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240 知らぬが仏・知れば地獄と

「‥‥‥まぁ、現状大丈夫そうじゃな」

「ガッチガチに、幻術で姿が見えないようにしているせいで、どこにいるのかわからんな‥‥‥」


‥‥‥神聖国との国境に入ったところで、ゼネの姿が掻き消え、彼女の声のみが聞こえる。


 ゼネの妹及び狂信者たちが、彼女の国境入りの時点から何かをしでかしかねないと考えた上で、お得意の幻術を使用してこのような行為に出た。


 あの狂愛の怪物騒動を嫌でも経験すえば、これでもまだ甘い可能性があるのだが、それでもゼネの姿が見えなくなる分、補足されなくなることを考えるとちょっとは防衛が出来るはずだろう。


「一応、半径1キロ以内では記録されている生命反応は探知できませんが‥‥‥遠距離から見ている可能性もありますからネ。警戒しておくに越したことはないでしょウ」

「それもそうか」


 ここにいなくとも、遠距離からの観測とかもしている可能性もある。


 だからこそ、より念入りに警戒を解かない方が良いのかもしれない。


「理解不能/狂愛/そこまで?」

「言葉に言い表せぬほどのものじゃから、他者に理解させるのは難しいかもしれんがのぅ…‥‥」


 経験していないルンの言葉に対して、ゼネはそう返答する。


 だが、経験してなくてもしていても、あの狂愛の恐ろしさは否応なく理解させられるとは思う。


 何しろ、あの件でこちらもトラウマというか、人間の想いの拗らせに関するおぞましさの方を学ばされたからな‥‥‥


「人の想いって怖いなぁ」

「愛ゆえに、起こす行動なのでしょうが…‥‥盛大に拗らせている姿は未知の類デス。貴重なデータにもなりそうですが、取りたくはないと心の底から思えるほどのモノでしたしネ」


 メイドゴーレムで普段何かと冷静なノインでも、あの狂愛の怪物のことを考えると嫌になるらしい。


 そして同じく経験していた面子もうんうんと深く頷き合うのであった。






‥‥‥とにもかくにも、ゼネの姿が消えうせたところで、入国したデオドラント神聖国。


 去年のルートと変わりないそうだが、様々な都合によってここで一晩泊まることになる。


 その一晩の間に押しかけられる可能性も考え、ごたごたと騒動を起こして迷惑もかけたくもないので‥‥‥



「‥‥学園から許可をもらって、生徒たち全員が泊まる宿とは違う宿にゼネを泊めることになったけれど‥‥防犯体制に不安しかないからなぁ」


 一応、宿泊費だけは自費で出す。


 報奨金などを貰っていても、そこまで使うことが無いのでこういう機会に出した方が良い。


 そしてさらに、できる限り国内有数の安全な宿という話のあるところに決めたのは良いが、それでも人手を考えると不十分な気がする。


 ゆえに、防犯用の装置などをノインに作ってもらい、設置しつつ、召喚獣たちの何人かを同じように宿泊させる。


「相手が相手だけに、カトレア、ルビー、ルン、ティア、お前たちがゼネと一緒に泊まってくれ」

「了解ですわ」

「了解でござるよ」

「了解/対応可能」

「別に良いぜ」


 狂愛時の経験がある二人と、経験なくとも近接戦闘が得意な二人を組み合わせて、ゼネと共に宿泊させる。


 混戦し、接触を図る可能性もあると考えると、近接戦とかが得意な奴がいた方が良いからな。


 こちらにも一応矛先が向きかねないことも考え、ノイン、リリス、リザ、レイア、アナスタシアを俺のほうに置いておく。ゼネを盗られた恨みとか、なんかそういう逆恨みとかされかねないからなぁ。


「まぁ、真に安全を考えるのであればリリスの中に入れて、厳重に蓋をするだけで良いかもしれないが‥‥‥」

「グゲェ、グゲェ」

「…‥‥入り込まれる可能性を考えると、それは出来ないからなぁ」


 リリスの箱は、耐久性・安全性ともに優れている。


 だが、優れ過ぎているからこそ密室になりやすく、あの狂愛たちが入り込める可能性も捨てきれない。


 隙間からぬるりんと入ったりとか、普通にできそうだからな‥‥‥密室状態で入り込まれたその日には絶叫が周囲一帯に響きかねないだろう。


 とはいえ、あの騒動以来動きもないし、大人しくしている可能性もある。


 もしかすると、あの時のゼネが取った手段で一気に沈静化した可能性もあるし…‥‥それでも、やり過ぎなぐらいの防衛をしておいた方がちょうど良いか。


 その手段に関して思い出すと気分的にちょっと落ち着かなくなりそうなので、さっさとこちらの泊まる宿の方へ向かい、その場を一旦別れるのであった‥‥‥‥


「‥‥‥でもなぁ、なーんか嫌な予感しかしないよな」

「儂、一晩無事で過ごせるのかのぅ…‥‥万が一が起きたら、召喚で速攻の場所移動を頼むのじゃ」


‥‥‥召喚獣の良い逃走手段にも使える召喚。こういう時は結構便利である。


 ある程度距離を稼いで、一気に戻ってくる手段として前に活用したからな‥‥‥‥でも、対策を練られている可能性もあるし、そこは油断できないところではある。












‥‥‥ディーとゼネがそれぞれ別の宿屋に宿泊した丁度その頃。


 神聖国の巨大な教会の地下室にて、秘密の会議が行われていた。


「‥‥‥先ほど、会員から連絡が来ました。お姉様の入国を確認したそうです」

「姿を消す幻術でごまかしているようですが、強制可視可魔道具にて存在を確認。どうやら召喚士と別の宿に泊まるという報告もありました」

「既にその宿屋には、小型撮影魔道具を配備しており、いつでもお姉様の姿を拝むことができる模様。けれども、本番の海の方面で施工が遅れていると報告がありました」



 その場にて、集まっているのはゼネの妹及び同志たち(狂信者)


 ひそひそと互に報告を行いあい、それらに対しての対応を行っていく。


 迅速に、丁寧に、濃密に行い、何一つばれないように彼女達は動くのだ。


「ふぅむ、お姉様が別の宿に…‥‥これは、召喚による移動を利用した逃走経路などの確保を想定できます」

「召喚場所は召喚主の側になるでしょうし、こちらにも撮影場所を待機」

「後ついでに、その召喚主についての最新の報告などもありますわね。最近ですと、獣人と王女の二名が接触機会を増やそうとしているようですが‥‥‥」


 ありとあらゆる情報が行き交う光景は、真面目に会議をしている光景に見えるだろう。


 けれども、その中心にあるのは、彼女達がもつゼネへの狂愛であり、何処かズレているようにも見えるだろう。


「お姉様の奥手な部分も考慮しつつ、ここへ宿泊することでの計画もちょっとズレますが‥‥‥」

「いえ、これはこれでチャンスかもしれません。世の中にはこういう時こそ活かせる手段もありますし‥‥‥ああ、どの手を使うのかも迷いますわね」

「お姉様の幸せこそが私たちの幸せですが、その幸せのために講じる手段を失敗しないように、気を緩めずに進めないといけません」


「最新のお姉様ご使用道具販売などもあり、やる気は十分にあふれてますが…‥‥巷では、偽物も流行しているようですわね」

「それは由々しき事態です。私たちのお姉様への愛を利用せんとする輩には罰をお願いしなければ」

「ついでに本物もしっかりと得ましょう。すり替えるために、ある程度人は用意済みですの」


「あとは、こちらの方で注文していた、アンデッドの体になったお姉様でも使用可能な特別な代物なども、先ほど納品されましたし…‥‥やることが多すぎて、手が回らないです」

「でも、それでもやらなければいけないのよ。我らがお姉様のために」

「効きすぎて理性が吹っ飛んでも、それはそれで私たちが美味しくいただけるはずですしね」


‥‥‥情報が行き交い、色々と混ざって意味不明な会話になりそうな部分があれども、彼女達の想いは揺るがない。


 去年のあの行動で少々浄化されたとはいえ、むしろ狂愛の密度を高めた分、より凄まじい狂愛が渦巻いているのだが、それでもかまわない。


 彼女達にとって、ゼネが最も重要するべきことなのだから。



 どんどん密度が濃くなっていき、あふれ出てくる狂愛。


 怪物に変貌することはおそらくないだろうが、それでもその洪水のように流れ出てくる狂愛は、人の想いの重すぎる面を存分に感じさせるだろう。


「さぁ、まだまだやることがありますが、これもお姉様のため!!久しぶりのお姉様成分極大補充の機会でもあるし、燃え尽きるほどやりましょぉぉぉぉぉ!!」

「「「「「おおおおおおおお!!」」」」」


 気合いを入れてそう号令をかけると、全員の声がそろって気合いを入れまくる。


 たった一晩、されども一晩の貴重な彼女達の本拠地でのゼネの宿泊機会に対して、全力をかっ飛ばして死力を尽くし始めるのであった‥‥‥‥




「おおぅ、なんかすっごい寒気が…‥‥」

「うわ、すごい鳥肌が立ってますわね」

狂愛の怪物を経験しているだけに、警戒は緩めない。

シャレにならないというか、愛って重いんだなぁと学ばされたからな。

そこまで狂愛を抱けるのであれば、もうちょっとゼネの事を考えて欲しいが…‥‥そこまで思考が行かないのか?




…‥‥想いを拗らせると、その分より面倒な方向へ向かうらしいからなぁ。今晩、無事に過ごせるかどうか不安である。

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