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閑話 知らぬ当事者悩むその他

…‥‥普段、何気もなく当り前のように人々は存在している。


 彼らだって、各自の生活があったり、運命に流されたりとしているのだが、それでもそうそう表に出ることはない。


 何故ならば、それ以外の人であまりにも濃すぎる出来事が多く起き、そちらの方に目が向くからである。


 そんな中で、違う意味で濃いその人物は…‥‥ディーの悪友であるバルンは、その光景を物陰から見ていた。



「‥‥‥何と言うか、あいつも罪作りというべきなのかな」


 そうぼそっとつぶやく視線の先には、昼食をとって和気あいあいと召喚獣たちと話しているディーの姿。


 そして召喚獣たちに紛れ、そうではない女子たちがいるのだが‥‥ほんの少しディーの視線が彼女達から外れた瞬間には、目にもとまらぬ速さのやり取りが交わされていた。


 それはどのように見ても、その光景は一人の(ディー)を巡る女の争い。


 少し解せないのは、その肝心の男の召喚獣たちも、その争いに加わると思っていたのだが‥‥‥そこまで加わっていないところであろうか。


 思いっきりばちっと火花が飛び散っているように見えるのは、人間と猫獣人の二人ぐらいだろう。


 

 とはいえ、複雑な関係などもあるようで、直感で関わらない方が良いという感覚をバルンは感じ取っていた。


 というか、女の争いに下手に介入すれば、ひどい目にあうことぐらい彼は知っているのだ。


「…‥‥しかし、あれでよく惨劇が起きないよな」


 王子たちの方で、女性陣の惨劇が起きることはまだわかりやすいだろう。


 将来の国王になるかもしれない彼らに、今のうちから近寄っておいてどうにか妃、欲が無ければ側室に収まりたいと思う者たちがいるからだ。


 

 とはいえ、ディーにも同じようなことが起きないとは限らない。


 平民であったはずが、いつの間にか城伯という貴族位に付き、様々な功績を立てている。


 最近では邸を褒美に貰い、ちょくちょく改装を行って将来的な拠点づくりとしているようだが‥‥‥貴族という位や、その得た褒美での金の量、将来的な好物件という事として考えるのであれば、似たようなことが起きてもおかしくないはずなのだ。


‥‥‥それなのに、そのような事は彼の周囲では起こらない。


 今でこそ、女子二人による争いなどが明白だが…‥‥不思議なことに、それ以外の人が欲望を出して近寄っている光景を見ないのだ。


「なんでだ?」


 悪友という立場であり、同性ではあるが…‥‥異性から見れば、条件としてはディーはかなり良い方ではあるとは思う。


 それなのに、そうしてこないのは何か理由があるのだろうか?


 そう思い、バルンは情報を集めてみることにした。









「‥‥‥そりゃあんた、彼には召喚獣がいるからよ」

「召喚獣がか?」


 まずはどうしたものかと考え…‥‥女であれば同じ女であるもののほうが分かると思い、元カノである同級生に彼は直接聞きに行った。


 既に別れ、破局済みとは言えあっさりとした関係。


 普通は別れた相手がいるのであれば、顔も見たくはないだろうが…‥‥バルンは一応そのあたりのアフターケアなどもしっかりと行っており、何よりも同じ学園に通う者同士であれば無駄に拒絶しまくるのも利が無いと思うので、そこそこ話す程度にはしている。


 過去に学園では、酷い破局を迎えた末にとんでもない事件を起こしたという記録が存在しているようで、その情報を知っているがゆえに関係性に関してはそれなりに気を遣うのである。


 そんな中で、その元カノの一人に思い切って尋ねてみれば…‥‥そのような回答が返って来た。


「ディーの召喚獣たちが、他の女を近寄らせない原因か?」

「ええ、そうよ。ほぼ確実にね」


 再度の問いかけに対して、ふぅっと呆れたように元カノはそう返答する。


「…‥‥彼の召喚獣は、見た目こそ人とあまり変わらない者が多い。ええ、一応ちょっと変わり過ぎかなぁと思う子たちもいるけれども、それでも親しみやすかったりする。けれどもね、それでも召喚獣たちは人ではなく‥‥‥モンスターなのよ」


…‥‥人に近い見た目ゆえに、普段はその事実を忘れそうになるだろう。


 けれども、やはり彼女達はモンスターというか…‥召喚「獣」というだけあって、獣と同じところがある。


「呼び出されたり、契約で結んだりと色々な理由があることぐらい、私たちも知っているわ。女のつながりというか、そう言う部分で話に出たりしているけれども…‥‥彼女達はね、皆、召喚主に対して忠誠よりもより深い物を誓っていると言って良い状態なのよね」

「忠誠よりも深い‥‥‥愛情とかか?」

「そうともいえるし、互に信頼できるという絆ともいえるし…‥‥まぁ、その関係性の部分は召喚士の方が専門家だからわかりにくいわ。それでも、分かるところで言えるとすれば…‥‥いつの間にか、そろって惹かれているようなのよ」


‥‥‥どの時点で、彼女達がディーに対してそのような感情を抱いているのか、それは分からない。


 初めて召喚されたときか、あるいは契約の時か、はたまたは過ごしている間にか…‥‥いづれにしても、彼女達はそれぞれディーに対して非常に大きな好意を抱いているのは間違いないらしい。


 けれども、召喚獣という立場をその分よく理解しており、ちょっとした線引きがされているようだ。


 普通の恋する乙女であれば、難しい所ではある。けれども、普通ではない者たちなので、そのあたりはどうとでもなるようだ。


「その線引き自体、きっかけでもであれば直ぐに消せるようだけれども…‥‥それでも、全員停戦のような状態。仲間内で争うよりも、互いに協力しつつ、何かがあればそこで続けてぶち破るという意気込みくらいはありそうなのよね。簡単に言えば、狩り直前の空腹肉食獣かしら」

「肉食…‥‥そこまでか?」

「ええ、間違いないわね。あんたら男子から見れば、彼はちょっとしたハーレムのように見えるかもしれないけれども‥‥‥一歩間違えれば、凄惨な狩りの現場になるかもしれない危うさもあるのよ」


 元カノからさらっと出てきたろくでもない例えに、納得しつつも想像して思わず寒気を感じてしまうバルン。


 何しろ、ディーの召喚獣たちは全員それぞれ方向性の違う絶世の美女なのだが、その能力は他者よりもはるかに優れている。


 美女だけど、文字通り人外越えをしている存在でもあり、そのすべてを解放すれば…‥‥それこそ、天災になりかねないと言って良いだろう。


 そんな美女たちが肉食獣と化して、襲い掛かってくる光景はシャレになっていないというべきか、その状況でよくもまぁディーが無事だなと思わず感心してしまうほどだ。



「‥‥‥まぁ、彼自身の器の大きさや、対応によっても変わるかもしれないけれどね。でもね、そうなると、今度は狩りまでの休戦時間‥‥‥‥その間に、火の粉がかかってくる可能性があるのよね」


 火の粉が降りかかれば、それは大火事になりかねない。


 ゆえに、彼女達はそうなる前に事前に火消しを行っているようだ。


‥‥‥その火の子や火事が何を示しているのかは、言うまでもないだろう。


「‥‥‥だが、そうだとすると彼女達はどういうことだ?あの猫獣人や、編入生は…?」

「それは単純明快に、彼女達の目にかなったという事かもね。ええ、むしろ大きな壁をぶち抜くための突破口として利用しているかもしれないし、その勢いに流れ込んで…‥‥とも考えている可能性もあるのよねぇ」


 疑問を口にすると、元カノはそう答える。


‥‥‥要は一線を引いているのは良いが、それでもやはり越えたいところはある。


 けれども、人と召喚獣では立場が違うと思っているところがあるので、そう手が出せない。


 だがしかし、そこにもし勢いを載せられるような、突破口が存在するのであれば‥‥‥‥それに乗ってしまえば良い。


 そうすれば、その線引きもやすやすと消し去り、自分達の本能というか、抑え込んでいたものを吹き飛ばして突き進むことに利用可能で‥‥‥‥



「‥‥‥何だろう、第3者目線であれば羨ましい話ではあるが、当事者の中に入ると物凄い暴風に巻き込まれそうな気がするぞ」

「そうなるのよねぇ‥‥‥だからあんたも、下手に関わらない方が良いよ。友人として接するのは良いかもしれないけれど、迂闊にちょっかいでもかけようものならば、確実に痛い目に見るのは間違いないだろうしねぇ」


 そこで話を終え、バルンは元カノと別れる。


 色々聞いて、ある程度理解できたが‥‥‥想像していたよりも、争いごとはやばそうである。


 いや、だからこそそれに何とか入り込めた女の子たちもすごいような気がするが‥‥‥何にしても、迂闊にちょっかいなどはかけられなさそうだ。


「うん、まぁ、最終的にはディーが決める事だろうし、何も言えないかぁ‥‥‥」


 そもそも彼女を作ってはフラれる身のバルンなので、自身が仮にアドバイスを求められたとしても良い物を出すことは出来ないだろう。


 今、彼ができる事とすれば、その現状の平穏の均衡を滅茶苦茶にするような馬鹿が出ないように気を使ってやるぐらいしかないのであった…‥‥‥



「‥‥‥せめて友人として、奴は奴なりの欲も貯まるだろうし、いい発散素材でも‥‥‥」

「何をやらかす気でしょうカ?」

「そりゃ、男子寮で密かに貸し出しされている秘蔵本…‥‥ん?」



…‥‥そしてついでにその日、とある秘蔵本が暴き出され、失われることになった。


「‥‥‥情状酌量や、慈悲は?」

「無いデス。ええ、ご主人様への影響なども考えはしていますガ、それはそう言う話ではなく…‥‥普通に女性という立場として、ちょっと嫌悪しただけデス」

「なんでそもそも聞いていたんだ?」

「ちょっと考えていることがありましたので、ご主人様の友人であれば何か良いアイディアでもありそうだと思い、偶然来ていただけデス」


 単純に、バルンの運が悪かっただけというべきか‥‥‥‥何にしても、ただパチパチと音を立てて、燃やされていく秘蔵本を見るしかできないのであった。

「ああ、ついでに季節外れですが、焼き芋いかがデス?」

「外れ過ぎているというか、それを使っての火で焼いたものは…‥‥でも、うまいな」


 ちょっと塩味が甘みを引き立てているようだが‥‥‥‥別に塩は振りかけていない。ただ、失われたことへの悲しみが調味料となっているのだろう‥‥‥‥





――――――――――――――――


‥‥‥バルンがそう結論付けた一方で、この国の国王の方もまた、頭を悩ませていた。


「‥‥‥さて、どうしたものか」


 元々ガランドゥ王国の異変に対して、帝国の方の手も借りつつ、彼‥‥‥ディーたちの力を借りて、何とかなったのは良いだろう。


 ガランドゥ王国の国王が亡くなってしまったが、代わりの王族たちが動き、ボロボロになった国内の立て直しに援助を行ってもいる。


 

「組織に関しての情報も、ズブズブに浸かっていた国だけあって大量にあったのはまだよかった」


 第2王子がまさかの組織の幹部だったことは驚いたが、その者から得られた情報も大きいし、王城内に残されていた資料なども重要な物ばかり。


 一部が亡き国王の手によってオリハルコン化されていたようだが‥‥‥それでも読めないわけでもないし、仮面の組織フェイスマスクについて知ることができたのは良い。


 だがしかし、得られた資料によればどうもまだ別のところに潜伏していたりするようで…‥‥


「なおかつ、幹部が各自野放しなのがなぁ‥‥‥‥」


 仮面の組織の最終目的は、全員一致。


 けれども、その目的までの手段がバラバラのようで、様々な事をやらかしているようで…‥‥一見、別件だと思っていたことも、同じ組織の手によるものだということまでが出てきたのは頭の痛い所だ。


 何しろ、別物だと考えていたら根幹が同じであり、見過ごしそうになるのだ。


 関係なさそうだと思っているところが関係あったり、関係ありそうだと思ったところがそうでなかったり‥‥‥組織の者探しをする際の支障になるのが目に見える。


「後手に回りたくはないが、先手を打ちにくいな…‥‥」


 相手のやり方が分析できても、そのやられた際に先手を打てるかどうかという話になると、これもまた面倒なことになる。


 知れば知るほど抜け出せない沼に嵌っているようで、少々胃が痛くなってくるだろう。


「そしてついでに…‥‥これもか」


 それだけならまだマシなのだが…‥‥頭が痛くなりそうなのは、違う一件。


 この国にとって重要な人物に該当するディーを狙う輩が増えたという報告である。


 無理もないだろう。今回の一件は少々規模が大きくなりすぎたのだから。


 ある程度隠していたとしても、それでもやはり流出は避けられないだろうし、知っている国が限られていた状態でも、ちょっと入ってしまうのは問題だ。


「‥‥‥暗殺とかはないだろうが…‥‥争奪戦が、始まりそうだ…‥‥ああ、できれば早いところあの話(・・・)を、ガランドゥ王国の者たちも混ぜ込んでまとめた方が良いだろう」


 そうつぶやき、国王は動き出す。


 遅かれ早かれ、ある程度の話し合いは帝国や神聖国などとしていたが…‥‥この件を聞く限り、より早い決定が望ましそうだ。


 できればその対象となるディー本人が卒業する時を狙っていたが…‥‥時期はもう少し、早めにずらすべきだろう。


 そう考え、その話を進めるためにも、再び各国へ連絡を取り合い始めるのであった…‥‥

あちこちで悩み事が多発しているようだが、全てを解決する手立てはない。

当事者たちが悩みに悩み、各自でやるしかないのだから。

…‥‥ついでに言うのであれば、それは小さな慈悲でもあった。全部曝露して堂々と晒すこともできたのだから。



「でも、思わずやってしまいましたが、後々の参考資料としておけばよかったでしょうカ・・・・・?」

「そこのメイド、参考資料としてどうする気だったんだよ?」

「ご主人様のために、様々な対応が可能なように、利用するだけデス」


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