴーレム「ノイン」。消息を絶つ。




