237 流石に今度はあれはないと思いたいが
‥‥‥ガランドゥ王国の復興がやや進み始めた今日この頃。
思った以上に迅速であり、再び組織の手に落ちないようにという気迫すらも感じられるのだが、季節的にはちょっと速度が落ち込みそうではある。
それもそうだろう。だんだん真夏日が迫ってきているのだから。
ドタバタで忘れそうではあったが‥‥‥気温が去年よりも早めに上昇してきており、暑さが力を奪ってくるのだ。
「まぁ、そんなこともお構いなく元気に喧嘩できるよなぁ‥‥‥あの二人」
そう俺はつぶやきつつ、現在校庭の方で行われている大喧嘩に目を向け、はぁっと溜息を吐く。
協力する時はするのだが、何かをきっかけに喧嘩は起きてしまう。
それはもう慣れた物であり、同級生たちは巻き込まれないように避難しつつ、今年入学した新入生たちはそのレベルの高さに度肝を抜かれるが…‥‥無理もない。
「いい加減にするのデス!!『爆熱火炎砲』発射!!」
「火の耐性が十分ある事も忘れていますの?押し返してやりますわぁぁぁぁ!!」
どっごぉぉぉんっと爆発させつつ、互いの攻撃を相殺し合い、距離を取っては再び攻撃を繰り返すノインとカトレア。
召喚獣たちの中では最初の方の二人なのだが、その仲の悪さはひそめている時があっても、こうやって爆発する時がある。
「ヒートアップしているし…‥‥一応周囲への配慮はしているようだけど、久々に切れているな」
「何がきっかけで喧嘩が起きるのかはわからぬのじゃが、相変わらず凄まじいのぅ」
「暑い日、暑い戦い、迷惑」
「グゲェ」
呆れたようにゼネがつぶやき、暑さゆえにリリスの箱の中の方に引き籠ったアナスタシアがそう文句を言う。
まぁ、無理はない。暑くなってきているのにわざわざ熱くなるような攻撃をやり合っているのだからな。
季節的にそうなっちゃったのか、それとも偶然かは知らないが、白熱しつつその熱量は凄まじい。
「‥‥‥ディーの召喚獣で、あの二人喧嘩しますわねぇ」
「彼の召喚獣の中でも、実力がトップクラス同士だから長引きそうニャ」
そしてついでに、たまたま本日の喧嘩を見かけてやって来たアリスとルナティアがそうつぶやくがその通りである。
普段であれば、ここらへんでリザが仲介のために、気配も悟らせないツボ押しの一撃で収めるのだが‥‥‥
「きゅぅ…‥‥」
「最初の一撃で、隠れる間も避難する間もなく、巻き添えを喰らって伸びたからなぁ‥‥‥ティア、まだ目覚めそうにないか?」
「んー、無理そうだぜ。まともに喰らったようだからなぁ」
「提案/強硬手段。」
「それが取れれば苦労はしない」
ルンが提案をしてくるが、それができない。
レイアやルンの速度であれば、圧倒的な素早さで押して収める事もできそうなのだが…‥‥不意打ちなどに対しての対策を既に取っているようで、通用しないようだ。
となれば、後は二人の気が済むまで待った方が良いかもしれないが、ヒートアップしてきているせいか周辺の気温が上昇しまくっており、下手すれば暑さで倒れる人が続出するだろう。
そう考えると、どうにかして止めないといけないのだが‥‥‥
「‥‥‥まぁ、こういう時のために、新しく作ってもらっておいてよかったよ」
腕時計のボタンを操作し、装備を取り出す。
自衛のために持たされている装備品ではあるが、どれもこれもずっと同じという訳でもない。
ノインが定期的にメンテナンスをしつつ、新装備の交換・改良を行っている。
そしてその装備品の中で、最近追加したという新しいものを装着する。
「『巨大鎮静注射器砲』っと…‥‥大型の化け物などが出てきた際に使用できる奴だけど、こういう時のも使えるだろう」
破壊とかではなく、鎮める目的であればこちらの砲が利用しやすい。
巨大な大砲のようにも見えなくはないが、出るのは砲弾ではなく鎮静剤たっぷりの注射器だし、万が一着弾失敗しても地面に突き刺さる程度で済む安心設計。中の薬液も、ただ単純に体の力をごそっと抜くだけである。
なお、カトレアならまだしも、メイドゴーレムであるノインの方に効果はあるのかと疑問に思うかもしれないが、彼女いわく以前受けた媚薬ガスを参考に、無機物とか血の通ってないような類でも効果的にするようにしていたようで、問題はない。ついでに薬液も交換可能で、場合によっては硫酸とかにも変えられるらしいが‥‥‥まぁ、そんな想像したら怖い物を入れる必要はないので考えないでおこう。
「とりあえず二人とも、これで落ち着け!!」
だぁん!!だぁん!!
ぷすっ!!ぷすっ!!
「いったぁぁぁぁあ!?」
「あうっふぅ!?」
連続で発射し、綺麗に二人に直撃する。
静脈注射とかではなく、相手の体にさえ当たりさえすれば自動的に注がれる仕組みのようで‥‥‥
「あああ‥‥‥な、なんか力が抜けますわ…‥‥」
「ご、ご主人様…‥‥それ使いましたか…‥‥自分で作っておきながら、体の力がすごい抜け……マス」
「…‥‥効きすぎてないか?」
「なんというか、それで収められるのは驚きニャ」
「いえ、あの二人にまずそれで効くのが驚きですわね」
ひとまずは喧嘩も収まり、物陰に連れて行って、説教を開始するのであった。
召喚主だし、きちんとこういう点では叱っておかないとな。しかし、結構効くなこの新しい装備‥‥‥薬液の再装填には時間がかかるらしいが、場合によってはものすごく応用が利きそうだ。
‥‥‥ディーがノインたちに説教をしている丁度その頃。
デオドラント神聖国の中心に設立されている巨大な教会にて、とある会議が開かれていた。
「では、現状進展はまだ無いと」
「んー‥‥‥お姉様も奥手のようですが、色々と考えている手段があるようね」
「それもそうよねぇ、お姉様は召喚獣の身であり、人ではないもの。だからこそ、あえてその壁を破るためのものを用意していても、そちらが発展するまでは時間がかかりそうかもしれないよのね」
「しかも増えているようだけど‥‥‥‥そちらはそちらで、良い起爆剤になるのかしら?」
その場に集まっているのは、かつてのゼネの妹及び彼女への狂信者たち。
昨年は狂愛の怪物と化して襲撃をかけたこともあったが、今はそこまでではない。
そう、憑き物が落ちたようにスッキリとした顔で、彼女達は話し合っているのだ。
‥‥‥まぁ、憑き物が落ちたとはいえ、その本質は変わりようが無いが。むしろ、余計に邪魔なものが消えうせた分、前以上に質が悪くなっているのは言うまでもない。
綺麗に浄化された分、無駄であった部分をすべて思考に回し、より暴走に拍車がかかっている。
けれどもそれは察知されないようにひそめつつ、この国で彼女達は動いているのだ。
「そういえば、先日敵対中の仮面組織フェイスマスクがここで根を張ろうとしてましたが‥‥‥」
「それは解決済みですよ。何しろ、この時期になると学園の方で臨海合宿があるでしょうし…‥‥お姉様がここを通過するので、遭遇しかねない。だからこそ、安全のために既に排除済みですね」
「ええ、他国ともそのあたりは協議して、しっかりと排除の方針で動きつつ、技術面で奪えるものは奪っていますわね」
あいてが敵であるならば、排除するだけ排除して、使えそうなものはしっかりと強奪していく。
使われぬ技術なども手に入れておき、いざという時に役立てるのだ。
「ええ、ええ、ええ。すべては我らがお姉様のために‥‥‥‥きちんと、おぜん立てなども踏まえておきたいですよね」
「お姉様の幸せこそ、我らの幸せ…‥‥全てを投げ捨てでも、それを達成するために覚悟は皆持ってますものね」
ふふふふふ、あはははっと、笑いあう美しい光景に見えなくもないが、その裏にあるのはドロドロとした愛。
いや、綺麗になっているはずなのだがその本日は全く変わっておらず、狂愛と言っても差し支えはないだろう。
「お姉様のためにも、色々としておかねばいけないでしょうし…‥‥ああ、臨海合宿と言えば、海岸の方でお姉様の水着が見られるかもしれませんわね」
「そのためにも、きちんと姿絵を記録できる魔道具を設置しておきましょうか?」
「幸い、強奪してきた技術では連続映像も可能ですし、さらに小型化、隠蔽などもできますしね…‥‥」
…‥‥盗撮は犯罪だが、彼女達は歯止めが効かない。
未来にあるであろうその光景を手に入れられると思い、その欲望は膨れ上がっていくのであった…‥‥
「ひぃえうっ!?」
「ゼネ?なんだ今のすっごい変な声は?」
「いや、何でもないと言いたい‥‥‥のぅ。なーんか今、どろどろの凄まじい悪寒があったのじゃ…‥‥」
‥‥‥校庭にて、ゼネはその予感を感じ取ったが、その正体が判明するのはもう間もなくのことである。
「そう言えば、時期的には臨海合宿がそろそろあるか。去年のゲイザーみたいなことはあってほしくないが‥‥‥その悪寒ってそれ関係とか?」
「それじゃったら御前様の方に悪寒がするじゃろ。そうではないという事は儂関連かのぅ…‥‥嫌じゃなぁ‥‥」
去年あった臨海合宿でのゲイザー騒動。
あれはもう味わいたくないなと思いつつ、流石に連続してないかとも思う。
まぁ、去年に比べて色々代わっているし、何とかできると思いたい。
‥‥‥そう考えると、たったの一年経過でだいぶ変わっているなこの集団。
「そう言えば、水着の新調が必要ですネ」
「去年の使いまわしとかはしないのか?」
「流石に流行などもありますし、妥協しないのデス。まぁ、私はメイド服型水着なのは変えませんが、機能などは去年以上になっていマス」
「それってメイド服なの?水着なの?」




