232 シャレにならない事態は嫌すぎるのだが
…‥‥ガランドゥ王国の王城内、謁見室の前。そこにディーたちはたどり着いていた。
扉自体は普通の豪勢な大扉であり、ここでも芸術の高さを知らしめたいのか、装飾が城門よりもより一層丁寧に施されているように見えるだろう。
「‥‥‥とは言え、素晴らしいと口に出したいのに出せない状況というか」
「明らかに、ヤヴァイ、雰囲気ビシビシ、辛い」
扉を開けたいところなのだが、どうもそうはいかない状態。
というのも、この国全体を覆うような、記憶に作用するような魔道具が直接設置されている影響なのかはわからないのだが…‥‥どうも近づくにつれて感じ取ってしまうものがある。
恐怖や畏怖とかではなく‥‥‥強すぎるがゆえに出てきているかのような、狂気そのもの。
いつぞやかのゼネの妹が変貌した狂愛の怪物に似た雰囲気があふれ出しつつ、それとはまた違った狂ったものが出ているようにしか思えないのである。
‥‥‥まぁ、あの狂愛の怪物云々は組織は関わっていなかったらしいけれどな。そう考えると、ゼネへの想いだけで大変貌を遂げてしまった彼女の妹たちに恐怖を覚えるような‥‥‥いや、今さらか。
何にしても、圧力というべき様な物もある感じがする中で、進まなければ意味が無いので扉を無理やり開ける。
流石にぶっとばして壊すのは気が引けたので、気が付かれないように、音も経てないように慎重にゆっくりと明け‥‥‥中に俺たちは入り込んだ。
「‥‥‥誰もいないな」
「センサーは感知しているのですが…‥‥」
ノインのアホ毛がぐるぐると回り、色々探知しているようだが人の気配がない。
見渡しても謁見室というだけあって、先の方には玉座が添えられているのだが、そこに座る存在すらもなく、明かりもない暗い部屋なだけだ。
「根っこの方でも、びりびりするというか…‥‥何もないのに、何かがあるかのような感覚が嫌ですわね」
「ないように見せて、あるのでは?でも、そう言う風でもないような‥‥‥」
全員で見渡してみるが、特に何もないように見えた…‥‥その時である。
「察知/そこ!!」
ふよふよと剣の状態で浮いていたルンが、鞘を速攻で抜き、素早く自身の刃を動かした。
投げられたかのように勢いよく飛んだ先には、玉座があり…‥‥その玉座の足元へ突き刺さった。
「ひょえっと!?」
「「「「!!」」」」
ルンが突きさ刺さった瞬間、その場所から逃れたように影が現れ、空中で回転して態勢を整え、器用に着地した。
見れば、そこには成人男性ほどの大きさのような物が立っており、その顔には笑い顔のような不気味な仮面を付けていた。
「いやいやいや、さすがに気配を消していたのに、なーんでバレたのかなぁ?」
「自分/対人戦得意/ゆえに反応速度/結構速い」
「ちょっと悔しい気がしますガ‥‥‥‥ですが、ルンの対人察知能力は私よりも上ですネ」
仮面の者の問いかけに彼女はそう答えつつ、ノインの方はちょっと悔しがるような声を出す。
でも、そんな事よりも目の前に出たのは…‥‥アリス王女の話に合った、笑みの仮面を付けていた奴なのだろうか?
「ふむぅ?人数がいささか合わないような、組織の情報ではまだ入ってきていない類がいるのも気になりますが‥‥‥これはこれは、どうやら皆さま、お初にお目にかかるようですねぇ」
全員が臨戦態勢に移る中、仮面の者は陽気そうな声を上げつつ、こちらに向き直る。
仮面越しなのだろうが、それでも隠されている表情が不気味に笑ったように思えてしまうし‥‥‥なんとなく、声が地声で出は無いような気がする。
何かこう、無理やり何かで変化させたかのような声色で、違和感も大きくさせているようだ。
「動く怪侍女人形、蠢く奇樹、天を舞うトカゲ女、凍てつく遊女のような方々がいる時点で、大体どのような相手なのかはわかります。まぁ、飛ぶ剣に猫女は情報不足ですが…‥‥それでも、それだけの奇女たちを従える方なんぞ、もはや組織内では有名な方ですからねぇ、召喚士のディーとやらは!!」
「‥‥‥」
…‥‥この時点で、もう相手が仮面の組織フェイスマスクの関係者なことが十分理解できる。
言い方に悪意があるようだが…‥その言葉に全員イラっと来たようで、少し表情に出ていた。
「なるほど、俺の正体の方は既に理解済みか…‥‥なら逆に、そっちの情報を教えてもらうとかはできないのか?」
「冗談を、と言いたいところですが、あの王の最後の手術も終え、今宵の気分は良いですからねぇ、せっかくなので言葉の仮面も外して名乗って差し上げましょう!!組織フェイスマスクの幹部が一人、『狂気の笑み仮面ハドゥーラ』でございますぅ!」
テンションが高いようだが…‥‥馬鹿げたような口調をしつつも、隙が無い。
すちゃっとポーズを決めながらという部分にはツッコミが入れたいが、どうやらとんでもない大物が出てきたようだ。
「組織の幹部、か」
「ええ、あなた方によって何度も何度もやってきたことを無に帰されるような真似をされてしまった、被害者の会ともいえますがねぇ」
犠牲とかしか生みだしていないのに、被害者面とはふざけている。
何度もやってきたことに関しては否定しないが…‥‥それよりも気になる言葉があった。
「最後の手術とはどういうことなのかニャ?」
「ああ、それはですねぇ‥‥‥組織の最終目的へ向けて、各幹部が目指すアプローチの内、わたくしめは『人の体に直接細工を施す大改造』という手段に関してやったことなのです」
いまだに手を出せるような隙が無く、緊張が高まりつつも、ルナティアがそう問いかけると相手はあっさりと答えてくれた。
「我が組織の目的の一つ、『人知を超えた者になる』!!わかりやすく言えば人の存在を昇華させ、神そのものを作り上げるような行為!!…‥‥まぁ、そんな簡単に行かないことぐらいは、常識なんですがねぇ」
ずばんっとはっきり言ったかと思えば、急に意気消沈するかのような声になった。
「大体、人が人に手を加える時点で『人知を超える』ってのが無理に近いですものねぇ。人知を超える者を作ろうにも、作る人が人知の範疇にいる時点で、不可能ですよねぇ」
「その通りかもしれないが‥‥‥」
「何で組織の幹部が、急に愚痴を言うんだぜ?」
正論と言えば正論ではある。
「なのでぇ、なのでぇ、なのでぇ…‥‥人知を超えるために、私たちは各自でいろいろ工夫を凝らし…‥‥そしてこのわたくしめは、その方法の一つとして人体改造から着手し‥‥‥それでもなお、見つけられぬ一手を得るために彷徨う中で、いただいたのですよぉ」
情緒不安定そうに言いつつも、急に仮面多くの瞳がギラリと光るような顔に変わったようだ。
色々と騒がしく動かしているなと思いつつ、ハドゥーラはごそごそと懐を探るように動かしつつ‥‥‥何かを取り出した。
それは、一つの大きな板のようなもの。
けれども、その表面にはいくつもの細かい模様が彫られているが‥‥‥‥何かの魔法陣のように見えなくもない。
「これぞこれぞこれぞ!!組織の長が悩めるわたくしに下さった、希望の光!!魔道具の一種でありつつも、人の脳細胞をすべて活用し、普段は扱えぬ領域すらも全部使うことが可能になるという道具『叡智の板』なのだぁ!!」
「‥‥‥なるほど、そう言うからくりですカ」
自信満々にその道具を見せつけるハドゥーラに対して、その道具を見ながらノインがつぶやく。
「どういうことだ?」
「あれ自体が魔道具の一種のようですが…‥いえ、魔道具と言えないかもしれまセン。何しろ、その道具にあるのは魔法ではなく…‥科学の一種。仕組みなどは詳しく分析しないと断定できませんが、あれ自体が特殊な磁場を形成し、装着した者の体内へ直接作用するようデス」
「おおぅ?その動く怪侍女人形にはもうこれがわかったのかなぁ?」
「その程度の仕組み、メイドたるもの瞬時に分析し、報告できるようにしていますからネ」
「いや、それ普通のメイドに出来ないと思うのニャ」
ルナティアのそのツッコミに、ハドゥーラも含めて全員がうんうんと思わずうなずいてしまった。
普通のメイドが分析できるかというツッコミは、ちょっとだけ場の雰囲気を和ませてしまったが‥‥‥それでも緊迫感は薄れていない。
「まぁ、何にしてもそ仕組みが分かったところで、君たちはもう手遅れなんだけどねぇ」
そう言いつつ、ハドゥーラは道具をしまったかと思えば、また別の道具を取り出した。
それ何か、箱に棒きれが二本刺さっただけのような、道具とも思えないような道具だが…‥‥それに奴は手をかけた。
「手術はもう終えた。あとは動作確認だけだったんだけど、その動作を確認するにも早々動かす相手がいなくてねぇ…‥‥どうしたものかとちょっと考えていたけど、来てくれて都合が良かったよ」
そう告げると、その棒を持ち‥‥‥片方を、ぐいっと動かした。
―――ゴゴ、ッゴ‥‥‥ゴゴゴゴゴゴゴ!!
「っ!?なんだ!?」
それと同時に床が揺れ動き始め、不気味な音を立てはじめる。
まるで、王城全体が震えるかのような動きに、異常性を感じる。
「さぁ、立ち上がってください国王陛下!!あなたの芸術をけなす者がここに現れましたよぉ!!」
そう叫ぶと、ハドゥーラはその手に持った道具を話すことなく、ばっと後方に下がったかと思えば、次の瞬間にその場に穴が出現し、そこに落ちた。
捕らえようと蔓や腕が伸ばされるが、達する前に穴が閉じてしまう。
「揺れが収まらない…‥‥いったん部屋から出るぞ!」
「「「「了解!!」」」」
全員素早く動き、部屋から出ると後方で崩れるかのような音がし始める。
そして、廊下に出ても揺れは収まることなくどんどん大きくなっていき、あちこちにひびができ始め、崩れ始めていく。
「ちっ、こりゃ王城の崩落の方が先か!」
「このぐらい、凍結させる!!」
アナスタシアが腕を振るうと、先の道が瞬時に凍結して崩落を防ぐ。
ちょうどゼネたちの方も終わっていたようで、リザが報告してきたあと直ぐに全員召還して移動させ、王城外に飛び出る。
轟音とともに崩れる王城に巻き込まれずに、俺たちは脱出に成功したが…‥‥崩れ切った後の砂埃が落ち着くと、そこに現れた異様な物体に、俺たちは驚愕した。
「な、なんだありゃ…‥‥」
「‥‥‥人体改造というか、魔改造の類ですネ。何をどうしたらああなるのかが疑問ですガ」
崩れ切ったあ王城の跡地には、巨大な人影があった。
それはゆっくりと立ち上がり、その巨大さを見せ付ける。
曇り空であったはずが、何時しか雲が消えうせており、月明かりに照らされてはっきり見えてしまう。
【…‥‥オオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォン!!】
空気が震えるような方向を上げ、それは目を見開く。
一見人型に見えるものの、その表面は金属光が輝き、あちこちに奇妙な模様が彫られている。
そしてその頭部には、人間の頭が…‥‥いや、巨大すぎる頭部が存在しており、暗闇でも光る眼をいくつか追加されていた。
『‥‥‥あの顔、間違いない。父‥‥‥もとい国王』
「何をどうしたらあんなでかい頭になるんだよ!!」
「顔以外にもツッコミどころがあると思うのニャ」
ツッコミどころ満載過ぎるが、アリス王女によれば目の多さなどを除けば、間違いなくガランドゥ王国の国王本人。
そしてその頭部をよく見れば、額の方に空室があり…‥‥その内部に、仮面の者が座っていた。
【さぁ、国王陛下。今あなたの目下にいるのは、芸術をけなす奴ら。それらすべてを消し飛ばし‥‥‥いえ、あなたの芸術に変えてしまう方が世のためでしょう】
【オオオオオオオオオオオオオオオォン!!】
仮面の者の声が大きく響き、国王であったものが咆哮を上げて答える。
もはやまともな思考ができていないというべきか‥‥‥‥言われるままのようだ。
そして、口を大きく開き始め、俺たちの方へ向く。
高い音が鳴り響き始め、口腔内が光ると…‥‥次の瞬間、一気に何かが発射された。
ドオオオオオオオオオオオオン!!
一つの巨大な閃光弾のようなものが打ち出され、向かってくる。
あまりの速度に普通の者であればそのまま直撃するだろうが、明かに勘が当たっては不味いと警鐘を鳴らす。
「リリス!」
「グゲェ!!」
全員で素早くリリスの箱の中に飛び込むと同時に、こういう時用にノインが作ったお手製の彼女専用ホバーブーツ…‥‥いや、より最適に動けるようにと改造した装備の翼とジェットエンジンとやらで素早く空に逃げる。
そしてほんの数秒前まで俺たちがいた場所にそれは着弾した。
爆風もなく、全てを破壊するような攻撃ではなかっただろう。
けれどもモノとしては変えるような攻撃だったようで…‥‥着弾して間もなく、その変化が起き始める。
「地面が…‥‥」
瞬時に輝いたかと思えば、その場所には金属光沢が輝いていた。
石や土だけがあった場所のはずなのに、それらが全て金属に変化している。
しかも、ただの金属ではない。
「‥‥‥何と言うか、錬金術に近いモノだったようデス。ですが、文字通り錬金…‥‥金を作ったのではなく、似たような光沢を放つ金属…‥‥伝説の金属とも言われるような、『オリハルコン』に錬成したようデス」
「なんだと?」
――――――――
『オリハルコン』
最強の金属の一つに数えられている、非常に特殊な金属。
その硬度はとんでもなく、武器に応用すればすさまじいものができあがるとされているのだが、ダンジョンでしか見つからず、そもそも強度や沸点が他の金属とは違いすぎる点が多く、加工が非常に難しいとされている。
ゆえに、オリハルコンで出来た武器などは本当に存在させることができるのかと言われるほどである。
――――――――
‥‥‥そんな金属を、あの国王だったものが創り出したのか。
「というか、なんでそんな攻撃を?」
『‥‥‥多分だけど、父、金属で像を作るつもりだったかもしれない』
思わず出た疑問の言葉に対して、アリス王女がそう答える。
『父は元々、ああいう像芸が得意でした。石像に木像…‥‥人の脈動間を捉え、永遠に後世に残したいとも言っていた時があったの』
その中で、特に気に入っていたのが金属での像作りだったらしい。
錆などの問題があるが、それらがクリアできればほぼ壊れることが無い、不滅の像が出来上がると考えていたことがあったらしい。
だがしかし、いくら金属で作った像と言えども、長い年月を経れば流石に壊れる事もあるだろう。
永遠に輝きを失わないような存在があるとは思えないし、それはしょせん絵空事だと言ってたらしいが…‥‥
「オリハルコンであれば、確かに可能かもしれまセン。ほとんど劣化しない金属のようですし、確かに好都合でショウ」
けれども、そもそもその金属自体が加工が非常に難しいともされる代物であり、入手できたとしても思い通りに作れるわけがない。
でも、作るというよりも、最初からその形ができてさえいれば‥‥‥‥
「‥‥‥まさか、それが目的だったのか!?」
そこまで考えたところで、なぜこの国の国王があんな仮面の組織の手の者にかかり、このような所業を引き起こしたのかということに、俺は気が付いた。
「物質を最初から金属へ‥‥‥‥例えば動いている草木であろうが人間だろうが、その者自体を金属に変えてしまえば、そのまま像にできる。だからこそ、全てをオリハルコンとかにできる攻撃ができるように自身の体を改造してしまえば良いと考えたとでも言うのか!?」
‥‥‥それに、物質を異なる物質へ帰る事も、人知を超えた所業に近い。
錬金術師という職業や、錬金術師学科があるとは言え、オリハルコンなどに変えたという話なども聞かないし…‥‥本来別のものを、そのままの形で別のものに変化させる所業は、ある意味神の御業とも言えるだろう。
【ふはははは!!すばらしいですよ国王陛下ぁ!!改造は大成功!!…‥‥まぁ、命中精度に難があるようですけれどねぇ】
国王の頭部内に乗り込み、そう声を出すハドゥーラ。
確かに口からの金属変換ブレス攻撃のようなものは範囲攻撃としてはかなり大きいのだろうが‥‥‥それでも軌道が読めないわけでもないし、むしろ攻撃するまでちょっと隙がある。
「とはいえ、まともに攻撃できるかと言えば‥‥‥」
「難しいですネ。頭部以外の全身を覆う金属は、データ上に存在しているどの合金とも合いまセン。新しい類なのでしょうが…‥‥」
そう言いながら、ノインが腕を変形させ、電気の塊のような物を撃ってみるが…‥‥直撃させても、効果が見られなかった。
「うーん、電磁砲なども効きませんネ」
「あの構造、人の体を改造しただけであそこまで行けるのかと思ったが‥‥‥ちょっと呪術とか怪しい類も多くあるようじゃな‥‥‥しかも、あの金属板などによって浄化でじゃまもできぬようじゃ」
巨体を動かすのは流石に人間の頭一つでは能力不足のようだが、それらを補うような様々な工夫が凝らされているらしい。
そもそも巨大化しているような頭部のほうもそのまま生身という訳でもないようだし‥‥‥‥かと言って、放置はできない。
「体内部分に、記憶に関する魔道具が内蔵されているようデス。このまま移動して、ある程度の距離が離れればこの記憶すら消されるようですガ…‥‥」
「そうなると、非常に不味いか」
ありとあらゆるものをオリハルコンとか言う金属に変える、巨体国王。
そのまま暴れられてしまえば全てが金属に変わり果て、距離が離れすぎると記憶が失われ、何者であったのかわからず、また接近してもすぐに対応できなくなってしまう可能性が高い。
ならば、放置できないのだが…‥‥
【オオオオオオオオオォォォン!!】
「っと、狙って来たか!!リリス、回避回避!!」
「グゲェ!!」
翼を動かし、エンジン全開で回避行動をとりつつ、国王の攻撃が次々と別の場所へ着弾し、オリハルコンへ変えていく。
「リリスの耐久性能で、耐えきることって出来そうかな?」
「無理ですネ。いくらリリスさんの箱の耐久でも、強制的な材質変化までは流石に無理カト。それに、中身の方に影響がないって訳でもないようデス」
そう言いながらノインが指さした先には、金属に変わり果ててしまった人々。
よく見れば建物の内部にも人影があるが、建物が防壁にならず、貫通して内部までオリハルコンになっているようだ。
「…‥‥隠れても、貫通してくるってことか」
この様子だと、例えば兵士がやって来て盾を構えても、その盾すら貫通して金属に変えるだろう。
そうなると、どこの国が軍隊を引っ張り出してきたとしても、全滅する可能性が大きい。
【オオオオオオオォン!!】
【あははははは!!国王陛下、素晴らしい芸術を作り出して絶好調!!このままいけば全世界をあなたの芸術で染め上げることが可能でぇす!!】
しかも相手の方はノリにノッてきたのか、笑い声が聞こえてくる。
「狂気に呑まれているというか、何と言うか‥‥‥‥このままだと全世界をオリハルコンにしかねないな」
「とはいえ、どうするのニャ?こちらから打つ手はあるのかニャ?」
‥‥‥正直、打つ手はないと言いたい。
全員で攻撃しようにも、あの攻撃速度ではこちらが攻撃する前にやってくる可能性があるし、先ほどのノインの攻撃が効いていなかったところをみると、まともな方法では度の攻撃も意味が無さそうだ。
かといって、このままリリスの箱に全員で入って、回避行動を続けてもだめだろうし…‥‥
「火炎放射に冷凍光線、蔓に投げナイフに鎖鎌、槍…‥‥その他も効果が無さそうか」
「相手の体表の合金がきついですネ」
「せめて、あれを貫通できるだけのものがあればのぅ‥‥‥」
『‥‥‥あの、いい案思いついたよ?』
「え?」
うーんっと皆が唸る中…‥‥ふと、アリス王女が提案してきた。
『父の身体は今、何者も受け付けないような頑強な体になっているってことで、間違いないよね?』
「そのはずデス。あの合金、精製方法を知りたいぐらいデス」
『でもその合金って…‥‥あのオリハルコンより硬いの?』
「…‥‥言われてみれば…‥‥そうですね、硬度としては…‥‥オリハルコンの方が、上回っているようデス。あのように加工できている時点で、そもそもオリハルコンの加工しにくさとは異なりますからネ」
『だったら、父の攻撃で何かをオリハルコンにして、それを利用して攻撃ってできないのかな?』
「「「「…‥‥それだぁぁぁぁぁあ!!」」」」
何で手持ちの方法でしか考えていなかったんだと言いたくはなるが、言われてみればその通りである。
むしろ相手がわざわざ強力な武器を得させるチャンスをばらまいているようであり、それを利用しない手はない。
「でも、何を使うのニャ?あの変化させる攻撃を利用して武器を得ても、どこに攻撃すればいいのかという問題になるニャ」
「狙うとすれば頭だろうが…‥‥あの野郎に当てても、本体が動き続けたら意味ないぜ」
現状、ハドゥーラが動かしているような物だが、奴を撃破したところで国王がすぐに止まるとは思えない。
というか、指示が消えうせたら制御もなくなって余計に暴走して危ない事にもなりかねない。
「何処か、動力源を狙った方が良さそうデス。あの巨体、流石に人間の心臓などで動かせるわけでもないですし‥‥‥‥」
単純に狙うのであれば、あの巨体を動かすための心臓部。
動力を生み出すようなところを破壊すれば、動けなくなるのが目に見えているが‥‥‥それってどこだ?
「馬鹿正直に心臓あたりってわけでもないだろうしなぁ…‥‥」
「頭部だとしても、構造的には無理があるかもしれませんし‥‥‥‥こればかりは、内部を探らないと分かりまセン」
となると、相手が巨体なのを利用して、破壊だけじゃなくて相手の内部に潜り込んで探したほうが得策か?
さながら、巨人の内部に小人が入り込んで、中から攻撃する物語のようにやってしまえば良いのか‥‥‥何かで読んだことがあるような気がする。
とにもかくにも、それでどうにかできそうな目途が立ったのであれば、やった方が良い。
このまま話し合うだけの時間が過ぎても、暴れているやつらがどんどん周囲を金属に変えてしまうだけだし、さっさと解決しないと不味い。
「とはいえ、何を使って潜り込むか…‥‥いや、切り裂いて突き進めそうだし、刃物とかで‥‥‥」
「なら/この身/使う?」
「…‥‥ルンか」
‥‥‥‥提案してきたようだが‥‥‥まぁ、確かにできないことは無さそうだ。
剣精霊の彼女ではあるが、実体化せずに普通に剣だけの姿で動けるし、あのオリハルコンへ変える攻撃も彼女には意味がなさそうだ。全身金属のようなものだし。いや、あの精霊部分は違うだろうが…‥‥それでも、本体の剣の刃だけであれば、可能と言えば可能かもしえない。
「ルン自身への影響は?」
「分かりませんが、特にないかと思われマス。むしろ、オリハルコンの刃になれば強化されると思いマス」
「なら、それで行くか。ルン、お前もいいんだな?」
「うん/問題ない」
攻撃手段として、ルンの刃をオリハルコンへ変えて突撃する提案。
それを採用し、俺たちは回避行動から変更し、攻撃に動き出すのであった‥‥‥‥
動き回り、全てを金属へ変えてしまう国王。
そしてそれに搭乗しあやつる仮面野郎と、状況は最悪である。
けれども、どうにかしないと絶対に不味い。なんでこうも面倒事はやって来るのか嘆きたいなぁ‥‥‥
‥‥‥何気にオリハルコンって作者の作品内でそんなに出なかったりする。
なんかね、ファンタジーの定番金属って出す機会がそんなに作れないんだよな。アダマンタイトとかもそうだし‥‥‥なんでこう、ホイホイつくるような作品って無いのだろうか?




